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2021/06/18

【解説】Salesforceに学ぶ、CVC成功の「3つの鍵」

  • #VC/CVC
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デジタル・トランスフォメーション(DX)が騒がれる今から約20年前から、ソフトウェア業界のビジネスモデルを変革した企業がある。顧客管理ツールを提供するSalesforceだ。創業から約20年間で時価総額約20兆円規模まで成長し、世界トップのCRM企業になった。

顧客に求められる機能を付加し続けることで新たな顧客獲得や契約継続に結びつける。SaaS企業の成長に不可欠なこの「進化」の手段として、Salesforceはスタートアップへの投資を位置づけてきた。

SalesforceのCVCはこれまで400社以上に投資し、130社以上のイグジット実績を持つだけでなく、投資先の買収や自社の売上も増加させている。多くのCVCが目標に掲げながら実現に苦戦している「戦略リターンと財務リターンの両立」を同社のCVCは見事に実践し、企業力の向上に着実に結びつけてきた。

Salesforceはどのようにスタートアップ投資を会社の成長につなげてきたのか。戦略リターンと財務リターンを両立させる、独自の仕組みとは。本記事ではSalesforceのCVC運営を支える仕組みを明らかにした上で、国内CVCがそこから学べる3つの示唆を提示する。

CONTENTS

クラウド王者のSalesforce、強さの秘密

言わずと知れたSaaSの雄・Salesforce.com(以下、Salesforce)は米国発の企業で、顧客関係管理(CRM)ソリューションを中心としたクラウドサービスを提供する。

企業は同社の製品を通じて、マーケティング、営業、コマース、サービスなどすべての部署で、顧客の情報を一元的に共有することができる。世界のあらゆる産業の15万社以上に導入されており、CRMツールでは世界No.1のシェアを持つ。

Salesforceが設立された1999年当時、ソフトウェア業界では売り切り型のシステムが主流であったが、同社はクラウドでサブスクリプション型のサービスを提供。まさにSaaSの先駆けであり、ソフトウェア産業のビジネスモデルを変革して新市場を開拓してきた。

2004年にニューヨーク証券取引所に上場後も増収を続け、株価も右肩上がり。時価総額は約20兆円を超える(2021年6月14日現在)。

Salesforceの強さの秘密は、「進化し続けるプラットフォーム」にある。サブスクリプション型のビジネスモデルは、自社の製品をより多くの人に長く使ってもらうことが売上・利益に直結する。逆に切り替えコストが安いことから、顧客が機能に満足しなければ簡単に競合他社に乗り換えられてしまう。つまり、成長のためには、顧客を満足させられるよういわば永遠に進化することが求められることがSaaS企業にとっての宿命であると言える。Salesforceはそのために、自社で機能を付加するだけでなく、独自のエコシステムを形成・発展していったのだ。

エコシステムの肝になる、スタートアップとのタッグ

では、Salesforceが作り上げたエコシステムとはどのようなものなのか。

その発展を支えてきたのは、スタートアップを中心とした企業への投資だ。

Salesforceは営業支援、マーケティング、分析、eコマースなどさまざまなニーズに向けたクラウドサービスを提供しているが、実はスタートアップの買収からサービスラインアップを拡充したものが多い。例えばマーケティングはExact Target、分析はTableauなどだ。同社は2020年にSlackの大型買収を発表したが、今後はSlackもサービスラインアップに加わることとなる。

こうした買収による機能強化に加え、ビジネスアプリのマーケットプレイス「AppExchange」もエコシステムの発展を支えてきた。2006年に開始し、現在は世界最大の法人向けクラウドマーケットプレイスとなったAppExchangeでは、Salesforceの顧客に向けて出資先のスタートアップなど第三者が開発したサービスを販売・提供している。

顧客がAppExchangeを通じてサービスを購入すれば、投資先とSalesforce、双方の売上がともに増加する。現に日本では、2020年に最も売れたAppExchangeアプリTOP10にSalesforce Venturesの投資先が複数ランクインし、シナジーを生み出している。投資先の例はチームスピリット(働き方)、Sansan(名刺管理)、freee(会計)、UPWARD(地図)などだ。2019年に発表されたIDCの調査では、Salesforceとそのパートナーで構成されるエコシステムは2024年までに1.2兆ドルの新規ビジネス収益を生み出すと発表している。

パートナー連携は投資先だけに限られるわけではなく、スタートアップから中小企業までさまざまな企業と提携している。ただ、顧客が求める他社の機能をよりスムーズにAppExchangeを通じて提供できるよう、Salesforceは出資を手段として使ってきた。

飛び地に投資しないCVC

SalesforceのCVCであるSalesforce Venturesは、会社設立から約10年後の2009年に開始。CVC開始後5年間は年間20〜30社前後に投資、2017年以降は年間約50社のペースで投資している。

Salesforceは自社のバランス・シートから直接投資をしている。そのうえで、2014年にはモバイルアプリ、2016年にはAIなどの特定技術、2018年には米国以外の地域など、その時々の重点分野を対外的に発表してきた。

2021年現在、24ヵ国400社以上に投資、130社以上のイグジット実績がある。アーリーステージへの出資がメインだが、近年はレイター〜グロースステージへの出資も増加している。

日本では、2011年から日本に専任メンバーを置き投資を開始。2018年に1億ドルのファンドを組成。初期は年間4〜5件、近年は追加投資も含めて年間10件程度に投資している。主な投資先は、名刺管理ソフトのSansan、クラウド会計のfreee、施工管理アプリのアンドパッドなどだ。

2020年からは日本チームの主導で韓国企業にも投資するなど、SaaS市場が拡大中の韓国にも投資地域を広げている。

CVCでも顧客価値の最大化を徹底追及

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