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2021/06/10

VCから見た、研究開発型スタートアップの成長を阻む壁

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いま、経済活性化やイノベーション創出の担い手として期待が寄せられている「研究開発型スタートアップ」。

一方で研究開発ビジネスの成功には高い壁がいくつも立ちはだかる。技術を開発するだけでも数年を要し、それから生産技術を確立し、量産するまでには多くの資金とリソースを必要とする。そんな研究開発型スタートアップを支援するVCにもまた、専門知識に加え多彩なサポートが求められる。

前編では、リアルテックファンド代表を務める永田暁彦氏と、ユニバーサルマテリアルズインキュベーターでパートナーを務める山本洋介氏に、研究開発型スタートアップへの投資の目利きポイントについて聞いた。
前編:技術だけでない、研究開発型スタートアップの見極め方

後編となる本記事では大企業との連携や出口戦略についてお届けする。 ※本記事は、2020年12月3日に行われたHOME TO HOME セミナー「世界を変える、研究開発型スタートアップ投資の今」の内容が元になっています。

CONTENTS

研究開発型スタートアップに立ちはだかる壁

研究開発型スタートアップを支援するなかで、お二人が感じられているビジネス上の課題や壁とは何でしょうか。また、それらをブレークスルーする方法はありますでしょうか。

ユニバーサルマテリアルズインキュベーター パートナー 山本洋介氏(以下、山本)まず一つ目の壁が、製品開発や用途開発を行うなかで、それが本当にスケールアップするかどうかの見極めです。

研究している対象のプロダクトがいいものだったとしても、実際にマーケットフィットするのか、スケールしそうな用途があるのか、を特定できるか否かが重要です。最終的に採用しない場合も多くあります。

もう一つは、プロダクトの量産が現実的かどうかという点です。

ここはソフトウェア開発と大きく異なる点だと思いますが、ラボレベルでやっていることを実際の量産レベルでやれるかどうかは生産性や物性の観点から別問題であるといえます。なので、その再現性が持たせられるかどうか。地味に聞こえるかもしれませんが多くのお金と時間、リソースが必要な箇所ですので、ここを引き上げていくというのが私たちのミッションでもあります。

そうした壁を乗り越えるためにどのような支援をされているのでしょうか。

山本このステージを乗り越えるためには素材・化学系スタートアップ企業だと10億〜20億円程度必要になってきます。ですがこの核となるお金を出す人が今まであまりいなかった。そこで私たちのファンドが支援しています。

規模としてはそれぞれ100億円程度の1号・2号ファンドを持っているのですが、核に必要な資金の半分を出資しています。20億円必要ならばその半分の10億円を支え、メインのリード投資家となります。1社あたり最大10%、10億円までは出せるのですが、そこで一緒になって伴走してグロースさせていくイメージです。

経営支援の面では私たち自身が取締役として入る場合が多いです。ただし1名や2名ではなく派遣役員以外にも数人レベルで支援します。ネットワークや生産技術、マーケティング分野などの各専門家とチームを組みながら、事業をいかに次のステージへ持っていくことができるかに挑戦しています。

永田さんはいかがでしょうか。グロースにおける壁と、ブレークスルーの対応について教えてください。

リアルテックファンド代表 永田暁彦氏(以下、永田)私たちもやはりPoCから試作、量産試作、量産のそれぞれの過程で壁が明確にあるなと思っています。

特にいま課題となっているのが、PoCや試作にバリューを置きすぎてしまって量産を見越した設計になっていなかったというケースです。素材や機械系に多いパターンなのですが、試作をすることと、顧客に対する品質保証をした状態で量産設計を行うことは全く異なるため、それをあらかじめ認識しておく必要があります。

現在、日本だと試作品支援企業は増えてきている印象ですが、量産化までを接続するプレイヤーがあまりおらず、次の段階へのバリューを出せていないことも多いためここが一つの壁となっています。

私はもう一つ壁があると思っていて、それが、組織ケイパビリティの整備です。

プロダクトを大量につくって誰かに売る際には、試作品をつくる力、量産化する体制、品質保証、マーケティングなどが必要となりますが、それぞれ全く違う能力、ケイパビリティ(強み)が必要となってきます。

ですが、経営チームをステージに合わせて変革できないスタートアップも多くいます。新しい経営者を入れづらいことや、シード期において力強くパワーを発揮する研究開発型の社長が後半になって失速してしまうケースもあるので、チームでケイパビリティを整えていくということはとても重要だと思っています。

研究開発型スタートアップにも、売上の意識が必要

永田また、赤字癖が付いてしまう習慣にも気をつける必要があります。

研究開発型スタートアップは基本的に研究することが仕事です。もちろんそれ自体は正しいのですが、助成金が付くこともあり赤字癖になりやすいという特徴があります。

私たちはあえて売上を上げる癖みたいなものにこだわっています。例えば、ユーグレナは2005年に資本金1,000万円で創業しましたが同じ頃に米国で100億円調達した藻類のスタートアップがありました。ですが、その会社の名を今はほとんど聞くことがありません。

なぜ小さなユーグレナが生き残ったのかというと、私たちはどんなに少額でもキャッシュフローをつくってマーケティングやセールス、品質保証などのファンクションを常に鍛えていたからだと思います。

もしそれらを怠ったまま研究開発だけを5年、10年と続けて赤字慣れしてしまうと、売ることに対する姿勢や資本市場が危機を迎えた瞬間に調達が難しくなるということが起こり得ます。これは研究開発の役割ではなく、経営の役割なので、そのあたりのバランス感覚は重要なのかなと思います。

大企業とスタートアップとの連携では、相互リスペクトが重要

近年、大企業がスタートアップと連携するケースが増えてきています。一方でうまくいかないという声も耳にします。それはなぜでしょうか。

山本やはり大企業の中での文化や進み方、意思決定の速さなど、お互いの距離感の違いが理由としてあげられるのではないでしょうか。

大企業の中にCVC部門やスタートアップとの連携をはかる部署が社内でバランサーとして機能している場合は、うまく進めているケースが多いです。

永田私は大企業とスタートアップ、連携にはお互いのリスペクトが必要だと思っています。

大企業側はこれまで世界で戦ってきて勝てたという、クオリティに対する要求レベルの高さがあります。一方でスタートアップは自分たちが持っているものを信じきっているからこそ、自己評価が異常に高くなる瞬間もあります。なので、相互理解やリスペクトを前提として話をする必要があります。

大企業には大企業の都合があるということをスタートアップ側も理解するべきだし、大企業側もスタートアップに対して要求に100%沿っていこないとか、レポートの仕方などの不満があってもリスペクトを持ち続けることが重要でしょう。責任感や義務感でお互い接していると、なかなかこの境地にはたどり着けません。

普段、大企業側のオープンイノベーション担当やCVC担当の方と触れて感じるのは、それ自体を面白がっているとか、いい出会いに自分自身が興奮しているという場合は、結果的にうまくいっている印象がありますね。

連携がうまくいった事例があれば教えてください。

永田事例はたくさんあると思っています。ユーグレナもこれまでENEOSさんやANAさん、日立さんなどが株主に入って、バイオ燃料の研究開発を進める基盤を一緒につくってきました。

例えば私たちが投資している先では、チャレナジーという台風発電をしている会社があります。プロジェクトの基盤となっている特許はチャレナジーがもともと有していたものですが、エンジニアリングで支えているのはTHKさんの時空運動の技術です。

連携が成功するか否かというのは、成功の定義によると思います。大企業とスタートアップそれぞれで共通のゴールを設定する。試作品の完成で成功なのか、量産化して売上が立つところまでが求められているのか、しっかりと決めておく必要があると思います。

山本大阪大学発スタートアップである、マイクロ波化学の取り組みはうまくいっている事例です。

こちらはマイクロ波をつかった化学合成で、プロダクトとしてはいろいろな用途に使えます。そのため各分野ごとに特定の企業と連携して、ジョイントベンチャーなどもつくりながら進めていくビジネスモデルを目指しています。

これの何がいいのかと言えば、先ほど述べたスタートアップの壁、用途開発や資金調達、量産といった課題を一気に解決することができるモデルという点です。パートナーが得意なマーケット、プロダクトの場所で、すでに顧客がいる状態から有利にビジネスをスタートさせることができます。

企業同士の補完関係、ギブアンドテイクが連携成功における重要なポイントだと思います。

大企業での社内発スタートアップの可能性についてはどのようにお考えでしょうか。

山本社内発のスタートアップについては相談も増えていますし、私たちも力を入れていきたい領域です。

大企業やグループ企業の中で面白い研究テーマがあるものの、社内ではなかなか組織文化などの理由で事業が育たないことがあります。それを外に出して新しい人やリソースと組み合わせることで新たな可能性を生むことがあります。

具体的には私たちの1号ファンドで味の素さんと一緒に取り組んだ、つばめBHBというアンモニアをオンサイトで供給する企業との案件がありますが、こちらのようなケースを期待しています。

[参考:新素材普及の一手となるか。「スタートアップ×大企業」の可能性:異例の「JV」で製品化を目指すつばめBHB(INITIAL)]

社内発スタートアップの取り組みでは何が大事かというと、先程スタートアップの目利きで話したポイントと基本は一緒です。加えて言うなら、会社を飛び出してでもやっていくんだ、という気概のある人がいるかどうかですね。

【IPO or M&A】研究開発型スタートアップがとるべき出口戦略

支援先企業の最終的なイグジットについて、IPOとM&Aではどちらが重要だとお考えですか。

山本もちろんそれぞれの会社に合ったイグジットの方法があるという前提ですが、メインのシナリオはM&Aだと考えています。

素材や化学分野の事業だとステージ後半にいくにつれて何十億円といったお金や、設備投資が必要となってきます。

それを自分たちで大きくしていくのがいいのか、アセットをある程度持っている事業会社に引き継ぎ、M&Aでつないでいくのがいいのかというと、産業全体でみれば後者のケースが当てはまる場合が多い印象です。もちろん、未だ世界にないような挑戦をしている企業はIPOがふさわしいと思います。

永田たしかにM&Aが正解というパターンは多いのですが、私たちの投資哲学からすると、IPOの数を増やしていきたいです。なぜなら、お預かりしたお金を大きくすることを主目的にはしていないためです。

私たちが一番投資しているのは地方の技術系スタートアップです。地方にはまだたくさんのバリューが眠っていて、今後の日本社会のためにはそこから大きく羽ばたく必要があると思っています。なので、彼らには可能な限りIPOできる体制を前提にスタートしています。

例えば長崎県では現在上場企業がゼロになってしまいましたが、スタートアップが活性化する社会のエコシステムをつくっていくためには、おらが村の上場企業やそこから生まれる経験談、支援するベースをつくる必要があると思っています。それが私たちのやりたいことでもあります。

一方で社会実装だけを考えていくとM&Aやバイアウトというのは非常に重要だとも思っています。なので、実際に弊社でもイグジットしている案件は全てバイアウトであることも事実です。

グローバルに進出できる領域は、もはやリアルテックのみ

研究開発型スタートアップに投資する醍醐味とは何でしょう。

山本私達が重視しているのはグローバルでオンリーワン、ナンバーワンを作っていくこと。その挑戦は難しいですが、スタートアップと一緒にチャレンジして社会を変えていく、貢献していくことが醍醐味だと思っています。

永田私は好奇心がとても刺激される仕事だと思っています。

私たちの仕事は、ある意味ドラえもんをたくさん作っているようなもの。これまでにないものが新しく生まれる瞬間に立ちあえるという感動があります。しかも時間もお金も掛かり、それまで誰にも支援されなかった技術を持っている企業を、私たちが見つけて自分の人生や経験を賭けるのはとても意義ある仕事ですね。

また、日本がより発展していくためには研究開発型スタートアップの力は欠かせません。日本からAmazonやGoogleが生まれるのは想像できませんが、次のファナックや旭化成が生まれる可能性は信じられます。

加えて、それが中央集権型ではなく、地方に分散されているのも日本の未来性です。ローカルからダイレクトにグローバルに進出できる領域は、もはやリアルテックしかありません。

自分たちがやっていることが地球の課題解決や、人の課題解決に直接つながっていることを体感でき、かつ日本という国に大きな意味合いを持てるのはとてもやりがいのある仕事だと思っています。

(聞き手:森敦子、文:鈴木光平、編集:花岡郁、デザイン:石丸恵理)


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