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2021/09/28

ディープテック・Provigate、起死回生のピボットで世界へ

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今週のトップニュースは、血糖モニタリングデバイスを開発するProvigateの資金調達を取り上げる。

前回調達では苦難を味わった同社だが、起死回生の一手となったピボット(事業転換)を成功させ、今回の調達にこぎつけた。ピボット成功の決め手や今後の事業展開についてProvigateの関水康伸CEOと今回の調達でリード投資家を務めたスパークス・グループの櫻庭茂樹氏に聞いた。

そのほか、コロナ禍で追い風から一転、逆境に追い込まれたオンライン営業システムのベルフェイスが事業を立て直し、30億円を調達するに至るまでのストーリーを紹介する。

血糖モニタリングデバイスを開発するProvigateはシリーズBで9.1億円の調達を発表した。リード投資家はスパークス・グループで既存投資家のCoral Capital、ANRIも追加出資した。

Provigateが開発するデバイスは低コストな上に身体に負担が少なく(低侵襲)、簡単に使えるだけでなく、リアルタイムで体調を管理することができるとして糖尿病の発症・重症化を防ぐ効果が期待される。

今回、スパークス・グループ(以下、スパークス)は運用ファンドの投資領域にProvigate社が入らないためLPの許可を得て自己勘定で投資し、代表取締役副社長の深見正敏氏がProvigateの社外取締役に就任する。スパークスが未上場企業に上記の対応をするのは初めてで、Provigateへの高い期待が窺える。

ニュースの注目ポイント:起死回生のピボットを乗り越え、世界トップ企業を目指す

糖尿病の発症や重症化を防ぐためには血糖値をモニタリングしながら生活習慣を管理することが求められる。現在、このモニタリングでは指先に針を刺し、グリコヘモグロビン(HbA1c)の値を測定する手法が一般的。ただ、グリコヘモグロビンの場合、月に1回程度の通院時しか測定できず、しかも1~2ヶ月前の自身の生活習慣の結果が反映されるに過ぎない。そのため、モチベーションが湧かずに食生活のコントロールなどを厳格にすることが難しかった。

一方、Provigateは涙や唾液などを採取して、グリコアルブミン(GA)の値を測定する血糖モニタリングデバイスを開発する。グリコアルブミンは直近1~2週間の平均値を反映するため、食生活や運動量などによる影響がわかりやすい。自身の身体の状態を適宜把握することで、「足元で血糖値が上がっているから明日の食事はヘルシーにする」などと、こまめに生活スタイルを管理できる。

思い切ったピボットをするが、調達に苦戦

ただ、Provigateも創業当時からグリコアルブミンに着目していたわけではない。同社は2015年に東京大学大学院・坂田利弥准教授の技術を元に設立され、当時は涙に含まれるグルコースから血糖値を測定する技術を開発していた。同時期にGoogleもグルコースから血糖値を測定するスマートコンタクトレンズを開発するなど、世界的にも注目を集める技術であった。

しかしグルコースは血糖値の測定では思ったような精度が出せなかった。そこでProvigateはわずか3年でピボットを選択する。

Provigateの関水康伸CEOは当時について「2015年夏から涙、唾液、血液に含まれる成分(グリコアルブミン)に目をつけました。涙液のグルコースで血糖値を推定する技術は非常に難しく、2018年1月から完全にグリコアルブミンに絞りました」と振り返る。

2018年11月にはGoogleも涙液のグルコースから正確な血糖値を測定するのは難しいと判断し、完全撤退をしている。

ピボット直後からProvigateはシリーズAの資金調達に動いたものの、苦戦を強いられた。一般的に開発期間が長いディープテックによるピボットは既存投資家から理解を得られにくい。同社も2020年2月のシリーズAでは、既存投資家から追加出資を受けられず、2019年6月から1/3以上の大幅ダウンラウンドで調達した(INITIAL調べ)。

2020年になんとか調達にこぎつけたProvigateは1年をかけてグルコアルブミン測定のデバイスの開発を進めてきた。とはいえ、1990年代以降、バイオセンサー(生体分析装置)の領域では次世代シークエンサーと持続グルコースモニタリング(CGM)を除けば海外でも新たな検査手法や技術はほとんど生まれていない。そんな中、なぜProvigateは血糖モニタリングの研究開発を順調に進めることができたのか。そのキーパーソンと言えるのがCTOの伊藤成史氏だ。

バイオセンサーのエンジニアは世界でも数少ないため、関水氏は関連する論文や特許情報を読み込み、エンジニアの採用候補者を絞り込んでいった。その過程で1980-90年代にNECがグルコースの特許を複数出願しており、その後メンバーの大半がタニタで尿糖計を開発していたことを知る。そこで、中心メンバーの1人だった伊藤氏に白羽の矢を立てた。関水氏は「医療機器では開発から量産、拡販まで経験した人材が数少ない。そうした経験を持つ伊藤がジョインしたことがきっかけで他のメンバーの採用も進み、ピボット直後から順調に研究開発ができました」と振り返る。

関水CEOは今後の事業展開について大きく3段階で考える。

現在は臨床研究でデータを蓄積しているが、関水氏は「大きな壁は、上市後の臨床研究のデータをもとに診療ガイドラインで記載される段階」と語る。日本では上市してからガイドラインの記載までは10年ほどかかると言われているが、標準治療の1つとして認められない限り大きな普及は期待できない。この壁をどう乗り越えるかがポイントになるだろう。

糖尿病患者の数は世界で約5億人にもなる。予備群で血糖管理を必要とする人はさらに多い。日本での上市だけでも道のりは長いものの、Provigateは既に米国進出についても視野に入れており、投資家の期待も大きい。

自身も医師であるスパークスの櫻庭茂樹氏は「自らの患者にもProvigateのデバイスを使って欲しいと思ったので今回の投資に至りました」と同社の技術にほれ込む。

今後の展開にも「日本と同時並行で米国市場への進出が不可欠です。米国進出ではProvigateの社外取締役で米国バイオ上場企業のCFOを務めるなど、40年間に渡り、米国のバイオ業界で活動している金子恭規氏がキーパーソンになるでしょう。米国ではユーザーの重症化を防ぎたい保険会社と共同で事業展開していくことも考えられます」と期待を寄せる。

Provigateが狙う領域のTAM(獲得可能な最大市場規模)は間違いなく大きい。苦難の時を経て有望な人材を獲得できたProvigateは臨床研究を積み重ねて精度の向上をしながら、日米で収益化を達成できるのか。日本発のディープテックが特に苦手にしてきたビジネスモデルの構築という難題に挑む。

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