見えにくかったCVCの実務を明らかにする「CVC虎の巻」。本記事では化粧品メーカー、ポーラ・オルビスホールディングスが運営するCVC「POLA ORBIS CAPITAL」の岸裕一郎氏のインタビューから、CVC運営の実践方法を紐解く。
POLA ORBIS CAPITALは、母体であるポーラ・オルビスホールディングス(以下、ポーラ・オルビスHD)の総合企画室傘下で運営を行っている。当時入社3年目だった岸氏の提案により2018年に部署を立ち上げ、現在は2名でスタートアップへの出資や業務提携を行っている。
VCや投資経験がない中、ゼロから立ち上げ2年半で15社に出資。構成メンバーは2名のみ。投資領域は化粧品や女性向けサービスなどに限らず、幅広い領域でスタートアップとの協業を生み出している。
なぜ少人数かつ出資経験がない中で、CVC運営を継続できているのか。投資を決定する上で大切なこととは。岸氏がCVC立ち上げから行った具体的な行動とともに、ポーラ流・スタートアップ出資の極意に迫る。
サステナブルなCVCをつくっていくための体制
「POLA ORBIS CAPITAL」の組織体制やメンバーの役割について教えてください。
2018年4月に、CVCとして最初の投資を行ったので、そこから2年半ほど経過しました。
一般的にCVCの投資スタイルはファンド経由か、バランスシート(BS)からの直接投資かで分かれると思いますが、私たちは後者で、ポーラ・オルビスホールディングスのBSから出資を行っています。
CVCの組織は、経営企画室内にあり、メンバーは私を含め2名で運営しています。投資承認会や部門長といった関係者はおりますが、メインでコミットしているのは2名です。 役割分担はBtoC(個人向け)とBtoB(法人向け)で分かれており、その他はステージやビジネス領域などで区分しています。
私はアーリー寄りのC向けをメインで担当していて、もう1人はミドル以降のB向けを見ている状況です。
スキル面では私はスタートアップとのコミュニケーションを進めていくのが得意なタイプですが、もう1人は過去に財務・IRなどを担当しており、守りに強いタイプです。自分には持っていない能力なので、とても心強いですね。
CVCを始めたきっかけは社内新規事業コンテストでの応募
社内ベンチャーでCVCをやりたいと思ったのはなぜですか。
もともと私は、社内ベンチャーの提案を4つほど出していたんです。
そのうち3つは化粧品の事業でした。ですが提案書を提出した当時はまだ入社3年目だったので、若手が化粧品事業を出しても先輩たちの案が選ばれてしまいそうだなと思っていました。
そこで尖った案をダメ元で1個出そうと思ってCVCのアイデアを出したら、そちらが通ってしまったという流れです(笑)
CVCに興味を持った理由は、大学生時代にさかのぼります。IVS(Infinity Venturesが主催するカンファレンス)の学生枠で参加して、VCの方の話を聞いてこんな仕事があるのかと知ったのがきっかけです。
また、社内ベンチャーの案を考えるために新規事業についてリサーチしていたら、海外のロレアルやユニリーバがCVCを積極的に行っていることを発見したのも興味を持ったきっかけの一つです。
CVCのアイデアを起案した当時は、様々な業界でCVCが勃興してきていたタイミングでした。これから化粧品業界にもCVCの流れが来るのではないかという仮説のもと提案しました。
現在は少し方向性が変わってきているのですが、当初は女性起業家をサポートする文脈で始めました。
社内で新規事業のコンテストは盛んに行われているのですか。
弊社の社長(鈴木 郷史氏)自身、社内から生まれるベンチャーにはとても注目しています。
実際、私たちのグループで保有するオルビスやTHREEを保有するAcro、ディセンシアは社内から立ち上がった経緯があります。
グループとしては、M&Aをもちろん視野に入れながら経営を進めていますが、M&Aよりも社内から生まれた事業のほうが軌道にうまく乗っている事例もあります。
知識ゼロからCVC立ち上げまで
CVCを実際に立ち上げてから、どのようなことをされましたか。
無料トライアルに申し込むと、すべてのコンテンツをご覧になれます。