2019年の国内スタートアップの資金調達額は、11月18日時点で3,200億円を突破。6年連続で最高額更新なるか。
2019年11月19日に行われた日本ベンチャーキャピタル協会主催のメディアプレゼンテーションにおいて、インキュベイトファンド代表パートナーの村田祐介氏と『Japan Startup Finance 2018』執筆者の森敦子が、「未公開ベンチャー企業/VCファンド資金調達の状況」ついてプレゼンテーションを実施しました。
※本記事はプレゼンテーションの内容を記事化したものです。
※各種データは、2019年11月18日基準でINITIAL上で取得した数値を元に作成しています。
2019年、国内スタートアップ資金調達額はどう着地するか
森 敦子(以下、森)2014年〜2019年(2019年11月18日基準)における、国内スタートアップ資金調達額と調達社数推移は下図の通りで、2019年(2019年11月18日時点)の調達額は3,219億円でした。昨年の同時点での数値は3,269億円と、ほぼ同じ水準です。
2009年~2019年上半期の数値についてまとめたレポートはこちらからダウンロードできます
2019年末までに、昨年の調達額合計4,254億円、調達社数1,903社を超えてくるでしょうか。
村田 祐介氏(以下、村田) 今年のVCのファンドレイズ額が昨年と同水準であること、海外の投資家からの調達事例が増加していることを踏まえると、昨年の数値を超える可能性はあると考えています。
海外VCによるBtoBSaaSスタートアップへの投資も活発になっていますし、今年8月にはフロムスクラッチがKKRから資金調達を実施するなど、海外のPEファンドによる投資も見られます。
昨今の資金調達額の規模感についてお話しすると、リーマンショックが起きる直前、2006年における資金調達額は3,500億円程度でした。
つまり、最近の資金調達は年々増加していますが、より長いスパンでみると過去の水準まで回復したと言えます。
一方で調達社数については、ステルスで活動しているスタートアップも少なくないため、今年の着地を予想するのは難しい点があります。
しかし、特定のスタートアップに多額の資金が集まるという傾向は下図からも見てとれます。今後も1社あたりの資金調達額の中央値は上昇すると考えています。
調達額・評価額上位20社から見る、2019年投資トレンド
森 規模別の資金調達社数推移は、どのような傾向があるでしょうか。
村田 まず特徴的なのは、2019年、「1億円以上の資金調達を行ったスタートアップ」が過半数を超えたことだと思います。
また、「10億円以上の調達」の割合が8.6%と過去最高の数値になっています。
今後の傾向としては、シリーズB以降の研究開発系スタートアップと、BtoBのSaaSスタートアップに対して、10億円以上の資金が集まるのではと考えています。
森 割合は現時点での調達社数から算出しているので、今後調査進行によってシードの調達が新しく増えていくと予想され、その割合は薄まっていく可能性があることが留意点です。
次に、2019年の資金調達額上位20社を見てみましょう。
2018年はFintechスタートアップが資金調達額の上位を占めていましたが、今年はどのような特徴が見られるでしょうか。
村田 ティアフォーやSynspective、AIメディカルサービスといった研究開発系スタートアップと、フロムスクラッチやSmartHR、カケハシといったBtoBのSaaSスタートアップが二大勢力といえると思います。
その他にも、コンシューマーインターネット領域ではミラティブやスマートニュース、FinTech領域ではPaidyやウェルスナビなど、多額の資金調達を行うスタートアップの顔ぶれも、以前に比べ多様になってきていますね。
森 調達後企業評価額の上位20社を見ると、現時点で1,000億円以上の評価額を付けたスタートアップは6社ありました。
評価額については、どういった傾向が見られるでしょうか。
村田 マザーズ上場企業と同程度の評価額をつけるスタートアップの数は以前に比べ増加していますね。
INITIALによれば、100億円以上の評価額を付けているスタートアップは106社、300億円以上であれば25社あることを確認しています。
森 未上場の段階で大きく成長し、その上でIPOするスタートアップは増えるでしょうか。
村田 近年は発行体・主幹事・投資家の「上場後を見据えた」ファイナンスのリテラシーが高まってきたという印象があります。
今後は、「未上場の段階で巨額の調達をして、大きなサイズ感でIPOする」ケースも増え、未上場企業のファイナンスのやり方も変わってくるのではないでしょうか。
森 今年12月に上場を予定しているfreeeの株主には、海外機関投資家のティー・ロウ・プライスがいます。実はティー・ロウ・プライスは、今年6月に上場したSansanの株主でもあります。
「上場直前のラウンドで機関投資家が株主として入り、上場後も安定的な株主として株を保有し続ける」事例は、今後も増えるでしょうか。
村田 上場後、個人投資家だけに株を保有してもらうのではなく、機関投資家が保有する流れも少しずつ一般的になっています。
例としてあげたティー・ロウ・プライス以外にも、ジャパン・コインベストなど、中長期的に支援をする機関投資家や、「シリーズAやシリーズBで投資して終わり」ではなく、最終的なラウンドまでフォローする国内VCも増えていると感じます。
森 グロース支援をする新しい形のファンド設立が目立ったのも今年の特徴ですね。
大学発スタートアップを取り巻く環境の変化
森 さて、ここ数年の地域別資金調達傾向をお話しします。東京に所在するスタートアップによる資金調達が、全体の7割以上を締めていました。地方発スタートアップの成長を握る鍵はどこにあるでしょうか。
村田 1つ目のポイントは、大学などの学術機関から研究開発スタートアップが生まれ、成長する流れをどれだけ整えられるかだと思います。
大学発スタートアップに対する投資額は、リーマンショック後は低迷したものの、現在は復活傾向にあります。
来年以降も、各地方に存在するVCが大学発スタートアップへの投資を行い、シードマネーが入る流れは変わらないと思います。
その流れが活発になることで、首都圏の投資家も、シリーズA以降のラウンドに参加する動きが生まれるのではないでしょうか。
もう1つの大きなポイントは、「国家戦略特区」です。
福岡市や神戸市のように国家戦略特区を設けて、自動運転やドローンといった新技術を実証できる環境を整えることができれば、スタートアップの誘致・集積化に成功する地方も増えるのではないかと思います。
森 大学発スタートアップを取り巻く環境として、以前から変化した点はあるでしょうか。
村田 2019年4月に研究開発力強化法が改正施行され、国立大学法人が株式や新株予約権を保有できることが明文化されたことは大きなポイントです。
これによって、大学発スタートアップは、知財の譲渡や使用権の対価として、株式や新株予約権を発行することが可能となりました。既に東京大学では、この制度を利用したスタートアップが何社か出てきているようです。
この制度は、大学発スタートアップの増加を後押しするものだと思います。