スタートアップの最新トレンドがわかる週間企画「INITIAL Briefing」。
スタートアップの実態をとらえるタグ紹介、資金調達など抑えておくべき3大ニュース解説、注目スタートアップ紹介などのコンテンツをお届けする。
今回のテーマは、「VTuber」。VTuberスタートアップの資金調達動向、事業領域と主なプレイヤー、今後の展望について読み解く。
8月末〜9月1週目の3大ニュースでは、ティアフォー、スカイドライブなどモビリティ関連の大型資金調達を中心に解説する。
注目スタートアップは、8月にシリーズB調達を発表したエンジニア採用・組織支援サービス展開のファインディを紹介。コロナ禍で資金調達が長期化する中、なぜこのタイミングで資金調達に踏み切ったのかに迫る。
2018年から投資加速。VTuberスタートアップはマネジメント領域が主軸
スタートアップの特徴をさまざまな切り口で紹介するタグコラム。今回は「VTuber」について解説する。
VTuberは、バーチャルYouTuberの略。アバターなどのバーチャルなキャラクターを用いて動画配信活動を行うキャラクターを意味する。
ここで扱うVTuberは、バーチャルアニメーションキャラクターの作成、マネジメント、ライブ配信や専用の配信プラットフォームなどに特化してサービスを提供している企業を指す。
まずは、VTuberにおける資金調達額の推移をみてみよう。
直近5年間の調達額合計は約164億円だ。
転換点は2018年。2016-17年と比較しても急激に調達額が伸びている。グリー、ドワンゴ、サイバーエージェントなどIT各社がVTuber事業の参入を発表した時期とも重なる。2019年にはgumiもVTuber領域への積極的投資を発表している。
特にVTuber事業強化の動きが見られるグリーは、2018年4月にライブエンターテイメント領域に100億円規模の投資計画を発表。VTuberに特化した子会社を設立し、バーチャルライブ配信アプリ「REALITY」を運営している。
INITIALでは、領域ごとにスタートアップにタグを付与している。タグをまとめたタグページのアクセスランキングは常時公開されており、各領域の注目度がわかる。
VTuberスタートアップ企業は20社(INITIAL調べ)。事業領域と主なプレーヤーは以下の通りだ。
参考)INITIALシリーズの定義はこちら:スタートアップの成長フェーズを知る
VTuberの事業領域は主にマネジメント、コンテンツ、配信プラットフォームの3つに分類できる。
最も参入が多い領域は「マネジメント」だ。代表的なプレイヤーは、VTuberグループ「にじさんじ」運営のいちから、自称・世界初のVTuber「キズナアイ」制作のActive8などだ(現在は新会社のKizuna AIが運営)。VTuberプロデュースと、コンテンツ制作を兼ねている企業も多い。2020年にはいちから、BitStarが10億円以上の大型調達を実施しており、レイター企業も最も多い領域だ。
次にプレイヤーが多いのは「配信プラットフォーム」。代表的なプレイヤーは、VTuberスタートアップで最も評価額が高いミラティブだ。ミラティブはスマホで簡単にゲーム実況ができるライブ配信プラットフォームで、個人がVTuberになれるアバター機能「エモモ」を提供する。
2018年から投資が活発になったVTuberだが、2019年以降は各社が撤退、解散などの動きが見られている。
VTuberの活用だけで注目を浴びた勃興初期が過ぎ、2020年は3年目の正念場として収益化が課題となる。
VTuberの主な収益源は、YouTubeの広告収入だ。VTuber自体は個人も含め新規参入が容易で参入障壁が低いが、制作費など一定のコストがかかり、ある程度の認知を獲得するには初期投資や営業費用も必要になる。
また著作権関連のリスクもある。マネジメント領域では一定程度の人気VTuberを自社で持たない企業や法的リスクに対応できない企業は厳しくなるだろう。
一方、人気VTuberを抱える企業は今後IP(知的財産)コンテンツなど収益化に向けた動きが加速し、魅力あるコンテンツを発信する一部のVTuberおよび配信プラットフォームに人気が集中するだろう。
モビリティ企業で30億円以上の大型調達2件。INITIALピックアップニュース3選
「INITIALピックアップニュース3選」では、資金調達など抑えておくべき3大ニュースを解説する。
今回は大型調達のニュースを中心に選定した。ティアフォー、スカイドライブの2社はモビリティ関連企業。モビリティ関連はMobility Technologiesなども大規模調達しており、セクター全体で研究開発投資フェーズといえる。
ティアフォーは50億円調達は、2020年上半期資金調達額上位3社の水準と大きい。しかも複数社からではなく、SOMPOホールディングス1社からの投資だ。すでに損保ジャパンとの提携および出資実績があり、今後も商品開発など提携が加速するだろう。
スカイドライブのリード投資家は、日本政策投資銀行。DBJキャピタルでなく、銀行本体のリード投資は珍しい。今後の融資を見込んだ投資であろう。またVCのほか、伊藤忠商事、大林組、NECなど大手事業会社の出資が特徴だ。2023年には「空飛ぶクルマ」の実用化を目指す。
ルームクリップは、コロナの恩恵を受けた企業だ。在宅時間が増えたことにより、同社のインテリア投稿サイトを利用する月間ユーザー数は前年比2倍の830万人まで成長した。 投資家には、主にレイターステージに投資する日本郵政キャピタルなどが新規に参入。今後はユーザー層を生かしたクラウドサービス、EC事業を展開予定だ。
ファインディ、シリーズB資金調達の裏側。コロナ禍であえて採用強化に踏み切った理由
注目スタートアップを紹介する、「INITIALピックアップインタビュー」。 今週紹介する企業は、エンジニア採用・組織支援サービスを運営するファインディ社だ。
シリーズB調達の裏側について、ファインディ代表の山田 裕一朗氏に聞いた。
今回の資金調達で苦労した点は何ですか。また、投資家を選んだ理由を教えてください。
ファインディ代表・山田氏(以下 山田) コロナの影響を全面的に受け、資金調達活動は長期化しました。1月から動き始め、最も動いていたのが3月下旬から4月上旬。ちょうど新規投資を止めている会社も多かった時期で、苦しかったですね。
前回のラウンドで検討いただいていた会社を始め、合計60社近くの投資家と面会しました。大変な時期だからこそ、たくさんの方とお会いしようと思って行動し、最終的には7社から調達を受けました。
6月頃から風向きが変わり、投資が再開して「今なら検討できます」とお声がけいただけることも増えたので、改めて資金調達はタイミングが大事だと感じています。
起業家によって考えが分かれる点ですが、私はハンズオン支援をいただける投資家の方と相性が合うと思っています。株主からは、販売協力や営業先の紹介、メンタリングや事業計画のフィードバックなど多岐にわたる支援をいただいています。
なぜ大変な時期にも関わらず、資金調達に踏み切ったのですか。
山田 不景気こそ優秀な人材を採用するチャンスだからです。
不景気では採用を抑制するスタートアップが多く、スタートアップ間の採用競合が減る。前職のレアジョブ時代で学んだことでした。
なんとしてもこのタイミングで採用を強化する勝負に出たい。時期をずらす選択肢もありましたが、不景気の一番大変な時期が来る前に資金調達をしたいと思い、踏み切ることができました。
今回の調達資金をもとに、現状の30名前後から100名規模まで組織を拡大予定です。
INITIAL Briefingでは、今後も毎週スタートアップの最新トレンドをお届けする。
(取材・文:藤野 理沙、リサーチ:平川凌、デザイン:廣田 奈緒美、石丸 恵理)