10,000店以上の飲食店が導入、継続利用率は99%。
ドコモと30億円の資本業務提携、「Googleで予約」への参画を発表するなど、飲食業界のIT化を牽引している企業がある。飲食店向け予約/顧客台帳サービスを提供するトレタだ。
飲食店へのネット予約の導入が進んでいるが、導入店を対象にして行われた調査(2018年 シンクロ・フード調べ)では、66%が予約管理に課題を感じていると答えている。
予約情報の管理の大部分は紙で行われており、煩雑な作業が必要なことが課題の1つとして挙げられる。
トレタの目的は「紙文化のリプレース」だ。
ITツールがこれだけ世の中に普及しているにもかかわらず、なぜ予約管理はまだ紙で行われているのか。
予約管理のIT化を進めることで、繁盛店を増やす「仕組み」の全体像をトレタ代表取締役 中村仁さんに聞いた。
飲食店の顧客情報をクラウド上で管理する
どのようなサービスを展開していますか。
トレタ 中村さん(以下、中村) オンライン予約/顧客台帳サービス「トレタ」は、今まで紙で行われていた予約管理や顧客管理をクラウド上で実現するサービスです。
トレタは飲食店向けのBtoBサービスで、飲食店における作業効率を改善します。また、予約情報と顧客情報を活用することで、店舗の売上を飛躍的に向上することが可能です。
もう1つtoC向けに、トレタで管理しているリアルタイムな空席情報を活用して、当日の直前予約を可能にする超直前予約アプリ「トレタnow」も提供しています。 これは最短で今から10分後に入れる飲食店をワンタップで探して、そのまま予約できるサービスです。
人数を選択し、「近くのお店を探す」をタップするだけで、入店可能な飲食店の情報が表示されます。その中から、行きたい店舗を選び「予約する」ボタンをタップするだけで席を予約することができます。
飲食店超直前予約サービス「トレタnow」(出所:公式ページ)
業務の効率化と業績改善が目標
なぜオンライン上で管理する必要があるのですか。
大きく2つの理由があります。
1つ目は、顧客と飲食店間の機会損失を減らせること。
ここ数年で、オンライン予約に対応する飲食店は着実に増加しつつありますが、しかし顧客情報や予約情報は現在も紙で管理しているところが少なくありません。
その場合、オンラインで予約を受けたら「紙に予約を転記し、予約サービスの管理画面にアクセスして予約可能な席数を減らす」という面倒な手順を踏まなければならず、ただでさえ忙しい現場の従業員の皆さんにとっては大きな負担です。
そういった手作業に依存した予約運用では、作業ミスで予約がオーバーブッキングになってしまったり、オペレーションコストの高さから積極的にオンライン予約を活用できず、せっかくの予約を取りこぼすといった、機会損失が起きていました。
予約で事故が起きてしまうと顧客からの評価は大幅に下がってしまいますので、新規顧客やリピーターの獲得に悪影響を与えます。
こうした予約事故や機会損失は飲食店にとって死活問題になりかねません。トレタでは予約情報を全てオンライン上で管理することで、予約トラブルを防ぎながら損失を減らすことができます。
2つ目は、リアルタイムで空席情報を管理できることです。
トレタの予約データを分析すると、飲食店を予約している人のうち、来店の前日までに予約する人は全体の半分しかいないことが分かりました。残りの半分は当日に予約をするか、予約せずに来店されています。
しかし、ほとんどのオンライン予約は当日予約ができません。
人気のお店になればなるほど、顧客の出入りが激しいため、タイムラグのある紙の管理ではリアルタイムのオンライン予約に対応できないのです。
(写真:ami)
オンラインで当日の予約が入ったとしても、飲食店の現場では他の業務も膨大に存在します。営業中に頻繁に予約管理画面を確認するのは難しく、確認漏れや確認忘れでダブルブッキングなどの予約のトラブルに繋がってしまいます。
結果、予約のトラブルを未然に防ぐため、大多数の飲食店ではオンライン予約は前日までの受付としています。これなら、飲食店は業務がひと段落する閉店後などにまとめて対応することが可能です。しかしその結果として、リアルタイムな対応が不可欠である当日予約に対応できるお店はごく一部にとどまってしまっていました。
トレタでは、紙の台帳を完全に追放し、クラウドでのリアルタイム管理を実現したことで、この問題を根本から解決しています。 また、トレタはさまざまなグルメサイトのオンライン予約とも連携しています。これによって電話予約だけでなくグルメサイトの予約情報も手間なくリアルタイムに反映されるようになります。
(写真:公式ページより)
トレタを使えば、お店の方の作業負担を一切増やすことなく、予約トラブルも防ぎながら当日予約が可能となり、これまで取りこぼしていた顧客層を取り込むことができます。
紙文化のリプレースをめざす
なぜ同様のサービスが今までなかったのですか。
紙文化をリプレースするハードルはとても高いのです。
飲食業界は数ある業界の中でも、従業員の年齢層が高校生から年配の方までと幅広く、多様なバックグランドの人が働いています。
そのこと自体は素晴らしいことですが、それに伴いITリテラシーの振れ幅も大きく、誰でも扱えるツールでなければ定着しません。業務ツールは、ツールを使えない人が1人でもいるときちんと運用に乗らないからです。
また、離職率も高く、人の出入りが激しいため、何時間もトレーニングしなければ使えないツールも普及しません。
そういった背景もあり、いままでも多くの企業が飲食店の効率化を試みては、教育コストとリテラシーの壁の前に倒れてきました。
結果、今でも大半の飲食店では紙を中心に運営されています。飲食店の現場オペレーションは、80年代半ばから殆ど変わっていないのです。
スマホネイティブの若い方が経営している飲食店であればITツールの導入に前向きですが、年齢層が上がるほどITツールへの抵抗感は強くなります。中には、「自分の手で書くからお客さまの情報を覚えるんだ。iPadなんて使うな。」という方もいらっしゃって。
しかし、それでは飲食店の現場の生産性は向上せず、非効率なやり方を温存することになってしまいます。確かにこれまでは、たくさんの人を安い賃金で雇い長時間働かせることで、紙のオペレーションでも成り立っていました。しかし、労働人口が減り人手不足の深刻化は避けられませんし、社会的にもブラック化が大きな問題となりつつある今、人海戦術に頼った経営はこれ以上続けられないでしょう。
(写真:ami)
一方、ここ数年で、クラウドが普及してオンラインサービスの展開コストが安くなったこと、タブレットやスマホの普及で従業員のITリテラシーが上がったことで、ようやく業務ツールが広く普及できる可能性が出てきました。
そこでトレタ自身も「銀行ATMを使える人なら誰でも使えるツール」を目標に、使いやすさを第一に磨くことで、これまでITツールと縁がなかった飲食店でも簡単に使いこなせるようなサービスを作り上げ、普及に取り組んできました。
トレタを使うことで現場の仕事が楽になり、顧客サービスの質が上がり、さらに直前のオンライン予約など新たな顧客サービスも実現できるようになる。ITを正しく使うことで飲食店もそのお客様もハッピーになる、そんなサービスを目指してきました。
(写真:公式ページより)
社会環境の変化と、テクノロジーの進化、ユーザーのリテラシー向上などの要素が重なったことで、ようやく飲食業界でもIT化が少しずつ進み始めた肌感覚はあります。
トレタとしても引き続き飲食業界のIT化を進め、業界を活性化させたいと思っています。
飲食業界の課題である紙文化のリプレースを目指すトレタ。その要は、プロダクトの操作性の高さと顧客情報管理の容易さだった。
飲食店が抱える課題に的確な解決法を提供することで、高い継続利用率を誇っている。
しかし、ユーザーの本質的要望に応える機能を作るのは容易ではない。
次回は、カフェパス 二方隼人CEOと対談形式で、中村さんが創業当初からこだわるプロダクト開発に対する「姿勢」について語ってもらう。
ユーザーの「本当の悩み」を見抜き、プロダクトに反映させる組織の作り方とは。