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2021/05/13

協業にこだわらない、NTTドコモ・ベンチャーズの投資戦略

  • #VC/CVC
  • #仮想通貨
  • #IoT

2008年からスタートアップへの投資を続け、日本のCVCの中でも長い歴史を持つNTTグループ。組織再編を経て2013年に誕生したCVC、NTTドコモ・ベンチャーズはシリコンバレーにも拠点を持ち、世界の最先端技術を自社のビジネスに活かしてきた。ただ、スタートアップ投資を始めてからこれまで、すべてが順風満帆だったわけではない。CVCのあるべき姿について社内で議論を重ね、試行錯誤を繰り返してきた歴史とも言える。 NTTドコモ・ベンチャーズはどのようにして海外で体制を作り、現在のような投資手法に行きついたのか。2013年からシリコンバレーで投資に携わり、2018年から同社の代表を務める稲川尚之氏に、これまでの投資の歴史とCVC成功の秘訣について話を聞いた。

CONTENTS

2008年からスタートアップ投資を続ける老舗CVC

まずはNTTグループのベンチャー投資の歴史についてお聞かせください。

NTTグループとして、いわゆるCVC投資を開始したのは2008年にNTT持ち株会社配下の投資ファンドが設立されてからとなります。また別の流れとして、NTTドコモとしても北米では2000年代中盤からR&D観点でスタートアップへの直接投資も一部行っていました。その後、前述のNTT配下のファンドやNTTドコモの北米子会社ドコモ・イノベーションの投資部門など、複数の組織を再編・統合する形で、現在私が代表を務めるNTTドコモ・ベンチャーズとなりました。会社としては2013年に発足し、現在の体制が固まったのは2017年のことになります。

投資する対象は技術やデバイスの進化に合わせて変化しています。2000年代から2010年頃までは要素技術を発掘することを目的としており、携帯のバッテリーや加速度センサーの技術を持つ会社などに投資をしていました。2010年頃からはスマートフォンが普及し始め、通信の上で動くサービスや技術を探すようになりました。

私は2013年からシリコンバレーに赴任し、スタートアップ投資をしてきました。当時の米国ではUberやAirbnbなど革新的なサービスが生まれていましたが、従来のホテルチェーンからは「Airbnbなんて流行るわけないじゃないか」と言われていました。ところが蓋を開けてみたらグングン伸びて、ホテルの売上高を追い抜いていく。そんな、スタートアップがキラキラしていた時代です。

そういう日本の5年先くらいを進んでいる新しい技術を日本に持ってくることが赴任者である我々の役割でした。米国にはインド人をはじめ、世界中から優秀な才能が集まっており、世界中のスタートアップに投資する拠点としてとても魅力的でした。20年、30年先の未来を考えるのが好きなNTTグループは、そういう最先端のサービスをどうにか自社内に取り入れたいと思っていたのです。

他のCVCに先駆けてグローバルに投資活動をしていたのですね。

当時から8年にわたって私の仕事は変わっていません。2016年にはNTTドコモ・ベンチャーズの副社長になり、それまで米国と日本で別々に活動していたのを、一つの組織に再編しました。

それまで米国で活動していた私は、日本に帰ってきてオープンイノベーションの重要性をより痛感するようになりました。

オープンイノベーションの両輪となる”協業”と”投資”

2000年代当時のオープンイノベーションの様子について教えて下さい。

当時のNTTは、協業を前提にした投資しかほぼしていませんでした。私達CVCはファイナンシャル・リターンだけを追っているわけではないので、協業しない会社に投資しても親会社であるNTTにとっては何のメリットがない、という考えが強くあったのです。

ドコモとしてCVC活動をし始めてからも、協業を打ち出さないと会議で合意が取れないという時代が長く続きました。もちろん、協業のための先鞭をつけるための投資がすべて悪いわけではありません。

しかし、米国での経験から、今すぐ協業に繋がらなくても将来性のある会社にアグレッシブに投資すべきだと思っていました。まずはいろいろといい会社に投資をして、そこから協業のほうに戻っていくほうが、結果的に流行っているものに投資できる、つまり世の中の流れをきちっとくみ取れると思っていたのです。

というのも、大企業が考えた事業開発のストーリーに沿って協業できるスタートアップに出資しても、オープンイノベーションには繋がりにくいからです。この流れでは全く新しい突発的なものは出てこないですよね。ただ、当時の代表とは投資スタンスで異なる部分があったため、よく意見をぶつけあいました。

必ずしも協業を前提にしない投資を本格的に始めたのは、2018年に私が代表になってからです。流行のビジネスに投資するだけでも「世の中の流れをちゃんと把握している」と社内外に印象づけられるので、メリットはあると思っています。

あと2年もすれば私の判断が正しかったのかどうか、結果が分かるでしょう。

協業だけで投資をしないという選択肢もあるのでしょうか。

もちろん、投資をしなくてもオープンイノベーションはできますし、実際に投資をせずに協業している会社も少なくありません。私達も投資なしでスタートアップを育てるインキュベーションプログラム「/HuB(スラッシュハブ)」を展開してますからね。

しかし、それでもやはり、投資することに意味があると思っています。お金を入れることでスタートアップの成長を加速させられますし、自分たちから流行を仕掛けることもできます。そもそも協業をしていく上で、投資もしていないのにビジネスになかなか口出しできません。逆に言えば、投資をすることで協業のチャンスに繋がるのです。

理由じゃない、コインベースの可能性にかけた

これまで直接、協業には結びつかないものの、可能性を感じて投資をした案件で印象に残っているものを教えて下さい。

私がドコモ・イノベーションズに赴任していた時の案件になり、厳密にはドコモベンチャーズの出資先ではないものの、 投資家として忘れられない経験となったのは2021年4月に上場した、暗号資産(仮想通貨)取引所のコインベース・グローバルです。

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