創業180年を迎える豊島は、未上場ながら従業員約600人で売上高2000億円を稼ぐ繊維商社だ。戦前から続く繊維商社が今年、スタートアップの技術を活用したスマートタウン構想を発表。老舗の繊維商社からライフスタイル商社への変貌を目指すという。
2017年にスタートアップ投資専門の「みやびベンチャーズ」を設立し、全社をあげてスタートアップとの協業に本腰を入れる。しかしその投資スタイルは他と一線を画している。
昨今のCVCでは独立系VCのようにシードステージでの投資や、素早く意思決定できる体制への整備を進める動きが見られるが、豊島はあえて投資まで3段階のプロセスを設け、3ヶ月かけて多数のメンバーで議論をしながら、投資検討を進める。
一見コストのように見える時間をかけた投資プロセスと多数の参加者には豊島ならではの理由があった。その理由を豊島の溝口量久氏、和泉ちひろ氏、みやびベンチャーズの井上 恒一氏に聞いた。
自社だけで二人組合ファンドを立ち上げ、CVCの勝ちパターンを作る
豊島はスタートアップ投資を専門にする新会社「みやびベンチャーズ」を共同で設立しました。設立の背景や狙いについて教えてください
豊島/溝口量久氏(以下、溝口) 2017年に豊島のCVC運営に特化した「みやびベンチャーズ」を現代表の井上さんと共同出資により設立しました。ファンドは豊島とみやびベンチャーズの二人組合形式で運営しています。
元ジャフコ グループの井上代表とは、CVCを設立する前から私の業務アドバイザーとしてお付き合いがありました。そこで「今、CVCを始めると、ファッション業界の危機に対応できるのではないでしょうか」とアドバイスをもらったことがきっかけです。

一般的にCVCでは自社のみ、または外部のVCと共同でファンドを運用します。みやびベンチャーズは豊島のCVC活動のために設立したので、柔軟に運営しながらも、CVCとして実績を生み出すことに注力することができます。
バリュエーションなど財務的リターンについては元VCの井上代表が運営するみやびベンチャーズ、戦略的リターンについては豊島が責任を担っています。

みやびベンチャーズ/井上 恒一氏(以下、井上) 溝口さんと話す中で、ファッション業界の大きな変化とデジタル化の必要性に対して、豊島が危機感を持っていることを感じました。M&Aとは異なり、CVCは新規事業創出の種まきです。まずは事業開発の実績を作り、その流れを周囲に広げていき、エコシステムを作っていくことが最も大切です。その価値観をすぐに共有することができたので、1年近くかけて理想の運営体制を構築しました。
一般的に事業会社がCVCを立ち上げたとしても、VC出身者から見るとCVCに参画するメリットは小さいです。独立系VCのように投資先がEXITした際のキャリー(成功報酬)を得ることができませんから、CVCは投資に知見がないプロパー社員ばかりになりがちです。その点、みやびベンチャーズはCVCですが、外部から新会社を設立することで、管理報酬や成功報酬なども柔軟に設計することができました。
やはり豊島の強みは年間1億枚の服を作っていることでしょう。そこにスタートアップのプロダクトを組み合わせるとさまざまなライフスタイルを提案することができます。

豊島のような営業に強い専門商社がCVCとして成功する勝ちパターンはプロダクトが十分に完成したスタートアップに出資することだと思っています。シードのアイディアベースの段階だと、協業ストーリーが描けません。
他社を見ると投資委員会に本体の経営陣が入り、1ヶ月でデューデリジェンスから投資まで完了させるCVCも増えています。しかし、豊島とみやびベンチャーズではこの動きとは真逆で、経営陣以外の社員も多数参加し、じっくり3ヶ月かけて投資判断して協業実績を作る体制にしています。
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