物流業界を変革する「真のDX企業」が登場した。
物流業務プラットフォームを提供するオープンロジだ。EC市場の成長を追い風に、BtoCの物流分野で力強い成長を実現している。
2020年10月にシリーズCで17.5億円の大型調達を発表。調達後企業評価額は推定105億円だ。株主に総合商社や運輸会社など事業会社を迎え、新たなステージに突入した。
INITIALは、オープンロジCEOの伊藤秀嗣氏、CFOの柳聖基氏、またシリーズBでリード投資家を勤めたEight Roads Ventures Japan村田純一氏のインタビューを敢行。
同社の成長を支えた設立時からシリーズCまでの資本政策と、グローバルでも珍しい日本独自のビジネスモデルを築く同社の秘密に迫る。
物流の複雑なオペレーションをオンラインで完結。8,000社以上が導入する「オープンロジ」
株式会社オープンロジ(以下、オープンロジ)は、物流業務をオンラインで全て完結できる物流フルフィルメントプラットフォーム「オープンロジ」を展開している。フルフィルメントとは、ECにおける商品の受注から配送までの一連の業務を指す。
料金体系は、固定費ゼロの従量課金制のビジネスモデル。システム利用料は無料で、荷物のサイズと個数に応じて倉庫利用料と配送料金がかかるシンプルな仕組みだ。
通常、EC事業者が倉庫を利用するには見積もり、場所確保も含めて1〜2ヶ月の時間がかかる上に固定費もかかるが、オープンロジは見積もり・問い合わせ不要でシステム登録後、すぐに利用が可能だ。柔軟性の高さから、小規模のEC事業者を中心に顧客を獲得し、徐々に拡大してきた。
2014年のサービスリリース後、EC事業者を中心にすでに導入社数は8,000社、提携物流会社は40社を超える(2020年9月末現在)。標準化された独自の倉庫のネットワークを有するため、出荷量の増加にもすぐに対応が可能だ。
同社の特徴は、システムだけではなく物流業務全体に関わるオペレーション、付随するサービスをワンストップで提供している点だ。倉庫の現場は各社ごとにオペレーションが異なる。オープンロジは荷主・倉庫会社・配送会社と様々なステークホルダーと関わり、システム連携など複雑なオペレーションの標準化を進めている。
物流業界の大手企業は主に大企業向け・BtoBの物流を中心としており、ECの経験が比較的少ないのに対して、オープンロジは主にEC事業者に対してBtoC物流サービスを提供する。
オープンロジは2020年10月、シリーズCのファーストクローズで約17.5億円(うち融資金額10.5億円)の大型調達を発表。調達後企業評価額は推定105億円だ(※融資金額、評価額はINITIALによる推定額、オープンロジにより決定または追認されたものではない)。12月末にファイナルクローズを予定している。
資金使途は、エンジニアを中心とした人材採用およびプロダクト開発の強化だ。
シリーズCは前回ラウンドから約3年ぶりとなり、株主構成も大きく変化を遂げた。オープンロジCEOの伊藤氏、CFOの柳氏に、シードからシリーズCまでの資金調達の経緯と考えを聞いた。また、シリーズBでリード投資家を務め、同社の社外取締役を務めるEight Roads Ventures Japan村田氏に、オープンロジの魅力を聞いた。
資金調達では、シリーズAが一番苦労したラウンドだった
まず、オープンロジのこれまでの資金調達について伺います。初めての調達は2015年2月に行なったシード調達ですが、当時工夫した点はありますか。
オープンロジ CEO 伊藤秀嗣氏(以下、伊藤)シードでは、プロダクトをリリースした半年後に6000万円の調達を行いました。その時に意識していたのは「いかに名前を売るか」です。
紹介された投資家の担当者を行脚するよりも、Tech Crunch TokyoやIVS LaunchPadなど、国内のスタートアップピッチイベントでVCの方々にプロダクトをアピールする戦略を取りました。
もちろん、ピッチ以外でも投資家の方々には20社以上お会いして交渉しました。まだ実績がない会社なのでほとんど断られますが(笑)。そのような中、IVS LaunchPadイベント主催者のInfinity Venturesと審査員の千葉功太郎さんから出資を得ました。
ピッチで入賞したのでメディアにも取り上げて頂き、登録ユーザー数も増えたのでスタートダッシュは順調でしたね。当時、社員は僕とエンジニア2名の合計3名でした。
2016年4月にSpiral Venturesをリード投資家としてシリーズA調達を行なっていますね。当時苦労した点はありますか。
伊藤 正直、シリーズAが今までで一番苦労したラウンドでした。
メディアのおかげでユーザー登録数は増えたのですが、利用ユーザー数が伸びなかったのです。われわれの顧客であるEC事業者側からすると、「名も無い新しいサービス、かつ自前で倉庫も持っていない会社に商品を預けて大丈夫なのか」という不安もあったと思います。
この時期は、僕がカスタマーサポート、営業、カスタマーサクセスを全て担当しました。サービス利用数を増やし、ユーザーの課題を解決していく。1件1件地道にユーザーと向き合ったことで、徐々に口コミで伸びていきました。
当時苦労したのは、シリーズAの資金繰りタイミングがわかっていながらも、ユーザー数などのトラクションやバリュエーションに関して解像度をしっかり上げ切れてなかったことですね。社員が3名しかいない中で、採用やオペレーションを日々実行するのに手一杯の状態でした。
シリーズAの前には採用も進めて12〜14名規模に拡大しましたが、6000万円はあっという間に1年でなくなってしまいます。
シリーズAでは、Spiral Venturesをリード投資家に2.1億円の調達を行いました。物流業界でオペレーションをつくって変革していく「リアル産業のDX」に彼らが注目をしていたタイミングでした。
2017年7月のシリーズB調達ではEight Roads Ventures Japanをリード投資家に迎えています。
伊藤 実は、Eight Roads Ventures Japan(以下、Eight Roads Ventures)キャピタリストの村田さんとはシリーズAの段階でお話していました。
当時われわれの評価額がEight Roads Venturesが投資対象になる水準ではなかったので、投資には至りませんでしたが、その後事業状況の進捗も含めて定期的に共有していたのです。
事業も順調に成長しており、自然な流れでシリーズBのラウンドではEight Roads Venturesをリード投資家として約7.3億円の調達を行いました。
シリーズBまでは、デューデリジェンスからバリュエーションまで含めて私一人で調達活動を行なっていました。シリーズCは絶対一人でできないですが、Bまでは何とかやり切れましたね。
2019年2月には、株式移動の形でシニフィアンを新たに株主に迎えていますね。
伊藤 シニフィアンの小林さんとは、IVS Launch Pad審査員時代からのつながりです。当時小林さんはDeNAの取締役で、意見交換をしました。
そこから時間が空き、小林さんがシニフィアンを立ち上げた後のタイミングでランチをご一緒し、オープンロジにご支援頂く誘いを受けました。シニフィアンは「ポストIPO後の成長を支える」コンセプトでIPO前から出資するスタイルを取っています。
お声がけいただいた当時は増資するタイミングではなかったのですが、ちょうど共同創業者で利害関係者である豊川(※編集部注:豊川 竜也氏、現在は株式会社ニューブックの代表)の持ち分を減らすタイミングがあったので、シニフィアンに株式を引き受けていただいた経緯です。
シリーズBのリード投資家・Eight Roads Venturesが語る、オープンロジの魅力
村田さんはオープンロジのどこに魅力を感じて投資しましたか。
Eight Roads Ventures 村田氏 (以下、村田)
物流業界の社会課題解決に、真正面から向き合っている点です。しかもグローバルでまだ存在しない、日本固有のビジネスモデルを構築している点が魅力でした。
私の投資哲学は、「多様性の存立を仕組みで支える」ことです。支援するスタートアップによって、世の中に色々な多様性を生み出せるようになりたいと思っています。
オープンロジが提供している価値は、まさに「脳内から物流業務を開放し、顧客がより大切なことに集中できる環境をつくる」ことです。
オープンロジとEC事業者の関係は、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)と導入企業の関係に似ています。AWSを導入すれば、企業はデータのインフラ構築を気にすることなく、よりアプリやUI/UXなどのサービス設計に集中できます。
オープンロジもまさに同じ方向性です。EC事業者にとっては、商品が売れるにつれて物流が課題になりますよね。オープンロジのサービスを使うことで、彼らの頭から「物流業務」を切り離し、それぞれが自分の得意な商品開発やマーケティングにフォーカスすることができれば、もっと個性を発揮できて多様性が生まれることにつながると思うのです。
もともと、6〜7年前から「業務プロセスをデジタル化し、いかに人々が本質的な仕事に専念し、結果として社会の生産性を上げられるか」に着目して投資を行なっていました。国内で人口が減少する中で、社会課題の解決のために必要だと確信していたからです。
巷ではDXがバズワードのように語られる中、一方で本当のDXというものはそれほど多くないと思っています。私は、オープンロジは物流という社会課題のシンボルのような市場で、そのDXの本質を突く社会変革型の価値を提供してくれると信じています。そして、物流業界のAWSになれると確信しています。
社外取締役として、具体的にはどのような支援を行なっていますか。
主に3点あります。
人材採用やビジネスモデルづくりなど機能的な支援、相談役として意思決定のサポート、中長期を見据えて視座をあげることです。
私が意識しているのは、「経営者の脳内メモリを空ける」ことです。投資家は、下手したら経営者の脳内メモリを奪う存在にもなり得るんですよね。いかに伊藤さんが経営に専念できるかを考えて、考えるべきこと・考えなくてもよいことを一緒に整理しています。
オープンロジは、倉庫会社や荷主など関係者も多く、オペレーションの部分など戦略の変数がとても多いです。どうしても執行ではオペレーション論に走りがちですが、だからこそ「データを活用して、今まで見たことのない、想像もし得なかった物流インフラをつくる」ために戦略的な視座を上げることと、我々が成し遂げたい世界観を常に忘れないように語り続けています。
成長加速を見据え、事業会社を株主に迎えたシリーズC
2020年10月にはシリーズC調達を発表しました。前回のラウンドであるシリーズBから約3年後となりますが、調達はいつ頃から動き始めたんですか。
伊藤 2020年3月頃からCFOの柳、CSMO(Chief Strategy & Marketing Officer)の及川と3人で調達活動を始めました。一連のプロセスが全てオンラインで行われ、ほぼフルリモートでの活動でした。
調達活動を始める前には、入念に事前準備をしました。事業計画とエクイティーストーリーの見せ方に関して株主のシニフィアン村上さん、Eight Roads Venturesの村田さん、Spiral Capitalの岡さんと数十時間にわたり議論し、練り直した上で臨みましたね。
物流業界の市場機会がある中で、オープンロジが業界の先陣を切ってやり切ること、またオープンロジの事業と成長可能性をどうわかりやすく伝えるかなどを議論しました。
どのポイントが投資家から評価されたと思いますか。
オープンロジ CFO 柳聖基氏(以下、柳) 単なるシステムの置き換えではなくオープンロジ がカバーする事業領域が深くて広い点、物流のオペレーションに入り込んでおり簡単にスイッチされない点などから、社会課題の大きい物流領域でダウンサイドリスクが低い点を評価いただきました。
物流業界全体に加え、われわれとAPI連携しているShopify、BASEやSTORES.jpなどのECプラットフォーマーやEC市場の成長も追い風でした。
伊藤 われわれは荷主からの荷物1件、1個に対応しつつ、倉庫会社や配送会社と連携して、ソフトウェアと標準化したオペレーションを作りこんでいきます。
創業当初は私も倉庫に週4〜5日足を運んでいました。倉庫会社の現場の方と、どうすれば誰でも荷物を入庫処理できるかなど、色々なことを議論しました。
自分で言うのもなんですが、結構複雑で難しいビジネスです。私は前職の富士山マガジンサービス(雑誌定期購読サービスを運営)で事業立ち上げを行なった際に物流に関わった経験がありました。物流業界出身ではなく、中途半端な経験があったからこそ挑戦できたと思います(笑)
荷主・倉庫・配送会社ごとに違うオペレーションをいかに標準化するかを作り込む複雑さと人手が絡む部分が、ソフトウェアやSaaSを提供する企業と大きく違う部分ですね。
シリーズCでは、総合商社の住友商事や双日、西濃運輸の持株会社セイノーホールディングスなどを新たに株主に迎えていますね。
柳 シリーズBまでは、あえて事業会社の色をつけずにやってきました。
しかし成長を加速するフェーズのシリーズCでは、われわれが持っていないリソースやネットワークを持つ企業との関係性を強化するため、事業会社を株主に迎える判断をしました。
結果、今回出資頂いた住友商事、双日、ファンド経由で既に出資頂いている伊藤忠商事の総合商社3社のほか、配送に強みのあるセイノーホールディングスを提携パートナーに迎えることができました。
オープンロジは全国の倉庫会社とも提携関係を結んでいます。幅広い会社とオープンに付き合うため、あえて資本関係は結んでいません。
コロナ禍での調達でしたが、評価額(推定105億円)の水準についてはどのようにお考えですか。
柳 評価額は当初の期待値を下回る水準でした。当初の想定より下がった背景は主に2点あります。
1点目は、外部環境が不透明だったこと。特に資金調達に動いている中で、新型コロナの影響が強まった4〜5月は投資家マインドが冷え込んでおり、全体的に投資家が保守的になっていた時期でした。
2点目は、評価額の最大化よりも、今後の事業成長のためより多くのステークホルダーを株主に迎えることを優先したこと。評価額の考えは投資家によって異なるため、各投資家の目線を踏まえて評価額を決定しました。
結果的には、外部環境が不透明な中でも、希薄化を抑えながら事業会社の株主を迎え、目標の金額は十分集めることができました。
体制の強化に集中し、130名のCxO候補者から6名の経営陣を採用
2019年8月以降、CSMO、COO、CFOなど新しい経営メンバーを一気に6名採用しています。経営陣の強化にはどのような背景があったのでしょうか。
伊藤 社員が100名規模になり、組織の課題が一気に顕在化したからです。
シリーズB調達後は売上も順調に伸びていたので、一気に採用を強化して1年で約30名から100名近くまで拡大しました。しかし組織のマネジメント体制を構築しないまま採用を増やした結果、サービスやオペレーション面でひずみが出てきてしまったのです。
会社のフェーズが変わって、今までの方法では対応できなくなってきた。組織が拡大するにはマネジメント体制や社内の仕組みも変えていかなければいけないこと、会社の経営チームの未熟さを痛感しました。
そこで立て直しを図るために一般社員の採用を一時凍結し、2019年初から2020年前半までは経営チームの採用活動を始めて経営体制の強化を計りました。
具体的には、CxO採用向けの採用エージェント10社に声を掛け、採用ペルソナを詳細に作って経営幹部向けの採用、会社紹介資料を作って展開しました。
半年間で約130人の方と面接しています。一次面接は私が出て、二次面接以降は経営陣の他、株主にも面接に入っていただき、四次・五次面接まで行いました。
多くの経営チームを見た経験のある株主の方から客観的な視点を頂き、多角的な視点で候補者の方を見られたことは心強かったですね。
また株主から見たオープンロジの魅力についても伝えてくださり、候補者の方への動機付けも合わせてしていただきましたおかげで、ミスマッチがなく採用できました。
オープンロジの経営陣は総勢10名。Amazon Japan出身者など物流業務の経験者も迎えた(写真:オープンロジ社 HPより)
われわれの目指すビジョンを達成するには、根幹である経営チームをしっかりつくらなければいけません。組織の問題が顕在化したことによる危機感がきっかけでしたが、おかげで株主一丸となって経営チームの体制強化ができました。
経営体制の強化をやり切ったため、その後シリーズCの資金調達に集中することができました。現在は、データを軸にした物流の姿を一緒に実行できるCTOの採用を考えています。
柳さんは、なぜオープンロジに入社したのですか。
柳 私は2020年3月にVP of Finance and Business Developmentとして入社し、2020年11月からCFOになりました。MBAの留学から約2年経ち、次のキャリアをスタートアップで取り組みたいと考えていたところでした。
オープンロジを紹介され、社会課題が大きい物流の領域と、地に足をつけて本気でやり切る伊藤の姿勢に惹かれましたね。面接では株主の方や経営陣にもほぼ全員お会いしました。
印象的だったのは、入社前に株主と経営陣との定例会議に参加したことです。株主と経営陣で議論が白熱していて、全員がものすごい勢いで喋っていました(笑)入社前ではありましたが自分の意見を求められ、事業の特性ともつながるオープンな社風を感じましたね。
既に経営陣が多かったので、入社前は自分の役割があるのかと考えたこともありましたが、想像以上にやるべきことが多くて魅力的な環境です。入社早々シリーズCの資金調達や事業提携を担当したほか、社長室の責任者としてCEO直下のプロジェクトや中期経営計画の策定などにも取り組んでいます。
データを起点にした物流のネットワーク化「フィジカルインターネット」を目指す
最後に、今後の展望について教えてください。
伊藤 われわれが目指す「フィジカルインターネット」の概念についてお話します。
フィジカルインターネットとは、インターネット上で情報が流通するように、「倉庫やトラックのようなフィジカル(物理的)な機能を利用してネットワーク化をはかり、効率的に物全体を運ぶ物流の仕組み」を指します。
現在日本のEC化率(BtoC取引全体に対するECの割合)は6.8%です。この数字は世界の14.1%と比べても低い水準ですが、コロナ禍で全世界的にEC化はさらに加速し、いつか日本の数値が2倍、12%強になる未来は必ず来ます。
一方で物流業界は、人手不足、高齢化、作業負担の増加などの問題が顕在化しています。人手でカバーするのではなく、物全体を効率的に運ぶ、新たな仕組みが必要な時代です。
もちろんドローンや倉庫内のロボットなど新たな解決策も出てきていますが、それらはオペレーションを中心に省人化や最適化を図るものであり、物全体を運ぶ仕組みを効率化するものではありません。
われわれはビジョンに、「テクノロジーを使い、サイロ化された物流をネットワーク化し、データを起点に物の流れを革新する」と掲げています。
ビジョンの達成は、1社単独では実現が難しいです。成長を加速するシリーズCのフェーズだからこそ、物流業界のステークホルダーと一緒にビジョン実現を目指したいと思い、商流と配送を持つ事業会社を株主に迎える判断をしました。
社会的な大きな課題に真正面に向き合い、ミッションである「物流の未来を、動かす」ためにも、フィジカルインターネットの実現を目指していきます。
(取材・文:藤野理沙、デザイン:石丸恵理)