## 資金調達の概況

2024年上半期は総調達額3253億円と、昨年の同時期に集計した2023年上半期3354億円よりも微減。資金調達社数は同比14％増の1,411社（金額不明含む）であった。

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一社あたりの傾向を確認する。調達額の平均値は2.7億円と、前年に引き続きわずかに減少した一方、中央値は8,360万円と、前年より55％増加した。調達額が大型化したわけではなく、大型調達の規模が縮小・小規模な調達の金額が上昇し、調達額の分布に変化がみられる。

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## シード・アーリー選好が強まる

変化の内訳を詳しくみる。資金調達規模別に、昨年同時期に集計した2023年上半期と比較する。イグジットから遠いシード・アーリーへ投資が向かう傾向が、より一層強まっていることが確認された。

具体的にみてみよう。2024年上半期は、それまで全体の金額の過半数であった、10億円以上の大型調達が減少し、全体に占める割合も過半数以下となった。

一方、調達社数をみると、10億円未満は伸びており、全体の調達社数の増加に寄与している。なお、10億円以上100億円未満の調達についても2023年上半期比で若干増加していた。つまり2024年上半期は、従来以上に大型投資の規模が控え目になっている。

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## 調達額上位20社

2024年上半期の日本におけるスタートアップの資金調達状況は、投資がシード・アーリーステージへ流れ、ミドル以降の大型調達の勢いは潜み、スタートアップの総調達額は前年維持となった。ただし例年、下半期に大型調達が集中する傾向があり、事実、7月に入ってからSakana AIや[SmartHR](https://initial.inc/companies/A-12046)、newmoなどの大型調達が観測されている。

その中で最大の資金調達をおこなったのは、自動運転用オープンソースソフトウェア「Autoware」の研究・開発などを手がける[ティアフォー](https://initial.inc/companies/A-17027)である。同社はシリーズBのエクステンションラウンドで85億円の調達を発表した。いすゞ自動車、三菱商事、スズキといった大手企業が参画し、自動運転技術への期待の高さを示している。

次点は人工構造タンパク質素材「Brewed Protein™」を開発する[Spiber](https://initial.inc/companies/A-05938)。同社は4月に100億円超の資金調達を発表し、量産体制の構築とグローバル展開に充てる予定だ。
なお、表では2024年のラウンドのみ集計している。

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> スピーダ調達シリーズの定義は[こちら](https://help.initial.inc/ja/articles/4570885-%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%80%E8%AA%BF%E9%81%94%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA)

上位20社の顔ぶれをみると、約半数が研究開発型企業だった。上位3社は調達後企業評価額が1000億円超にのぼる実績を重ねてきているスタートアップである。

## 実績ある起業家へ資金が集中

例年以上にシード・アーリー企業の大型調達が目立つ。プレシリーズAラウンドで上位に入ったのは、Turingとオレンジ。

[Turing](https://initial.inc/companies/A-41159)は、生成AIを活用し、自動運転レベル5に相当する完全自動運転車両の開発に取り組む。プレシリーズAラウンドで30億円調達しているが、7月にも追加で[15億円の調達を発表](https://tur.ing/posts/eYbf_IEu)している。

[オレンジ](https://initial.inc/companies/A-41283)は、漫画特化の深層学習モデル開発を手掛ける。翻訳出版プロセスの大半を自動化することで、「日本マンガ」を世界に広く届けることを目指す。プレシリーズAラウンドで29.2億円の調達を実施。

両社の共通点は、ターゲットとしている市場の広さはもちろんのこと、CEOが実績を持つ点だろう。TuringのCEOである山本一成氏は、名人を倒した将棋プログラム「Ponanza」を開発した実績がある。オレンジのCEOである宇垣承宏氏は、コロプラでスマートフォンゲームのヒット作「白猫プロジェクト」や「魔法使いの黒猫ウィズ」の事業責任者を務めた経歴をもつ。

このようにシード・アーリーでは実績をもつ起業家に資金が集中する傾向が強まってきている。

例えば、グリーやメルカリで主要なポジションを経験した青柳直樹氏はタクシー・ライドシェアサービスの運営の[newmo](https://initial.inc/companies/A-GPDCF)を今年設立し、シードで約18億円を調達。7月にはシリーズAで100億円超の調達を発表した。

また、既存のAIモデルをかけ合わせて新しいAIモデルを生成した[Sakana AI](https://initial.inc/companies/A-FEUWN)は、米Google出身の著名研究者らが日本で立ち上げた。2023年にシードで3,000万ドル（約47億円）を調達し、今年6月には約200億円の大型増資がメディアで報じられている。

このように、GPからスタートアップへの資金の流れは、他社で事業開発や経営経験を持つ経営者や、既に売上が立ち、黒字化確度の高い・している企業または研究開発型、あるいはこれらの組み合わせのスタートアップに集まる傾向がある。研究開発型は政府の後押しもあり、従来よりも成長しやすく、投資家にとっても投資リスクを下げられる環境のためと考える。

なお、セクター別の動向としては、米国とは異なり、生成AIのような時代の波に乗るテーマに対して、顕著に大きな資金が偏るようなことはみられていない。これは日米間の起業数の差なども影響していると考えられる。

## 多様化する資金調達

2024年上半期の新しい動きとして、特定投資家向け銘柄制度（J-Ships）の活用が挙げられる。証券会社を通じて、非上場企業の株式や投資信託等をプロの投資家である「特定投資家」向けに発行・流通することを可能にする制度だ。

非上場株式の発行・流通市場のさらなる活性化を目的としており、一定の条件を満たす個人を含むプロの投資家は扱う金融商品を増やすことができ、スタートアップにとっては資金調達手段の多様化というメリットがある。

また、長年の課題であるセカンダリー取引の充実にも寄与することが期待されている。[五常・アンド・カンパニー](https://initial.inc/companies/A-29062)、[エレファンテック](https://initial.inc/companies/A-12893)、[TBM](https://initial.inc/companies/A-05074)などがこの制度を活用した調達を実施している。

これまでの資金調達には、デットファイナンスは含まれていない。参考までにデットファイナンス調達動向について触れる。2024年上半期はデット全体で調達額が888億円、調達社数が156社と、2023年の過半数以上の水準となり、引き続き金融機関の積極的な姿勢がうかがえる。
なお、新株予約権の発行を伴うベンチャーデットは限定的であった。

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金額が大きいものは、[スマートニュース](https://initial.inc/companies/A-11614)が融資枠100億円、[パワーエックス](https://initial.inc/companies/A-40792)が融資95億円、[GO](https://initial.inc/companies/A-28163)がシンジケート・コミットメントライン80億円などがあった。

デットはプレスリリース等で公表された融資枠の金額などを含み、必ずしも実行額ではない点に留意が必要である。

## 投資家の動き

10億円以上の調達について資金の出し手の変化を探る。

投資家タイプ別に投資額をみると、VCが最も大きく、次いで事業法人と、例年の傾向に変化はない。一方、全体の減少率以上に投資額を減らしたのが、事業法人（直接投資）と金融機関、海外法人であった。

個人/個人会社が大きく伸びているのは前述したJ-Shipsの影響であり、新しい資金調達手段が早速寄与している。

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VCに絞って内訳を確認する。
10億円以上の調達では、VC-独立系やVC-金融系、VC-海外が積極的であったことがわかる。VC-海外では、[エネコートテクノロジーズ](https://initial.inc/companies/A-30874)に対するWoven Capital GP、[レナリスファーマ](https://initial.inc/companies/A-UOSFC)に対するCatalys PacificとSR One、[TOKIUM](https://initial.inc/companies/A-11311)に対するTGVest Capital、[Lean Mobility](https://initial.inc/companies/A-KSMUN)に対する冠和投資と鴻裕投資開発などの投資額が大きいと推測され、割合の増加に繋がったと考えられる。

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## 100億円以上のファンドが増加

2024年上半期に観測された新設ファンドは51本で、金額が判明しているものは合計2,321億円に達した。前年同期と比較すると、本数は10本減少したものの、金額は約200億円増加している。例年よりも50億円超のファンド設立が多かったためである。

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特筆すべきは、100億円以上の新設ファンドが10本（前年同期間比+3本）に上ったことだ。

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LPからGPへの資金の流れでは、実績のあるGPと、単独LPとなる大企業のCVCのファンドが大規模となるケースが多い。実際にこれらの大型ファンドの中には、CVCの1号ファンドが多く含まれている。大企業がオープンイノベーションに対して積極的な姿勢を示していることがうかがえる。

また、国際的な動きとしては、シンガポール政府系投資会社テマセク傘下のVertex Holdingsによる日本市場への本格参入が注目される。Vertex Ventures Japanの設立は、日本とシンガポールのスタートアップエコシステムの連携・発展を目指す取り組みの一環であり、東京大学と東京大学協創プラットフォーム開発（東大IPC）と連携する。グローバルな投資経験を持つプレーヤーの参入は日本のスタートアップ環境に新たな刺激をもたらす可能性がある。

これらの動向は、スタートアップへの投資額が減少傾向にある中でも、長期的な視点でスタートアップエコシステムの発展を支える資金供給体制は整いつつあることを示している。

他方で、スタートアップの調達状況から、投資待機資金が積みあがっていると考えられる。ファンドには償還期限があるため、投資先に苦慮する側面があると推察される。今後より一層、投資家間のセカンダリー取引のニーズは高まるだろう。

## IPOは大きく伸びず

IPO全体の件数は60件と、2023年上半期比で5件増加した。しかし、そのうちスタートアップのIPO数は22件にとどまり、前年同期比で2件の増加に過ぎなかった。

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初値時価総額の中央値は77億円に下落。2018年以降スタートアップは高評価を得ていたが、傾向に変化が見られた。この背景には、日経平均株価が史上最高値を更新する一方で、グロース市場が低迷していることが背景の1つに挙げられよう。

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初値時価総額が最大のIPOは、アストロスケールホールディングス。次いでソラコムだった。

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[アストロスケールホールディングス](https://initial.inc/companies/A-16250)は、[ispace](https://initial.inc/companies/A-11597)に続く宇宙銘柄の大型IPOとして注目を集めた。宇宙産業は今後の成長産業の一つとして注目されており、イグジットへ至る企業やレイターステージに差し掛かるスタートアップが増えており、今後もプレイヤーの増加が期待される領域だ。

[ソラコム](https://initial.inc/companies/A-16563)は大企業傘下で成長を続けIPOへ至る「スイングバイIPO」の成功例として注目を集めた。2017年にKDDIがソラコムの株式を過半数以上獲得していた。同様の道を歩む可能性のあるのは、2018年にヤフー（現：LINEヤフー）が子会社化した[dely](https://initial.inc/companies/A-15617)、2022年に三菱UFJ銀行が子会社化した[カンム](https://initial.inc/companies/A-10809)らだ。

2024年上半期のIPOではないが、2023年12月に上場したQPS研究所にも触れておきたい。
[QPS研究所](https://initial.inc/companies/A-26107)は小型衛星の開発や運用などを行う宇宙銘柄だ。初値時価総額は300億円であったが、好調な業績などを背景の1つとして、2024年7月16日時点での時価総額は894億円に達している。「初値天井」を突破して成長を続ける例として注目に値しよう。

## 被買収の増加

集計時点までに観測された事業譲渡は33件、被買収・子会社化は92件と、例年よりも増加傾向にあった。これは、IPO市場の低迷を受けて、M&Aを選択するスタートアップが増加したためと考えられる。

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セクター別にM&Aの動向を見ると、非研究開発型の企業が約9割となり、SaaSと人材領域が上位を占めた。このうちSaaSでは人材領域のプロダクトが上位。人材領域では人材紹介・キャリア支援事業が大半であった。

被買収・子会社化の設立からの年数（中央値）は約8年と、IPOしたスタートアップの約9年に迫る形だ。対して、事業譲渡は約4年と早期化する傾向が見られた。

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評価額100億円超の被買収案件は1件で、予防医療の推進を支援する事業等を展開する[キャンサースキャンのJMDCによる子会社化だった。
](https://initial.inc/companies/A-11996)

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/5X54IdMRCaONCC0Fi3xFuv/dde859eb92bd527800c27a1658fe4b07/___13_rev2103__1_.png" />

買い手の動向をみると、エムスリーとSTPRがそれぞれ3件のスタートアップ子会社化を行い、最も積極的な動きを見せた。エムスリーはヘルスケア領域、STPRはコンテンツ領域のスタートアップを子会社化している。なお、STPRは2018年設立のエンタメコンテンツ領域のプロデュース等を展開するスタートアップである。

また、カシオ計算機や江崎グリコなどの伝統企業によるスタートアップの子会社化も観測された。

## おわりに

IPO環境の低迷は引き続き厳しく、投資の不確実性は依然として高い。

明るい材料は、大規模な政府支援が進んでいる点だ。これまでに、ストックオプションやエンジェル投資に関する税制改正、中小機構や産業革新機構（JIC）による出資、スタートアップの公共調達の促進などが実施され、効果も表れてきている。また、大企業のスタートアップへの関心も引き続き高い。

スタートアップへの関心の輪は年々拡大し、支援など充実してきた。流入する人材の層も拡大している。逆風の中でも大きく調達額は減少していない。ブームから文化への道は着実につくられている。

（執筆：森敦子、編集：村上美里、デザイン：川﨑菜々美、イラストレーター：otama）

株式会社アストロスケールホールディングス

株式会社ティアフォー

Turing株式会社

Sakana AI株式会社

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資金調達記事

VC/CVC

【2024H1調達動向】拡大するスタートアップの土壌

京都フュージョニアリング株式会社

キャディ株式会社

株式会社LayerX

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【最新版】2023年スタートアップ調達トレンド 

## 欧州は日本の5年先を進んでいる

### 今回の欧州訪問の目的を教えてください。

`グロービス・キャピタル・パートナーズ湯浅 エムレ 秀和氏（以下、湯浅）`
今回は約10日間ヘルシンキとロンドンの2都市へ訪問しました。目的は大きく二つあります。一つが海外のVCと関係を作ること。もう一つが将来のファンドレイズに向けて海外のLPと関係を作ることでした。

海外VCは、日本でいうとシリーズC以降に出資する投資家に相当する数千億円規模のファンドを有するグロースステージ投資家とシリーズAを多く扱う投資家にお会いしました。

前者は、（自分たちの投資先に対する）後続ラウンドで入ってくれることを期待しています。後者は、欧州（のスタートアップ・エコシステム）は日本の3年から5年先を進んでいると見受けられ、シリーズAファンドの先行事例として非常に参考になりました。

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`グロービス・キャピタル・パートナーズ深川康介氏（以下、深川）`
去年から我々は海外に足繁く通っています。メインは米国でしたが、米国は少し特殊だと感じます。スタートアップ・エコシステムは、おそらく日本の10年先のステージで、起業家のモチベーションやビッグテックが存在して起業家層も多く流れてくる環境と異なる点が多々あります。

一方、欧州は米国の存在を前提として生まれたスタートアップ・エコシステムです。欧州は、（起業家や投資家が）非常に分散した地域で、エストニアのSkypeとスウェーデンのSpotifyが生まれたことで一気に花開き、セカンドジェネレーションが生まれてきて世界からも注目を浴びています。

日本も同じようにメルカリをはじめとしたユニコーンが上場した後、シリアル・アントレプレナーやそのようなスタートアップの成長を身近で見てきた方が起業しており、相似構造にあたるため、日本の5年先としてベンチマークしやすいと感じています。

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### グロースステージ投資家との関係を作る目的について、もう少し詳しく教えてください。

`湯浅`目的は二つあります。一つは、日本では今年だけでも100億前後の資金調達をした投資先（スタートアップ）が4社ありますが、その次のラウンドで数百億円の調達をしようと思うと、やはり海外の大きな数千億円規模のファンドの投資家を引き入れる必要があることです。

もう一つが、それだけ大きなラウンドを目指す場合に、多くのケースで（スタートアップが）海外でのサービス展開をしていきます。その海外展開を現地でサポートできる、資金面と支援面の双方ができる投資家との関係構築が必要だからです。

`深川` 日本ではグロースとまとめていますが、ジャパングロースとグローバルグロースという二つの段階があると考えています。

日本でグロースと呼ばれているラウンドは、おそらくラウンドの規模が100億円程度まででしょう。しかし、時価総額1兆円を超えて上場するとなると、未上場時に（既存株主の持ち分を買い取る）セカンダリー取引なども含めて取引の規模が数百億円から数千億円に達する可能性があります。そうすると、現状では日本の投資家だけでのラウンド組成は難しいと考えています。

## 米国の巨大ファンドに対抗するために

### 先ほどシリーズAの投資家との関係性も作るというお話がありましたが、発見はありましたか。

`湯浅` 私たちはシリーズAを扱うことが多いのですが、同じシリーズAを扱うVCと話すと、地域が違っても投資戦略や悩みなどが似ており、共通する点が多くありました。

北欧に強い投資家やトルコや東欧に強い投資家、仏国や英国で投資している投資家らと話しましたが、共通点の一つは、各地域に中心となる主要なシリーズA投資家がいることです。

シリーズAは、（スタートアップが）プロダクトマーケットフィットして一気にグロースしていく時期です。つまり、プロダクト作りから事業作りへの変曲点です。そして、そのフェーズに強い投資家が多くの場合に初めての社外取締役として入る。

このように、シリーズAの投資家は起業家と寄り添うかたちで、B、C、Dとステージが進んでいきます。その中で、起業家を直接支える、もしくは支えていく人たちと繋がることで道を作ってあげる、などがシリーズA投資家に求められます。これは地域に関わらず共通していると思います。

また、悩みも共通しています。まずは、「シリーズB以降にどう対応するか」という話です。ファンドによっては、自社のファンドサイズを大きくして、シリーズB以降でも出資できるようにすることもありますが、戦略がぶれてしまう。

一方で、そこへ何の対応もしないと、米国から数千億円規模のファンドがきてしまいます。彼らからすれば「シリーズA」はそこで儲ける必要はないエントリーチケットなので、彼らにとっては少額を出資して「バリュエーションは2倍でもいい」というプレーをしてきます。

AccelやAndreessen Horowitzなど米名門VCらが欧州に拠点を構える中で、どのように対抗していくかという戦略上の悩みは共通していました。

### その戦略課題への対応としてはどういったものがあるのでしょうか。

`深川` 大きく三つに分けて整理をしています。一つ目は、我々が一番ベンチマークしたいところですが、自分たちの祖業の地域やステージをコアにしてそこで最強であることを徹底的に追求する。

そして、その前提を持ちつつ、さらに強化するために前後のステージにも進出する。グロースやシードをシリーズAを最大化するためのレバレッジとしてやるかたちです。

二つ目は、複数地域でトップティアになることを目指すパターン。これは過去にも複数地域に展開したファンドが瓦解していたり、名前が変わって別の事業体でやっているケースは多く、その難易度は高いのでしょう。セコイア・キャピタルの事例（※）はその例です。

> （編集部注：2023年6月6日、同社のグローバル事業を欧米、中国、インド・東南アジアの3地域に分割し、その後は各地域が独立して事業を行うとする発表をした）

成功した例としては、Index Venturesが挙げられます。Index Venturesは、欧州No.1のポジションを持ちつつ、米国でもトップティアとなっています。

ただし、兄弟で作っているファンドで、一人は米国に移住しているため、あまり真似することができないかもしれません。

その他では、新興勢が何らかのユニークな戦略をとって出てきています。起業家やビッグテックにいた人材のみで組成しているファンドであったり、全くリリースを出さずにネットワークだけで投資をするなど、飛び道具を使って「新しい境地で最強にする」というアプローチをとっていますね。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/6aluA8C3F9xwtzNSeZyety/1fb34b3be18e19dee76be13382a88fb5/20231222_GCPinterview_02.png" />

## 海外の投資家は「日本に興味はあるがまだ何も知らない」

`湯浅` まず、日本のスタートアップはあまり知られていないことを痛感しました。それには二つ理由があって、一つはそもそもグローバルでは日本のスタートアップがまだ知られていない。これは米国に行った際も同じような印象を持ちました。

もう一つが、欧州の投資家はやはり欧州へ注力することが多く、投資スコープ外の地域の情報はあまり追いかけていません。

一方で、何人かの投資家に「具体的にこういう日本のスタートアップがある」という話をすると、とても興味を持ってくれるんですよね。

投資家によっては「ARR（Annual Recurring Revenue：年次経常収益）が10億円以上じゃないと検討しません」という方もおられます。ただ、ARR10億円だったら日本でもたくさんあって、私たちの投資先でも「ここは売上が1年で200％成長している」、「これは日本版の〇〇で」という話をすると興味を持ってくれます。

### 興味を持ってもらえるのは、想像以上に日本のスタートアップに成長可能性を感じ取ってもらえたからですか。

`湯浅` それもあると思います。他には、グローバルで張っているVCはアジアに対しても張りたいが、地政学リスクなどから中国には張りづらくなってきている。

その中で、日本について知りたかったのにあまり情報がなかった、ということがあります。LPはより分散投資をしているので、特にそうですね。

欧州は、KlarnaやSpotify、Skypeといったグローバルで有名なスタートアップが出てきたことでより注目が集まってきましたが、日本はまだデカコーン（企業評価額約1兆円のスタートアップ）がない。

それが1〜2社出るだけで、「そのようなスタートアップを生んだ国、日本」という見方をしてくれるのではないでしょうか。

`深川` 日本の情報があまりないという点に付け加えると、今回の欧州へ作成した『[Japan Startup Ecosystem Report H1 2023](https://initial.inc/enterprise/resources/japanstartupecosystemreporth12023)』を持って行ったのですが、非常に好評でした。

欧州では、10年程前まで欧州全体で統合された情報がほとんどないために、他地域からの参入が難しかったようです。そこで変曲点となったものが、VCのAtomicoが出している『[State of European Tech](https://stateofeuropeantech.com/)』というレポートです。LPの方も含めてこのレポートの情報が共通言語になっているほど広く読まれているものです。

『Japan Startup Ecosystem Report』もこれがあるから日本を捉えやすくなったと思われるようなもにしていく義務があると感じています。

### 相対的に日本へ関心を持つ海外投資家が増えているとよく耳にしますが、一方で足下の投資状況を見ると、海外投資家は減っています。そのギャップはどう考えればいいでしょうか。

`湯浅` たしかに数としては今年は減っています。理由の一つとして、自分たちのホームマーケットが大変でそれどころではない、もしくはダウンラウンドなどでバリュエーションが下がって（ホームマーケットで）割安な案件があるなど、彼らからするとリスクをとって果敢に日本へ投資をするタイミングではないことが考えられます。

`深川` 他の理由を挙げてみます。今年は日本への関心の持ち方が去年までとは違っていて、日本のマーケットや商習慣、文化などをしっかり理解した上で良い会社を選んで投資したいという機運が高まっています。そのため、投資が落ちているのはそのラーニング期間で、来年以降は本格的な投資を行っていくのではないかと考えています。

## 海外接続かガラパゴスで終わるかは、この3-5年が大きな勝負

### 今回の欧州出張で、日本のスタートアップはグローバルに通用できるかという視点で、どのような手応えや課題感をお感じになりましたか。

`湯浅` 直接の回答になっていないかもしれませんが、今までの日本のスタートアップ・エコシステムは独自に確立されており、グローバルシステムに接続されていないことに対して課題感を持ちました。

米国は、スタートアップが成長していけば当然のようにグローバル展開していく。一方、欧州は、どこか一つの国で始まったものが欧州中に広がり、米国の投資家の資金を受けてグローバルに広がっていくという例が増えて、それがスタンダードといえます。

実際に米国のVCファンドも欧州拠点を持って次なる機会を求めていますし、この流れが止まることはないと思うんですよね。

`深川` 補足をすると、欧州のスタートアップは、基本的に1つの国に留まることを考えていません。

市場の段階を大まかに分けると、シリーズAくらいまで祖業の国とその周辺国を対象にし、ミドルステージ前後で英国まで展開する。英国は北米著名VCの拠点があり、北米への橋渡し役だと捉えています。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4MdsvlCSBtpS6Y6kg9SeJK/03feab88d901c77578459c2003b5607f/20231222_GCPinterview_01.png" />

`湯浅` 一方、日本ではこの数年で、海外投資家が徐々に増えてきており、ユニコーンが生まれてきています。

欧州の流れを参考にすると、おそらく次の3～5年の大きな勝負は、「この日本のスタートアップ・エコシステムをあらゆるレイヤーでいかにグローバルに接続するか」です。

例えば、スタートアップのレイヤーでは、グローバル展開で成功できる企業を生めるかという課題がありますし、VCのレイヤーでは、海外VCとの連携やVC自身の海外展開など、様々な場面で海外へ接続していくことが重要になってきます。

LPレイヤーでは、今まで日本のVCはほとんどが日本の投資家から資金を集めていましたが、海外から調達できるようになれるかが次の勝負だと思っています。

その実現には、当然他の地域のファンドと比較して勝てるファンドパフォーマンスを出さなければいけないし、レポーティングや社内の体制などさまざまな点でグローバルレベルのものが求められてきます。

この3つのレイヤーで日本のスタートアップ・エコシステムが世界と繋がれるのか、あるいはガラパゴスで終わるのか――。

その勝負がこれから3～5年で起きるのではないかと感じました。

`深川` 私はポジティブで、今回の欧州出張で手応えを感じました。理由はいくつかありますが、一つは、どのような人材が起業するようになっているかを欧州のGPもLPも気にしていました。

トップスクールの学生たち、特に「コンピュータサイエンスや情報系、工学部の学生が起業やスタートアップに関心があるか」がスタートアップ・エコシステムとしての変曲点です。

英国のトップスクールのコンピュータサイエンスの学生が大企業よりもスタートアップを選ぶようになったのは2018年と、比較的最近のことだそうです。

私は日本でそれがまさに起き始めていると感じています。ポジティブにいうと欧州から5年程遅れですね。

もう一つ、少し短期的な視点もありますが、スタートアップを始めるにもEXITするにも、今の日本ほど魅力的な環境はないと感じました。

ガラパゴス化していることの裏返しでもあるのですが、IPOマーケットも他の国に比べるとオープンで、シードからシリーズAの調達も他の地域に比べて活発に起きている。

かつ大企業や行政含めて多くのステークホルダーが、スタートアップを今育てるべきだと支援しようとしている。相対的に世界で一番恵まれている状況があります。なので、この先VCをやるのがとても楽しみです。

![20231222 GCPinterview 05](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/5fHKsjlNuhCVA70Y9lC19w/8b8e784c0f99601cb4aeedc7fa5d493a/20231222_GCPinterview_05.jpg)

`湯浅` 私も基本的には同じ視点で、いい追い風があると思っていますが、一方で少し危機感もあります。

日本のスタートアップ・エコシステムが盛り上がっていても、「5年後は安泰だね」という感じが残念ながらありません。どちらかというと「この5年本気でやらないと終わるぞ」と思っています。

チャンスがあるがゆえに、どこまで本気で取りに行くかということを突きつけられている感じがしましたね。

### 最後に来年の抱負をお願いします。

`深川` 来年に限らずですが、グローバルと接続して、我々が今ネットワークを作っている方々にGCPの投資先について本質的に良い会社だと評価してもらい、共同投資が起きるようにするということが絶対指標です。

そのために、まずは日本はこういうエコシステムだという認知をとれるように頑張っていきます。

`湯浅` 日本はある意味過小評価されている面が多いので、外に対して発信して繋がっていくことで、日本のスタートアップエコシステム自体の引き上げができると思っています。

それにVCの立場で携わっていきたいですし、投資先の支援を通じて海外の方々と繋げていくこともやりたいです。そのような活動が、翻って3年後、5年後の日本がグローバルに接続できることに繋がっていくと信じて、地道に愚直にやっていきたいと思っています。

> （取材・編集：森敦子、執筆：鈴木孝平、デザイン：山浦隆史）

__[GLOBIS CAPITAL PARTNERS x INITIAL『Japan Startup Ecosystem Report H1 2023』](https://initial.inc/enterprise/resources/japanstartupecosystemreporth12023)__

> 日本国内スタートアップの資金調達動向に関するGCPの解説付きレポート（全文英語）です。
どなたでも無料でダウンロードいただくことが可能です。

20231222 GCPinterview 1220 4 OGP

グロービス･キャピタル･パートナーズ

海外

独立系VCの雄、GCPが欧州訪問で得た手応えと課題

本レポートでは、バイオ素材やリサイクル素材など循環型素材に関する最新情報をまとめる。

バイオ素材は主に天然由来素材と生分解性素材を指すが、双方の特性を備えるものもある。リサイクル素材とは、プラスチック、繊維、電子廃棄物（E-waste）などの廃棄物に、付加価値を加えて再利用できるものにした素材だ。

## 米英両政府がリサイクル促進策を導入

2030年までに米国は50%、英国は65%以上へリサイクル率を引き上げるため、両国政府は野心的な目標を掲げている。

米国エネルギー省は6月、消費財で使用されたバッテリーのリサイクルに1.92億ドル超の資金を割り当て、先進バッテリー研究開発コンソーシアムを発足させた。このコンソーシアムでは、国内のバッテリーサプライチェーンとリサイクル能力強化に最大で6,000万ドルを拠出する計画だ。

目標達成に遅れをとる英国は、リサイクルへの意識向上と活動の推進に取り組んでいる。 政府は5月からウィッシュサイクリング対策に乗り出した。

ウィッシュサイクリングとは、リサイクルされることを願い、リサイクルボックスにリサイクルできるものとできないものを混ぜてしまう行為のこと。リサイクルプロセスの混乱を引き起こす要因にもなりうる。

同月にはイングランドのサウスエンド・オン・シー市が、ヨークシャー地方を拠点とする廃棄物管理・リサイクル企業MYGroupの支援を受け、リサイクルプロジェクトを開始。6月には英国ファッション＆テキスタイル協会（UKFT）が400万ポンド（500万ドル）を投じ、廃繊維の完全統合型自動選別・前処理実証機「Autosort for Circular Textiles Demonstrator（ACT UK）」の開発・試験運用を進めるとした。

## プロダクト・アップデート：バッテリーリサイクル能力の増強、バイオレザー製品の発表

当四半期はバッテリーなど電子廃棄物のリサイクルを対象したものが目立った。

リチウムイオン電池のリサイクルを手がけるLithion Technologiesや金属リサイクル分野の[Nth Cycle](https://initial.inc/companies/SPD1NKE7KRGA9L0I)など、複数のスタートアップがリサイクル施設の新設計画を発表している。

これらの施設は早ければ2025年に操業を開始する見込み。今後数年間で、現在15%未満にとどまっている電子廃棄物のリサイクル率を大幅に押し上げる可能性がある。

バイオレザー製品の分野でも複数社で進展が見られ、サボテンを原料としたヴィーガンレザーを開発する[Desserto](https://initial.inc/companies/SPD0W06UL1FSRABC)、リサイクルプラスチック素材から生分解性スニーカーを製造する[LØCI](https://initial.inc/companies/SPD08F6G2LBW0A0F)が新製品を発表している。

そのほかの主要なアップデートとしては、バイオ素材の商品化で早くから成果を上げていた[Bolt Threads](https://initial.inc/companies/SPD12Y1IY8FHTCD8)が、資金不足とインフレ圧力により、キノコの菌糸体由来素材「Mylo」の生産を中止した。同社では2022年末までにMyloの生産規模を拡大する計画を立てていたが、成長にブレーキがかかった形だ。 

またAppleが2025年までにすべての自社製品のバッテリーに100%リサイクルされたコバルトを使用すると発表し、注目を集めた。

## パートナーシップ：リサイクル施設建設や製品・技術開発での協業が焦点

当四半期はリサイクル施設の建設や技術・製品の共同開発を中心に協業が加速しており、四半期ごとのパートナーシップの締結件数としては、過去2年の間で最多となる49件が観測された。

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__1.リサイクル施設の共同開発__

リサイクルの分野では、リサイクル施設の共同建設を目的としたパートナーシップが目立った。
特に動きが活発だったのは、廃プラスチックを回収・化学原料に転換し、バージンプラスチックに戻すプラスチックのリサイクル分野だ。

ポリエチレンテレフタレート（PET）プラスチックとポリエステル繊維のリサイクル企業[Loop Industries](https://initial.inc/companies/SPD0HBX6C78ABXYY)は、複数の商業生産施設を通じてアジア市場で事業を展開するべく、SK Geo Centric（SKGC）とジョイントベンチャー設立に向けた契約を締結した。両社は2030年までに、アジアに少なくとも3か所の生産施設を立ち上げる計画だ。

同じくPET樹脂とポリエステル繊維のリサイクル企業[Carbios](https://initial.inc/companies/SPD0EJWMSDEC71XD)はIndorama Venturesと、フランスに世界初のPETバイオリサイクル施設を建設する合弁会社を設立するための基本合意を締結した。
電子廃棄物のリサイクルにおいても動きがみられた。

注目はリチウムイオン電池の製造・リサイクルを手がける[Li-Cycle](https://initial.inc/companies/SPD0ZAR2ZG5HMTM1)が、Glencore Internationalと重要な電池材料を生産するハブ施設の開発を検討する意向表明（LOI）を交わしたこと。操業開始は2026年後半か2027年初頭になる見込みだ。 

__2. 製品・技術の共同開発__

EV需要が高まり原材料不足が懸念されるなか、電子廃棄物リサイクル企業がバッテリーのリサイクル技術開発に向けて協業を加速している。

金属リサイクル企業Aqua Metalsはリチウムイオン電池用のサステナブル素材メーカー6K Energyと提携し、低炭素電池材料の開発に取り組む。リチウムイオン電池のリサイクル企業[Redivivus](https://initial.inc/companies/SPD2T4KODK7KN3NY)はAMOS Manufacturingとタッグを組み、先進的なバッテリーリサイクル装置システムを開発している。

またバイオ素材分野では、ディスラプターと大手企業が協業し、サステナブルな製品を共同開発する動きが広がっている。

カーボンネガティブ素材メーカーの[Origin Materials](https://initial.inc/companies/SPD0Q752Y8F6054V)は、世界最大のバージン・リサイクルPET（rPET）樹脂メーカーIndorama Venturesとバイオ素材の量産に向けて提携を結んだ。

CO2回収・有効利用（CCU）に取り組む[LanzaTech](https://initial.inc/companies/SPD2AC6VVGHAHLRB)は、プラスチック容器の製造・リサイクル企業であるPlastipak Packagingと提携し、回収した炭素を原料とする世界初のPET樹脂「PPKNatura」を発売する。

__3.電子廃棄物・廃繊維のリサイクルにおける既存事業者との協業__

バッテリーリサイクル企業では、合弁会社の設立や供給契約の締結によってリサイクル技術を検証し、事業規模を拡大しようとする動きが見られる。

電池材料リサイクルの[Electra](https://initial.inc/companies/SPD1IPM1JB6IOWZQ)は、使用済みリチウムイオン電池をリサイクルするため、Three Fires Groupと合弁会社を設立する基本合意（MOU）を交わした。合弁会社では、Electra独自のブラックマス処理技術を活用し、リチウム、ニッケル、コバルト、グラファイトなどのクリティカルメタルや重要物質を回収する。

バッテリーリサイクルの[Ascend Elements](https://initial.inc/companies/SPD0T1KAWUZIOPHQ)は米国のバッテリーメーカーに対し、2024年第4四半期から約10億ドル相当のサステナブルな正極前駆体材料（pCAM）を供給するべく、複数年の契約を締結した。 電子廃棄物のリサイクル企業である[Redwood Materials](https://initial.inc/companies/SPD3HBE7XUTZ7AHY)はリチウムイオン電池のリサイクルを目的に、Rad Power Bikesと使用済み電動アシスト自転車用バッテリーの供給契約を結んだ。 

繊維分野でも、ブランド品を含むさまざまなアパレル製品において、リサイクル繊維素材の利用を促進することを目的としたパートナーシップが加速している。

## M&A：TerraCycleのランプリサイクル企業買収が唯一の目玉案件

消費財リサイクル企業の[TerraCycle](https://initial.inc/companies/SPD2VETL6EWB0FF4)は、6月にマサチューセッツ州を拠点とする素材リサイクル企業[Complete Recycling Solutions（CRS）](https://initial.inc/companies/SPD2B2RVQTFX5EZ5)を買収した（金額非公開）。

CRSはランプのリサイクルと水銀蒸留装置を使用して、さまざまな種類のランプを基本部品へと自動分解する技術を持つ。この買収によりTerraCycleの照明と電子機器のリサイクル技術力が強化されると見られる。

当四半期の注目案件はこの1件のみとなった。

## 資金調達：電子廃棄物リサイクル企業は好調が続く

本領域の資金調達動向は自社技術の商業化を目指すシード期のスタートアップへの投資と、Northvoltのような大規模で実績のあるディスラプターへの大型投資に大別される。

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循環型素材企業は、当四半期に22件のラウンドで合計7.41億ドルを調達した（開示ベース）。この数字は前年同期比で37.1%増加するも、前四半期比では74.6%減少している。減少の要因としては、前四半期にRedwoods Materialsが20億ドルの大型調達を記録していたことが大きい。

なお1件あたりの平均調達額は3,370万ドルと、前年同期（3,000万ドル）を若干上回った。 

領域別では電子廃棄物リサイクル分野が5.44億ドルを集め、最多となった（循環型素材分野全体の約73%）。中でもNorthvoltがオンタリオ州投資管理公社（IMCO）から4億ドルを調達した案件が大きい。

他の分野ではリサイクルプラスチックが8,580万ドル（循環型素材分野全体の約12%）、産業向けバイオ素材が4,500万ドル（同約6%）、バイオパッケージングが3,000万ドル（同約4%）を調達している。

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調達ラウンド別の件数は、シード（ラウンド数全体の23%）とデットファイナンス（ラウンド数全体の27%、下図の「Other」に含まれる）が最も多かった。ラウンド別の調達額では、グロースラウンドが圧倒的に多く総調達額の64%を占めた。

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__注目ラウンド__

当四半期で最大の調達案件となったのは[Northvolt](https://initial.inc/companies/SPD07LDJ5K8QIUB3)で、4億ドルを集めた。

それに続いたのが米国テキサス州を拠点に電子廃棄物から磁石をリサイクルする事業を手がける[Noveon Magnetics](https://initial.inc/companies/SPD2L9OWT6L8PLTH)（前身Urban Mining Company）。同社はNGPとAventurine Partnersが主導するシリーズBラウンドで7,500万ドルを調達しており、2024年までに設備を拡張し、年間約2,000トンの磁石生産能力を備える計画だ。

プラスチックリサイクルの[Carbios](https://initial.inc/companies/SPD0EJWMSDEC71XD)は、フランスでのPETバイオリサイクル施設の建設資金として、フランス政府およびグラン・テスト地域から5,700万ドルの助成金を獲得した。 

2,000万ドル以上を調達したディスラプターには、バイオ建材メーカー[Woodoo](https://initial.inc/companies/SPD1Y8WYGPHTJC3P)（3,100万ドル）、バイオパッケージングメーカー[Ecovative Design](https://initial.inc/companies/SPD1AO1V3DY15FN5)（3,000万ドル）、金属リサイクル[Cyclic Materials](https://initial.inc/companies/SPD2JWTB1YNVE5ZX)（2,700万ドル）、バッテリーリサイクル[Nth Cycle](https://initial.inc/companies/SPD1NKE7KRGA9L0I)（2,000万ドル）が挙げられる。

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（原文執筆： Aqila Ali 、翻訳：齋藤茉菜、編集：大崎真澄、デザイン：川﨑菜々美、廣田奈緒美）

202311 Circular Materials OGP

電池

素材

蓄電池

再生可能エネルギー

勢い増すバッテリーリサイクル技術とバイオ素材の開発

今回のレポートでは「規制」や「資金調達」などを中心に、2023年第2四半期における生成AIエコシステムのトレンドを紹介する。

## 規制 : AIガバナンスの推進で一歩先を行くEU 

現時点において、AIガバナンスの推進に積極的なのがEUだ。6月14日に可決された「[AI規制法案](https://www.europarl.europa.eu/meetdocs/2014_2019/plmrep/COMMITTEES/CJ40/DV/2023/05-11/ConsolidatedCA_IMCOLIBE_AI_ACT_EN.pdf)」は、基礎モデルや生成AIアプリケーションを開発する企業に大きな影響を及ぼすと考えられる。

同法案で重要な要件となっているのが透明性だ。基礎モデルをEU市場で展開するにはデータベースへの登録が義務付けられるほか、著作権が保護されたトレーニングデータの要約を公開することが求められる。

法案の具体的な内容については年内まで議論が続くとみられており、施行されるのは2025年以降になる可能性が高い。AIのトレーニングデータの開示が求められることにより、著作権訴訟が増加することも懸念されている。

またAI規制法案が 「欧州の競争力と技術主権を危うくする」ことも懸念事項となっており、Renault、Heineken、Airbus、Siemensなど大企業の幹部150人以上が規制強化の再考を求める公開書簡に署名した。

規制面でEUの方向性と近いのが中国だ。中国では、一般に利用可能な生成AIサービスに関する規制を策定。中国のハイテク企業は、法案の発表後10営業日以内にCyberspace Administration of China（国家互联网信息办公室）に生成AIモデルを登録することが義務付けられる。

一方で米国や日本、インドなどは今のところは比較的ゆるやかなアプローチと言える。

米国では米国上院が5月16日にChatGPTを中心としたAI規制に関する公聴会を開催したほか、国立標準技術研究所（NIST）のAIリスク管理フレームワークやBlueprint for an AI Bill of Rights（AI権利章典の青写真）の策定など、AI規制に関して一定の進展が見られる。ただ現時点では初期段階にとどまっており、AIに特化した包括的な連邦法は存在しない。

日本においては米国のアプローチに近くなると予想される。

## 資金調達： LLM（大規模言語モデル）開発企業の大型調達が目立つ

ここからは生成AI関連のスタートアップを「生成AIアプリケーション」「基礎モデル」「MLインフラ」の3つのカテゴリに分けた上で、2023年第2四半期における資金調達の動向を整理する。

全体の傾向として、期間中の調達額が最も多かったのは基礎モデルの領域で24億ドル。13億ドルを調達したInflection AIを筆頭に大型の調達が目立った。

調達件数別では生成AIアプリケーションの29件が最多となった。MLインフラは大きな動きがなく、3社が合計で2680万ドルを集めている。

![EDGE 1](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/5j85nlVrUhLyrELJBk1xKh/9f596e18338338713823e7cc761afe58/EDGE_1.png)

> Source: Compiled by SPEEDA Edge • Funding data powered by Crunchbase, Designed using Flourish

__1. 生成AIアプリケーション__

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29社が総額で6.2億ドルを調達した。その中でも1億ドル以上を集めたのが、応用AI研究のRunway（1.41億ドル）とAIエンタープライズコンテンツのTypeface（1億ドル）の2社。Typefaceに加えて、SynthesiaとReplitは新たにユニコーン企業の仲間入りを果たしている。

ジャンルごとの内訳を見ると「デザイン、パブリッシング、デジタルアセット」分野が調達総額の約41%を占めた。調達件数においては「業務プロセス改善」が最も多く7件だった。
資金調達ラウンド別ではシードが最多で18社。ただし調達金額ベースではアーリーとグロースが圧倒的に多い。

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__2. 基礎モデル__

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6社が総額24億ドルを集めた。この領域の主役はLLMの開発に取り組む企業だ。

LLM Inflection-1やチャットボットPiを開発したInflection AIは、MicrosoftやNVIDIAなどの投資家から13億ドルの大型調達を実施。Anthropic（4.5億ドル）、OpenAI（3億ドル）、Cohere（2.7億ドル）も多額の資金を集めた。

中でもAnthropicはOpenAIの対抗馬の1社として、2023-25年にかけて50億ドルの資金調達を計画中だと報じられている。GPT-5への取り組みが噂されるOpenAIと次世代基礎モデルGeminiを開発するGoogleとの間における、マルチモーダルの熾烈な競争にも注目が集まる。

LLMを手がける企業の大型調達が目立った一方で、Hippocratic AIやGenHealthなどヘルスケア用途にファインチューニングした言語モデルに取り組む企業の資金調達もみられた。

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__3.MLインフラ__

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本レポートの対象企業においては、2023年第2四半期にMLインフラ領域で資金調達を実施した企業は3社のみ。調達総額も2,680万ドルにとどまった。これまでと比較しても、資金調達が著しく停滞したかたちだ。

これはMLインフラ領域のリソース集約的な特性、GPUアクセラレーション・インフラ、モデルのトレーニングと展開、既存のハードウェア上でのディープラーニング性能の向上など、有意義な進化に向けて資本を投下する上で、資金調達サイクル間で一定の期間を空ける必要があることを反映していると考えられる。

最大額となる1,300万ドルを調達したのは、Machine Learning System-on-Chip（MLSoC）ハードウェアを提供するSiMa.ai。AIアプリケーションのシッピングとスケーリング向けオープンソースプラットフォームであるBentoMLと、MLの検証・テストプラットフォームであるOpenlayerがシードラウンドで資金を集めた。

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## OpenAIなど6社は上半期だけで2回の資金調達を実施

生成AI関連のスタートアップに関しては、短期間で資金調達ラウンドが繰り返し実施される例も珍しくない。これは投資家の関心が持続している表れとも言えるだろう。

2023年上半期に少なくとも1回の資金調達を実施した企業は54社。

そのうち、次の6社は上半期だけで2回の資金調達を実施した。
OpenAI（103億ドル）Anthropic（7.5億ドル）、Typeface（1.65億ドル）、ElevenLabs（2,100万ドル）、Lavender（1,320万ドル、2件とも2023年第1四半期）、Scriptic（820万ドル）。

## プロダクトアップデート ： パーソナライズ、モデル革新、インフラにフォーカスした新機能が続々登場

__1.生成AIアプリケーション __

生成AIアプリケーションでは「パーソナライズ」の推進が大きなテーマとなっている。

市場のニーズに対応すべく、カスタマイズされたコンテンツやインターフェースを生成するためのツールの提供に取り組む企業が目立った。このような動きはスタートアップだけではなく、MicrosoftやGoogleといった主要な既存事業者でも見られた。

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__2.基礎モデル__

基礎モデルを手がける各企業は、新しいデータタイプやアプリケーションに対応できるモデルの開発に力を入れている。

特に第2四半期でアップデートに積極的だったMetaは、オープンソース戦略で差別化を図る。LLaMAやImageBindのようなモデルをオープンソース化することで、広範なAIコミュニティを活用しながら、モデルの能力を飛躍的に向上させる狙いだ。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/6GgrBamhfJvFwV9z5Mkscf/882098b562e6d8c15d815710448626ce/202310_generativeAI_3_1018_06.png" />

__3.MLインフラ__

この領域のプレイヤーはMLのライフサイクル全体のサポートとハードウェアのアップグレードの強化に重点を置いており、生成AIワークロード向けに最適化されたプロダクトの開発を進めている。NVIDIAやAMDなど既存のMLハードウェアメーカーにおいても積極的な姿勢が見られた。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/36AYKMWOf0H4prOMdNgj5A/34cae3d40244e77976a0ca04378d3ebd/202310_generativeAI_3_1018_07.png" /> 

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/3pUrJbAaM1uX0bukLa8ZvD/6bcdbdc3817dae3f0ae5328ba4550c66/202310_generativeAI_3_1018_08.png" />

## 提携： Microsoftが存在感

2023年第2四半期はMicrosoftが大きな存在感を放った。同社による提携の大半は、Microsoft Azure OpenAIサービスに関連したものだ。ChatGPTなどのモデルの機能を向上する上で欠かせないクラウドコンピューティングインフラを確保しつつ、基礎モデルへの企業アクセスの拡大に焦点をあてた取り組みが目立った。 

__基礎モデル領域×Microsoft__

- 4月：産業オートメーション企業Rockwell Automationと提携、Rockwellの製造システムにChatGPTをデジタルアシスタントとして統合
- 4月：LG CNSと提携、LG はAzure OpenAIを利用してAIコンタクトセンターとナレッジチャットボットを構築
- 5月：通信サービスプロバイダーのe&とも提携、Azure OpenAIをe&の社内業務に統合

__MLインフラ領域×Microsoft（プロダクト共同開発）__

- 4月：Snorkel AIと提携、Snorkel FlowをAzure AIサービスと統合することでデータサイエンスとMLチームによるカスタムAI／MLモデルの開発が可能に
- 5月：NVIDIAと提携、同社のAI EnterpriseソフトウェアソリューションをAzure Machine Learningと統合し、企業のAIイニシアチブを加速させていく
- 5月：AMDとも提携、AIプロセッサを共同開発
- 6月：専門クラウドプロバイダーのCoreWeaveと提携、同社のクラウドコンピューティングインフラを活用してChatGPTのようなOpenAIモデルのコンピューティングパワーを強化

![EDGE 2](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/42kgSbp4nVwXIfRrCkyT2I/1e5f2ec01c27a3017e7b080d09d09f1b/EDGE_2.png)

## M&A：Contents.comは買収ラッシュを継続、Databricksはバリューチェーン全体を構築

M&Aの観点では、ミラノを拠点とするAIコンテンツジェネレーターContents.comが活発な動きを見せた。同社は4〜5月にかけてScribeur.com（フランスを拠点とし、SEOやウェブマーケティングのテキストを生成する技術プラットフォーム）、Traduzione（イタリアの翻訳会社）、Scribox（イタリアのコンテンツマーケティング専門会社）などを相手に買収劇を繰り広げた。

また6月にはデータインフラ・MLOpsプラットフォームを展開するデカコーン企業・Databricksが、生成アプリケーション向けのMLモデル開発プラットフォームMosaicMLの買収を発表した。
両社のプラットフォームの統合が進めば、顧客は様々なAIユースケースやLLMを作成・管理できる包括的なプラットフォームにアクセスできるようになる。

Databricksは4月にも独自のオープンソース命令追従型LLMであるDolly 2.0を発表するなど、2023年第2四半期は大きなニュースが続いた。

（原文執筆：Piyumi Kapugeekiyana 、翻訳：石﨑彩子、編集：大崎真澄、デザイン：山浦隆史）

202310 generativeAI 3 1018 OGP

ジェネレーティブAI

イノベーションが加速するなか、AI規制の具体化が進む

202309 generativeAI 2 OGP

注目を集める大規模AIモデルの商用化

## 大規模AIモデルと分類

AIモデルとは、パターン認識、テキスト生成、視覚的質問応答（VQA）など、特定のタスクを実行するために、データセットを用いて訓練されたソフトウェアプログラムやアルゴリズムのことである。

AIのサブセットである機械学習（AIを応用して、コンピューターがより効率的かつ高速にタスクを実行できるようにするシステム）が、学習過程において最適化するパラメータ数が多いものを大規模AIモデルと呼ぶ。

![202308 generativeAI 04](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/k2AIKc67EgGXifhr8KCSe/7f8ea61b4fb832547e4cdc062b0b26ac/202308_generativeAI_04.jpg)

> 写真： Tada Images / Shutterstock.com

一般に、モデルのパラメータ数が多いほど、訓練データから得られる情報が多くなり、予測の精度が上がり、モデルの性能も向上する。

たとえば、2020年に発表された当時最大規模と称された、OpenAIのGPT-3で、パラメータ数は1750億ある。このモデルは、インターネットから収集したデータセットで訓練されたディープラーニング・アルゴリズムを活用して、人間が書くようなテキストを生成するため、ニューラルネットワークとも呼ばれている。

現在構築されている大規模AIモデルは、テキスト（言語）か視覚領域、あるいはさまざまな種類の情報を処理できるマルチモーダルの領域に分類される。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/jeA8ZVDNuEzeLwuUoZD59/602944a24acdf1c35f3978b66b74e64f/202308_generativeAI_01.png" />

## 進化の過程：4つの発展がポイント

現存する最大のAIモデルはすべて、2020-22年の期間に発表される。しかしその技術は[1960年代から提唱](https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/1911/1911.05289.pdf)されており、AIや機械学習への関心が本格的に高まったのは、80年代後半から90年代前半だ。コンピューターが大規模なニューラルネットワークを訓練するのに十分な性能を持つようになったのは、2000年代の終わり頃だ。

現在の大規模AIモデルの進化を導いた、4つの重要な発展をまとめる。

__1.ビッグデータの台頭__

機械学習の性能に影響するデータ量は、過去10年間で爆発的に増加した。2020年には、世界のデータ供給量が59ゼタバイト（ZB）にのぼり、そして2025年には[175ZB](https://theconversation.com/the-worlds-data-explained-how-much-were-producing-and-where-its-all-stored-159964)に達すると予測されている。

身近な例としては、1日あたりツイート（現ポスト）5億件、Eメール2,940億件、Facebookデータ400万GB、WhatsAppメッセージ650億件、YouTubeの新コンテンツ72万時間分が生成されていると推定される。

このデータ量の増加がAIの性能を飛躍的に向上させた。

__2.AI／機械学習の進化とディープラーニング革命__

過去10年で、機械学習とその応用分野の研究成果は急増している。学術論文のオープンアクセスeプリントリポジトリであるArxivに投稿された、機械学習関連の論文数は2009-18年にかけて32倍以上に増えた。

1日あたり100本以上の論文がArxivに投稿され、勢いが衰える気配はない。研究の活発化は、機械学習ベースのコンピュータービジョンモデルの性能向上にも表れている。

たとえば、コンピューターによる物体認識の精度を競う国際コンテスト「[ImageNet](https://www.image-net.org/challenges/LSVRC/)」では、1,000のカテゴリにまたがる100万枚のカラー画像から、画像分類と物体検出のタスクが要求される。

以前このコンテストではマニュアル設計されたコンピュータービジョン技術を使用し、優勝したチームでもTop-5エラー率(※1)は25%を超えていた。しかし、ディープラーニングが用いられるようになった2011年以降、明らかな性能向上がみられる。

> ※1Top-5エラー率：ImageNet データセットでの確率が高い上位5個の予測ラベルに正解ラベルが含まれていない割合

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4pGIIiUbbOMKGuyRHXcIGD/54e7979ac469eac73e01cbc113c0b7ac/202308_generativeAI_02.png" />

__3.計算量の増加__

2010年代初頭にディープラーニングが登場すると、計算量（計算性能）の成長がさらに加速し、通常規模のモデルでは約6か月ごとに倍増するようになった。

2015-16年には、GoogleのAlphaGo（プロの囲碁棋士を破った最初のコンピュータープログラム）を皮切りに、次々と大規模モデルが誕生した。これらの大規模モデルの計算量は[10か月ごとに倍増した](https://arxiv.org/pdf/2202.05924.pdf)。この[計算量の増加傾向](https://openai.com/research/ai-and-compute#fn1)が続く限り、AIモデルの性能は現在の水準をはるかに超えて進化を遂げる可能性がある。

__4.Transfomerアーキテクチャの開発__

ニューラルネットワークは、ディープラーニング・アルゴリズムによって人間の思考回路を模倣する。言語モデリング、機械翻訳、質問応答などの言語理解タスクを実行するうえで重要な手法である。

2017年、Googleは、「[Transformer（トランスフォーマー）](https://ai.googleblog.com/2017/08/transformer-novel-neural-network.html)」と呼ばれる、自己注意（Self-Attention）機構に基づく新しいニューラルネットワークアーキテクチャを開発・オープンソース化した。自己注意機構によって、大規模AIモデルが入力データの特定部分のみにフォーカスを当て、文脈に基づいてどのデータが最も関連性が高いかをより効率的に推論できるようになった。

Googleチームは、Transformerアーキテクチャの性能は、リカレントニューラルネットワーク（RNN）や畳み込みニューラルネットワーク（CNN）といった従来のアプローチを上回ると述べている。現在、大規模AIモデルのほとんどはTransformerをベースにしている（MetaのSEER はCNNベース）。

## 主要プレイヤーは協力し合う

大規模なAIモデルの訓練や運用には膨大なコストがかかるため、現在はビッグテックをはじめ、大手テック企業やAIラボが主導している。

現在、米国のビッグテックが最前線を走っており、中国、韓国、ロシア勢が後を追う。AIラボも、単独で、あるいはビッグテックのパートナーとして、AI研究に参加している。

大規模AIモデルを支えるハードウェアやソフトウェアシステムについて主要プレイヤーは協力し合う。

LGのモデル「EXAONE（エクサワン）」は、[Googleとの戦略的提携](https://www.kedglobal.com/artificial-intelligence/newsView/ked202112140015)を通じて構築され、GoogleはLGに計算用AIチップ「TPU u4」を供給し、Google BrainはEXAONE用に互換ソフトウェアフレームワークを作成した。

一方、[MicrosoftとNvidia](https://analyticsindiamag.com/Nvidia-microsoft-introduce-new-language-model-mt-nlg-with-530-billion-parameters-leaves-gpt-3-behind/)は、Nvidia SeleneやMicrosoft Azure NDv4といった最先端のスパコンクラスターを活用し、自然言語生成モデル「MT-NLG」の訓練で協業している。

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## 需要の促進要因

__1.デジタルなカスタマー体験の向上__

コロナ禍を機に、消費者のオンラインシフトはさらに加速している。[McKinseyの2020年の調査](https://www.mckinsey.com/capabilities/strategy-and-corporate-finance/our-insights/how-covid-19-has-pushed-companies-over-the-technology-tipping-point-and-transformed-business-forever)によると、顧客とのコミュニケーションの8割以上がデジタル化されていると報告する企業は、コロナ禍前の3倍に増えている。とりわけ顧客接点の多い業態では、約62%の組織がオンラインでの購買やサービスに対する顧客需要の増加を経験している。

これに伴い、企業は対話型AIなどへの投資を倍増させている。一部の予測では、モバイルプラットフォーム上の[全コミュニケーションの最大4割](https://dan.com/buy-domain/vivoanalytics.com?redirected=true)が、最終的にはチャットボットやスマートアシスタントのような対話型AIによって対応されるようになるとされている。こうした動きは、GoogleのLaMDA を筆頭に、LLMにとって好機となる。

__2.大離職時代の開発者不足__

[Salesforceによる2022年のMuleSoft調査](https://www.salesforce.com/news/stories/new-research-shows-how-to-keep-developers-happy-amid-the-great-resignation/)によると、過去2年間で93%の組織が専門スキルを持つソフトウェア開発者の維持が難しくなり、86%が採用の難しさを感じるようになったと回答している。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/1tNaB521D9wXWb7wqI6ewv/6c7750d3b89f93e7f611f755dc8ab46e/202308_generativeAI_05.jpg" />

自発的な離職・退職者が増える「大離職時代」において、調査対象となった組織の91%が、開発者の主要な業務プロセスを自動化し、「より少ない労力でより多くのことができる」ようにするソリューションが必要だと強く実感している。

OpenAIのCodexのようなファインチューニング済み言語モデルであれば、時間と労力を削減しながら、ソフトウェア開発者の負担を軽減するAIペアプログラミングツールを構築するのに役立てることができるかもしれない。

__3.自動化・自律化__

分野を問わず自動化・自律化に対するニーズは年々高まっている。

たとえば、[2020年のマサチューセッツ工科大学の調査](https://news.mit.edu/2020/how-many-jobs-robots-replace-0504)によると、米国では現在、使用されているロボットの7割が自動車製造（稼働中のロボット台数の38%）、電子機器製造（同15%）、プラスチック・化学工業（同10%）、金属製造（同7%）の4つの製造業に集中するため、さらなる用途の拡大が期待できる。

![202308 generativeAI 06](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4pD4ttiFsm9e5DGBIeAu8J/bf8fc898e0169bed1850284aa9f5d4f5/202308_generativeAI_06.jpg)

先進運転支援システムや[自動運転](https://arxiv.org/pdf/1906.03199.pdf)などの自動車用途では、さまざまな視覚入力を利用・処理できるマルチモーダルAIモデルの需要が引き続き高まる見通しだ。たとえば、Googleの「Perceiver」モデルは現在、自動運転シーンの画像、映像、LiDAR点群という3種類の情報を取り込むことができる。

__4.ヘルスケア・その他分野における予測的洞察・分析__

大規模AIモデルによるディープラーニングの進歩は、予測的洞察や分析を必要とする多くの分野に示唆を与えている。特に、[医療画像診断タスク](https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/1911/1911.05289.pdf)では、AIモデルの有用性が実証されている。

![202308 generativeAI 06](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/72ef0mlhvrc0twKJ8obI8X/1cdca187f3781fa100114a6c78e055e6/202308_generativeAI_07.jpg)

たとえばMetaは、SEERビジョンモデルの基礎と同じ自己教師あり学習法を活用し、[新型コロナに対応するリソースの必要性を予測](https://ai.meta.com/blog/new-ai-research-to-help-predict-covid-19-resource-needs-from-a-series-of-x-rays/)するのに役立つ3つの機械学習モデルを開発し、X線写真の分析から患者の病状の進展を予測するのを助け、医療機関のリソース計画に役立っている。

このほか、量子化学、地震予測、洪水予測、ゲノミクス、タンパク質フォールディング、高エネルギー物理学、農業などでもディープラーニング手法が活かされている。

## 課題 

__ 1.モデルの訓練・運用コスト__

大規模AIモデルは莫大な開発コストがかかる。[2020年のAI21 labsの調査](https://arxiv.org/pdf/2004.08900.pdf)によると、パラメータ数15億のテキスト生成モデルの訓練には160万ドルが必要となる。さらに、GPUのような特殊なハードウェアを用いて訓練するため、コストはさらに増大する。たとえば、[BigScienceのBLOOM](https://bdtechtalks.com/2022/07/18/bloom-large-language-model-ai-research/)は、1台あたり最大3万2,000ドルのNvidia Tesla A100 GPU 384台を使って訓練された。

[推論](https://bdtechtalks.com/2022/07/18/bloom-large-language-model-ai-research/)（訓練済みモデルの実行）のハードウェアコストもある。圧縮されたBLOOMモデルは227GB。これを実行するには、数百GBのVRAMを搭載した専用ハードウェアが必要になる。これに比べ、GPT-3はNvidia DGX 2と同等のコンピューティングクラスターを必要とし、その価格は約40万ドルである。あるいは、[クラウド上で実行する場合](https://bdtechtalks.com/2020/09/21/gpt-3-economy-business-model/)、GPT-3のようなモデルの推論は、単一のAWSインスタンスで最低年間コスト8万7,000ドルまで実行できる。

コスト負担は金銭面にとどまらない。AIモデルの訓練に使用されるGPUは、従来のCPUよりも多くの電力を消費する。[マサチューセッツ大学アマースト校](https://www.technologyreview.com/2019/06/06/239031/training-a-single-ai-model-can-emit-as-much-carbon-as-five-cars-in-their-lifetimes/)の研究者は、一般的な大規模AIモデル数種の訓練に関するライフサイクル評価に基づき、このプロセスで62万6,000ポンド以上（CO2換算）が排出されることを示した。

事実上、1つの大規模AIモデルの訓練は、平均的な米国産車の生涯炭素排出量（製造も含む）の5倍近くを発生させていることになる。100%再生可能なエネルギーにシフトしなければ、AIの進歩はカーボンニュートラルを犠牲にすることになりかねない。

__2.時間とメモリを消費する訓練工程__

大規模AIモデルの訓練は、コスト以外にも多くの難しい課題がある。まず、パラメータ数が多すぎて、最大容量のGPUメモリにさえ収まらない。

さらに、これらのモデルを精緻化するのに必要な計算処理数が多いため、アルゴリズム、ソフトウェア、ハードウェアがともに最適化されない限り、多くの訓練時間を要することになる。

[Microsoftの5,300億パラメータのMT-NLGモデル](https://www.microsoft.com/en-us/research/blog/using-deepspeed-and-megatron-to-train-megatron-turing-nlg-530b-the-worlds-largest-and-most-powerful-generative-language-model/)を合理的な期間内で訓練するには、「Nvidia A100 Tensor Core GPU」と「HDR InfiniBand」ネットワーキング、「Nvidia Selene」のような最先端のスパコンクラスター、「Microsoft Azure NDv4」の融合が不可欠であった。

__3.倫理的・社会的リスク__

AIモデルの倫理的・社会的リスクは、現在進行形で調査・懸念されている分野だ。AI倫理学者でGoogleの[元AI倫理責任者](https://realsound.jp/tech/2021/02/post-712904.html)のTimnit Gebru氏は、「[確率的オウムの危険性](https://dl.acm.org/doi/pdf/10.1145/3442188.3445922)」に関する論文のなかで、大規模言語モデルに関連する課題について詳述している。

また、Deep Mindは、[LLMの6つのリスク](https://www.deepmind.com/publications/ethical-and-social-risks-of-harm-from-language-models)について概説している。これには、差別のリスク、ステレオタイプや社会的バイアスを永続させることによる表象的・物質的な危害などが含まれる。

基本的に、これらのAIモデルはインターネット上のデータを利用するため、そのデータに内在するステレオタイプ、ヘイトスピーチ、偽情報、有害なナラティブをそのまま反映してしまう。

さらに、ほとんどのオンラインデータは[先進国の若いユーザー](https://analyticsindiamag.com/how-googles-switch-transformer-started-an-ethical-debate/)によるもので、18歳から29歳の男性ユーザーに強く偏っている。訓練データの規模を考えると、他のグループからのデータの欠如は、これらのグループがデータに及ぼす影響をさらに弱めることにつながる。

![202308 generativeAI 08](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/2kBwjjwNzk93hivlcU5KrW/d4707c4633fe5cfd8f37b1bb31b99e4d/202308_generativeAI_08.jpg)

こうした課題は、LLMに限ったことではない。OpenAIは、[DALL-Eのような画像生成型マルチモーダルAIモデルも同様に、ウェブからの学習画像に埋め込まれた偏見や有害性を拾い上げる](https://www.vox.com/future-perfect/23023538/ai-dalle-2-openai-bias-gpt-3-incentives)リスクがあると指摘している。

## おわりに

__大規模＝良いとは限らない：__ 膨大な開発コストとCO2排出量を考えると、AIモデルの大規模化は長期的に見て持続可能とは言い難い。また、モデルの訓練度にもよるが、モデルが大きければ性能が向上するというわけでもない。その代わりに、計算機最適化モデルが別の道筋を示すかもしれない。

__商用化には時間がかかる：__ 一部の大規模AIモデルは商用化で先行しているが、他のモデルも同じ成果を得るには時間がかかるかもしれない。潜在的なユースケースを探り、悪用されるリスクを軽減するためにさらなる研究開発が必要な場合などはなおさらだ。

__さらなる研究が必要：__ 人間の思考回路を忠実に再現できる機械を開発するまでには、道のりが長い。現在ある大規模AIモデルは大きな可能性を秘めるものの、課題を解消するにはさらなる研究と探求が必要である。大規模モデルに関連する倫理的・社会的懸念は妥当であり、注意を払う必要がある。[2022年のScientific American誌の記事](https://www.scientificamerican.com/article/artificial-general-intelligence-is-not-as-imminent-as-you-might-think1/)にある通り、「今本当に必要なのは、地道に基礎研究を進めること」だ。

（原文執筆：Piyumi Kapugeekiyana 、翻訳：齋藤茉菜、編集：森敦子、デザイン：山浦隆史）

202308 generativeAI OGPb

勢いを増す大規模AIモデル、その可能性と課題を探る

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IPO記事

SaaS

FinTech

H1 2023 Analysis: Pandemic-Era Funding Trends Reversing

## 調達額は減少

2022年は国内スタートアップによる資金調達額が9459億円と、過去10年で最高を記録したが、2023年は上半期の時点でその約35%に留まった。観測データであり、後に判明する調達分を考慮すると最終的には3500〜3800億円程度になる可能性が高いが、それでも前年の半分には届いていない。

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## 調達社数は増加も、大型化がストップ

ただ、資金調達活動そのものが減速したわけではない。2023年上半期の調達社数は1,242社となり、昨年の同時期に集計した2022年上半期の1,058社から17％増加した。

一方で毎年続いていた調達の大型化がストップし、1社あたりの調達額の平均値は前年を下回った。調達額が減少したのも大型調達の数が減った影響が大きい。

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10億円以上の大型調達に絞って中身を比較すると、ボリュームゾーンである10億円以上50億円未満の調達において、金額や社数の減少が目立つ。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/eTxzEXi9Jdab5DfEbtVRB/dda0c73e8c59163557362854ed72c98a/jsf2023h1_21rev3.png" />

## シリーズD以降で評価額の下落が顕著

シリーズ別の調達動向からも同様の傾向が見られた。2022年と比べて各ラウンドでの資金調達額が軒並み下落。中でもシリーズD以降は企業評価額を含めてその傾向が顕著に出ており、評価額は2022年から38%減少している。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/2BBrodbok2dmxpKa5vtlGe/d1f082448e551a53c75ae753573c8734/jsf2023h1_12.png" />

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/5baKwn6gkVzC6gW3nWtmjZ/6b9ed07d98272a674e00529bcd429698/jsf2023h1_11.png" />

> INITIALシリーズの定義は[こちら](https://initial.inc/articles/7oUK5qkbYvX4tLeU0VMnwM)

## 背景にマーケットの影響

調達額の減少の背景にあるのが、マーケットの下落だ。

東証マザーズ指数の推移を見ると、2020年9月頃から高い水準を維持していた価格が、2021年末に一気に下落。その期間の価格が特に高かった状態だ。半年ごとでは2021年上半期にピークを迎え、わずか1年後の東証グロース指数をみると2022年上半期にはマザーズピーク時の30%以上減少した（現在はマザーズピーク時の20%減で推移）。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/6ft3Ep6BDAl7gKSgPTxugk/0e0d0f9cc5389144a5926268ed24e685/jsf2023h1_06rev.png" />

かたやスタートアップの調達額は2022年の上半期がピーク。約半年から1年遅れで未上場市場にマーケットの影響が出ている格好だ。

投資が決まってから実行するまでのタイムラグに加え、INITIALによればスタートアップの資金調達サイクルは平均で1年3ヶ月から1年半ほど。このサイクルに照らし合わせると、マーケットの水準が高かった2021年頃に前回のラウンドを実施していた企業の調達タイミングが、2023年上半期に重なった可能性が高い。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/1t2hjNganhVNK9q7qhEdAu/4cf509bd8fc3f52b1e55c0254e7579d1/jsf2023h1_15rev.png" />

マーケットの下落とともに、スタートアップの企業価値を算定する際に重視される指標も「PSR（売上）」から「PER（利益）」へと傾きつつある。特にシリーズD以降の調達にマーケットの影響が大きく出ているのは、レイターステージほどイグジットに近く、PERで見る傾向が強まるからだ。

バリュエーション評価が利益重視に傾くトレンドについて、[ジャフコグループ](https://initial.inc/investors/2002)パートナーの藤井淳史氏は「企業が生み出した利益が株主に帰属するので、利益成長（PER）をみることの方が本質的。（金融緩和などで）投資資金が溢れると青田買いの目的で先行指標である売上（PSR）が注目される傾向にあり、これまでの歴史をみてもむしろ売上（PSR）をみる時期のほうがイレギュラーだった」と話す。

[グロービス・キャピタル・パートナーズ](https://initial.inc/investors/58)代表パートナーの今野穣氏も「市況が落ち込んだのではなく、現状がニュートラルと捉えるほうが適切」だと述べる。実際に利益を出せる体質への転換に取り組むスタートアップも多く、このような市況の傾向は「下半期以降も続くのではないか」とした。

マーケットが下落した状態でも、利益を出せる企業であれば、バリュエーションを上げてエクイティファイナンスをすることは可能だ。ただ、それが難しければマーケットの水準が戻るまで我慢するか、前回の調達時から企業価値を引き下げるダウンラウンドで調達せざるを得ない。

エクイティの期待水準に届かなければ、デットファイナンスを行う選択肢もあるだろう。このような変化もあり、2022年頃からデットファイナンスの活用が活発化した。

また、ダウンラウンドの件数も前年の同時期と比べて増えている。2022年は「ダウンラウンドIPO」が多数発生し、IPO初値時価総額も6年ぶりに100億円を下回ったが、未上場市場ではダウンラウンドの傾向などが前年までと大きくは変わらなかった。 

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4hoL1e1PeP0z1Za8VhiO4l/fea6f22da7c7e2da6672529042964769/jsf2023h1_10.png" />

2023年上半期ではその数が増加したことに加え、象徴的だったのが、ダウンラウンドの内訳の変化だ。これまではダウンラウンドの発生件数はシリーズAが最も多かったが、2023年上半期はシリーズBが最多。次いでシリーズC、シリーズDと、これまでにはあまり見られなかったレイターで多く見られた。

## 研究開発型2社が100億円超を調達

調達額上位20社では研究開発型のスタートアップが上位に入った。100億円を超える金額を調達した[京都フュージョニアリング](https://initial.inc/companies/A-35688)と[アストロスケールホールディングス](https://initial.inc/companies/A-16250)は、いずれも研究開発型。前者は核融合特殊プラント機器、後者はスペースデブリ（宇宙ごみ）除去サービスを手がける。

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なお4位の[キャディ](https://initial.inc/companies/A-31877)、圏外だが[Telexistence](https://initial.inc/companies/A-28075)については7月に100億円以上の調達リリースが出ているが（キャディは118億円、Telexistenceは約230億円）、ランキングでは集計時点で登記で確認できた金額を掲載した。

3位の[Go](https://initial.inc/companies/A-28163)（旧Mobility Technologies）はゴールドマンサックスより約100億円を調達しているが、登記上で確認できたのは99.9億円（端数切捨て）のため、100億円以上の調達社数には含めていない。

2022年上半期のランキングと比べると、30億円〜50億円を調達した社数が減少した。前年の20位は[CureApp](https://initial.inc/companies/A-16412)の35.0億円だったのに対し、2023年は[フライウィール](https://initial.inc/companies/A-32657)の25.0億円。15位から20位までを20億円台が占めた。

また、エクイティファイナンスが対象のため本集計に反映されていないが、デットファイナンスの選択肢が広がってきており、20社中6社が活用していた。

## 事業法人と金融機関が存在感

投資家の顔ぶれを見ると、事業法人と金融機関の存在感が目立つ。

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金融機関は融資なども含めて積極姿勢がわかる。事業法人は上位2社に出資をしている三菱商事を始め、大型調達において複数の総合商社の名前が見られた。

藤井氏は事業法人の積極的な姿勢について「2000年代から始まった事業法人によるオープンイノベーションの取り組みが時間とともに徐々に深まっていき、（本格的なエクイティ投資の強化という）次の段階へと入ってきている」と話す。

大型調達でよく見られた独立系VC+複数の海外投資家というラウンドは影を潜めた。投資家のタイプ別では、2022年上半期と比べてVCの投資額が30%近く減少。全体の投資額の減少にも大きな影響を与えた。

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10億円以上の調達に絞っても、VCの投資金額の減少幅が大きい。種類別では最もボリュームの大きかった海外VCの減少幅が目立った。

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調達額上位20社を筆頭に事業法人の直接投資が目立つ反面、CVCによる投資が減少しているのはなぜか。その背景について今野氏は「出資時に（財務リターンを目的とするよりも）戦略的な理由を重視する動きが強まった結果、その目的に合った本体投資がより加速しているのではないか」と話す。

なお海外VCの投資額は減ったものの、日本のスタートアップに対する海外機関投資家の関心は高い。この点は藤井氏、今野氏ともに「海外機関投資家からの問い合わせは多い」という。

## IPOは減少も、初値時価総額は回復傾向

IPOを見送る動きが表れており、スタートアップのIPO件数は減っている。2023年上半期に上場した55社のうち、スタートアップは20社（36.4%）となった。

一方で初値の時価総額（中央値）は回復傾向にある。2022年は85億円と、6年ぶりに100億円を下回っていたが、2023年上半期は130億円。2022年、2021年を上回った。

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新たに上場したスタートアップの中で、初値の時価総額が1000億円を超えたのは[カバー](https://initial.inc/companies/A-27236)のみ。IPOしたスタートアップの上場までの年数（中央値）が2023上半期は9年の中、初値時価総額上位5社のうち3社がそれよりも長い期間を経てIPOへ至っている。

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## M&Aはわずかに増加

IPOと並ぶスタートアップの主要なイグジット手段であるM&Aについては、昨年同時期の集計値と比べるとわずかに増えた。2023年上半期のスタートアップの被買収・子会社化の件数は61件（2022年H1 : 59件）、事業譲渡は22件（2022年H1 : 18件）。

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買収額が100億円を超えたのは三菱UFJ銀行による[カンム](https://initial.inc/companies/A-10809)の買収と、米モデルナによる[オリシロジェノミクス](https://initial.inc/companies/A-32953)の買収の2件だ。

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## 100億円以上の新設ファンドは7本

スタートアップへの投資額は減少したものの、ファンドの新設ペースは減速していない。

2023年上半期に観測された新設ファンドは61本で、うち金額が判明しているものは2168億円分。このペースが続けば年間では5000億円台後半で着地する可能性が高く、例年と同程度の水準だ。

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2022年は総額が7000億円を超えているものの、政府系のJICベンチャー・グロース・ファンド2号（2000億円）の影響が大きかった。昨年の同時期に集計した2022年上半期の時点では新設ファンド数が49本、判明している金額が1856億円だったため、むしろ今年の方が本数、金額ともに上回っている。

100億円以上の新設ファンドは7本。金融系のファンドが半数を超えており、新設ファンドについても金融機関の勢いが目立った。

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マーケットの影響が未上場市場の資金調達の数値へも現れ始め、2023年上半期は日本でもスタートアップの調達額が減少した。今後も東証グロース市場の動向が1つのポイントになるだろう。その指数が特に高かった時と比較し、その価格を期待水準とするならば、スタートアップを取り巻く環境は厳しい状況だといえる。

ただ、プラスの要素もある。2023年下半期以降は、前回のラウンドを2022年以降に実施したスタートアップの新たな資金調達が徐々に増える。上場市場の水準に株価がある程度連動しているならば、このような企業はバリュエーションの割高感がなく、投資家側が投資を検討しやすいだろう。

岸田政府が2022年11月に発表した「スタートアップ育成5か年計画」が本格的に動き出していることも、追い風となりうる。

新たな局面に入った、日本の未上場市場。スタートアップにはこの変化に適応することが求められている。

（取材・執筆：森敦子、編集：大崎真澄、バナーデザイン：杉野亮、図版デザイン：廣田奈緒美）

> 2023年7月24日18時追記
> 「10億円以上の資金調達総額と調達社数」表の調達社数のうち調達全体の数値を修正。
> 「東証グロース/マザーズ指数」グラフの数値を修正。本修正に伴い、説明文も一部修正。

> 2023年7月27日16追記
> 「新規上場数」と「IPOの初値時価総額（中央値）」のグラフのうち、2021年のスタートアップの数を修正。それに伴い同年のスタートアップの初値時価総額中央値も修正。

> 2023年8月4日18時追記
> 集計時点において集計に含まれていなかった明細が判明したため、「国内スタートアップ資金調達額・調達社数推移」「1社あたりの資金調達額傾向」「半期別の資金調達額推移」の2023H1の数値、「2023年上半期資金調達額上位 20社」、「投資家タイプ別の投資額」「10億円以上の調達の投資家タイプ別の投資金額」の2023H1の10-50億円の数値を修正。本修正に伴い本文の数値も修正。

年2回（上半期・年間）リリースしている各年のスタートアップ資金調達動向記事は以下からご覧になれます。（リリース日順）

[2022年（年間）](https://newspicks.com/news/8032712/body/?ref=user_9823)※、[2022年（上半期）](https://newspicks.com/news/7336402/body/?ref=user_9823)※、[2021年（年間）](https://newspicks.com/news/6613879/body/)※、[2021年（上半期）](https://newspicks.com/news/6045533/body/)※、[2020年（年間）](https://newspicks.com/news/5562829/body/?ref=user_9823)※、[2020年（上半期）](https://initial.inc/articles/startup-finance-2020h1)

※は、NewsPicks内でのみの記事公開となります。

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【最新版】2023年上半期スタートアップ調達トレンド

ペプチドリーム株式会社

株式会社ユーグレナ

CYBERDYNE株式会社

株式会社ispace

Spiber株式会社

株式会社TBM

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研究開発型

バイオテクノロジー

製薬・創薬

宇宙

製造

研究開発型スタートアップ解体新書 -投資家編- 

research-development-02 OGP

研究開発型スタートアップ解体新書 -ファイナンス編- 

research-development-01 OGP

研究開発型スタートアップ解体新書 -実態編-

## SOは資本政策

スタートアップがSOを発行するにあたり、資本政策と税制優遇を考えることが重要になる。なぜなら、この2つの側面から課題が生じることが多いからだ。

1つ目は、新株予約権という性質上、SOは資本政策のひとつである点だ。長期的な会社の成長を踏まえ、付与する相手に対して、企業価値に換算してどの程度の仕事ぶりを期待するかを明確にする必要がある。

そして、たとえば、一般的には投資家との株主間契約等で10～15%の発行上限がある中で配分されるため、各株主の希薄化や経営者の経営権とのバランスも考えなくてはならない。

たとえば、10%の発行上限がある中で、「発行済み株式数の5％」と付与の「割合」を条件に付与する相手と交渉すると、後で本当に発行したい相手に発行できなくなるなどの問題が生じる可能性がある。

このように将来的な成長戦略を明確に立てないままSOを発行すると、付与する対象者への期待値が明確でないため、適切な条件を設定できない。曖昧な条件のまま、相手がその期待通りの成果をあげなかった場合でも、当然だが資本政策なのでやり直しは効かない。実際、このような交渉をし、後から困るというケースが散見される。

参考までに、上場したスタートアップを対象にSOの発行割合をみると、だいたい発行済み株式数に対して10％前後であることがわかる。たとえば、メルカリであれば上場時点で20.9%だった。

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なお、発行割合の数値の大小だけでは良し悪しの判断はつかない。資本政策は会社によって最適なケースが異なるため、SOの割合も最適な割合が異なることに注意されたい。

## SOの基本的な税制

2つ目は、税制面だ。これはSOを発行するスタートアップだけでなく、SOを付与された側にも関係する話だ。

通常、報酬としてのSOを付与された者は、課税されるタイミングが2回ある。①報酬として渡されているので、付与されたSOを行使し自社株を取得したタイミングで「給与所得課税」が、②株式を売却したタイミングで「譲渡所得課税」が課される。

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これに対し、「税制適格SO」というSOがある。税制適格要件に当てはまる場合に利用でき、課税のタイミングと種類、つまり税率が変わる。具体的には、下図のように、課税のタイミングが売却時点にまとまり、課税の種別も譲渡所得課税のみになる（③）。

たとえば、株価100円で100万株取得できるSOを付与され、株価500円の時に権利行使し、株価1,000円の時に売却したとしよう。

税制非適格の場合、まず、①権利行使時点で株価の差分（500円－100円＝）400円×100万株の4億円が課税対象となり、4億円×（45％＋住民税の標準税率10％＝）55％の2億2千万円が課税される。実際はここに住民税なども追加で課税されるが、まだ売却していないため、SO付与者の手元資金で支払うことになる。

次に、②株式売却時に（1000円－500円＝）500円×100万株の5億円が課税対象となり、そのおよそ20％である1億円が課税される。したがって、合計2億8千万円以上の税負担が発生することになる。

これに対し、税制適格SOであるならば、株式売却時点で売却時点株価1,000円から権利行使価格100円の差分である900円に100万株を掛けた9億円が課税対象となる。ここから、約20％の譲渡所得税分である1億8千万円を負担することになる。

つまり、税負担の総額が減るメリットだけでなく、売却して得たお金から支払うことができるため、タイミングの点でもメリットがある。税制適格SOを利用するためには、主に14項目に分けられる要件を満たす必要がある。項目は、SOの発行する際、SOを付与される人、権利行使の3つに大きく分けられる。

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気をつけることは、3つ。満たすべき要件が多い点、要件の中に時価など変数が含まれている点、発行時点から見て将来時点で満たさないといけない「未来の条件」がある点だ。

## スタートアップで活用されるSOは3種

基本を抑えた上で、次にSOの種類をみていく。スタートアップで活用されるSOは主に3種類ある。無償SO、有償SO、信託型SOだ。それぞれの特徴をまとめると下の表のとおり。

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無償SOは、一定の要件を満たせば税制適格となり、給与所得課税が免除される。有償SOは持株会に類似する投資制度で、持株会が普通株に対する投資制度に対して、有償SOは新株予約権に対する公正価値での投資制度である。投資であるため、給与所得課税の対象ではない。

上場したスタートアップを対象に、活用されたSOの種別を確認すると、無償SOが最も多い。

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しかし、2020年から2021年にかけて最も伸びたのが信託型だ。上場後にも、SOを従業員らへ付与するケースはある。信託型SOは、無償SOと異なり、発行時に誰にいくら付与するかを決めなくてよい。

中長期的な企業価値の向上に貢献した人材に、後決めでSOを付与することが可能だ。現在では、専門の信託会社であるコタエル信託も存在する。

さらに詳細にスタートアップの実際のSO活用を見てみると、各SOの特性を考慮して組み合わせで活用していることがわかる。その結果、これまで王道だった無償SOのみが全体に占める割合は低下している。

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## SO活用事例（エクサウィザーズ）

最後に、活用の具体例を見てみよう。たとえば、3種類全てのSOを活用しているエクサウィザーズだ。

エクサウィザーズは、2016年2月設立のAIスタートアップで、2021年12月23日に東証マザーズへ上場した。上場までに、SOを22回発行しており、発行規模はIPO時の発行済株式数全体に対して14.97％。特徴は無償SO、有償SO、信託型SOを組み合わせて発行している点だ。エクサウィザーズの各回号のSOは次の表のとおり。資金調達のタイミングも合わせて参照できるようにした。

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設立後から積極的に従業員に幅広く無償SOを付与している。有償SOは、少なくとも4回発行している。有償SOを活用している背景として、税制適格要件に当てはまらない相手に対する付与であったと考えられる。全4回の有償SOの対象者は、いずれも監査役と社外協力者だ。

そのため、税制適格要件のうち、SOを付与される人の身分を「会社およびその子会社の取締役・使用人または執行役である個人であること」、とする要件に該当せず、税制適格SOを活用することはできない。

さらに、IPOの直前には信託型SOを導入している。これは、IPO後に入社してくる従業員もSO付与の対象とすることを想定して導入されている可能性がある。

このように、各SOの特性を考慮しながら各社のSOの発行をみていくと、それぞれの会社の意図が見えてくる。

SOは発行するスタートアップと付与される相手の双方が適切に理解し、活用することで初めて幸せになれるものだ。しかし、現状、設計や運用の過程で、何らかの問題が発生し、せっかく設計したSOを取り消す事例も残念ながらみられている。

最近では、時代とともに活用方法が変わり、日本でもカウシェが退職後に権利行使できるSOの新制度を打ち出し話題となった。カウシェでは一定期間在籍した役員および正社員については、上場前に退職しても原則SOを保有できる。通常、退職後は権利行使できないため、SOのあり方に一石を投じている。

また、SmartHRの創業者で前代表取締役の宮田氏が、SOの課題などを解決する株式報酬をテーマにおいたサービスを同社の新規事業として立ち上げることを2022年1月に発表。EXITの多様化が見られる中、SOのあり方も従来の「無償SO」だけに囚われない時代になっている。

（協力：株式会社プルータス・コンサルティング 岡田 広、林将大、取材・執筆：森敦子、編集：中村香央里、イラスト：石丸恵理、デザイン：山浦隆史）

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ストック・オプション きほんのき

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Japan Startup Funding 2022: Domestic Startup Market Remains Red-Hot Amid Global VC Winter

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H1 2022 Analysis: Investment in Japanese Startups Proves Surprisingly Resilient

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Japan Startup Funding 2021: 1 Trillion Yen Milestone Within Sight

## 自社だけで二人組合ファンドを立ち上げ、CVCの勝ちパターンを作る

### 豊島はスタートアップ投資を専門にする新会社「みやびベンチャーズ」を共同で設立しました。設立の背景や狙いについて教えてください

 `豊島/溝口量久氏（以下、溝口）`
2017年に豊島のCVC運営に特化した「みやびベンチャーズ」を現代表の井上さんと共同出資により設立しました。ファンドは豊島とみやびベンチャーズの二人組合形式で運営しています。

元ジャフコ グループの井上代表とは、CVCを設立する前から私の業務アドバイザーとしてお付き合いがありました。そこで「今、CVCを始めると、ファッション業界の危機に対応できるのではないでしょうか」とアドバイスをもらったことがきっかけです。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/5w6W7lN6mM0h7OSSEC3Qth/e98c0a24a82b505d29ca6fad68fbe065/20211007___toyoshima_07.png" />

一般的にCVCでは自社のみ、または外部のVCと共同でファンドを運用します。__みやびベンチャーズは豊島のCVC活動のために設立したので、柔軟に運営しながらも、CVCとして実績を生み出すことに注力することができます。__

バリュエーションなど財務的リターンについては元VCの井上代表が運営するみやびベンチャーズ、戦略的リターンについては豊島が責任を担っています。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/72RbS5Zoe1kukfmemLFomi/f1380bddb7a3138ad1c3e6a3fbd47f88/20211007___toyoshima_01.png" />

 `みやびベンチャーズ/井上 恒一氏（以下、井上）`
溝口さんと話す中で、ファッション業界の大きな変化とデジタル化の必要性に対して、豊島が危機感を持っていることを感じました。M&Aとは異なり、CVCは新規事業創出の種まきです。まずは事業開発の実績を作り、その流れを周囲に広げていき、エコシステムを作っていくことが最も大切です。その価値観をすぐに共有することができたので、1年近くかけて理想の運営体制を構築しました。

一般的に事業会社がCVCを立ち上げたとしても、VC出身者から見るとCVCに参画するメリットは小さいです。独立系VCのように投資先がEXITした際のキャリー（成功報酬）を得ることができませんから、__CVCは投資に知見がないプロパー社員ばかりになりがち__です。その点、みやびベンチャーズはCVCですが、外部から新会社を設立することで、管理報酬や成功報酬なども柔軟に設計することができました。

やはり豊島の強みは年間1億枚の服を作っていることでしょう。そこにスタートアップのプロダクトを組み合わせるとさまざまなライフスタイルを提案することができます。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/7CHFOcRhTPYeHqVBwJahGx/86859d6e58463266af29ead235e75e2b/20211007___toyoshima_06.png" />

__豊島のような営業に強い専門商社がCVCとして成功する勝ちパターンはプロダクトが十分に完成したスタートアップに出資すること__だと思っています。シードのアイディアベースの段階だと、協業ストーリーが描けません。

他社を見ると投資委員会に本体の経営陣が入り、1ヶ月でデューデリジェンスから投資まで完了させるCVCも増えています。しかし、豊島とみやびベンチャーズではこの動きとは真逆で、経営陣以外の社員も多数参加し、じっくり3ヶ月かけて投資判断して協業実績を作る体制にしています。



### あえて時間をかけているんですね。具体的にどのような体制で運営し、出資に至るのでしょうか

 `溝口`
豊島では3段階のプロセスを経て、最終的にみやびベンチャーズから出資します。1段階目が未来会議、2段階目が投資委員会、3段階目が取締役会です。

1段階目の未来会議は新しいことをやろうと意欲を持っているメンバーや自らスタートアップに声をかけて動いているメンバーなど、入社数年目の若手社員と中堅社員が中心になっています。未来会議に入っていなくてもテーマに関心のあるメンバーは適宜会議に招いたりもしています。2段階目にある投資委員会は部長や執行役員から選出していますね。未来会議は8人で月に2回、投資委員会は7人で月に1回開催しています。

### 投資領域についてはどのように決定していますか

 `溝口`
豊島側で投資の大まかな方向性は決めています。不定期ではありますが、まずは豊島の取締役会で役員間の大きな方向性をすり合わせます。

それを元に私と営業企画室課長の和泉さん、井上さんの3人で、半年毎にアンゾフの成長マトリクスで4つの重点投資領域を決定します。本業のファッション衣料を軸にしてCVCをきっかけにどこの領域に進出するべきかが焦点となります。

その後、みやびベンチャーズが調査した案件に対して、投資に進むのか、先に協業に進むのかを未来会議で議論しながら、検討していきます。

 `井上`
会議体とは別に毎週、和泉さんとは話していますね。投資戦略や豊島に足りないピースについて議論しながら、投資先それぞれの事業構造を分解して、ポートフォリオを組むことを意識しています。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/3tU7dsBMlVH6LccDO71A1I/51f2bdd37e525d32865151d845dcdb20/20211007___toyoshima_02.png" />

### 未来会議と投資委員会のメンバーは固定しているのでしょうか？

 `溝口`
いえ、未来会議は半年、投資委員会は1年単位でメンバー構成を変更します。CVCを始めて3年が経ち、未来会議は約50人、投資委員会は約20人が参加しました。未来会議や投資委員会のメンバーは定期的に変わりますが、私と和泉さんの役割は変わりません。豊島のハブとして投資戦略や方針が変わらないようにしています。

 `井上`
大人数で3カ月かけて投資検討をすると、オフィスですれ違う時に「最近、あの会社からこういうニュースが出ていたね」とか、「新プロダクトがすごく面白そうですね」といった会話が自然に生まれるようになります。社内調整や理解を得るのは大変ですが、積極的に異業種と協業を進める豊島のカルチャーに合っていて、多くの人が関わりながら、活動しています。

未来会議に参加するメンバーが考えることはバリュエーションではなく、「自分だったらこうやってサービスを売るんだ」と具体的な実行アプローチです。プロダクトがあれば、さまざまな創造性が湧いてくるのであとは実行だけです。みやびベンチャーズが適切な案件を提案すると、未来会議のメンバーが入れ替わってもスタートアップと協業する文化を継続でき、協業を進められます。

 `豊島/和泉ちひろ氏（以下、和泉）`
以前はみやびベンチャーズが中心となり、ロングリストを作成していたのですが、最近では、社員からの提案が増えてきています。協業したい会社や、すでに協業をしていて資金調達が近いので出資の検討ができないか、と。

複数のスタートアップと協業してきたことで、協業に成功する段階や出資すべき企業の感覚がだんだん分かってきた段階ではないでしょうか。

みやびベンチャーズは豊島社内で活動しているので、最近では井上代表を豊島の社員と勘違いして新しい案件を相談しに行く社員もいますね（笑）。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/2adM0gLaIDqrR5jWr1gQx3/751bdfe5c40ffc39feb2477ad933767e/20211007___toyoshima_05__1_.png" />

## 豊島の強みに合わせた時間軸でハンズオンを超えた事業開発を狙う

### 昨今のスピーディなCVC投資と比較して、豊島が時間をかけている理由は何でしょうか

 `井上`
最近だと、CVCの投資ステージはどんどん早期化していますが、プロダクトやサービスが十分に完成していないシードステージでも投資することがあるのではないでしょうか。もちろん、__早期から手を出すべき分野がある場合もありますが、基本的に豊島にとってはそのような段階で投資、協業に動くことは向いていない__と考えています。

プロダクトやサービスが完成していて、これから拡販していく段階が一番の投資タイミングになります。なので、先に協業を進めて、実力を見極める場合や協業は進めるけれど出資はしない場合もあります。そのときに出資できるバリュエーションかどうかの判断はみやびベンチャーズに任せています。

 `和泉`
例えば、TENTIALの場合は協業が進むまで一旦出資を見送りました。

豊島がウェルネスウェアを製造し、TENTIALがそれをクラウドファンディングで売りましたが、購入総額は900万円を超えるなど、協業を1つ生み出すことができました。

![20211007 toyoshima 03](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/7dlwS0quaJcjBPbRImj03D/556e57c7ed17b6d950ef43197229b05f/20211007___toyoshima_03.png)

> 豊島とTENTIALが共同開発したウェルネスウェア「BAKUNE」（クラウドファンディングページ）

この協業でTENTIALのインターネットを中心としたマーケティング力、メディア運営力、ユーザーの熱量などの強さが見え、お互いの強み弱みがうまく補完できる会社であることがわかりました。

 `井上`
この協業の成果から、TENTIALには次のラウンドで出資することを決めていました。1年後になりましたが、TENTIALから一番最初に声をかけていただき、お互いに満を持してのタイミングで出資に至りました。

### スタートアップとの協業を始めるタイミングはどのように決めているのでしょうか

 `溝口`
豊島が協業を進めていく際は大きく3段階に分けています。

すぐに豊島がプロダクトの営業を始められるAチーム、まだまだ伴走して、バリューアップが必要なBチーム、豊島との協業を検討したものの上手くいかず、モニタリングだけのCチーム。このA〜Cチームの仕分けを和泉さんとみやびベンチャーズが中心になって、決めています。

一番大変なのはBチームの段階です。どうやって売れる状態にするのか、進捗を生み出すのか、豊島とスタートアップの両方に入り込んで、後押ししなければいけません。

 `和泉`
豊島とスタートアップの間にある温度差や考え方の違いを埋め合わせるため、どの段階でどの社員にアプローチしていくかは工夫しています。例えば、__スタートアップとの協業に興味を持ちそうな社員には早い段階からアプローチ__しています。

ただし、__社内全体に周知するときはスタートアップのプロダクトが拡販できる段階になるまで待ちます。__その段階になると、社内全体を巻き込むために説明会を開催したり、社内の展示会でスタートアップのプロダクトに興味を持ってもらえるようにアピールしたりしています。

## 投資先とスマートタウンを推進。ライフスタイル商社へ

### 2021年1月に豊島と投資先スタートアップの技術を活用したスマートタウン構想を発表していますね。

 `和泉`
福島県いわき市でファッション×テクノロジーで地域課題を解決するスマートタウン構想を進めています。いわき市では人口減少や成人の生活習慣病が課題になっており、それを解決できるヘルスケア企業などを求めていました。豊島はスマートウェアやIoTのスタートアップに投資していたので、投資先のプロダクトをパッケージにすることで課題解決につながるのではないかと思い、スマートタウン構想につながりました。

現時点では実験的な取り組みですが、今後本格的に進めていきたいと考えています。

![20211007 toyoshima 04](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/2HErI0VTYL1LaFToeBBTY6/c588ae5c3c3538644c87ec5de67ba817/20211007___toyoshima_04.png)

> 出所：福島県いわき市「着るスマートタウン“kurumi”構想」　（豊島提供）　

### スマートタウン構想への参加は投資先のスタートアップにとってどんな意味があると思いますか

 `和泉`
参加することで単純に売上が上がるだけでなく、そもそもの使い方を含め、エンドユーザー（最終ユーザー）から直接フィードバックをもらえる点はメリットだと感じているでしょう。

一方で、現時点では1つのサービスで全ての課題を解決することはできません。状況に応じて、スタートアップ同士が連携してどういうユーザーの課題を解決することができるのか。また、解決できないユーザーが求めている本質的価値は何かを考える機会となるのではないでしょうか。

 `溝口`
今、ファッション業界は過剰供給や1人あたりの衣類消費額がどんどん下がるなど、危機的な状況です。豊島も繊維商社からスマートウェアなどのテクノロジーを活用し、ヘルスケアを含むライフスタイルをファッションで提案する商社を目指していきます。

その実証実験の場として、自治体と連携し、豊島が本当に価値を提供できているのか見極める必要があります。__CVCも豊島1社の変化が目的ではなく、豊島の取引先の皆さんと一緒にファッション業界を盛り上げることが目的__です。我々が最前線に立って、市場とニーズの変化に対応しながら、市場を創り、ファッション業界の成功事例にならないといけません。

（取材・執筆：平川凌、編集：中村香央里、デザイン：浅野春美）

株式会社TENTIAL

ユニファ株式会社

ミツフジ株式会社

株式会社Xenoma

20211007 toyoshima cover

豊島株式会社

みやびベンチャーズ株式会社

アパレル

ヘルスケア

豊島、CVCの勝ちパターンを作る逆説的プロセス

## 「技術シーズを見つける」が目的

### アーリーステージのスタートアップに積極的に投資するなど、他のCVCとの違いが目立ちます。なぜ現在のような投資スタイルになったのでしょうか。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/7AKdQPH6DEyHWGu8prnWNY/aa3aa5c97c6a090e8cc40ff3654a30ad/20211005_JPOWER_v2_01.png" />

J-POWERの投資対象はディープテック（研究開発型）のスタートアップが中心となっています。技術シーズを見つけていきたいという事情があるため、必然的にシードアーリーへの投資が多くなっています。

そのため、協業に結びつけるまでの時間軸が必然的に長くなります。CVCや事業会社による出資でシリーズA以降のスタートアップを対象とするケースが一般的となっているのは、投資先の事業がある程度形になっているほうがすぐに協業できるからでしょう。逆に我々の場合、既存事業の周辺の領域ですぐに協業できるスタートアップについては基本的に出資をせずに、まずは業務提携で事業部との連携を進めます。

CVCは一見すると本業とは結びつきにくい、少し離れた領域を投資対象としています。その場合、J-POWERにとって新規参入になるためすぐには協業できません。そこでCVCが出資し、株主となって深いコミュニケーションを取りながら、協業のタイミングを見計らいます。__事業連携だけの場合と投資してから協業する場合とではコミュニケーション量と質が大幅に異なります。__

例えば、バイオ燃料製造のGreen Earth Instituteには2019年に出資しましたが、協業に向けて本格的に動き始めたのは2021年です。出資をすることでより深くスタートアップとつながり、中長期での事業連携、新規事業創出につなげる体制を整えています。

当初から経営陣にはディープテックが中心となるため、少なくとも最低5年は成果が出るまでは掛かる、ということはCVCの立ち上げ時に説明していました。

![20211005 JPOWER v5 04](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/1CJC7nvLW949UbdBBZ3boT/c21c650998172d7c5a0c541d0df3a158/20211005_JPOWER_v5_04.png)

>　Green Earth Instituteとの共同事業（オイルパーム廃木を活用したバイオマス燃料の製造）

## CVCでは異例の出資形態

### 一般的にCVCは普通株式や種類株式で投資しますが、J-POWERは積極的に転換社債型新株予約権付社債（CB）を用いています。その理由を教えてください。



シード・アーリーで出資する際は、事業化などが見通せていない場合が多く、バリュエーションの算定がしにくいという課題があります。こういったステージのスタートアップには、まずはCBで投資しておきます。プロダクトの販売先が見えてくるなど、バリュエーションが算定できるような段階になればVCなども投資に入ってきて、より精緻にできるようになります。その際に転換するかしないかを判断する、というスタイルの方が社内にも説明しやすいんです。CBを用いればバリュエーションなどに時間をかけず、VCと同じようなスピードで投資しやすいというメリットもあります。

こうした投資は、出資先（水処理装置の製造・開発のWOTAや建築テックのVUILD）に先行して投資を実施されていたMistletoe Japanを参考にしました。彼らは優れた技術を持っているスタートアップでも収益化段階に至るまではCBで出資し、一定のバリュエーションが算定できるようになった段階で株式に転換する手法を取っていました。それに習い、CBで出資できるようにしたことで、スピード感を持って出資することができました。

![20211005 JPOWER v5 05](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/6NYWZwbNCw3VruNubHaVeG/4286da3221405bf5d0e202f81f1f0e1b/20211005_JPOWER_v5_05.png)

>　J-POWERとの実証実験から実用化したWOTAの水処理プラント運用・監視システム「WOTA PLANT」

本業とは離れたところに出資するからこそ、長期的な協業のイメージなど意義を明確にして、出資後もそれがずれていないか継続してモニタリングしています。CBを用いてスムーズな投資判断ができることが他社と比較した際の強みとなっている面もあります。また、今のところは計画通りに普通株に転換できている投資先が多くなっています。

### CVCはいったん出資したらスタートアップとの関係が構築できるため、追加出資をするケースは珍しいとされています。J-POWERはWOTAに2019年、2020年と2回出資していますが、この狙いを教えてください。

WOTAとは具体的な協業に辿り着くまでは時間がかかると考え、まずは関係構築をスタートする狙いで出資しました。その後、株主としてコミュニケーションを取る中で、共同開発して製品化できる可能性が出てきたので、そのための資金として追加出資したのです。出資をするストーリー、資金使途、事業の進捗があれば、スムーズに追加出資ができるプロセスにしています。

スタートアップ側からもこうした柔軟かつ、スピーディーな出資プロセスは評価されることが多いです。協業する上でも、国内に100カ所ほどプラントを持っていることや、海外でも事業展開していることが強みとなっています。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/4DffTYbR9BTNWE3vDeG1jQ/48df69da49fb57f16b0bfc03b7259b8d/20211005_JPOWER_v2_02.png" />

### 少し離れた領域で投資して協業がスタートするまではどのような流れを経ていくのでしょうか。

例えば、宇宙飛行士が宇宙船内・外で行う作業を代替するロボットを開発するGITAIのケースを紹介しましょう。先日打ち上げられたSpaceX社に同社のロボットが搭載され、国際宇宙ステーション（ISS）に到着して、これから技術実証を行います。

GITAIは継続的に開発資金を得るために、世界各国が絶えず巨額の投資をしている宇宙を対象に絞ってロボットを開発しています。宇宙飛行士が国際宇宙ステーション（ISS）で1年間活動するために400億円の費用がかかりますが、GITAIのロボットを使えば数億円の投資で済みます。この効率化に繋がる点が評価を受け、すでに作業ロボットの受注をして収益が上がっています。

今後、ロボットの単価が下がれば地球でも使えるようになります。宇宙船外は寒暖差が激しい上、放射線量も高いなど非常に過酷な環境ですので、そこで動くロボットを実現できると、あらゆる場所で使えるようになるでしょう。宇宙向けの作業ロボットを開発していると聞くと、J-POWERとの協業ストーリーはなかなか想像できないでしょうが、ここで繋がるわけです。

J-POWERの発電プラントの炉内は1000℃を超える高温なので、停止してから3日ほどを経て、ようやく人間が作業できる環境になります。それがプラントを冷やすことなく1日でロボットが作業できるようになると工期が短縮でき、億単位の収益改善につながります。

GITAIのロボットでそれが実現できるまではかなり時間がかかりますが、事業シナジーとしてはその段階を目指しています。現在は両社のエンジニアがプラントの保守管理に使えるようにするためにどう改良していくべきかを議論しています。そこで「どれくらいの価格が実現できればコスト削減効果から考えて価値があるのか」など実用化に向けた具体的な話ができるわけです。地球でのロボット実用化には時間がかかるため、事業会社が入るメリットをGITAIにも感じてもらえているのではないでしょうか。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/6zTJ0XaUz9cGsQ1U3RkvYv/2c1920c563f763d39358e459a68d0b60/20211005_JPOWER_v2_03.png" />

投資テーマについては「分散化」、「デジタル化」、「脱炭素化」を掲げていますが、3年前は脱炭素事業に取り組むスタートアップが国内になかったため、カナダのVC・Chrysalix Venture Capital（以下、Chrysalix）にLP出資しました。

Chrysalixはカナダだけでなく、オランダにも拠点があり、エネルギーを含めたディープテック領域で産業革新を目指すスタートアップに投資をしていてグローバルの情報が入ってきます。Chrysalixに紹介された海外スタートアップへは出資には至っていませんが、複数社との事業連携にもつながっています。

## 協業につなげる秘訣。実証実験（PoC）まで伴走

### 株主として深いコミュニケーションを取りながら協業につなげるケースと、事業連携だけですぐにスタートするケース、両者ではCVCとしての関わり方に違いはあるのでしょうか。

投資先との協業だけでなく、単なる事業連携だけの場合でも、CVCが実証実験（PoC）まで伴走するケースがほとんどです。スタートアップと事業会社のスピード感やコミュニケーションの差異から、事業部だけに任せていると協業がスタートしたとしても上手くいかない場合が多いからです。全ての打ち合わせに同席し、実証実験まで伴走することで、当初掲げた協業ストーリーの実現に近づくと思っています。

CVCを始めた当時、社内では「スタートアップって何？」という状況でした。出資のプレスリリースを出すときも「『スタートアップ』という単語だと意味がよく分からないから日本語で書いてほしい」と言われたりしたぐらいです（笑）。

そんな状況下で、スタートアップとの協業話を事業部に持っていってもすぐにスタートすることはできません。そこで、社内で新しいことに積極的に取り組んでいきたいと思っていそうな人に対して、「こういう技術ってどう思う、教えて欲しい」という風にコミュニケーションを取るようにしました。

「これを検討してください」といきなり持っていくよりも入り口のハードルが下がり、そこで関心を示してもらうことで次のステップに進みやすくなります。そうすると、「この技術面白いね。使えるかもしれない」と言ってもらえ、スタートアップとの実証実験が始まったりします。そこまでたどり着くと今度は別の部署でも「過去にスタートアップとこんなことをしました」と事例を話すことができるので、前向きに話を検討してもらいやすくなります。

## ClimateTech（気候テック）はブームから事業化、収益化の段階へ

### J-POWERが投資テーマの1つに抱えている「脱炭素」技術やClimateTechが注目を集めています。今後も投資マネーが集まる領域になっていくのでしょうか。

政府が総額2兆円の脱炭素基金を始めたことを皮切りに、海外の流れから2〜3年遅れる形で日本でも動きが出てきました。ClimateTech特化のファンドを立ち上げるVCも増えてきているようです。

2000年代初頭にも環境に配慮したクリーンテック事業に注目が集まりましたが、今回は世の中全体の考え方が大きく変わっていることがポイントです。海外では従業員が自分の会社に対して地球環境保護に対応するよう求め、それをきっかけにClimateTech関連のCVC設立まで至ったケースもあるほどです。

![20211005 JPOWER v5 06](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/4VAUHhPPQwYnUONYKzbOTe/78b14f24756db07572c165ba8bfa1a17/20211005_JPOWER_v5_06.jpg)

J-POWERがCVCを始めたときは、国内にClimateTechや脱炭素の技術を有するスタートアップがほとんどなく、海外VC経由での情報収集をしていました。当初は海外でも「ClimateTechは儲からないからVCとしては魅力がないんだ」と言われていましたが、今では「技術が実証できるようになったことでビジネスになるのではないか」と本格的な投資対象として考えられています。

例えば、スイスにClimeworksという大気から二酸化炭素を回収する、「Direct Air Capture（DAC）」技術を有するスタートアップがあります。その回収量は微々たるものですが、従来よりも低コストで簡単に設置することができると言われています。

J-POWERもプラントの中で二酸化炭素を分離して、大気中に大量の二酸化炭素を出す前に回収する技術を持っています。こちらの方がエネルギー効率は良いものの、設備の規模が大きく、大金がかかります。コストが下がってくれば、太陽光発電などの小規模プラントには小回りの効くDACが用いられる可能性が出てくるかもしれません。

日本の大学にも首都圏から地方まで優れた技術は眠っています。政府や大学VCが中心となって、研究段階で終わらず、社会実装、事業化に向けて支援できるかではないでしょうか。

## 組織は拡大せず、スモールチームで実績にコミット

### CVCをスタートしてから間もなく3年が経ちます。今後の目標について教えてください

脱炭素やClimateTechなど、技術の社会実装という観点では海外が先行しています。なので、海外ではプロジェクトベースでスタートアップと協業することを中心に考えています。国内では投資先と協業実績を作りながら、スタートアップが海外で挑戦できるようにすることが目標です。

他社から「うまくやっているね」と言われることが多いですが、今後は新しい事業領域として収益源を生み出す取り組みを進めないといけないと思っています。すでに投資先との協業に加え、投資はしないものの、協業につながったケースは国内では10件を超えています。今後は協業から収益を生み出し、J-POWERとスタートアップの成長拡大につなげないといけません。

2000年代前半、当社も含め多くの日本企業が新事業創出に取り組みましたが、成果を得られなかったのではないでしょうか。その反省も踏まえて、すぐに大きな組織を立ち上げ取り組むのではなく、まずは現在のCVCメンバー3名で実績を作ることに注力していきたいと思っています。

（取材・執筆：平川凌、編集：濵田尚子、デザイン：山浦隆史）

WOTA株式会社

Green Earth Institute株式会社

株式会社Scalar

20211005 JPOWER v3 OGP

電源開発株式会社

CleanTech

エネルギー

ロボット

後発のJ-POWERだから構築できた異例のスタイル

2021～2022年は、東南アジアでユニコーンやデカコーン（企業価値100億ドル以上の未上場企業）の上場が相次ぐ見通しだ。

インドネシアのEC大手、Bukalapakが2021年8月6日にインドネシア証券取引所に上場したほか、配車サービスから始まってスーパーアプリ化したGrabもSPACとの合併を通じて米国上場を目指す。Grabの競合であるインドネシアのデカコーン、GojekがTokopediaと経営統合して生まれたGoToGroupも米国とインドネシアで上場を計画している。その他にも、東南アジアのスタートアップ市場を牽引してきたユニコーンが続々と上場を果たそうとしている。

「ポストGrab」としてこれまで中心となってきたコンシューマーテックだけでなく、東南アジアではBtoBのデジタル化を進める有望なスタートップも徐々に育ってきた。一方、上場で得た資金をもとに、ユニコーン卒業組たちは今後、積極的にM＆Aを仕掛けると見られる。日本企業も徐々に投資を積極化しているものの、今後、東南アジアの有望なスタートアップと関係を構築し、イノベーションにつなげていくのは容易ではない。

日本企業は東南アジアのスタートアップとどう向き合うべきなのか。シンガポールで東南アジアのスタートアップへの投資や日本企業とのシナジー創出に関わってきたKK Fundのジェネラルパートナー斉藤晃一氏、ICMGシンガポール ディレクター/ICMG本社 執行役員 辻悠佑氏、Krollシンガポールのシニアバイスプレジデント、川端 隆史氏に聞いた。

## 投資の競争は激化

### Grabに三菱UFJ銀行やソフトバンクグループ傘下のビジョンファンド、トヨタ自動車が出資するなど、この10年で日本企業も東南アジアのスタートアップへの投資を本格化させてきました。今後、東南アジアでスタートアップとの協業し、多国展開していくためには、何が必要となるのでしょう。

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`Krollシンガポールのシニアバイスプレジデント、川端 隆史氏（以下、川端）`　人材の登用の仕方は変えていく必要があります。東南アジアで多国展開に成功しているスタートアップはそれぞれの進出国で経営陣を採用しています。もしくは、初期だけ人を派遣し、陣頭指揮を取りながら現地採用をしていきます。一方で、日本企業は本社から人を派遣する傾向にあります。日本企業の方式と東南アジアのスタートアップの間には、カルチャーギャップがあり、そのことを理解する必要があります。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4kbMD4Qs5NZ0qpdmly59ZY/a3cbf3f980361cb9220fda92efc122b9/20210616_________________04.png" />

`KK Fund　ジェネラルパートナー斉藤晃一氏（以下、斉藤氏）`東南アジアでは、多国展開する際に、その地域に合わせてプロダクトを1から作り直すことはほとんどないですが、営業の仕方や言語化、UIやUX、ブランドを変えることはあります。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/1lXVt17Gj5lsiHeuknYW81/2db7e618d8c868876d05d63b53c0009a/20210616_________________01.png" />

`ICMGシンガポール ディレクター 辻悠佑氏（以下、辻）`　日本の経営者やイノベーション担当者と話をすると、そもそも東南アジアは各国の状況が違うのに多国展開できるのか、と疑念を抱き、スタートアップとの協業に進めていないというケースも多く存在します。ですが、実際には、変えるべきことと変えないこと、ローカライズすべきこととしないことをしっかりと見極めて多国展開できているスタートアップは少なくありません。

`川端`　フィロソフィーに沿ってどこは変えていいのか、経営者とよく話しをして目線を合わせていくことが必要ですね。加えて、東南アジアとひとくくりにできず、国によってスタートアップが置かれている環境が違う点には注意が必要でしょう。例えば、スタートアップを支えるメインプレイヤーは大きく異なります。

`斉藤`　シンガポール、マレーシアはエコシステムの育成に政府が積極的に関わっています。特にシンガポールはエンジェル税制の導入に加え、アーリーステージのスタートアップを支援する仕組みやディープテック専用のVC、Vertex Holdingsのようなグロースステージ用のVCまで整備しています。

一方で、インドネシアは企業の貢献度が大きくなっています。CVCが多い上、エムテックがBukalapakに出資するなど、財閥による出資が目立ちます。タイもスタートアップに好意的で、実際、出資を通じて売上を大きく拡大する例も多く見られます。

VCからの調達はシンガポールとインドネシアが良好で、ゆえにバリュエーションも高くなっています。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/1xH1IEDJTDYZwxazO6nkMk/af384890ff7c1bd0cac890a1e2aac411/20210616_________________06.png" />

## レーター投資では存在感を発揮しにくい日本企業



### タイやインドネシアは大企業による出資や協業が進んでいる上、中国も東南アジアに積極投資しています。そんな中で、日本企業はどのような投資を心掛けるべきでしょうか。

`斉藤`　中国は自国の市場が大きいので年間の売上高が100億円あるようなスタートアップに絞っていますが、その分1000億規模で出資します。そうすることで支配権を得られるし、M&Aもできます。

一方、日本企業がレーターステージのスタートアップに数百億を投資しても、思ったように連携をできていないケースがほとんどです。レーターでの百億単位の調達は、スタートアップにとっては微々たるもので、それだけで関係を構築するのは難しいからです。

同じ金額を投じるのであれば、もう少しアーリーステージの企業に分散した方がいいと感じています。そうすればもっと強いパートナーシップを組めるようになるでしょう。「投資で絶対に失敗してはいけない」というマインドも変えていく必要があります。

タイやインドネシアの大企業はこうしたアーリーステージに積極的に投資しています。彼らのCVCはちゃんとファイナンシャルリターンを確保しつつ、事業と繋げるような仕組みがきちんとできています。また、VCにも出資し、うまく情報を集めています。

`川端`　タイのCVCや財閥が存在感を増していけば、「日本企業」というだけでは優位性が発揮できなくなるリスクがあり、スタートアップと「何が出来るのか」、「何を一緒に作り上げたいのか」ということが、ますます大切になるでしょう。

`辻`　　日本企業のプレゼンスについては本当に懸念しています。その根本には「ローカルのナレッジとネットワークをいかに最速で獲得するか」という世界でイノベーションを起こす際に直面する共通の課題があるでしょう。
日本人が海外赴任してから1〜2年はまさに手探り状態であり試行錯誤します。その後、知識やネットワークが増えてイノベーション活動に本腰が入るタイミングで日本に帰任になってしまう。そして、新たな赴任者がきて、同じ悩みや苦労に直面する。
これが海外のイノベーション活動の実態ですが、これを変えなければ日本企業のプレゼンスは上がらないのではないのではないでしょうか。こうした課題を解決するために、日本のイノベーションの社会インフラを創り出すJSIPというコミュニティが立ち上がろうとしています。シリコンバレーではインド人の専用のコミュニティがあり、スタートアップ投資や戦略提携、POCの失敗や成功を後続に伝えていると言います。JSIPも、シンガポールを含むアジアにおける日本人のイノベーション活動を強力に支えるプラットフォームになっていく可能性を秘めています。

### 日本企業と現地スタートアップとの協業で成功事例はありますか。

`斉藤`　弊社のLPですが、オンライン広告を手掛ける電通とNTTドコモのジョイントベンチャーであるD2Cは、インフルエンサーマーケティングのgushcloudというスタートアップに出資しました。D2Cの広告主が東南アジアで事業展開をする際に利用したり、gushcloudの広告をD2Cが日本で広げていきます。

その他に、吉本興業もアジアの動画配信大手iflixに出資しています。東南アジア向けコンテンツを一緒に作るのが目的で吉本の強みを生かせると見ています。こうした協業事例が少しずつ出てきています。

`川端`　東南アジアで事業展開する際に、欠けたピースが何なのかを理解し、その分野で一気に伸びているスタートアップに出資して力を借りる、という姿勢が大事ですね。

![20210616 アジア企画 12](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/1nPHHdkMlc9CgZwjoMryKl/8f6e872c769fceb5316522252f0a7d97/20210616_________________12.jpg)

>Asia Images / Shutterstock.com

`辻`　　日本企業もシンガポールに独立したチームを作り始めています。特に、ここ2〜3年は日本政府・自治体・企業がイノベーションプログラムや専任組織が立ち上げたり、より一層強化したり、ということが顕著です。
例えば、愛知県はシンガポール国立大学との連携をベースとして「あいちスマートサステナブルシティ共創チャレンジ」という大型プログラムを立ち上げました。東京電力や東洋製罐グループも権限移譲された組織をシンガポールに創り、共創型イノベーションを進めながら、スタートアップへの投資をしています。
大企業で勤める人に「失敗を恐れるな」と言っても無理な話で、イノベーションの経営基盤・組織基盤として社長直轄で失敗していい組織を作り、人事制度も含めて抜本的に構造を変える覚悟が必要だと思います。

## 東南アジア独特の注意ポイント
### 東南アジアのスタートアップに投資する際、特に重視する点を教えてください。

`斉藤`　経営陣とビジネスモデルの２つを特に重視します。このうち、経営陣ではまず、バックグラウンドに加えて、どれくらい経営陣がコミットするのかを見ます。複数の事業に関わっているのか、自分の資金をいくら投じたかは必ず聞きます。

加えてストーリーテラーかどうかも見ます。なかなか売上がたたない中で次に資金調達する際にビジョンを語れるのかは重要です。また、複数ファウンダーの方が評価は高くなります。

東南アジアで独特な視点といえば家族のバックグラウンドです。関連する業界でファミリービジネスをやっていればその業界知識、業界構造をよくわかっているので、事業を立ち上げた初日から強みを生かせます。良い家族の出だと英才教育受けているという面もあります。

`川端`　私がいまの仕事で手がけているリスクコンサルティングの視点から重要だと思うことは、スタートアップ経営者やキーパーソンについて、単に会った印象や報道情報だけでなく、人的なネットワークで風評を収集、分析して判断することです。創業間もないスタートアップにはトラックレコードが殆どない、あってもせいぜい数年程度です。
だとすれば、重要になるのは経営者やキーパーソンがどのような人物か、誠実にビジネスを行える人物かという点です。また時には、財力のある家族や親族が融資したり、投資をしたりしていることもあります。そのこと自体は悪いことではありませんが、公開情報では見えにくいステークホルダーを見極めることも大切です。
実際に私も、とあるクライアントからの依頼で調査を行い、報道では見えてこない情報がずいぶんと出てきたことがあります。
また、スタートアップの事業分野は、政府による規制がまだはっきりとしていないことが少なくありません。当局の規制動向も見極めていく必要もあります。

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### 今後、日本企業の活躍が期待される分野はどこでしょうか。

`辻`　SDGsという文脈でも、シンガポールやインドネシアを含む東南アジアを戦略的に活用していくということもできるのではと思います。なかなか日本からは見えにくいのですが、社会課題にあふれている東南アジアではコラボレーションできる機会が多くあります。日本とアジアの強みを活かすコラボレーションが期待できます。

`斉藤`　訪問介護やホスピスなどの分野に期待しています。高齢化大国の日本がどこよりも先に蓄積したノウハウを、訪問介護のコミュニケーションをデジタル化するなどの形で生かしてもらいたいと思います。

`川端`　日本企業の仕組みをそのまま持ってくるというのではなく、デジタルな部分は東南アジアのスタートアップの技術を使う、というのがおもしろいですね。シンガポールやマレーシアで成功した事例を日本に戻す、という形もあるでしょう。

東南アジアでは、日本とは異なり、各業界の規制や制度ががっちり整っていないことがよくあります。それであるが故に、新たなチャレンジも生まれ、その成果を日本の変革に生かすという発想もあるのではないでしょうか。

（文、編集：濵田尚子、取材協力：川端 隆史、デザイン：石丸恵理）

20210616 アジア企画 cover 後編

転機の東南アジア、日本企業の勝機を探る

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血糖モニタリングデバイスを開発するProvigateはシリーズBで9.1億円の調達を発表した。リード投資家はスパークス・グループで既存投資家のCoral Capital、ANRIも追加出資した。

Provigateが開発するデバイスは低コストな上に身体に負担が少なく（低侵襲）、簡単に使えるだけでなく、リアルタイムで体調を管理することができるとして糖尿病の発症・重症化を防ぐ効果が期待される。

今回、スパークス・グループ（以下、スパークス）は運用ファンドの投資領域にProvigate社が入らないためLPの許可を得て自己勘定で投資し、代表取締役副社長の深見正敏氏がProvigateの社外取締役に就任する。スパークスが未上場企業に上記の対応をするのは初めてで、Provigateへの高い期待が窺える。

__ニュースの注目ポイント：起死回生のピボットを乗り越え、世界トップ企業を目指す__

糖尿病の発症や重症化を防ぐためには血糖値をモニタリングしながら生活習慣を管理することが求められる。現在、このモニタリングでは指先に針を刺し、グリコヘモグロビン（HbA1c）の値を測定する手法が一般的。ただ、グリコヘモグロビンの場合、月に1回程度の通院時しか測定できず、しかも1～2ヶ月前の自身の生活習慣の結果が反映されるに過ぎない。そのため、モチベーションが湧かずに食生活のコントロールなどを厳格にすることが難しかった。

一方、Provigateは涙や唾液などを採取して、グリコアルブミン（GA）の値を測定する血糖モニタリングデバイスを開発する。グリコアルブミンは__直近1~2週間の平均値を反映__するため、食生活や運動量などによる影響がわかりやすい。自身の身体の状態を適宜把握することで、「足元で血糖値が上がっているから明日の食事はヘルシーにする」などと、こまめに生活スタイルを管理できる。

__思い切ったピボットをするが、調達に苦戦__

ただ、Provigateも創業当時からグリコアルブミンに着目していたわけではない。同社は2015年に東京大学大学院・坂田利弥准教授の技術を元に設立され、当時は涙に含まれるグルコースから血糖値を測定する技術を開発していた。同時期にGoogleもグルコースから血糖値を測定するスマートコンタクトレンズを開発するなど、世界的にも注目を集める技術であった。

しかしグルコースは血糖値の測定では思ったような精度が出せなかった。そこでProvigateはわずか3年でピボットを選択する。

Provigateの関水康伸CEOは当時について「2015年夏から涙、唾液、血液に含まれる成分（グリコアルブミン）に目をつけました。涙液のグルコースで血糖値を推定する技術は非常に難しく、2018年1月から完全にグリコアルブミンに絞りました」と振り返る。

2018年11月にはGoogleも涙液のグルコースから正確な血糖値を測定するのは難しいと判断し、完全撤退をしている。

ピボット直後からProvigateはシリーズAの資金調達に動いたものの、苦戦を強いられた。一般的に開発期間が長いディープテックによるピボットは既存投資家から理解を得られにくい。同社も2020年2月のシリーズAでは、既存投資家から追加出資を受けられず、2019年6月から1/3以上の大幅ダウンラウンドで調達した（INITIAL調べ）。

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2020年になんとか調達にこぎつけたProvigateは1年をかけてグルコアルブミン測定のデバイスの開発を進めてきた。とはいえ、1990年代以降、バイオセンサー（生体分析装置）の領域では次世代シークエンサーと持続グルコースモニタリング（CGM）を除けば海外でも新たな検査手法や技術はほとんど生まれていない。そんな中、なぜProvigateは血糖モニタリングの研究開発を順調に進めることができたのか。そのキーパーソンと言えるのがCTOの伊藤成史氏だ。

バイオセンサーのエンジニアは世界でも数少ないため、関水氏は関連する論文や特許情報を読み込み、エンジニアの採用候補者を絞り込んでいった。その過程で1980-90年代にNECがグルコースの特許を複数出願しており、その後メンバーの大半がタニタで尿糖計を開発していたことを知る。そこで、中心メンバーの1人だった伊藤氏に白羽の矢を立てた。関水氏は「医療機器では開発から量産、拡販まで経験した人材が数少ない。そうした経験を持つ伊藤がジョインしたことがきっかけで他のメンバーの採用も進み、ピボット直後から順調に研究開発ができました」と振り返る。

関水CEOは今後の事業展開について大きく3段階で考える。

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現在は臨床研究でデータを蓄積しているが、関水氏は「大きな壁は、上市後の臨床研究のデータをもとに診療ガイドラインで記載される段階」と語る。日本では上市してからガイドラインの記載までは10年ほどかかると言われているが、標準治療の1つとして認められない限り大きな普及は期待できない。この壁をどう乗り越えるかがポイントになるだろう。

糖尿病患者の数は世界で約5億人にもなる。予備群で血糖管理を必要とする人はさらに多い。日本での上市だけでも道のりは長いものの、Provigateは既に米国進出についても視野に入れており、投資家の期待も大きい。

自身も医師であるスパークスの櫻庭茂樹氏は「自らの患者にもProvigateのデバイスを使って欲しいと思ったので今回の投資に至りました」と同社の技術にほれ込む。

今後の展開にも「日本と同時並行で米国市場への進出が不可欠です。米国進出ではProvigateの社外取締役で米国バイオ上場企業のCFOを務めるなど、40年間に渡り、米国のバイオ業界で活動している金子恭規氏がキーパーソンになるでしょう。米国ではユーザーの重症化を防ぎたい保険会社と共同で事業展開していくことも考えられます」と期待を寄せる。

Provigateが狙う領域のTAM（獲得可能な最大市場規模）は間違いなく大きい。苦難の時を経て有望な人材を獲得できたProvigateは臨床研究を積み重ねて精度の向上をしながら、日米で収益化を達成できるのか。日本発のディープテックが特に苦手にしてきたビジネスモデルの構築という難題に挑む。



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オンライン営業システムを提供するベルフェイスはシリーズDで約30億円を調達したと発表した。既存投資家のインキュベイトファンド、SMBCベンチャーキャピタルに加え、新たにシンガポールのAxiom Asia Private Capital、三井住友トラスト・インベストメント、第一生命保険などが出資した。ベルフェイスによると、累計調達額は85.5億円となっている。

ベルフェイスはブラウザ上で資料や画面共有しながらオンラインで営業するためのシステム「bellFace（ベルフェイス）」を提供しており、これまで3000社以上が導入している。ベルフェイスの場合、接続ナンバーを発行し、電話口でナンバーを伝えるだけで、すぐに商談を開始できる。アプリをインストールしたり、商談ごとにURLを発行したりするプロセスが不要で、ITリテラシーが高くない人でも簡単に使うことができる。

当初、新型コロナウイルスの感染拡大は対面営業から、リモートワークに移行により、同社にとって追い風となった。ただ、2020年下期からは一転、予想もしない形で窮地に追い込まれる。逆風の中でも同社は新たな勝ち筋を見つけて調達にこぎつけた。

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>　オンライン営業システム「bellFace」（ベルフェイスプレスキット）

__ニュースのポイント：追い風から一転、逆境に追い込まれて見えた本質的価値__

ベルフェイスはインサイドセールス（内勤営業）向けのサービスとして、急成長を遂げていた。2020年2月には、シリーズCで融資を含め、52億円を調達（参考：[ベルフェイス、52億円大型調達の裏側](https://initial.inc/articles/bellface-funding)）。その直後に新型コロナウイルスの感染が拡大し、対面での営業ができなくなったことをサービス拡大のチャンスと捉えた同社は一気に投資を拡大した。

目論見通り、2020年上半期の新規MRR（月次経常収益）は過去最高を更新する。しかし、その後ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetなど、ビデオ会議ツールを使うこと自体が一般化し、営業に特化したベルフェイスの優位性が失われ、苦境に立たされた。

代表取締役CEOの中島 一明氏は、「突如、追い風が吹き、上半期は新規顧客の獲得が止まらないくらい成長したので、一気に事業拡大を狙いました。しかし、下半期には市況の変化やマネジメント人材の不足によるトップダウン経営で組織課題が露出するなど厳しい状況に直面しました」と振り返る。

2020年の上半期に獲得した顧客が同年の下半期にはサービスの利用率が低下したり、解約したりするケースが相次いだ。その中で著しくサービスの導入、利用が加速していた業界があるという。

「法人営業ツールとして利用していた顧客が他社のビデオ会議ツールに切り替えるケースが増える中でも、金融機関のリテール業務（個人向け営業）は導入や利用が加速していました。金融機関はセキュリティが厳しく、ビデオ会議ツールの活用が難しいからです。また、金融機関の個人顧客は高齢者や地方在住であり、ITツールの導入も進んでいません。ベルフェイスのセキュリティが強固である点やIT初心者にも使いやすい点が評価され、数千、数万ID単位で導入する金融機関も複数あります」（中島CEO)

苦境に立たされる中で法人向け営業ツールから金融機関の個人向け営業ツールへとピボットして、新たな勝ち筋を見つけたベルフェイス。今回の資金調達は額こそ、前回のシリーズCよりも少ないものの、想定よりも順調に進んだという。評価額は非公表ではあるものの、「シリーズCの調達後評価額よりは高い」と言う（中島CEO）。

投資家について、中島CEOは「当初は20億円の調達を考えていましたが、既存投資家のインキュベイトファンドとSMBCベンチャーキャピタルだけで目標額がほぼ集まったので、最終的に30億円を調達しました。新規投資家のAxiom Asia Private CapitalはシンガポールのPEで上海と台湾にも拠点を構えます。今後のアジア進出も視野に入れながら、事業拡大していきます」と説明する。

マネジメント人材の不足に加え、市場環境の変化に迅速な対応ができなかったことから、ベルフェイスは1年かけてマネジメント人材の採用に加え、エンジニア組織の構築を進めてきた。2020年12月にディー・エヌ・エーで開発責任者などを務めた山口徹氏がCTOに就任したこともあり、2020年4月に全体の23%だったエンジニア比率は2021年9月には36%を占めるまで拡大した。

今後は、こうして強化した開発力を生かし、ベルフェイス上で商談から契約までを一気通貫で完了させられるプラットフォームを開発する予定だ。機能面で顧客の満足度を高め、ビデオ通話プラットフォームなど他社と比較した優位性をいかに高めて金融機関のリテール営業のスタンダードになることを狙う。

（文：平川凌、編集：濵田尚子、デザイン：浅野春美）

株式会社PROVIGATE

ベルフェイス株式会社

20210928 Briefing cover-01

スパークス・グループ株式会社

ハードウェア

医療機器

ディープテック・Provigate、起死回生のピボットで世界へ

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スキマバイトサービスのタイミーは金融機関からの借入13億円を含め、53億円を調達した。リード投資家は香港のKeyrock Capital Managementで同じく香港のKadensa CapitalとSeiga Asset Managementに加え、THE FUND、伊藤忠商事、KDDI Open Innovation Fundが出資した。

香港の機関投資家であるKeyrock Capital Management、Kadensa Capital、Seiga Asset Managementは今回初めて日本の未上場企業に投資した。3社とも以前から日本の上場企業には投資をしているが、5年〜10年の時間軸でタイミーに伴走する。海外投資家が日本初投資で大型のラウンドのリード投資家を務めるのは珍しい。SmartHRに投資した米Light Street Capitalの場合、シリーズCで同社に投資したのち、シリーズDでリード投資家となっている。

今回の調達を主導したのは2021年2月にCFOに就任した八木智昭氏。コロナ禍で大打撃を受けた事業を立て直しながらわずか半年でこの異例尽くしの調達にこぎつけた。その舞台裏を追う。

__ニュースの注目ポイント：海外機関投資家の景色と日本初投資を呼び込んだタイミーの魅力__

タイミーはすぐに働きたい人と人手が欲しい事業者のマッチングサービスを東京・大阪・愛知・福岡・広島・宮城・北海道を中心に展開する。働き手は案件を選び、面接なしですぐに働き、即日で給与を受け取ることができる。数多あるバイトサービスの中でも働き手向けのサービス設計であることが特徴だ。2021年8月時点では、200万人のユーザーが利用、44,000の店舗が導入しており、スキマバイトサービスでは導入件数No.1だという。

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> タイミーのコーポレートサイト

タイミーは2017年に設立され、わずか2年で20億円超を調達するなど、順調な滑り出しであった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大により同社の求人案件の6割以上を占める飲食業が大打撃を受けたことでタイミーも厳しい状況に直面した。そこでタイミーは物流大手のプロロジスをはじめとする幅広い業種の株主から支援を受け、求人案件のポートフォリオを大幅に転換した。2019年10月には飲食が65%だったが、2020年10月には軽作業（物流）、配達・運転、販売が全体の88%を占め、過去最高売上の更新に至った。

タイミーの八木CFOは「2020年末にようやく事業基盤が整いました」と振り返る。2021年2月にCFOに就任した直後から八木CFOは__「株主数、株主の希薄化を抑え、IPO後を見据えて海外機関投資家からの調達」__を目標に掲げ、3月から早速、資金調達に動いた。

「ポートフォリオ転換直後で先が見えない中、想定よりも資金調達が上手く言った」と語る八木CFOは、毎月1回以上、証券会社が開催する上場企業と機関投資家向けのカンファレンスに参加し、機関投資家にアプローチした。「未上場のスタートアップではそもそも参加することすら難しいですが、前職（三菱UFJモルガンスタンレー証券）でのつながりも幸いして、海外機関投資家と関係構築することができました」と振り返る。

八木CFOは多くの投資家にアプローチすると同時に投資家間での競争環境を作った。「まずは出資してもらえる投資家を全て集め、そこから10社超に出資意欲を示してもらい、約120億円が集まる状況になりました。国内投資家はIPO時の売却を想定していますが、機関投資家の場合はIPO後も保有することが前提なので、バリュエーションを上げながらも適正な水準になったと思っています」（八木CFO）

こうした交渉を通じてリード投資家となったKeyrock Capital Management（以下、Keyorock）の創業者兼最高投資責任者のJonathan Shih氏は初めて日本の未上場スタートアップへ出資するにあたり、以下の3つに注目した。

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「日本の上場企業にも投資をする中で、新たな起業家世代が生まれ、急速に成長していることを感じました。それらの起業家は新たな市場を作り、高成長をしている一方で外部資本を必要としていることに気づきました。日本の労働市場が多くの問題を抱える現状においてタイミーが提供するサービスは社会全体に大きなメリットをもたらす本質的価値を提供していると考えています。Keyrockは海外市場や海外スタートアップにおける投資経験も有するので、海外市場の情報提供や分析でタイミーの成長に貢献できるでしょう」（Jonathan Shih氏）

八木CFOもKeyrockが抱える海外市場の情報や分析力は強い味方になると話す。「米InstaworkやWonolo、スペインのJobandtalentなど、我々ではカバーしきれない海外類似スタートアップの戦略や動向について共有してもらっています。それをもとに『5年、10年先を見据え、どういう戦略を打つべきか』を議論しています」

Keyrockは社会課題の解決に焦点をあて、5年を超える時間軸で自社のリソースを使いながら、企業の長期成長を促進する。機関投資家ながら、アーリーステージに投資するVCやPEのように伴走しようとしている点は興味深い。

タイミーは2020年末以降、新規事業のフードデリバリ―やワークシェアサービスを終了し、現在はスキマバイトの「タイミー」だけに集中している。特に2021年からは「タイミー」の地方案件を増やすべく、支社の設立や各社との連携が進む。調達資金でユーザーと導入企業の獲得に加え、IPOができる組織体制の構築を目指す。ポートフォリオの転換は奏功したが、IPOに向けては足元の高成長率を維持できるかどうかが鍵を握りそうだ。



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カスタマーサクセスプラットフォーム運営のコミューンはシリーズBで19.3億円の調達を発表し、総調達額は24.3億円となった。既存投資家のDNX Ventures、UB Venturesに加え、新たにZ Venture Capitalとジャフコ グループが出資した。コミューンによると、調達後評価額は約100億円だ。

コミューンは各企業がオンライン上で既存顧客とのユーザーコミュニティを構築・運用できる「commmune」を運営するSaaS企業だ。導入企業は独自のポータルサイトを作成し、既存のメール、Q&A、イベントページでの問い合わせなどを集約し、顧客と双方向のコミュニケーションを取ることができる。そこで蓄積したデータを分析し、サービス導入企業が既存顧客に対して個別最適なアクションを実行することで、顧客生涯価値（LTV）の最大化を目指すものだ。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/1gvBvmNCUYVF6zSCMEtqgs/17727964813e5730c8f36c0fe0fae351/20210921_Briefing_05.png" />

> カスタマーサクセスプラットフォーム「commmune」（コミューン提供）

__ニュースのポイント：カスタマーサクセスの認知度の低さから、国内の市場規模が成長のボトルネックだと気づく__

コミューンは2020年9月にシリーズAの資金調達を当初の計画よりも数ヶ月前倒しで行った経緯がある（参考：[コミューン、シリーズAで4.5億円調達](https://initial.inc/articles/briefing04)）。シリーズAの資金調達後はサービスの成長率がさらに高まり、順調に進む中、2021年5月には今回のシリーズBに向けて動き始めた。資金の余裕もある中で、なぜ今調達を行なったのか。

シリーズB調達に踏み切った背景について、コミューン代表の高田優哉氏は「国内の市場規模拡大に取り組む必要性を感じた」と語る。

「シリーズA調達前の顧客はカスタマーサクセスに感度が高い、スタートアップが中心でした。調達資金で機能開発、採用を拡大したことで、大企業やこれからカスタマーサクセスに取り組む企業を獲得できるようになりました。顧客層が広がり、成長角度がさらに高まった一方で、まだまだカスタマーサクセスの認知度が低く、国内の市場規模が今後の成長のボトルネックになると感じています。すでに新規顧客向けにはSalesforce社のCRM（顧客管理）サービスを活用した営業プロセスが浸透しています。しかし、既存顧客向けには数値のモニタリングや解約を検知してからのアプローチしか広がっていません」（高田氏）

一般的にSaaSやカスタマーサクセスなどの概念は米国が先行し、数年遅れで同様の流れが日本にやってくる傾向にある。その米国でもいまだに新規顧客獲得によるLTVの最大化を狙うことが一般的で、既存顧客とのコミュニケーションを通じてLTVを最大化する文化はまだ根付いていない。

上記の事例として、新規顧客を中心とした顧客管理（CRM）サービスを提供する企業はSalesforceを代表に大手企業・スタートアップともにみられるが、コミュニティ主導のカスタマーサクセスに特化したプラットフォームは米国のCommsorなどスタートアップ数社に限られる。調達額はコミューンの方が多く、コミュニティ主導のカスタマーサクセスサービスはまさに新たな市場を開拓する段階であることがわかる。

高田氏はコミューンの成長の鍵としてBtoCの企業を挙げる。「特にBtoCの顧客にはサービスの良さを実感してもらいやすいです。BtoC企業は日本の人口減少を懸念しており、サービスの成長にはリピート率の向上、海外市場への展開のどちらかしかありません。それに対してコミューンは『御社のユーザー向けのポータルサイトを作りませんか』と提案し、リピート率・顧客単価の上昇を支援します。」（高田氏）

今後、コミューンはカスタマーサクセスの概念を広め、国内市場を拡大させるために動画広告でのアプローチにチャレンジする。将来はアジアをはじめ、海外市場も狙いさらなる成長資金を獲得するため、グローバル展開に知見のあるZ Venture Capitalとジャフコ グループを新たに株主に迎えた。「既存顧客向けCSプラットフォームのスタンダードになる」と掲げ、顧客ターゲットを広げても適切な投資、回収できるほどの急成長ができるか。

（文：平川凌、編集：藤野理沙、濵田尚子、デザイン：浅野春美）

株式会社タイミー

コミューン株式会社

20210921 Briefing cover

HRTech

タイミー、資金調達の裏側。海外機関投資家の景色

## ユニコーン・デカコーンが次々上場

2021～2022年は東南アジアのスタートアップ業界にとって、1つの大きなターニングポイントになりそうだ。

他社に先駆ける形でインドネシアのEC大手、Bukalapakが2021年8月6日にインドネシア証券取引所に上場。配車サービスから始まってフードデリバリ―や決済などの機能を次々と加えてスーパーアプリ化し、8カ国で事業展開するデカコーン（企業価値100億ドル以上の未上場企業）、GrabもSPACとの合併を通じて米国上場を目指す。Grabの想定企業評価額は396億ドル（約4.3兆円）、上場時に予定している調達額は45億ドル（約5000億円）に達する。

Grabの競合として知られるインドネシアのデカコーン、Gojekは2021年、EC大手のTokopediaと経営統合し、巨大IT企業、GoToGroupが誕生した。このGoToGroupも2021年以降、米国とインドネシアで上場を計画しているという。その他にも、インドネシアのオンライン旅行代理店Travelokaやベトナムのソフトウエア開発のVNGなどが足元で上場を計画していると伝えられており、東南アジアを牽引していたユニコーンの上場ラッシュとなりそうだ。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/1J32NyBvLMfWtkjAjveKls/10465728156eb11cdfa546e139ebc1a6/20210616____________________03.png" />

こうしたユニコーン達がこれまでにもたらした効果や上場の影響について、シンガポールで東南アジアのスタートアップへの投資や日本企業とのシナジー創出に関わってきたKK Fundのジェネラルパートナー斉藤晃一氏、ICMGシンガポール ディレクター / ICMG本社 執行役員 辻悠佑氏、Krollシンガポールのシニアバイスプレジデント、川端 隆史氏に聞いた。

### Grabなどのユニコーンが成長してきた10年で東南アジアのスタートアップ事情はどのように変化してきたのでしょうか。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/4kbMD4Qs5NZ0qpdmly59ZY/a3cbf3f980361cb9220fda92efc122b9/20210616_________________04.png" />

`KK Fund　ジェネラルパートナー斉藤晃一氏（以下、斉藤）`　ここ1~2年で特に東南アジアのスタートアップに対する投資額は大きく増えています。2020年はCOVID-19の感染が拡大する中でも、2019年と同レベルとなる82億ドル（約9000億円）が流入しました。2021年の上半期は既に44億ドル（約4900億円）に達しています。

これまで伸びてきたGrabやGojek、シンガポールのSeaなどは、もともとライドシェアリングやゲーム事業を手掛けていて、その巨大なユーザー基盤を利用し、EC、マーケットプレイス、決済やレンディングに参入を果たしています。データを活用した現代版の高度なコングロマリッド化が進んでいる、という印象です。

GrabやGojekは多国展開に成功していますが、その過程ではかなり地道にローカル化を進めてきました。例えば、Grabはベトナムに進出する際にタクシーの運転手が集まるガソリンスタンドに張り付いて営業したといいます。Eコマースやライドシェアなどはオンラインで完結するSNSと違い、地場のプレイヤーと組まざるをえません。グローバルプレイヤーが進出しにくく、多国展開が難しいからこそ成功すれば高く評価されます。



![20210616 アジア企画 11](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/3y796cps5jWqBspwV0xxiL/639e6575bb62b9a3f55825cc1e40d3f7/20210616____________________11.png)

> Javaistan / Shutterstock.com

こうした多国展開のノウハウも培われましたし、他国に進出する際に地場の小さなスタートアップを買収するという慣習も根付きました。VCマネーが大きくなってきたのでM＆Aもしやすくなっています。

足元ではシリアントレプレナーも増えています。例えば、民泊仲介大手の米HomeAwayにtravelmobという会社を売却した創業者はその後、コワーキングスペース運営の企業を立ち上げ、米WeWorkに売却しています。彼は直近、フィンテックのスタートアップを立ち上げましたが、著名VCから資金調達することに成功しています。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/1lXVt17Gj5lsiHeuknYW81/2db7e618d8c868876d05d63b53c0009a/20210616_________________01.png" />

`ICMGシンガポール ディレクター 辻悠佑氏（以下、辻）`　シンガポールは国家主導で2014年頃からスマートネーション、イノベーションネーションを目指してきました。その一環でシンガポールのスタートアップを育成したり、東南アジアで急成長を遂げているスタートアップを誘致したりした結果、アーリーステージのスタートアップが増えています。業態としては、GrabやTokopediaなど、コンシューマーテックがこれまでの主な業態でした。

コンシューマーテックも更なる進化を遂げている中で、ヘルスケアスタートアップのBiofourmisなど、社会的に切実な領域・課題を対象としたディープテックスタートアップ、そして、スマートシティスタートアップのQlueなど、スマートシティやリビングラボなどの流れも顕在化し始めてきました。

シンガポールと東南アジア諸国との連携も加速しています。東南アジア全体がイノベーションエリアとしての基盤を整えてきており、世界的にも存在感が高まっています。

## M＆A活発化の予感

### GrabやGoToGroupなどの上場は今後、どのような影響を及ぼすでしょうか。

`斉藤`
日本の歴史を振り返ると、ヤフーや楽天、サイバーエージェント、ソフトバンクなどのインターネット関連企業が上場し、その後、テック系のスタートアップに積極的に投資してきました。これまで東南アジアにはそういったプレイヤーがいなかったためVCや一部の財閥に頼らざるを得ませんでしたが、Grabなどの上場によってこうした構図が変わるでしょう。

既にGojekやGrabがペイメントのサービスを買収したり、Gojekがデジタル銀行の株を買ってライセンスを利用し、金融サービスを提供したりしています。彼らが上場で巨額の資金を手にすることでこうした動きが加速すると見ています。

中国企業による買収も期待できます。アリババやテンセントは自国と同じように東南アジアでも買収によって事業を広げており、その1つが2016年のアリババによるLazadaの買収です。今後もこうした動きは続くでしょう。

### 足元では「ネクストGrab」としてどのような分野のスタートアップが育ってきていますか。

<Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/7ckmI8BvdfGaUqPdGflJHq/ff2b00906c23e1505f69dec1438ed0db/20210616_________________07.png" />

`Krollシンガポールのシニアバイスプレジデント、川端 隆史氏（以下　川端）`　
コンシューマーテックだけでなく、バイオなどのより社会インフラや人々の暮らしのより根源的な課題を解決するためのスタートアップが育ってきています。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/4eY2iBB6mhSThGdzxsllO4/f4e229443a2d1de3ebbf0898dbcb9288/20210616_________________05.png" />

`斉藤`　シンガポールは産業の高度化を目指して政府が補助金を出したり、2016年にSGInnovateというディープテックに特化したVCを作っており、ディープテック、中でも特にAIの分野が育っています。一方、インドネシアやベトナム、フィリピンは政府が社会問題解決のためにスタートアップを活用しようとしているので重点分野が異なります。

`川端`　シンガポール以外の国々は政府でカバーできない社会課題が大きいですからね。そういう部分は旧来型のやり方では儲かりにくい。テクノロジーによって稼げるようになってそれに対して投資する投資家も育ってきています。

`斉藤`　今後もコンシューマーテックの成長は形を変えて続くでしょう。例えばクラウドファンディングやP2Pレンディングで、ディープテックを活用して精度を上げていく、というようにディープテックをツールとしてコンシューマーテックに入れ込む動きが広がると見ています。toCではライブコマースにも注目しています。

`川端`　　Lazadaの初期は「コンシューマーテック1.0」という様相でした。足元ではディープテックによってコストが下がり、その技術がまたコンシューマーテックに入ってきていわば「コンシューマーテック2.0」に進化しています。

`辻`　人々の暮らしという視点ではスマートシティの流れも重要だと考えています。シンガポールはスマートシティで先行していますが、インドネシアでもQlueなどのスタートアップが出てきており、政府と連携する形で都市基盤を再構築しようとしています。

![20210616 アジア企画 08](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/Nn68tiC7op37zFxxD23rP/75c3a9bbadb2ae4d4fcd67eea34216d6/20210616____________________08.png)

> Travelpixs / Shutterstock.com

## toBにもデジタル化の波

### toBではどの分野に注目していますか。

`斉藤`　デジタル化が遅れている分野、具体的には物流、医療、建設、農業、マイニングなどに注目しています。

例えば我々は、タイのGiztixという物流の会社に投資しています。タイの物流コストはGDPの15％以上と先進国の倍以上になっており、確実にDXできる領域です。しかも、同社の現在の売上の80％がバンコクなどの都市部です。今後は郊外の割合を6～7割に引き上げたいと考えています。

医療も課題が大きい分野です。例えば、ベトナムでは国民保険の補償率が私立病院では極めて低いため、多くの低所得者層は国立病院を利用せざるを得ず、1～2時間待ちは当たり前。消費者が気軽に使えるようなクリニックが足りていません。医療や保険の分野はこれから大きく変わるでしょう。

我々はベトナムでスマートクリニックを運営するMed247を支援しています。同社は都市部限定で4店舗を運営していますが、こちらも郊外への展開を議論しているところです。通信インフラは意外と都市部とのギャップがないんです。

非効率と言えば教育も注目です。これまではオンライン教育に対する拒否感が強かったですが、2019年くらいからマネタイズができるようになってきました。VCのマネーも入ってきて、企業価値が100億円を超えるようなスタートアップがでてきています。

### 長期的に見て注目している分野はありますか。

`辻`　　中長期で見て見逃せないテーマがサステナビリティやウェルビーイングです。1～2年前からスタートアップのイベントでもサステナビリティ戦略が話題に登り始め、イノベーションの大きな目的となってきています。

今、世界中で資本主義に対する問題意識が強まっていますが、こうした考え方はインドネシアやタイからも出てきています。「リープフロッグ」というとテクノロジーばかりに目が向きがちですが、考え方やコンセプトでも同じことが起こり得ます。成熟資本主義の前にいきなり資本主義2.0、3.0になってしまうという可能性はあるでしょう。

インドネシア政府は2020年2月に国連開発計画（UNDP）やデンマーク政府と連携してサーキュラーエコノミーのイニシアティブを立ち上げました。インドネシアは海洋プラスチックの最大の汚染国の1つとして国際社会から非難を受けており、それに対する危機感があるでしょう。

実際、この分野で有望なスタートアップも生まれています。インドネシアのSAMPANGANは街のごみを集めてきて有用な物質に変える「The Magic Box」という製品を作っています。同社は社会インパクトを生み出す起業家をつなぐImpactHUBが主催するSDGsの世界大会で、アジアで初めてトップ10入りしました。そのほかにもサステナビリティ専用のアクセラレーターも設立されています。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/G35bAsIudsaa7fcTaBjLt/1f9f68bca3bfddab7774f756ee311452/20210616_________________09.png" /> 

> SAMPANGAN公式サイトより引用

`斉藤`　確かに、長期的にはサステナビリティの流れは東南アジアにも来るでしょう。リープフロッグが起これば日本よりも先に進む可能性があるかもしれません。

ただ、VCやアクセラレーターがサステナビリティのためといって政府から資金を引き出すという側面もあります。ビジネスとしてスケールするかどうかなどを慎重に見ていく必要があるでしょう。蓋を空けたらレベニューの大半が補助金、という話ではVCから見ると魅力がありません。

`辻`　　サステナビリティについては、世界中でビジネスモデルの探索が進み、様々なタイプの挑戦が行われています。その中でサステナビリティ＝補助金ではない多様なモデルも探索されています。ポイントは、短期的だけでなく、中長期的なトレンドを捉えること、そして、リープフロッグによって一気に時間軸が変わってしまう可能性があることだと思います。東南アジアにおけるスマートシティ、サステナビリティ、そして、ウェルビーングのトレンドは、一気に進んでしまう可能性があり、今から注力しておいてもいいと思っています。

後編に続く。

（文、編集：濵田尚子、取材協力：川端 隆史、デザイン：石丸恵理）

20210616 アジア企画 cover 前編

ユニコーンの卒業でどう変わる？東南アジアのスタートアップの未来

## BtoBマーケットプレイスの大型調達トレンド

「ユニコーンから見る注目テーマ」では、2021年8月に資金調達した海外ユニコーン企業（調達後企業評価額10億ドル超）から注目テーマとその動向について解説する。

今月取り上げるテーマは、マーケットプレイス、withコロナビジネス、暗号資産だ。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/5iE2GuIFOXui453OBxfKvw/6176185c7e6b548c45785d41582042ef/20210914_maruwakari_05.png" />

__今月は世界的なBtoBマーケットプレイスの大型調達トレンドに着目する__。8月はインドのZetwerk Manufacturing Businesses（以下、Zetwerk）が1.5億ドル（約165億円）を調達してユニコーン企業となった。同社はインドを拠点に製造業やインフラ企業向けの受発注プラットフォームを提供している。

このマーケットプレイスの売り手は製造、機械加工、鋳造のOEMメーカーやEPC（Engineering・Procurement・Construction）建設会社などのサプライヤーだ。売り手にとっての顧客である航空宇宙・自動車・石油・鉄鋼企業（買い手）などとのマッチングを提供する。機械部品やプラントなどカスタマイズが必要な買い手に対して、対応可能なサプライヤーを世界中から見つけられる。同社の事業内容は、8月に80.3億円の大型調達を発表した国内スタートアップのキャディと近い。

参考：[キャディ80億円調達、Facebook見出した海外投資家が出資](https://initial.inc/articles/briefing40)

大型調達トレンドが見られるのは、製造業向けに展開するZetwerkやキャディだけではない。2021年に大型調達しているスタートアップをみると、インドネシアではGudangAda（1億ドル、約110億円）が日用品サプライチェーンのデジタル化を中小企業を中心に解放しており、フランスではAnkorstore（約1億ドル、約112億円）が独立系ブランドとセレクトショップをつなぐ。インドではBizongo（5100万ドル、約56億円）がパッケージやカスタマイズ商品を強みに事業を展開している（カッコ内は2021年の調達額）。これらのスタートアップに共通するのはビジネスモデルが「BtoBマーケットプレイス」であることだ。

では、__なぜ今BtoBマーケットプレイスがトレンドになっているのか__。解説の前に、マーケットプレイスのビジネスモデルを整理する。



マーケットプレイスとは商品・商材の取引で、買い手（需要者）と売り手（供給者）を集めマッチングさせるプラットフォームを指す。マーケットプレイス自体は在庫を持たず、買い手と売り手の円滑な取引に注力する。

代表的な事例はtoC・toB向けの両方を手がけるAmazonだ。Amazonやメルカリ（CtoC）のように商材がモノの場合もあれば、UberやAirbnbのようにサービスを商材にする場合もある。日本のBtoBマーケットプレイスだと、前述のキャディの他にMonotaRO（モノタロウ）、ミスミグループ本社、ラクスルなどがあげられる。

__マーケットプレイスを運営するメリット__は、在庫を抱えずに一気に成長することができる点だ。プラットフォーム上の潤沢な買い手と売り手によるネットワーク効果を活かして顧客の便益を高めることで可能となる。デメリットは十分な買い手と売り手を集めて参入障壁を築くまでの初期投資、競合が多いこと、売り手の品質維持コストだ。

![20210914 maruwakari 07](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/5vg77jRsTH5C2wwv7gbqGx/bf9b3a9270776a2d2521c67327b4cedc/20210914_maruwakari_07.jpg)

一般的に日常生活で浸透する__BtoCマーケットプレイスに比べ、BtoBのマーケットプレイスは少ない__。これは、toCに比べて営業の存在など取引が複雑で取引のオンライン化が進んでいなかったことが理由の一つだ。企業の購買サイクルはtoCと比較して長いため、購入から納品までのタイムラグが生じる。また、価格情報は取引先によって異なるため非開示だ。

仮にオンライン化したとしても、売り手を拡充させれば買い手が集まりやすいBtoCとは違い、__BtoBマーケットプレイスでは参入業界の商習慣を理解した上で売り手と買い手の両方を揃える必要がある__。

一般的にマーケットプレイスビジネスでは鶏と卵問題とされている。つまり売り手（供給者）と買い手（需要者）のどちらを先に獲得するかが問題になることが多い。BtoBの場合、売り手にはオフラインで既存の取引先がある。__買い手がいない段階で売れるかわからない商品をプラットフォームに載せるインセンティブが湧きにくい__。

たとえ売り手が集まったとしても、買い手が継続的にそのサービスを使うかどうかは別問題だ。買い手側はオフライン取引を前提に業務フローを組んでいる。__よほど経費削減の社内プレッシャーがない限り、業務フローを変えてまでオンライン上での取引に移行するハードルは高い__。導入までには社内決裁やマニュアル改定、会計処理など複数のステップが存在する。

BtoBマーケットプレイスが少なかった理由として、ラクスルCOOの福島氏は起業家側の課題も指摘する。「産業の変革はすぐに結果が出るものではなく、5〜10年かけてやる気概とケイパビリティが求められます。__BtoBマーケットプレイスに取り組む起業家が少ないのはこの時間軸の長さもある__のではないでしょうか」（福島氏）

ではなぜ、今になってBtoBマーケットプレイスが台頭してきているのか。新型コロナウイルスが拡大した当初はオンラインへの移行を余儀なくされたが、1年以上経過する中でオンラインへの抵抗感が減り、その利便性が認識されてきたことが理由としてあげられる。

[BtoB取引に関するマッキンゼーの調査](https://www.mckinsey.com/business-functions/marketing-and-sales/our-insights/these-eight-charts-show-how-covid-19-has-changed-b2b-sales-forever)によると、買い手と売り手の4分の3以上が対面取引よりもデジタルの取引を好み、意思決定者の10人に9人近くがオンラインへの取引・販売慣習は2021年以降も定着すると回答している。

たしかにBtoBマーケットプレイスは、上記のように企業に導入されるまでのハードルは高い。しかし、「BtoCに比べて顧客獲得コスト（CAC）も高いが、__一旦導入されれば業務フローに組み込まれるためスイッチングコストが高い。そのため、他のサービスに移行されにくい__（ラクスル福島氏）」特徴もある。

海外スタートアップでは、取引を成立させるマーケットプレイスに加え、決済・BPO（Business Process Outsourcing）などの__「サービス」、「ソフトウェア（SaaS）」も組み合わせて提供することで、ワンストップで顧客課題を解決する統合プラットフォームも増えている__。国内のプレイヤーであるラクスルも同様にこの形式を取り、印刷・物流・広告などの伝統的産業を生産性・収益性の高い業界に変革する仕組みをつくっている。

デジタル化への変革が叫ばれる今、大型調達資金をもとに産業を変革するBtoBマーケットプレイスの成長可能性に期待したい。

## withコロナビジネスの注目ユニコーン

新型コロナウイルスの拡大が追い風となっているwithコロナビジネスではデカコーンが誕生した。クラウド型コンタクトセンターサービスを提供する米国のTalkdeskだ。同社は直近の調達で前回ラウンドの約3倍となる評価額100億ドル（約1.1兆円）をつけ、SaaS企業でトップクラス入りを果たした。

デジタル上での顧客体験（CX）向上が喫緊となる中、リモートワークへの移行も追い風となり大企業を中心に導入が進んでいる。同社のサービスはIBM、富士通など1800社以上の利用実績を誇る。2021年8月の資金調達発表と同時に、設立10年以来初となるCFO採用を発表。CFOのSydney Carey氏はSaaS業界での経験が長いことから、今後のIPOに期待がかかる。

同じくコロナが追い風となったユニコーンは、バーチャルイベント事業を展開する英国のHopinだ。設立後1年で評価額20億ドル（約2200億円）、2年で評価額78億ドル（約8580億円）と急速に成長している。これまでの調達資金をもとに6社を買収し、ビデオ制作やイベントマーケティングなどオールインワンのイベント管理プラットフォームへと拡大している。世界中で10万以上の組織にサービス実績があり、CNBCの記事によると同社の年間経常収益（ARR）は1億ドル（約110億円）と着実に売上を伸ばしており、withコロナを代表するスタートアップと言える。

![20210914 maruwakari 06](//images.contentful.com/bdepgd648nl9/554m1CpO83zxBaNfixdOdn/d46f42722ddea359c1987f6ffd5d616c/20210914_maruwakari_06.jpg)

## 暗号資産は投資後のサービスにも商機

また、引き続き暗号資産領域もトレンドとなっている。暗号資産プラットフォームを提供するオーストリアのBitpandaと米国のFalconXは、評価額40億ドル前後（約4400億円）のユニコーンだ。

Bitpandaは個人向けに暗号資産や株式、貴金属など100以上のデジタル資産取引サービスを提供している。今回の調達のリード投資家はピーター・ティール氏が創業したValar Venturesだ。同社は個人を中心に300万人以上のユーザーを抱えており、欧州発のFinTech企業として期待がかかる。FalconXは機関投資家向けに暗号資産取引、分析、管理などのサービスを提供し、売上は前年同期比で30倍と急成長している。

暗号資産の取引が拡大するにつれ、投資後のサービスも需要が高まっている。暗号資産の税務・会計関連ソフトウェアを提供するTaxbitはシリーズBで1.3億ドル（約143億円）を調達し、評価額は13.3億ドル（約1463億円）となった。

世界的に暗号資産への規制引き締めが進む中で、税務・会計プロセスは複雑になっている。TaxBitは移り変わる規制に則した形で法人向けに税務プロセスを自動化する。この税自動化ソフトウェアは、米国歳入庁のIRS（日本の国税庁にあたる組織）と共同で開発したサービスだ。また、法人・個人向けに簡単に暗号資産の税務申告ができるサービスも提供しており、業界全体で広まる暗号取引に関する税務コンプライアンス対応のニーズに応える。

## 化学や鉄鋼など、巨大産業の変革を図るBtoBマーケットプレイスのネクストユニコーン

注目テーマとして取り上げた「BtoBマーケットプレイス」だが、プレユニコーン企業でも特徴的な企業が見られた。今月は、米国のCesium、Felux、ドイツのAthenum Partnersのマーケットプレイス企業3社のニュースを取り上げる。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/7DXMKijWUtH2f1kWWt94Bf/3f037cbea7b0e85c614a44752824c318/20210914_maruwakari_01.png" />

1社目は化学業界向けマーケットプレイスの米Cesiumだ。シリーズBで7200万ドル（約79億円）を調達した同社は、化学原料・材料を検索、比較、サンプル注文、購入ができるマーケットプレイス「Knowde」を提供する。Knowdeには現在10万以上の製品と3500以上のサプライヤーが存在し、化学業界の中で最大の製品ラインアップを誇る。__化学業界は市場規模5兆ドル（約550兆円）以上__とも言われる。__同社の挑戦は巨大な化学市場の変革__であり、注目が集まる。

2社目は鉄鋼・金属産業向けマーケットプレイスの米Feluxだ。シードで510万ドル（約5.6億円）を調達した同社のプラットフォームでは、鉄鋼などの製品を購買するだけでなく、サプライヤー管理や物流のトラッキング、資金調達までもワンストップで完結できる。シード企業ながらも、__Feluxは1500以上の顧客（買い手）を持ち、過去12ヶ月で9000万ドル（約99億円）以上の取引実績__を持つ。

鉄鋼・金属業界はデジタル化が特に遅い領域だ。リード投資家のExpaによると、北米で購入される工業用金属の90%の取引はメールやファックスで取引されているという。Feluxのマーケットプレイスは鉄鋼・金属ビジネスににデジタル化と加速をもたらす。

3社目はB2Bリサーチの独Atheneum Partnersだ。1億5000万ドル（約165億円）を調達した同社は、80万人以上の専門家ネットワークを武器に定量・定性調査、リサーチ、分析プラットフォームを提供する。同社は事業モデルをサービスとしての調査（Research as a Service、リサーチ・アズ・ア・サービス）と称しているが、ビジネスモデルは調査したい顧客と専門家をつなげて調査サービスの取引を成立させるマーケットプレイスと言える。モノの取引を円滑にする上記の2社と異なり、__専門家を集めてネットワーク効果を活かし、知見や調査などのサービスをマーケットプレイスで展開する点__に注目する。同社の類似企業には、先日米国の同業を112億円で買収したビザスクなどがあげられる。

本記事で取り上げたユニコーン、およびプレユニコーン3社の事例から見られるように、製造業、化学業界、鉄鋼業界などあらゆる巨大産業でデジタル化が進み、特定の国ではなく世界をターゲットにしたBtoBマーケットプレイスの勃興が見られる。新型コロナウイルス拡大から1年以上が経ち、オンラインが加速する中で、これまでオフラインが前提であった業界でも着実にデジタル化が進んでいる兆しといえよう。

（文：藤野理沙、編集：中村香央里、リサーチ：平川凌、デザイン：浅野春美）

ラクスル株式会社

20210914 maruwakari cover

マーケットプレイス

仮想通貨

大型調達の波、BtoBマーケットプレイスを徹底解説

## 世界の変革を目指す運用総額8億ドル規模のグローバル投資ファンド

### ウーブン・プラネット・グループの組織構造やそれぞれの役割について教えてください。

`ウーブン・キャピタル プリンシパル 加藤道子氏（以下、加藤）`私たちウーブン・プラネット・グループは「Mobility to Love, Safety to Live」というビジョンを掲げ、安全で地球に優しく、豊かな暮らしをもたらすモビリティの創造を目指しています。シリコンバレーのイノベーションと日本のモノづくり精神を持ち合わせた企業の運営を通じて、世界中のマーケットに安全でトップクラスの品質のモビリティを提供することを目指しています。

現在ウーブン・プラネット・グループは4社体制で運営しており、ホールディングスである「ウーブン・プラネット（Woven Planet）」の傘下に事業会社の「ウーブン・コア（Woven Core）」と「ウーブン・アルファ（Woven Alpha）」、投資ファンドの「ウーブン・キャピタル」があります。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/4V9xGW7mjum58RIvhRpusc/94dedadc2a948300791e24047dc63f92/20210903_Woven_0906_01.png" />

このうちの投資ファンド「ウーブン・キャピタル」は事業の発展および拡大を図るべく設立され、領域はモビリティを中心に、自動化システムやコネクティビティ、スマートシティ、データ分析、AIなどの分野をターゲットにしています。

トヨタグループではあるものの、あくまでも__ウーブン・プラネットのビジョン実現達成にプライオリティを置いている__というのも大きなポイントです。

その他の傘下企業であるウーブン・コアは主に長期的な自動運転技術の開発や実装を行っている会社で、ウーブン・アルファは新規案件やこれまでにないモビリティプラットフォーム、そして実証都市であるWoven Cityなどの開発を行っている会社です。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/3KZRweA9AQKDpTg4hV0cP7/8092ac1b335803ae1a7ac2335d67cb39/20210903_Woven_0906_03.png" />

## 見返りを求めるのではなく、Give&Giveの姿勢でいること

### 具体的な投資事例や手法についてお聞かせください。



`加藤` ウーブン・キャピタルでは8億ドル（約880億円）のグローバル投資ファンドを運用しており、__主にグロースステージ企業にマイノリティ投資__を行っています。

第一号案件として自動配送に特化した米国ロボティクス企業のニューロ（Nuro）や、第二号案件として米国の自動化・モビリティプラットフォームのライドセル（Ridecell） に出資しています。

スピード感としては、ニューロは比較的時間がかかったものの、ライドセルはスピーディに進めることができました。

ウーブン・プラネット・グループではキャピタルの投資チームとは別に、コーポレート・デベロップメント（Corporate Development）チームを持っています。このチームではウーブン・プラネットでのM&Aにフォーカスしています。予算も分かれており、投資基準や構造も異なるものの、常に連携し、日々情報の共有を行っています。

`ウーブン・キャピタル マネージング・ディレクター ジョージ・ケラマン氏（以下、ケラマン）` スタートアップへの直接投資がメインですが、投資の一部はファンド・オブ・ファンズ（Fund of Funds）投資、つまりアーリーステージを中心に他のVCファンドにも投資をしています。

ファンド・オブ・ファンズ投資を行う目的は、注目している地域や産業を幅広くカバーし、直接投資の機会を広げることです。これによって、グローバルベースでより質の高い投資機会を得ることが可能になります。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/lBWCPM1HAyG27M1dzW7pi/f1d927bfe9fc99dbdc38d6706d181717/20210903_Woven_0906_02.png" />

私たちのチームはまだ規模が小さく、現在4人しかメンバーがいません。ファンド・オブ・ファンズは、限られたリソースの中で企業全体の組織的な能力をよりスピーディに促進する戦略の一つです。

投資先のファンドが優良なポートフォリオ企業を紹介または提案してくれる可能性がありますから。

###　投資先を決める際はどのような点を重視していますか。

`ケラマン`モビリティやAI、ロボティクスなど、特定のセクターに焦点を合わせています。何にでも投資するわけではありません。

また、北米だけでなく、日本、欧州、アジアなどグローバルに投資することも重視しています。

###　パートナーシップなど協業も投資の条件に含まれているのでしょうか。

`加藤`実際に投資をしても、双方何も得ることがなく終わってしまうことは、お互いにとっても良くありません。

協業には時間がかかるため、出資の絶対条件ではありませんが、将来的な事業シナジーの見込みや協業の可能性などは、投資検討の段階から考案するようにしています。

もちろんすぐには協業できないことや、協業をせずに終わることも実際には起こり得ますが、株主として資金以上の価値を提供することを目指しています。

`ケラマン`一部のCVCには、投資前にスタートアップと正式にパートナーシップを結びたがる傾向があります。

しかし、私たちは違います。協業を最優先した場合、彼らの経営や開発の妨げとなってしまう可能性があるためです。

スタートアップの経営陣は資金調達以外にも、自分たちのビジネスを運営しなくてはなりません。たとえば、契約のやりとりなどで時間がかかってしまうと、彼らのビジネスにも遅れが出ますし、事業開発の機会を逃してしまうこともあります。

私たちも投資先企業との戦略的連携を模索したいと考えていますが、スタートアップの機会損失を考えると、投資時には優先しないと決めています。

あくまで私たちはマイノリティ投資家であり、パートナーの一社です。スタートアップは私たちに仕えるために存在しているわけではありません。

スタートアップの目的は自分たちの顧客のニーズを満たすことです。そして、__ウーブン・キャピタルのミッションは、スタートアップをできる限り成功へと導くことです__。これによってウーブン・プラネットのビジョンを実現します。

企業のデューデリジェンスを行う際には、私たちの事業部門にも紹介しており、その際に「何らかの形で連携できる見込みがある」とポテンシャルを感じた場合に投資を行います。

CVCでありがちなのは「投資先が自分たちに対して何かをしてくれる」と考えることです。しかし、私たちはミッション達成のため、スタートアップの成功や成長を一番に望んでいます。

__私たちはGive&Giveでありたいのです。__

もし私たちが良いパートナーであれば、彼らはいつか何かしらの形でリターンを返してくれるでしょう。また、その時期は私たちが決めるものではなく、彼らにとってベストなタイミングであるべきです。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/2liWu1cdxLJKojivQDyCoN/36660fe974f3c70fd6c72d8cc0b4d967/20210903_Woven_04.jpg" />

> ウーブン・キャピタルが投資した無人自動運転車 Nuro（写真：ウーブン・プラネット公式HP）

## 米国CVC立ち上げで学んだこと
### これまでのキャリアで得た学びは現在に活きていると思いますか。

`ケラマン`ヤマハ発動機のCVC、ヤマハ・モーター・ベンチャーズ＆ラボラトリー・シリコンバレーにいた時に学んだ多くのことが今でも活きています。創設メンバーの一人として、ヤマハには5年間在籍しました。

ヤマハで学んだことはミッションドリブンであること、すべての人たちにとってより良い世界となるように取り組むこと。グローバルな課題の解決に真摯に取り組む姿勢は、今でも変わりません。

VCに対して「ただお金を稼ぐ投資家」だと考える人は少なくありません。当然投資家が投資をする際は金銭的なリターンを考えるはずです。手に入れたお金で社会問題を解決し、社会的利益をもたらすことも義務ではありません。

しかし、私たちはスタートアップと連携することは、私たちのミッションを加速させ、私たちの目標の達成を促進してくれるはずだと信じています。そのため、私たちのアプローチは純粋なCVCとはとても異なり、極めてミッションドリブンです。

それから、私たちは世界的な問題を解決したいと考えています。世界的な問題を解決するためには、異なる文化や業界経験、性別、地域など、様々な見通しを持つダイバーシティ＆インクルージョンを実現したチーム編成やグローバルな視点が必要です。

そのため、ウーブン・キャピタルは非常に国際的で多彩なバックグラウンドを持つ4人のメンバーで構成されています。

また、ヤマハの前の500 Startupsでは、いわゆる伝統的なVC投資を経験しました。意思決定のスピードの重要性について学び、ウーブン・キャピタルでもできる限り速く物事を進行するということに努めています。

スタートアップは、資金調達のみに長い時間を費やすべきではありません。問題解決やプロダクト作りに努める時間や、顧客のニーズを満たすための時間に専念して欲しいと考えています。

 <Image type="full-column" src="//images.contentful.com/bdepgd648nl9/53Z98UwBZyimzmJl0jPja3/b49f9a7aba724f63cb8952b108af311a/20210903_Woven_0906_05.png" />

## 正しい企業に寄与することがグローバルな社会問題の解決へと繋がる
### ウーブン・キャピタルやお二人の今後のビジョンについて教えてください。

`加藤`前職（AIスタートアップのABEJA）ではスタートアップ側でCFOとして奔走しており、ビジネスやプロダクトを戦略的にバックアップしてくれる投資家の有り難みを日々感じていました。

同時に、CVCの提供する事業面での協業や協力は、スタートアップのエコシステムでもっと大きな役割を果たせるのではないかと思っていたんです。その後、一緒に事業を創造できる株主になりたいと思い、ウーブンにジョインしました。

今後は日本での投資も積極的に行い、グローバルトップティアのCVCになるのが目標です。また、きちんと目利きをし、正しい会社に寄与することによって、社会的に大きなインパクトを起こせるスタートアップを育てるお手伝いができたらと考えています。

`ケラマン`ウーブン・シティ（Woven City）の立ち上げに向けて、ウーブン・キャピタルはこの数年で非常に興味深い進化を遂げると思います。

数年後にウーブン・シティのインフラやビルなどが整備され、人々が住み、働ける街になった時、次は一体どのような可能性が起こり得るかと思うと本当に楽しみでなりません。

私たちの投資領域も、これまで以上に幅広くなってくるでしょう。 

（聞き手：藤野理沙、執筆：山村さやか、編集：中村香央里、デザイン：山浦隆史）