東南アジア最大規模のデカコーン(企業価値100億ドル以上)、Grabが年内に米ナスダック市場に上場する。同社はIPOに際し、SPACと合併する道を選んだ。Grab以外にも米WeWorkなど著名スタートアップが次々とSPACによる上場に名乗りを上げる。
2020年に前年比4倍と急激に件数が増え、一気に世界中の注目を集めたSPAC。米国のブームに乗り遅れるなとばかりにシンガポールや香港の取引所がSPACの導入に動く。有望なスタートアップを呼び込むために取引所間の競争が激しくなる中で、足元では日本でもSPAC導入の議論が始まろうとしている。
「裏口上場」「バブルのあだ花」と批判されることも多いSPACは投資家やスタートアップにどんなメリットやデメリットをもたらすのか。日本の株式市場に今、SPACは必要なのか。米国を代表する資産運用会社のT.Rowe Priceや日米のスタートアップに投資するWiL、投資先のAI保険、HippoをSPACで上場させようとしているPlug and Playといった著名投資家に加え、上場ベンチャーの成長支援を手掛けるグロース・キャピタルに聞いた。
ディープテックが次々上場
米国でSPACの勢いが止まらない。2020年は前年に比べてSPACの上場件数が4倍、調達金額が6倍にそれぞれ急伸。2021年はそれを上回る勢いでSPAC上場が相次ぎ、4月19日時点で件数が308件、調達金額は1000億ドル(約11兆円)と、すでに2020年を大幅に上回っている。
具体的に米国ではどのような企業がSPACを通じて上場しているのか。SPAC上場の恩恵を最も受けるだろうと言われているのが、収益化までの期間が長く、従来のIPOが難しかったディープテック(研究開発型企業)やバイオだ。
著名VCのNEAやSequoiaに加え、グーグルが出資している一般消費者向け遺伝子検査の23And Meは2021年の第二四半期に英ヴァージングループの創業者、Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏が設立したSPACと合併する見通しで、合併時の企業評価額は35億ドル(約3850億ドル)と見込まれている。同社は一般消費者向けの遺伝子解析サービスで膨大なデータを収集しており、今後はこうしたデータを創薬の分野で活用していく。
Uberやトヨタ自動車のCVC、トヨタAIベンチャーズが出資しているJoby Aviation(ジョビー・アビエーション、以下ジョビー)はLinkedinの共同創業者であるリード・ホフマンと、ソーシャルゲーム大手のジンガの創業者、マーク・ピンカスが設立したSPAC、Reinvent TechnologyPartnersと合併し上場する見通し。
ジョビーは「空飛ぶタクシー」と呼ばれる垂直離着陸機(eVTOL)を開発している。同社は10年に渡って1000回以上の飛行実験を繰り返してきた。eVTOLは次世代の移動ツールとして期待を集めてはいるものの、同社が空飛ぶタクシーとしての実用化を見込むのは2024年からで、予定通りに実用化し、収益に結びつくことは保証されていない。
先行してナスダックに上場していた中国の大型ドローンメーカー、EHang(イーハン)は米調査会社がレポート内に虚偽記載があると指摘したことをきっかけに2021年に入って株価が急落している。
一時、業績が悪化し、ソフトバンクが立て直しに動いたWeWorkもSPACとの合併による上場を選択している。同社は2019年に業績が悪化。コンプライアンスの問題も重なり、米NASDAQ市場への上場申請を取り下げていた。
SPACとの合併合意から半年で上場
米国で一気に活用が進んでいるSPACだが、投資家やスタートアップにとってはどのようなメリットがあるのだろうか。それを探るために、まずはSPACの仕組みを見てよう。
まず、企業経営者やファンドマネジャーなどがSPACを組成するところから始まる。SPAC自体は事業を手がけず、企業の買収のみを目的としている。
SPACの上場時はどのスタートアップと合併するかは決まっていないが、豊富な実績を持つ投資家やその専門分野の第一人者、著名な経営者など、組成者の名前によって資金を集める。
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