今週のトップニュースは、スマートロック事業を手がける「Photosynth」の資金調達だ。海外機関投資家のフィデリティ・インターナショナルをリード投資家に17.5億円を調達した。ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたビジネスモデルと、スマートロック事業を手がけるビットキーとのファイナンス戦略の違いを紹介する。
そのほか、ディー・エヌ・エーによるキャラクターのライブ配信「IRIAM」の買収ニュースや、米国スタートアップで日本市場を狙うプレゼンテーションツール「mmhmm」の資金調達ニュースを解説する。
スマートロック事業を展開するPhotosynth(フォトシンス)は17.5億円の調達を発表した。
リード投資家は機関投資家のフィデリティ・インターナショナル。NTTドコモベンチャーズや三井不動産なども追加出資した。
Photosynthが展開する「Akerun」サービスサイト
ニュースのポイント:スマートロック2社の資本政策と評価額に注目
フォトシンスは2014年に設立された筑波大学発スタートアップで、物理的な鍵が不要なスマートロック市場を開拓した。既存のドアに後付けで設置し、鍵をクラウド管理できる「Akerun入退室管理システム」などクラウド型のIoTサービスを提供する。
同社の特徴は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたビジネスモデルだ。既存の入退室管理システムは売り切り型が多い中、ソフトウェアの月額制サブスクリプションモデルで付加価値を与える戦略を取る。
法人企業を中心に展開し、累計の導入企業は5,000社を超える(2020年12月時点)。2020年は新型コロナウイルスの流行も追い風となり、導入企業が約10ヶ月で1,000社増加した。
同じくスマートロック事業を展開するスタートアップは2018年設立のビットキーがあるが、両社の資本政策と評価額には違いが見られる。
フォトシンスは設立から2020年までは独立系VCを中心に資金調達してきたが、今回は機関投資家とCVCが中心のラウンドとなった。本調達によりフォトシンスの累計調達額は約70億円(融資を含む)、調達後企業評価額は165億円(INITIAL推測、2021年6月7日時点)となった。
一方のビットキーも2020年から2021年4月にかけて、総額約32億円を調達している。同社の累計調達額は約90億円、調達後企業評価額は551億円(INITIAL推測、2021年4月28日時点)とフォトシンスを大きく上回る。
両社の評価額は2020年1月時点ではあまり差はなかった。フォトシンスが84億円(2020年1月時点)、ビットキーが94億円(2019年12月末時点)だ。変化は2020年11月、ビットキーがオフィス家具メーカー上場企業のオカムラと資本業務提携をした際に生じた。2020年8月のビットキー、調達後評価額は171億円だったが、わずか3ヶ月で519億円と3倍以上になっている。同社は、以降のラウンドでは事業会社を中心に調達を行っている。
マザーズ新規上場企業の初値時価総額中央値が150億円(出所:KPMG「2020年のIPO動向について」)であることからも、高い評価額であることがうかがえる。
だが、果たして両社の実績や成長性にそこまで大きな乖離はあるのか。今後、フォトシンスは、JR東日本スタートアップ、コクヨ、野村不動産グループと提携し、大手の営業力を活用して成長を加速させる。両社の真の実力については、今後の資金調達や評価額の推移をもとに注意深く見守っていく必要がある。
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