## 2020年3月のIPO動向：市場環境悪化で公募割れが急増

2020年3月の新規上場数は24件で、前年比では8社の増加だ。
このうちVCから出資を受けていた企業は6社だった。

2019年における東証マザーズ新規上場企業の初値時価総額中央値133億円（出所：[KPMG「2019年のIPO動向について」](https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/2020/jp-ipo-report-202001.pdf)）を下回る企業が多く、マザーズの中でも中小型の上場が中心だった。

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3月は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が懸念され、東証株価指数（TOPIX）は前月比で7.14%、東証マザーズ指数は11.5%下落した。

市況環境の悪化はIPO市場にも影響した。__初値が公募価格を上回ったのは新規上場24社のうちわずか6社のみ。__つまり、18社が公募価格割れで上場した。

通常新規上場では初値が公募価格を上回ることが多い。2019年の新規上場86社の平均初値騰落率は74.8%、公募価格割れは9社のみ。2020年3月は単月で18社、2019年通年の2倍にものぼる公募割れが発生したことからも、投資家（主に個人）のリスク回避姿勢が窺える。

ただし、市況環境が悪化する中でも果敢に新規上場によるEXITを選ぶ企業もいる。



## 事業会社主導のEXIT事例。コロナ禍でも新規上場の意思決定を下した投資家

クラウド型不正アクセス防止ソフトウェア「攻撃遮断くん」を運営するサイバーセキュリティクラウドがその例だ。

同社は資本政策に特徴がある。自ら事業を起こしEXIT実績を持つ創業者オーナーが在籍するインターネット企業を大株主に迎えている点だ。

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具体的には、総合PR会社のベクトルとオークション比較サイトのオークファンの二社が持分比率の3割を超える。ベクトル代表・西江氏、オークファン代表・武永氏個人と資産管理会社の持分を含めると持分比率は49.1%だ。ベクトル、オークファンで社外取締役を務める西木氏が代理人を務めるVC、GMCM Venture Capital Partners Iの持分まで含めると6割を超える（いずれも新規上場時）。インターネット広告のオプト創業メンバーの海老根氏も大株主に名を連ねる。

コロナ禍でも投資先のEXITを決めた投資家2社、ベクトルとオークファンの意図は何だろうか。オーナーの経歴と投資目的から紐解いていく。

ベクトルは1993年に西江肇司氏が創業。2000年代からPR事業を中心に売上を伸ばし、2012年に東証マザーズへ上場。現在は東証一部で持ち株会社化し、主力のPR事業を中心に海外展開を進めている。子会社のPR Timesも2016年8月に東証マザーズに上場、現在は東証一部企業だ。

ベクトルは投資事業にも力を入れる。「100社のベンチャー企業のIPO支援」の実現を目標に掲げ、すでに100社以上に投資しており、EXIT実績はコンサルティングサービスを提供する識学など10社以上にのぼる。2018年には投資事業会社「100キャピタル」を設立し1号ファンドの運用を開始。投資だけでなくPR支援も行うのが同社の支援スタイルだ。

西江氏は投資を行う理由を「自分自身が起業家でベンチャーが好きであること。また、上場時に感じたオーナー経営者の本音の疑問に答えてくれる人がいないからだ」と[事業構想のインタビュー](https://www.projectdesign.jp/201710/innovation-ipo/003973.php)で述べている。

IPO支援を明言しているため、ベクトルの投資先であるウフルやココン、VISIT Technologiesやメンタルヘルステクノロジーズなどレイターステージにある企業は、数年以内の上場が視野に入るだろう。

![EXIT REVIEW 202004 vector](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/77pmC5DqYAL2SBSFs42V7C/7ade47a57b89c69ee6a56afd697da54d/EXIT_REVIEW_202004_vector.png)

> ベクトルの投資先でIPO済みの企業例（出所：ベクトル社「新規投資家向け説明資料」）

他方、オークファンの投資目的はベクトルとは色が違う。オークファンは2007年に武永修一氏が創業。オークション検索サイト「オークファン」の元になるサービスを事業買収して事業を開始した。武永氏は大学時代に個人事業オークション事業を行っていた他、ブランド品宅配買取「ブランディア」を運営するデファクトスタンダードの設立も手掛けた起業家だ。

すでに50社以上の投資実績があるが、竹永氏にとって投資は「良い会社があれば合流してもらう、本業で成長するための布石」（出所：[ベンチャーナビインタビュー](http://venturenavi.dreamincubator.co.jp/articles/%E5%BF%97/1870/)）という。オークファンは2013年4月に東証マザーズ上場後は、M&Aによる買収で事業を拡大してきたが、投資事業もその一貫と言えよう。

EXITの意思決定は会社のオーナーである株主が行う。サイバーセキュリティクラウドの新規上場を決めたのは、大株主の二社（ベクトル、オークファン）の意向が大きく、現在代表を務める大野氏の持分比率はわずか5%で株主としての影響力は小さい。

2月に上場したジモティーはファンド主導型スタートアップの上場だが、__今回上場したサイバーセキュリティクラウドは、事業会社主導でEXITまで至った事例だ。__

> 参考：[ジモティーIPOまでの資本政策。VCファンド主導型スタートアップの今後](https://initial.inc/articles/jmty-ipo)

ベクトル、オークファンの投資の目的はそれぞれ異なる。しかし、自らの手で事業を立ち上げ成長し上場まで導いた経験がある起業家であることは共通する。コロナ禍でも諦めずに事業を運営していく二人の起業家の意思が反映されたのではないだろうか。

サイバーセキュリティの初値は公募価格を100%以上上回り、初値時価総額は212億円、PER（株価収益率）は151倍となった。4月21日現在の時価総額は715億円、PERは511倍。

SaaSでストック型ビジネスモデルであること、今後の国内SaaSセキュリティ市場の高成長や、SaaSの業績を左右する月次解約率の低さ（1.1%）が好感されている。直近の年間売上高は8.1億円だ。ただし同業他社のトレンドマイクロの時価総額（6983億円）、PER（25倍）や直近の年間売上規模（1652億円）と比較すると、やや加熱感がみられる。

## 2020年の新規上場中止は18社。リーマンショック以降過去最多

4月の新規上場は松屋アールアンドディー、エージェントの2社のみ（移動、テクニカル上場含まない）。

3月以降、新規上場を中止した企業は18社（2020年4月22日現在）にのぼり、__新規上場中止数は2009年のリーマンショック以来過去最多となった。__

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ほとんどの企業が上場取り消しの理由を「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、および原油価格急落を受けた株式動向を総合的に勘案したため」としている。特に市場が急落した3月中旬以降に上場取り消しを発表した企業が多い。

GMOインターネットのグループ企業であるGMOフィナンシャルゲートは、上記の理由のほか「主幹事証券の指導などを総合的に勘案」とも述べている。

スタートアップではないが、航空会社のスカイマークも再上場の申請取り下げを4月15日に発表。航空需要の低迷が長引くことが予想される中、再上場時期を見直した。

新型コロナウイルスの影響は、新規上場だけではなく既存上場企業の業績発表にまで及んでいる。この動きは中国、香港を皮切りに、欧米など世界中で見られる傾向だ。

金融庁は4月14日、緊急事態宣言を踏まえて有価証券報告書等の提出期限を9月末まで延長する方針を発表。当方針に伴い、同日東京証券取引所も決算発表日程の再検討を上場会社宛に依頼した。

この流れを受け、決算発表を延期する企業や、今期の業績予想開示を取りやめる企業が相次いでいる。特に海外に子会社を持つ企業の延期が目立つ。すでに年度決算を発表した小売企業（2月決算）ではセブン＆アイ・ホールディングス、ローソンが今期の業績開示を取りやめた。

SaaS企業は比較的業績が予想しやすいビジネスモデルのため、業績発表の遅延は他業種に比べて少ないと考えられる。今後3月決算の発表が集中する5月以降に改めて企業全体の動向がみれるだろう。また今後は株主総会が予定通り開催されるかが論点になりそうだ。

## 累計調達額100億円超のC Channel、TOKYO PRO Marketへ上場申請

最後に、今後のスタートアップEXITで波紋を呼びそうな事例を紹介したい。

上述の通り新規上場中止が相次ぐ中で、女性向け動画メディアを運営するC Channel株式会社（以下、C Channel）は4月20日、TOKYO PRO Marketの上場申請を発表した（5月25日に上場予定）。

![EXIT REVIEW 202004 CChannel](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/7zYq14RNdTreBdAWTaUnsy/a6dee1e4751bec084ff29f019f54760a/EXIT_REVIEW_202004_CChannel.jpg)

> （画像：C Channel 公式HP）
> 

C ChannelはLINE元社長の森川亮氏が2014年設立。設立から上場までに5回のラウンドを経て、累計調達額は107.9億円。2020年3月に行ったINITIALシリーズCの調達後企業評価額は239.6億円だ（INITIAL、2020年4月21日基準。ラウンドは外部向けにエクイティファイナンスを行った回数で、同一株価によるラウンドは同一として集計）。

通例ではスタートアップファイナンス実施企業は東証マザーズへの上場を目指すなか、異例の選択にみえる。市況から上場延期の選択肢もあるなかで、あえてTOKYO PRO Marketを選択した理由は何か。

議論に入る前に、TOKYO PRO Marketの概要と東証マザーズとの違いをみてみよう。

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TOKYO PRO Marketは株式の買い付けを特定投資家に限定した市場で、一般の個人投資家は市場での株式買い付けができない。

企業側のメリットは他市場に比べてより自由度の高い上場基準・開示制度で上場できる点だ。デメリットは一般投資家を受け付けないため資金の流動性が低い点、低流動性から上場時の資金調達がしにくい点だ。TOKYO PRO Marketの年間売買代金（2019年）はマザーズの約1/9000だ。

__流動性リスクを捨ててまであえて上場を選択した理由は、株主との投資契約の制約によるものではないか。__

既存株主の株式移動が目的であれば、未上場のままでも相対取引は可能だ。レイターステージで株主が変わる（前の株主が新たな株主に売る）ケースは珍しくない。また上場とはいえ流動性がほぼない市場でのEXITは、リターン目的とは言い難い。

C Channelの大株主には筆頭株主のソフトバンク（持分比率28.04%）の他、独立系VCのジャフコやB Dash Ventures、中国VCのLegend Capital Management、金融系VCの三井住友海上キャピタル、事業会社のトランス・コスモスが名を連ねる。上場すると投資契約の制約はなくなるので、何らかの理由で上場せざるを得なかったと推測する。

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EXIT Review 4月号ではExitの象徴としてサイバーセキュリティクラウドとC Channelの事例にフォーカスを当てた。株主の強い意志でマザーズ上場を成し遂げたスタートアップもいれば、小規模マーケット上場で流動性を捨ててでも上場するスタートアップもいる。両極端な事例ではあるものの、改めてEXITの意思決定に対する株主の意向の影響力の大きさが浮き彫りになった。

（文：藤野理沙、編集：中村香央里、リサーチ：明石佳奈、デザイン：石丸恵理）

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C Channel株式会社

株式会社サイバーセキュリティクラウド

ExitReview 202004 01

株式会社ベクトル

株式会社オークファン

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