2020年9月8日に行われたHOME TO HOME セミナー「2020年上半期スタートアップ資金調達動向 -Japan Startup Finance 2020 -」では、シニフィアン 共同代表の朝倉氏と『Japan Startup Finance 2020H1』 執筆者の森敦子(司会:ユーザベース 執行役員 B2B SaaS事業マーケティング&ブランディング担当 酒居潤平)が、2020年上半期のスタートアップ動向を振り返るとともに、今後についてトークセッションを実施しました。本記事ではその内容をお届けします。
シニフィアン株式会社共同代表/兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の調教育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、大学在学中に設立したネイキッドテクノロジー代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。スタンフォード大学客員研究員等を経て、シニフィアンを創業。同社では、Post-IPO/Pre-IPO双方のスタートアップに対するリスクマネー・経営洞察の提供に従事。主な著書に『論語と算盤と私』『ファイナンス思考』。
2020年上半期は前年と比較しても好調
INITIAL森(以下、森) 2020年上半期の国内スタートアップ資金調達額は1969億円、調達社数は688社でした。昨年と比較すると一見、昨年比50%進捗してないように見えますね。
森 これはデータ特性が影響しています。INITIALのデータはスタートアップを定義し、その企業に紐づくデータを観測することを主体につくられています。
したがって、企業のプレスリリースや登記情報など公表情報の有無、あるいは公表時期に影響を受けるため、必ずしもリアルタイムに実態を捕捉しきれていない部分があります。
ユーザベース酒居(以下、酒居) 現時点ではこの数字だけど、公開情報が新たに発表されたり、追加調査などで発見されたりするため、過去分含めてデータが変動するということですね、結果的に。
森 そうです。サイレント調達が最たる例で、集計時点よりも後に発見されることがあります。
これらを踏まえた実態はどうなっているかが、皆さんの気になるポイントでしょう。その実態を予測するには昨年同時期の集計データが参考になります。2019年8月29日時点での2019年上半期の資金調達額が1675億円、調達社数が637社でした。
これに対し、2020年上半期が1969億円とおおよそ前年同期間集計比でみると、2020年のほうが2019年よりも多かったという結果です。つまり昨年よりも実態として資金調達は増えている。
酒居 意外ですね。増えているのですね。
森 そうです。数字を確認すると実は過去10年で最高金額を記録した2019年と比較しても上半期は昨年を上回る進捗をしていたのが今回の発見です。
酒居 朝倉さんは実際に投資されている中で、このあたりは肌感覚とあいますか。
シニフィアン朝倉氏(以下、朝倉) 米国や中国などの地域において、2-3月は投資額が急激に落ち込んでいたと記憶しています。これに対し、同時期の日本では、投資活動の進捗を心配する声もありましたが、体感値として全体の投資活動が著しく落ち込んでいるようには感じていません。
これには投資のリードタイムが背景にあると思います。たとえば、今日、投資の面談をして、来週入金しますみたいなことは、シード投資であればあり得るでしょうが、もう少しステージが進んだラウンドであれば、なかなかないのではないでしょうか。とくに事業会社やCVCは、それなりに社内プロセスに関する時間も要します。
つまり、3月や4月に投資されている案件の場合、コロナが本格化する以前にある程度話がまとまっていたものが少なくないと考えます。それが特にこの第1四半期に反映されるなど上半期好調の背景にあるのではないでしょうか。
一方で、3月以降検討開始された案件は、投資姿勢がそれまでよりもやや保守的になる、あるいは様子を見られるなどの変化を反映し、数値として表れてくるのではないでしょうか。
酒居 ありがとうございます。今後、春ぐらいから影響したものが結果として出てくる可能性があるということですか。
朝倉 そうですね。あると思います。
森 月別の資金調達額を過去3年、2017年の1~6月に分解した調達額を見てみましょう。2020年は前年の勢いをそのまま4月まで非常に好調で、5月に調達額が落ち込んでいることがわかります。
森 転換点は、4月の緊急事態宣言です。外出自粛の影響が5月に表れています。4月はそれまでに既に決まっていたディールがなされていると読むのが自然です。
4月から外出自粛となり、既存投資先スタートアップの企業活動への影響確認が優先された。
また、新規投資の検討にしても、これまでオフラインが主流であったソーシングにはじまり、デューデリジェンスや投資委員会の開催を見送るなどの影響があったと思います。それらの影響が5月に表れたと考えます。
しかし、それは日本に限らず海外の数字も同様にロックダウン後に落ち込んでいるため、日本特有の動きではないと思います。
6月には大変好調だった4月の水準にまで戻してはいないものの、回復をしています。これは先ほどの朝倉さんのお話しもあったとおり、従来よりも投資判断が保守的になっていることの表れといっていいかもしれせん。
一部事業法人の投資姿勢に変化、海外投資家の存在感
森 四半期別の投資家の動きをみると、2020年第二四半期の事業法人が減少しています。この事業法人にCVC(※1)は含まれておりません。VCの投資額は2020年第一四半期と第二四半期で大きく変化していませんね。
※1:INITIALでは、LPが親会社かでの区別ではなく投資を本業としない事業会社によって設立されたスタートアップ投資を行う関連会社をCVCとしている。
朝倉 第二四半期については、データの集計タイミングの影響もありそうですね。実態としてはもう少し多いかもしれません。事業法人については、二極化の傾向があるのではないでしょうか。
この状況下でも、積極的に投資検討を進める企業と社内における優先順位が変わったところがあると思います。またあくまで断片的な定性情報にはなりますが、アーリーフェーズだと、事業会社系やCVC系の投資判断がより慎重になっている傾向にあるといった話は耳にします。
森 つづいて、VCの投資だけに着目し、その内容をみましょう。VC投資額全体に大きな変化はありませんが、海外VC(プライベートエクイティを含む)が増えています。
朝倉 海外VCの増加は今に始まったことではないと思います。2018年以降あたりから日本国内スタートアップの投資検討を進める海外VCは増えています。大きな流れとして、海外VCとカテゴライズされているプレイヤーがより日本に注目するようになっている点は把握しておくべきでしょう。
私たちが直接関与しているところだと、昨年2019年にSmartHRに出資した際のラウンドにSequoia HeritageとLight Street Capitalの2社が入っています。
また、外資系プライベートエクイティであるKKRやベインキャピタルなど、従来であれば日本のスタートアップを投資対象としていなかった投資ファンドによるベンチャー投資も見られ始めている。その結果、とくにレイターステージの資金が増えてきていると感じます。
レイターでの出資は資金規模が大きく一回の投資で数十億円にも上ります。したがって、投資額全体に占める金額ボリュームで見ると、自然と彼らの存在感は増してくるでしょう。
2020年上半期調達額上位から読み取れること
森 2020年上半期はどのようなところに資金が集まっていたのでしょうか。調達額上位20社をみましょう。
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