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2019/11/04

KKR、DNX Venturesに聞いた「日本への投資と今後」

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  • #VC/CVC
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コールバーグ・クラビス・ロバーツ(以下、KKR)。世界有数のプライベート・エクイティ投資会社である。

近年、スタートアップへの投資を加速させており、米国のライドシェアサービス「Lyft」や中国のモバイル向けショートムービープラットフォーム「TikTok」 を運営するByteDanceなど、世界の名だたるスタートアップに投資をしている。

今年8月のフロムスクラッチのシリーズDでリードインベスターを務めたことが、日本のスタートアップへの初の投資となった。

また、本ラウンドにはシリーズAから継続してフォロー投資を行うDNX Venturesも参画している。

KKR 谷田川氏とDNX Ventures 倉林氏。今回は本ラウンドのキーマンとも呼べる2人の投資家に話を聞いた。

「じつは…」の話も数多く飛び出した、グローバル投資家が見ている投資ポイントとは。

そして、谷田川氏と倉林氏、フロムスクラッチの意外な接点、日本スタートアップの今後と求める起業家像とは。

CONTENTS

私たちがフロムスクラッチへ投資した理由

なぜフロムスクラッチへ投資を決めたのでしょうか。

倉林DNX Venturesは、2015年のシリーズAからフロムスクラッチへ投資しています。 私はDNX Venturesに参画する前までSalesforce Venturesにいました。その時から「デジタルマーケティングやマーケティングオートメーションの波が日本にもくる」と感じていました。

倉林陽(くらばやし・あきら)/ 富士通株式会社、三井物産株式会社にて日米のベンチャー企業への投資、及び投資先の事業開発を担当。2015年3月DNX Ventures入社し、50社を超える日本のSaaS/Cloudベンチャーへの投資実績を保有。

Salesforce.com(セールスフォース)は米国でExactTarget(イグザクト・ターゲット)を買収し、Marketo(マルケト)等のマーケティング企業も、その波に乗って日本で同様のサービスを展開する動きをみせていました。

そんな折、当時、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(現ANRI所属)にいた河野氏の紹介でフロムスクラッチを知りました。

話を聞くと、安部さん(フロムスクラッチCEO)が解決を目指すペインは、グローバル企業も注目している領域でした。

当時、すでに安部さんの営業力で売上が伸びており、MRR(月次収益)から判断するとバリュエーションも十分納得感がありました。そのため、すぐにシリーズAの投資を決め、シリーズBでも追加投資をしています。

では、今回のシリーズDへの投資もスムーズにいったと。

倉林実は裏話があって、今回は投資額を集めるのに苦戦しました。

DNX Venturesでは、基本的に1度投資をしたら、その後のラウンドでも継続してフォロー投資を行います。しかし、すでにシリーズA、Bで1社あたりの投資予算額に達してしまい、シリーズCに参加できませんでした。

その結果、今回のシリーズDのタイミングでは、安部さんからも「投資してくれますよね?」とプレッシャーをかけられて(笑)。

シリーズDが大型調達になることはわかっていましたし、他の投資先でも同様のニーズが発生する可能性が高かったので、年明けから追加投資用のファンド組成に動きました。

しかし、ファンドはすぐにつくれるものではありません。大慌てでお金を出してくれるLP(出資者)に説明をして、なんとか新しいファンドを組成してシリーズDの投資に間に合わせました。

KKRさんの投資額が40億円と大きかったため、私たちが追加投資した10億円の存在感が薄らぎましたが(笑)、通常の3社分にあたる規模で投資をしています。

谷田川さんは、フロムスクラッチのどのような部分に着目されたのでしょうか。

谷田川まず前提として、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(以下、KKR)では「世の中の新技術を理解せずに、従来の手法だけで分析をしても的確な投資判断はできない」との共通認識をもっています。

従来の分析でWalmart(ウォルマート)を盤石だと判断しても、Amazonのような新興企業が突然出てきてディスラプトされる事例が起きています。

今までのような「テクノロジー」「ヘルスケア」「リテール」「ファイナンシャルサービス」のような産業に対して縦割りではなく、全業界の投資チームが横断的にテクノロジーに精通したうえで投資判断をする必要がある。

社内会議でも毎回「Everyone needs to be a tech-savvy investor.(全員が産業のテクノロジーに精通する必要がある)」と話がでます。

谷田川 英治(やたがわ・えいじ)/ KKR入社以前は、ゴールドマン・サックス投資銀行部門にてニューヨーク及び東京で勤務し、テクノロジー、メディア、テレコム業界のM&Aや資金調達などの案件に関与。2006年にKKR入社後は、テクノロジー業界チームのメンバーとして、パナソニック ヘルスケア、日立工機、日立国際などへの投資に関与。

そういった新しい変化の芽に対するアンテナを高める意味で、成長しているテクノロジー企業への投資に注力しています。

私たちが投資する際に見ていることは大きく2つで、「市場性」と「その市場の中での競争優位性」です。

市場の観点ではグローバル視点で見ても、フロムスクラッチが取り組んでいるCRM/マーケティングのソフトウェア領域は、ERP(エンタープライズリソースプランニング)を超えて最も大きい市場です。

その中でも、日本のデジタル領域は大きく世界に遅れていますし、人手不足により業務の効率化が叫ばれニーズが高まっています。そういった状況を踏まえて、市場は間違いなく今後伸びていくと判断しました。

競合優位性の部分も、競合である外資系ツールベンダーと比べ、フロムスクラッチが開発するb→dashの「オールインワンでサービスを提供する」点は日本企業に合っており、優位になりうると考えています。

米国の企業は機能ごとに自社に最適なサービス・ツールを選び、それらを自分たちで統合して使うのが普通です。

しかし、日本企業はエンジニア不足もあり自社でのツール統合はできません。なので、各機能がそれぞれ100点でなくても、コストが安く、導入すればすべて80点の性能を発揮するものがあれば、そちらを使いたがります。

企業へのマーケティングツールの導入コンペにおける勝率を見ても、フロムスクラッチが競合企業に対して高い優位性をもっていることがわかりました。

今までKKRが日本のスタートアップへの投資をしなかったのはなぜですか。

谷田川KKRでは、3年程前から日本のスタートアップへの投資を検討していました。

日本には20億円以上を出せるグロースフェーズに対応した投資家が少ないので、Sansanやメルカリ、freee、ラクスルなど、当時大型の資金調達をしていた企業は特に注目していました。

しかし、KKRとして日本のスタートアップへの投資経験がないため、日本独自の市場に合わせたサービスを展開している企業に対して、KKRのグローバルメンバーからビジネスモデルの優位性について理解が得られないことが多かった。

そのため、投資したい企業があってもできない状況が続きました。

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それに対してb→dashは、グローバルな観点でみても、市場性と競争優位性の両方が揃っています。

また、KKRにはインダストリー・アドバイザーとしてSalesforce.comが買収したExactTargetの共同創設者ピーター・マコーミック氏がいます。彼がフロムスクラッチを知っており、ポジティブな評価をしていたのも大きかったです。

倉林実は、私もピーターとはsalesforce.com時代からの知り合いで、以前、フロムスクラッチのアドバイザーへの就任を依頼していました。

その話は流れてしまいましたが、フロムスクラッチについては覚えていたんだと思います。

谷田川ピーター氏は「b→dashのバリュープロポジション(提供価値)なら、日本市場において外資ツールベンダーと戦えていても、全く驚きはない」と言っていて。彼の言葉は、投資の後押しになりました。

そういったいろいろなピースが揃い、KKRとして日本初のスタートアップへの投資につながりました。

今後VCとして、フロムスクラッチに対して具体的にどのような支援を考えていますか。

倉林シリーズAで投資した頃は、SaaS企業が見るべきKPIや組織づくりの支援などをしました。

プロダクトが顧客に評価され、プロダクトマーケットフィットした後にマーケティングや営業チームを立ち上げたり、提供サービスの価値を最大限に届け、顧客の成功を目指すCS(カスタマーサクセス)チームをつくるなどしました。

しかし、現在の規模まで企業が大きくなると、今後は経営人材の紹介などがメインになると思います。

今までの投資先のケースでは、この企業規模になると上場している企業が多いので(笑)。

谷田川人の紹介はもちろんですが、グロースステージの企業がさらに大きくなるには「組織のつくり方」や「守りのガバナンス」といった部分も重要になってきます。

そういった点で、今までKKRが蓄積してきた投資先のノウハウを提供したいです。

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また、海外展開をする上では、成長につながるコーポレートネットワークが重要になってきます。

海外展開をする場合、ターゲット企業に対して下から営業するよりも、CEOやCMOといったトップを直接落とすのが定石です。私たちのグローバルネットワークを活かし、そういったトップダウン営業の支援もしていきたいです。

成長率を伸ばすことが今後は重要

フロムスクラッチの今後の伸びしろはどこでしょうか。

谷田川短期的には、国内での成長余地が大きいので、そこにフォーカスして企業の成長率を高めるのが重要です。そのために大きな予算をかけて、マーケティング投資も行っています。

中・長期的にはアジアなどの海外展開を進めて欲しいです。日本企業が提供しているソフトウェアで、海外で戦えているプロダクトはほとんどないので、世界で戦えるSaaSカンパニーを目指してもらいたい。

倉林日本と米国のSaaS上場企業の成長率を比較すると、日本企業は大きく劣っています。

米国基準の成長率を満たしているのは、日本ではSansanくらいだと思います。

日本では、黒字化すればバリュエーションが高くつく独特のマーケット傾向があります。しかし、グローバルでは成長率を高めなければ勝負になりません。

年間約1兆円以上の売上があるSalesforce.comですら、現在でも約20%以上の年間成長率を達成しています。そういった世界基準の成長を意識して、フロムスクラッチには今以上に成長率を上げていってほしいです。

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日本で次に来るSaaSトレンド

今後、日本のスタートアップで期待している分野はありますか。

倉林SaaS領域では「エンタープライズ向け」と「業界特化型」の成長の余地が大きいと考えています。

まずエンタープライズ向けでは、Salesforce.comが日本に参入してきたことで、SFA(営業支援システム)、CRM(顧客管理システム)、HR、マーケティング領域のSaaSが増えてきました。

米国では、セールス、マーケティング市場の次にHR市場も大きく盛り上がっているので、今後日本でも同領域は盛り上がるのではないでしょうか。DNX Venturesでも、それら領域には積極的に投資しています。

また、セールス、マーケティング領域の中でも、セールスアクションを自動化する「セールスエンゲージメント」の領域は米国でも拡大しているので、日本でもこれから増えてくるでしょう。

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もう1つの注目領域は、業界特化型のSaaSです。

日本ではITの恩恵を受けていない業界が数多くあります。既にプレイヤーがいても、先端のデジタル技術の活用やモダンなUI/UXの実装ができていないことが多く、スタートアップでも十分に勝算はあるでしょう。

とくに残業時間などをはじめとする日本特有の商習慣に着目したアイディアは、海外の起業家には思い付けません。

谷田川日本のスタートアップは、日本の市場がガラパゴスだからこそ守られている部分が少なからずあります。

投資側からするとGDPが世界3位の日本市場を獲りきれれば、十分リターンは出せるので、無理に世界に出ていかなくとも、まずは国内市場で500億円や1,000億円の売上をつくれれば問題ないと考えています。

倉林業界特化型SaaSの競合はだいたい日本の大企業なので、質の高い起業家とエンジニアが組み、私たちが資金提供して戦えばまず負けません。

一気にサービスをグロースさせてSaaS市場を独占した後、Eコマースやビッグデータのビジネスに参入する勝ちパターンを増やしていきたいです。

一方で世界的な投資トレンドになっているサイバーセキュリティ領域に対しては、日本で投資をしていません。

なぜなら、業界を問わずに世界的に展開できる領域のサービスは日本企業よりも米国企業が強いことが多く、米国の投資先のサービスを日本で展開するパターンの方が勝率が高いからです。

KKRとDNX Venturesが起業家に求めるもの

投資するにあたり起業家に求めるものとして何がありますか。

谷田川海外に限らず、国内で勝つためにも起業家の目線の高さはなくてはならない要素です。

たとえばフロムスクラッチは、目標達成のためにピボットを繰り返してきました。それこそ、ミッション達成のために不要と見切るや否や創業事業でもあり、一定利益も出やすい「受託事業」をスッパリと売っています。

そういった高い目線をもって意思決定できる起業家は、多くありません。

日本は上場しやすいこともあり、受託事業での収益を合わせてなるべく高値での上場を目指す人も多いです。

倉林安部さんは最初から目線が高かった。ユニコーン企業の先まで見据えて、受託事業を止め、SaaSの価値を上げるための意思決定に躊躇いがありませんでした。スモールイグジットを創業時から目指していません。

目線の高さは、少なからず持って生まれたものもあります。私たちがモチベートして彼らの目線を上げるのは大変です。

「この事業の大きさで上場したら、グロースが止まってしまう」と言っても、目線が上場で止まってしまう起業家の気持ちは変わらないことが多いです(笑)。

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Sansanの寺田CEOがすごいのは、「小さく上場する企業をつくるために、三井物産を辞めたんじゃない。イノベーションを起こしたいんだ。」と、当時から言い続けていることです。

その目線の高さに惹かれて、チームの目線も自ずと高くなるのではないでしょうか。

なので、私も起業家に会うときは、寺田さんと「同じ匂い」がするかを気にしています。

谷田川安部さんはシリーズDでの100億円調達のときに、ビジネスをやる理由として「使命感」を挙げていました。

そういった事業に対する使命感は、目線の高さにも通じます。客観的に見て「正しい・正しくない」ではなく、自分の中から湧いてくる「なんとしても、成し遂げなければならない」という抑えられない気持ちを、創業者や経営陣がもっているかが重要です。

「自分がやることを、すべて正しいことにしてしまう」くらいのマインドがなければ、スタートアップは絶対成功できません。後から第三者が起業家に対してコーチして、「目線を高くしろ」とか、「使命感を持て」というのは無理です。

最終的にパッションの有無が重要になってくると。

倉林以前、ユーザベース共同創業者(現経営顧問)の新野さん、寺田さんとご飯を食べたときも、2人のプロダクトに対する「強烈なこだわり」を感じました。

彼らは新野さんの新プロダクトで使うロゴの色や形、プロダクト内のページの表示方法についてひたすら話していました。

ページの表示方法が気に食わなくて、「LinkedInの表示方法を見てみろよ」と寺田さんが食事中ずっとアドバイスしているんです。

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(画像:Tero Vesalainen / Shutterstock.com)

そういった企業やサービスに対して強烈なこだわりをもてる人が、大きく伸びる起業家には多いのではないでしょうか。

谷田川特にアーリーやグロースの段階において、パッションは重要です。

KKRでもスタートアップへの投資を決める上で重要な要素は、「いいチーム、いい起業家」だと言っています。

その条件を満たせれば、問題が起きてもピボットして解決できます。初期とは異なる形のサービスに変わるかもしれませんが、結局リターンを出してくれる。

もちろん、フロムスクラッチのプロダクトであるb→dashそのものにも可能性を感じています。しかし長期的に考えると、環境が変化しても高い目線のままピボットできる能力をもった起業家と経営陣に投資した部分もあります。

倉林市場が大事と言いますが、いい起業家は勝手にいい市場を見つけてきます。

なので、どれだけ目線の高い起業家を見つけてきて投資できるかを、もっとも意識しています。

また、もし海外への進出を考えているのであれば、「グローバルな視点で考えても、戦える人材を集められるか」を判断しています。

世界を相手にして戦うとすると、社長自らもその立場のままではいられないかもしれません。

私たちは海外で勝負したいと言う起業家に、「海外に挑むなら、日本人だけのチームでは恐らく無理だけど、大丈夫?」とよく聞きます。そうすると「やっぱり、まずは日本で挑戦します」と答える起業家は多いです。

スタートアップにとって最も重要な役割を果たすマネジメントチームを、海外挑戦に最適化できているかは意外と多くの企業で抜けている視点ではないでしょうか。

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(聞き手:森敦子、文:町田大地、デザイン・写真、廣田奈緒美)

序章:フロムスクラッチ、KKR、GSから100億円規模の大型調達 企業編:見据えるは海外。フロムスクラッチ流「3つの優位性と再現性の追求」 投資家編:KKR、DNX Venturesに聞いた「日本への投資と今後」


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