最近、耳にすることが多くなっている「SaaS(サース、Software as a Service)」。近年はスタートアップでもSaaSの企業が増えている。SaaSについて深く知らない読者でも理解ができるよう、改めて基礎的な部分をファクトを含めて確認していく。
※記事内ではSaaSの中でも特にBtoB向けSaaSを「SaaS」と定義している。
※本記事は、2018年11月15日にNewsPicksで公開した記事と同一の内容です。
SaaSとは?
森 ねぇ、最近「SaaS(サース)」って言葉を毎日のようにきくことが多くなったから、調べたら「Software as a Service」の略って出てきたのよ。
これまでパッケージで提供されていたソフトウェア製品がクラウドで提供されるようになったということだと思うのね。 クラウド化されたことによって、インターネットにつながる環境であれば、いつどこからでもそのサービスを利用することができるようになったということだよね。
それがなんで、マーケティングの人たちがそんなに騒ぐかんじになってるの?
酒居 それは、販売の形態が変わることによって、「売ったら終わり」ではなく、使いたい期間だけ契約できるという「サービスを利用する」、つまり、ビジネスモデル全体が変わったからですね。
これがいわゆる「サブスクリプションモデル」という継続課金型のビジネスモデルへのシフトですね。
森 ふーん。でもそれって消費者にとってはありがたそうな話だけど、売る方は大変になるよね。
酒居 従来の、モノを売ってその売上目標を経営指標にするという考え方だとそうなるかもしれません。 メリットをまとめてみました。
つまり、ユーザー(サービスを利用する側)とベンダー(サービスを提供する側)のメリットは表裏一体といえますね。 そして、近年の流れとして、BtoC、BtoB問わず、さまざまなビジネスが、このサブスクリプションモデルへと移行しています。 ZuoraのSUBSCRIPTION ECONOMY INDEXというのがあるんですが、サブスクリプションモデルを採用している企業とそれ以外の企業の売上の伸びを比較しています。
これをみるとサブスクリプションモデルを採用している企業の売上の伸びが顕著で、その勢いがみてとれますね。
(出所:Zuora SUBSCRIPTION ECONOMY INDEX)
SaaSで代表的な企業知ってますか?
森 Adobeとか?わたしも最近、Photoshop使いだした。
酒居 そうですね。 元々AdobeではPhotoshopやIllustratorなどのクリエイティブツールをパッケージソフトとして販売してました。価格としては、数万円から数十万円という高額のもので、プロのデザイナー等のエキスパート向けでした。 しかし、このビジネスモデルを近年サブスクリプションモデルへと大きくシフトしたんです。
出所)Adobe Investor Presentation June, 2017
その結果、単体で利用できるものなら、最低月額980円などの低価格で利用できるようになりました。そうすると、これまで手が出せなかった一般ユーザーも気軽にサービスを利用できるようになる。
導入ハードルが下がることで、ユーザーの垣根が広がり、結果としてこれまで以上のユーザーを獲得することができるようになったんです。
このサイクルがあることで、一人の顧客から一度に入ってくる金額は少額でも、それがストックとして積み重なっていくと、結果としては以前のパッケージ販売のとき以上の収益を上げることができ、Adobeの最近のさらなる急成長につながっているんです。
出所)Adobe Investor Presentation November, 2018
この例を見てみても、単にサービスを利用してくれそうな新規顧客を見つけるというだけではなく、「サービスを気に入って、長期的に使い続けてくれるユーザーをいかに見つけるか」が、マーケティングの考え方の前提になってきています。 つまり、マーケティングの目的を単に「見込み顧客の集客」ということから、「LTVの合計値の最大化」へとシフトして考えていくことが大切になりますよね。
SaaSはいつから始まったの?
森 なるほどねー。販売方法の構造が変わっていくのね。 ところで、クラウドコンピューティングが一般的に普及し出すのも1990年以降だと思ったので、SaaSが出てきたのはそのあたりかしら。
酒居 そうですね。SaaSは、1998年頃に普及し始めたASP(Application Service Provider)が元になっています。 2006年頃から「SaaS」という言葉がASPに取って代わって使われることが増えてきました。 ここ数年になって、ようやく日本でもSaaSという言葉が定着化し始め、一般的にも用いられるようになってきました。感覚的には、ここ1~2年のような気がしています。 とくにスタートアップ界隈では、SNS上でも注目を集めていて、SaaSと冠したイベントが増えています。
森 へええ。わたしの周りにだけSaaSマニアが揃ってるんだと思ってたんだけど、最近はSaaSの注目度が高いのね。
国内のSaaSはファクトからみても盛り上がっている
酒居 逆に質問してもいいですか?
森 なにかな。
酒居 日本でもSaaS元年と言われたり、SaaS関連のイベントが増えているんですが、ファクトベースではどうなんですか?
森 ファクトなら任せろ。国内スタートアップに限った話になってしまうけど、SaaS企業の数字を確認しようか。 国内SaaSスタートアップの資金調達の規模感はこんなかんじだよ。
2017年がここ10年だともっとも大きく、268億円の調達があったね。
酒居 おお、そうすると、SaaSはスタートアップ中心に展開が進んでいるので、最近の盛り上がりとも整合性がとれますね! 調達社数をみると、2012年前後と2015年に大きく伸びてるんですね。
森 そうだね。国内スタートアップはソフトウェアやってるところが圧倒的に多いんだけど、2010年前後はゲームアプリなど、BtoCのアプリ開発やっているところの調達が目立っていたんだよね。BtoBのサービスはここ数年で増えてきているね。
酒居 へぇ!規模的にはどうなんですか?SaaSは大きいんですか?
森 2017年の国内スタートアップ全体の資金調達額合計が2,921億円あるので、およそ1割の規模を占めるのがSaaSということになる。
ちなみにこのSaaSの定義は調査日時点において、①法人向けにクラウド上からソフトウェアサービスを提供している、②サブスクリプション型の課金方式が確認できるの2点を満たしている企業なの。 つまり、情報開示が未整備で確認がとれない企業は含まれていないので、実際はもう少し大きい可能性があるね。
酒居 なるほど。2018年下半期はfreeeさんが65億円の大型調達をしていたので、今年も調達額合計は大きそうですね。
国内SaaSスタートアップの勢い
森 国内スタートアップ業界の最近のトレンドは1社あたりの調達額が大型化していることなんだけど、SaaSスタートアップはさらに大型化が進んでいることが特徴なんだよね。
酒居 それは面白いっすね。SaaSはサブスクリプションなんで、先の見通しが立てやすいってのはありますね。
森 そうだね。それはお金を出す側にとってもそれが影響してる可能性はあるね。
特定の業界・分野に特化するSaaS企業の大型調達も目立つ
森 ちなみに2017年の国内SaaSスタートアップの調達額上位10位の顔ぶれはこんなかんじ。
酒居 なるほど。Sansanは名刺管理サービスで有名ですね。顔ぶれとしては、トレタなど特定の業界・分野に特化したSaaS企業が大きな調達していることが面白いですね。
森 そうかもしれない。2018年上半期では人事・労務領域のSaaS、SmartHRが約15億円を外部調達していたり、次世代型の電子薬歴システム「Musubi」のカケハシが約6億円の外部調達(同時期に権利行使もしており、資本金の増加で約10億円)しているね。
あとは、設立から5年以内の新しい企業も大きな調達をしていることも特徴だね。
SaaS事業の立ち上げのリアル
森 SaaSの事業分析って、たしか解約率や顧客獲得コストとかいくつか主要な指標があるんだよね?
酒居 そうっすね。これまでのパッケージ型のビジネスモデルの場合、従来のビジネスで使われる売上や粗利、経常利益の金額や比率がポイントとして見られていましたが、SaaSになるとそれとは見るポイントが変わってきます。 代表的なものとしては以下があげられますね。
森 なるほど。でも業績ってあくまでも結果論だから、SaaSだからビジネスがうまくいきやすいとかはないよね。 もちろん、(オンプレミスの事業に比べて)大きな設備投資とかは必要ないので、起業コストは相対的に低いとかはあるだろうけど。
酒居 それは仰る通りですね。解約を防ぐために、より企業側はユーザーに寄り沿ったサービス展開をしなければいけない。ユーザーに正直なサービスともいわれますね。
森 実際のビジネスでの正解の公式はないもんねー。
国内SaaSは今後も要注目分野
酒居 中小企業からエンタープライズ企業まで、業種業態、規模を問わず、さまざまな企業でSaaSの導入がますます加速しています。これからもSaaSビジネスの裾野はどんどん広がっていくと考えられます。
森 国内SaaSはスタートアップを中心に発展しているので、スタートアップ業界でもSaaSのトレンドは注目だね。 SaaSはSaaS同士の連携が多いことも特徴で、現在は、足の速いスタートアップ同士の連携が目立つけれど、今後そこに大手企業も加わってくるのか。Adobeがマルケトを買収したような、将来を見据えた一手が日本も起こってくるのか楽しみだね。
解説・編集:森 敦子(もり あつこ) // 株式会社ジャパンベンチャーリサーチ 執行役員 シニアアナリスト
解説:酒居 潤平(さかい じゅんぺい) // 株式会社FORCAS Marketing & Branding Team マネージャー