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2019/06/27

見せかけの「ユーザーファースト」に囚われるな。徹底的に価値を問うSaaS企業の戦い方

  • #対談
  • #SaaS
  • #飲食

飲食店が抱える課題に的確な解決法を提供することで、99%のサービス継続利用率を誇っている企業がある。

創業当初から「Issue First」をバリューに据え組織に浸透させてきた、飲食店の予約台帳/顧客台帳サービスを提供するトレタだ。

改善が前提であるSaaS(Software as a Service)を作るうえで、ユーザーのフィードバックをサービスに的確に反映させることが必須となる。

しかし、2018年時価総額13兆円を超えSaaSで世界1位となったAdobeですら、アップグレードで操作画面の表示方法を変えたことで、ユーザーから厳しいフィードバックをうけるという。

今回は、飲食店向けサービスCAFE PASS(以下、カフェパス) 二方 CEOと対談形式で、トレタ代表取締役 中村仁さんに創業当初からこだわるプロダクト開発の「姿勢」について語ってもらう。

ユーザーの「本当の悩み」を見抜き、プロダクトに反映させる組織の作りかたとは。

CONTENTS

本質的な「Issue」を見つける

カフェパス 二方さん(以下、二方) 株式会社Same Skyの二方と申します。月額定額制でいろいろな個人カフェのコーヒーを飲めるカフェパスというサービスをやっています。

創業当初からトレタでは「Issue First」を企業のバリューにしているのはなぜですか。

トレタ 中村さん(以下、中村) トレタはSaaSです。SaaSの価値の1つはソフトウェアがクラウド上にあり、同じものをユーザー全員が使うことで、知識やメリットを共有できることだと思います。

そうすることでユーザーの業務の標準化ができますし、そこで得られた知見も法人の壁を超えて広く共有できます。それを活用してサービスをアップデートすることで、使っている人全員の業務を大きく改善していくことができるようになるのです。

しかしそれを阻むのが、カスタマイズの誘惑です。

飲食店にトレタの商談にいくと、「うちの予約管理は特殊だから、契約する代わりに業務に合わせてカスタマイズして欲しい」との要望を受けることが少なくありません。

ここで、「Issue First」の考えが生きます。ユーザーの言われたことを鵜呑みにするのは、本当の意味でのユーザーファーストではないよねと。

求められているのは、リクエストの裏にある課題の本質を理解し、それを解決することです。

本質を突き止めた結果、多くの飲食店に共通する「Issue」であれば、それを解決する最適な方法をゼロベースで考えるプロセスをトレタでは採用しています。今までのアップデートもそうして実装されてきましたし、私たちのDNAになっていると思います。

本質的な課題を最優先で考える「Issue First」の文化が根付いていないと、無駄な機能が実装されたり、無用なカスタマイズが増えたりして、SaaSが持つ「本質的価値」が少しずつ失われていきます。

自分たちの本質的価値を見失った時、SaaSは必ず破綻します。

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(写真:ami)

二方 トレタは継続率が99%と高いですが、店舗に対してどのようにフォローアップをしていますか。

中村 何より大切なのは継続率である、という考え方から、創業当初からさまざまなカスタマーサクセスの施策を展開してきていますが、ユーザー数が15,000店舗程度まで増えているので、すべてのお店にベタ付きでサポートはできません。

そこで、カスタマーオペレーションの考え方を取り入れています。

サービスを通して得た利用データから、お店がトレタを活用しているレベルを算出し、運用に乗せるためのサポートが必要か、あるいは新たな提案によりさらなる業務の高度化が可能かどうかを判断することで、提供するサポート内容の最適化を図っています。

そのスコアに従って、優先度の高いユーザーからコンタクトしています。

二方 営業の方がお店の人との話から感じた課題感と、カスタマーオペレーションで決めた課題感の優先度の差異が生じたり、意見がぶつかることはありませんか。

中村 基本的に、導入後のサポートは全てカスタマーサクセスが見ています。なので、異なる意見は意見としてきちんと参考にしますが、最終的にはカスタマーサクセスが判断をし意思決定することにしています。

私たちの使命は、ツールを売って普及させることではなく、飲食店を繁盛させることです。そのためには、プロダクトや機能を売るのではなく、それを使ってどのように業務オペレーションを改善し、繁盛させられるかを提案できなければいけません。

「トレタを使った業績の改善方法」を、飲食店の方とトレタのセールス双方が明確にイメージし、それを握れてから契約するように徹底することで、のちのちの課題感のズレは最小限に抑えることができます。

逆にここをしっかり守らないと、その場は契約をして使って頂いたとしても、お客様とトレタとの課題感のズレは次第に大きくなってしまうため、いずれ解約に繋がってしまいます。

セールスとお客様の双方が合意できる、課題解決方法を見つけた上で契約をし、カスタマーサクセスに引き継ぐといった流れが必ず必要になってきます。 そういう意味では私たちもまだまだ完璧ではなく、これからもどんどん組織や売り方、サポートの体制を日々見直しながら改善していかなければいけないと考えています。

自分のバリューを最優先に考える

二方 会社が成長していくにあたって、経営者としてする仕事はどのように変わりましたか。

中村 私も常に悩んでいますが、環境に合わせて自分の役目を変えてもうまく機能しないことが分かりました。環境に合わせてやることを変えても、それが自分の得意ではないことがありますよね。そうするとパフォーマンスも出せません。

それよりも、自分のバリュー、自分にしかできないことを最大限活かすことを考える方が重要だと思います。

会社には必要だけれど自分が苦手なことは、それが得意な人に任せる。その姿勢を貫くのが大事ではないでしょうか。そうしないと、自分が会社の成長を止めたり、成長の限界をつくることになってしまいます。

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(写真:ami)

もちろん日々様々な問題が目の前で起きていますので、それはどうしても気になってしまうのですが、会社を成長させるためには「それは自分の得意なことか?」という視点で、やるかやらないかを決める必要があります。 私自身、気になるからと言って苦手なことに介入していって、かえって事態が悪化することも、何度も経験しています。

二方 フェーズに応じて、得意な人を活かすことでチームで解決するということですね。

うちの会社は、正社員3名と副業メンバー7名の10人チームですが、チーム作りの際に気を付ける点はありますか。

中村 誤解を恐れずに言えば、私自身はもともと大きい組織を作りたいと思って起業したわけではありませんし、組織づくりが得意なわけでもありません。

ただ、実現したい未来やサービスに対する絶対的なモチベーションがあります。チームをつくるには、想いを持ち続け発信することが大切です。トップの考えや情報をチーム全員と共有し、同じ目的を全員が持てればうまくいきます。

10人であれば、誰が何をやっているか見えますし、メンバーが何を考えているかも分かります。

特にトレタは飲食店向けのサービスということもあり、創業間もない頃から頻繁にメンバーと一緒に外食していたのですが、結果的にそれがコミュニケーションや信頼関係を深めることに繋がっていたと思います。社員数がまだそれほど多くなかった頃は、全員で合宿にもよくいっていました。

二方 合宿では何をするのですか。

中村 できるだけ「緊急度は高くないけれど重要度が高い議題」について話すようにしています。

普段の業務においては、「緊急度の高い課題」と「重要度の高い課題」があったとき、どうしても緊急度の高い課題に目が向きがちですよね。

そうすると、緊急度は高くないけど重要度が高い課題が溜まっていきます。合宿では、それらを全員で徹底的に話し合う時間にするよう意識しています。

もう1つはチームビルディングです。チームをつくる上で、共にご飯を食べ、くだらない話をし、寝食をともにすることは、長期的な信頼関係にじわじわと効いてくるものだと思います。

個人店に求められる価値

二方 今後、大手チェーンのロボティクス化が進むと、個人店は付加価値を提供できるかが生き残るカギになると考えています。それに対して私たちは何ができると思いますか。

中村 食文化の豊かさは、画一性ではなく多様性によってもたらされると思います。その多様性をもたらしているのが個人店です。 だから私たちは、外食文化の発展のためには個人店のエンパワメントが不可欠だと考えています。

一方で、個人店がチェーン店に対して圧倒的に不利な点があるとしたら、それは「規模の経済」です。

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(写真:ami)

個人店の生き残りを考えても、仕入れ価格で圧倒的に大手チェーンに差を付けられていたら、コスト面で勝つことはまず不可能でしょう。

しかし、このハンディキャップも、今のテクノロジーの力を使えば克服できる可能性があります。テクノロジーの力で、大手と同じ土俵で個人店が戦えれば、外食産業は今よりもっと豊かで面白くなります。

たとえばカフェパスもお客様との接点を作るだけではなく、個人店同士を束ね、一種の「仮想チェーン店」を構築して材料の共同購入や採用といったところまでできれば、新しい可能性が拓けてくるかもしれません。そうすれば、外食はさらに面白くなってくるのではないでしょうか。


2回の連載を通して、「飲食業界が抱える課題と解決法」というテーマから始まり、業界を変える企業としての戦い方まで話は広がった。

1回目では、飲食店を繁盛させるために、「紙文化」をリプレースする戦略をトレタ 中村CEO(詳しくは第1回へ)に聞いた。

2回目である本記事では、業界を変えるために「Issue First」である必要性をカフェパス 二方CEOとの対談を通して話してもらった。道を拓き、企業を成長させるには周囲の声に惑わされず、会社として、経営者として「本物の」すべきことへのフォーカスが必要だ。

飲食の「Issue」に徹底的に向き合った2社の挑戦は、業界の「慣例」を変革するのか。


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