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2020/04/27

第二創業期に突入したSHOWROOM、組織変革に向けた3つの打ち手

  • #エンタメ

2019年11月、ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」はDeNAが保有する株式の一部譲渡と共に、「第二創業」の始動を発表した。

これまでDeNAグループの一員として、前田裕二社長のもとで成長を続けてきたSHOWROOM。スタートアップとして第二創業期にある今、ファイナンス戦略と組織をどう変化させていくのか。

今回INITIALは、2019年11月にメルカリからSHOWROOMへ移籍した唐澤俊輔氏(役職:2020年2月取材時点COO)に取材を敢行。

「日本のコンテンツは、世界でも受け入れられるはずだと確信を持っている」と力強く語る唐澤氏のインタビューと共に、第二創業までの資本政策と、世界展開に向けた組織変革の実情についてレポートする。

CONTENTS

DeNAからスピンオフ。350万人が登録するライブ動画配信「SHOWROOM」

SHOWROOM株式会社(以下、SHOWROOM)は株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)から会社分割(スピンオフ)して2015年8月に設立。代表はDeNA出身の前田裕二氏だ。

主要事業はライブ動画配信サービス「SHOWROOM」。2013年11月、前田氏主導でDeNAの新規事業として開始した。ライブ配信者と視聴者の双方向コミュニケーションが特徴で、無料で誰でも配信が可能だ。

会員登録者数は約350万人、ダウンロード数は約470万、配信者数は約29万人。配信者はアイドルやタレント、芸能人やそれらを目指す女性が多く、視聴者は30-40代の男性が中心だ。

ビジネスモデルはギフティングモデル。ライブ配信では、視聴者が配信者に有料でコメントやギフトを贈ることが可能だ。

ライブ配信サービスSHOWROOMのサービス画面(写真:SHOWROOM社 Facebookページより)

その課金の一部を、プラットフォーム運営事業者であるSHOWROOMが一定割合徴収する仕組みだ。「投げ銭」とも呼ばれるこの仕組みは高い収益性を誇り、もともとは中国のライブ動画配信大手のYYが採用するなど中国で主流だった。

国内の競合ライブ配信サービスは「17 Live(イチナナライブ)」、「LINE LIVE(ラインライブ)」、「ツイキャス」のほか、スピンオフ元のDeNAが運営する「Pococha(ポコチャ)」やDeNAから独立した「Mirrativ(ミラティブ)」など多数存在。

SHOWROOMの強みは、AKB48・坂道グループや吉本興業、ジャニーズなど人気が高い芸能人の配信者が多く、国内芸能界と協力関係を築いている点だ。

企業評価額は188億円。2019年11月に31億円の大型調達を発表

SHOWROOMのファイナンスを見てみよう。

2015年8月、運営の自由度を確保し、事業展開の加速を目的としてDeNAから会社分割。その後2014年からの業務提携先であるソニー・ミュージック・エンターテイメントから出資を受け、新会社として運営を開始した。

設立から約4年はファイナンスで大きな動きは見られなかったが、大型調達を行った2019年11月がSHOWROOMにとって大きな節目となる。

電通、ニッポン放送、ドリームインキュベータ、GMOインターネット、アカツキなど事業会社を中心に約26億円を調達(調達額はINITIALの推測)。同時にDeNAが保有する株式の一部譲渡も行なった。

2019年12月にはジェイ・ストームとの資本業務提携を発表。ジャニーズグループにとっては初のスタートアップ投資となる。2019年から前田氏主導でジャニーズと共同で「バーチャルジャニーズプロジェクト」を進めているが、本資本提携で新たに動画メディアの開発にも取り組む。

「バーチャルジャニーズ」のイメージ画像(出所:SHOWROOM プレスリリース)

2020年3月にはKDDIとの資本業務提携を発表。目的は「5G時代の新たな動画視聴体験」の提供だ。同時にグローバル・ブレインが運用する「KDDI Open Innovation Fund」からの出資も受けた。

調達資金を元に、テクノロジー人材の強化、マーケティング投資、動画メディアなど新規事業の開発の三領域を中心に事業成長の加速を目指す。

2019年11月以降、エンターテインメント関連の事業会社との資本業務提携が多く見られ、まさに「第二創業」が始まったと言えよう。

創業5年目で迎える第二創業期。脱DeNAなど3つの変化

SHOWROOM「第二創業期」にあたり、どのような変化が見られるか。

1つ目は、DeNAからの脱却だ。

前田CEOは2019年12月の記者会見でも「2019年度内に再度、ディー・エヌ・エー(DeNA)による株式譲渡と増資を合わせた形で資金調達を行い、DeNAの連結子会社から外れることを目指す」と明言している(編集部注:2020年4月現在、公表はされていない)。

SHOWROOMの取締役は前田CEOを含め8名。取締役には、DeNA会長の南場氏、ソニー・ミュージック・エンターテイメント(SME)元代表で現在クールジャパン機構CEOの北川氏、SMEの音楽プロデューサー佐野氏などが名を連ねる。

2019年11月には、DeNA CFO・経営企画本部長の大井氏、電通の布施川氏が新たに取締役に就任。取締役の構成は従来の親会社であるDeNA(4名)および株主の企業出身者が中心だ。

脱DeNAを謳う中で、取締役構成にも今後変化があるか注目される。

2つ目は、経営体制の変化だ。

2019年11月1日にメルカリで人事全般および組織開発の責任者を務めていた唐澤俊輔氏がCOOに就任。前田裕二CEO、佐々木康伸CTOの2名による経営体制から、唐澤氏を加えた3名を中心とした新経営体制へ移行した(編集部注:2020年4月現在、唐澤氏はCOOではない)。

2020年1月にはクリエイティブ・デザインの強化を目的に、電通出身の工藤拓真氏、デザイン会社Basecamp代表の坪田朋氏をアドバイザーとして迎えた。新体制に向けて着実に人材を強化する姿勢がうかがえる。

3つ目は、新たなメディアの構築だ。

これまでSHOWROOMではオープンで誰でも配信可能なライブ配信サービスを展開してきた。第二創業期では、出演者を限定したクローズドなスマホ向け短尺動画サービス「smash.」を展開予定だ。

プロが製作する高品質なコンテンツを想定しており、SHOWROOMが提携したジャニーズやSME所属アーティストなどの出演も期待されるだろう。

「smash.」のサービスイメージ画像(出所:SHOWROOM プレスリリース)

DeNAは2020年2月決算説明会で、減損損失の計上による大幅な赤字を発表。その対策として、新規事業領域は「柔軟な資本政策・最良の座組みの選択(外部資本の活用、非連結化、等)」する方針を掲げた。

損失を縮小させるために新規事業戦略の見直しを進めるDeNA、投資を拡大させ急成長を狙うSHOWROOMにとって、「第二創業」を選択すべきタイミングがまさに今だったと考えられる。

だが、非連結化により自由な戦略を構築できる一方、これまでグループとして享受していたコーポレート機能や組織文化を構築する必要性も出てくる。

通常のスタートアップ創業とは異なる立ち回りが要求される、「第二創業期」のSHOWROOM。組織はどう変化しているのか、唐澤氏に実態を聞いた。

「ブランドの再定義」から着手した第二創業期

昨年移籍されてから事業をキャッチアップするにあたり、まず何を行いましたか。

唐澤 俊輔氏(以下、唐澤) 入社前にSHOWROOMの合宿に参加しました。30~40名規模の合宿で、新規事業案やプロジェクト管理方法など、様々な粒度で議論を行っていました。

image2

唐澤 俊輔(からさわ・しゅんすけ) / 大学卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2017年9月より株式会社メルカリ入社、2018年4月より執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。2019年11月、SHOWROOM株式会社に入社。慶應義塾大学法学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。グロービス経営大学院 客員准教授。

SHOWROOMの課題感やメンバーの顔を把握することができ、非常に良い時間でした。

入社した12月から2月までの3か月で既に3年が過ぎたように感じるほど濃密な時間でしたが、SHOWROOMは、パートナー企業や配信者、ユーザー等の多くの方が関係するビジネスであり、今後もキャッチアップが必要です。

広い裁量権がある中で、まず何から着手しましたか。

唐澤 まず「コーポレートブランディング」から着手しました。

今SHOWROOMは「第二創業」のタイミングにあります。

DeNAの新規事業としてスタートしてから6年、子会社化してからは4年が経過しました。これからは連結から外れ、資金調達をして成長を目指します。既存のライブ配信事業への投資をしながらも、「ライブ」「動画」「音声」の3領域で新規事業に着手するフェーズです。

これまではDeNAの子会社として収益を生むために、様々なネットワークを構築して、コンテンツを作成し、ファンが入る事業をつくってきました。

しかし、われわれの目的は広告課金で稼ぐことではなく、「機会格差をなくし、努力がフェアに報われる世界」を創ることです。

SHOWROOMは経営者「前田裕二」を前面に出している会社であり、これまでの事業の特性上、アイドル的なイメージもあるかもしれません。

今後は「どういう会社で、どういう世界を目指しているのか」を正確に伝え、世間の認識とのギャップを埋めることが必要となりますし、新規事業を進めるためには採用の強化も重要です。

具体的に何を変えたのでしょうか。

唐澤 3つあります。

1つ目は、スローガンを「夢を叶えるプラットフォーム」から「すべての人生に、夢中を」に変えたことです。

これまで「配信者が主役」でしたが、「配信者を応援するファンも入り、一緒に夢を叶える世界観を伝える文言にしました。

2つ目は、ビジョンの定義です。

ミッションの「努力がフェアに報われる世界」だけだと、具体的な事業のイメージがわきにくい。そこで事業の理解度を上げるために、「"エンターテインメント×テクノロジー"で世界中に夢中を届ける」とビジョンを定義しました。

そして最後に、第二創業として3つのバリューを作りました。権限移譲と事業のスピードをあげるためです。

正直、組織として創業者の前田に頼ることはあります。

そうした状況下で、バリューが無いと、「スキルでは前田裕二に勝てないので、権限移譲できない」と結論に至ってしまうことも考えられます。

バリューが組織に浸透していれば、メンバーに権限移譲を行うことができますし、それによって組織が強くなり、人も育つと思っています。

昨年12月に事業方針説明会(Entertainment Technology Conference 2019)を記者向けに行ったのも、コーポレートブランディングの取り組みです。

まずはメディアの方に理解いただいた上で、メディアを通してお客さまやステークホルダー、パートナーの方々に世界観を正しく理解してもらう目的で行っています。

出所:SHOWROOM公式HP

OKRで「ユーザー数」を追い、会社の連動性を強化

SHOWROOMはエンターテイメント要素の強い事業であるため、KPIの設定に難しさはありませんか。

唐澤 たしかに売上を追及するだけでは、自分たちが掲げる「努力がフェアに報われる世界」に近づいているのか、判断が難しい部分があります。

そこで、「今フォーカスすべきこと」を社内で共有するために、OKR(Objectives and Key Results、目標管理制度の1つ)を新たに導入しました。

OKRのメリットは、会社全体で1つの目標を目指し部門を越えて連動できること、優先順位や追うべきでない指標が明確になることです。

SHOWROOMの既存事業では「アクティブユーザー数」をOKRの指標においています。 ユーザー数を増やすためには、マーケティングを通してユーザーや配信者を増やし、コンテンツを面白くするだけでなく、営業や事業開発、プロダクトも連動する必要があります。

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OKRが定まると、ユーザー数の増加に繋がらない施策を止める決断ができます。

たとえば客単価を向上させ売上を増やす施策があっても、「今はユーザー数に集中するから、客単価は次の四半期で追いましょう」という様に、優先順位がつけやすいんですよ。売上数値は当然見ますが、OKRには置いていません。

前職のメルカリでは、OKRとして「GMV(総流通高)」を追いかけていました。全員で1つのGMVの向上の達成にフォーカスする意識に変わる。自分で商品を出品して売ることも、OKRの達成に貢献するイメージです。

ただし、OKRの運用はかなり難しく、導入すればすぐに問題が解決するようなものではありません。

「チャレンジング数値を掲げ、最終的に未達でもいいのがOKR」というコンセプトを正確に伝える必要もありますから、少しずつ時間をかけて浸透させていきたいです。

マーケティング部門を新設、脱DeNAグループの組織へ

コーポレート機能含め、組織体制はどう変化しましたか。

唐澤  これまでSHOWROOMは「DeNAグループ」の一員でしたから、引き継ぐものと変えるべきものを見極め、第二創業として組織をどうつくるか。これが重要なポイントです。

まず、マーケティング部門を立ち上げました。

SHOWROOMはこれまでマーケティングをせずにユーザーを集めてきました。パートナー企業と共に良いコンテンツをつくり、ファンが入る流れが出来ていたからです。今後DeNAグループから外れるにあたり、積極的にマーケティング投資を行います。

また、グループの効率性の観点からDeNAに助けてもらっていた部分もあり、たとえばリーガルチェックや人事制度の運用はDeNAグループとして行っていました。

今後子会社の連結を外すにあたっては、こうしたコーポレート機能を含めた基盤をつくり、自立した組織を目指します。

これまでを振り返って、特に良かったポイントはなんでしょうか。

唐澤 経営陣で話す時間量の多さです。

毎週2時間半、6人の経営陣で経営会議を行っています。土曜日に1日かけて、バリューのワークショップをやることもあります。

経営会議では意思決定だけでなく、事業の話に割く時間が多いんですよ。「こうしたほうが売上が伸びる」等のアイデア出しをしています。

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議題ごとに時間を管理すれば、1時間で済みますが、やはり経営陣が同じ温度で状況を把握することが重要です。

日頃から経営陣の目線が一致していれば、あらためて議論をせずとも、戦略をまとめることが可能だからです。

誰かが経営陣にプレゼンをして「ああでもない、こうでもない」とやり取りするよりも結果的に早いと思いますね。

「エンタメ業界連合」でアジアから世界を目指す

エンターテインメント事業の海外展開には様々な難しさがあると思います。SHOWROOMの海外戦略を教えてください。

唐澤  これまで、数多くの日本のスタートアップがグローバル化に苦労してきました。「あえて日本企業が進出すべき理由がなかった」ことが、理由の1つです。

今のコンテンツ産業を見ても、Netflix(ネットフリックス)などアメリカの大企業が多くのシェアを既に占めていますよね。

その前提をふまえて、なぜSHOWROOMは日本のIT企業として世界を目指すのか。

「日本のコンテンツは、世界でも受け入れられるはずだ」と確信を持っているからです。

たとえば、SHOWROOMが業務提携しているジャニーズのアイドルグループは、アジア各国でも人気があります。アジアで新しいスターが生まれれば、次は世界に進出するストーリーが実現できます。

SHOWROOMはまずアジアで成功させ、それからアジア以外の国に進出する戦略を考えています。

エンタメ業界との連携を重視した戦略ですね。

唐澤 様々な国で市場を獲得することは1つの勝ちパターンですが、2020年以降はUberのような既存業界のディスラプター(市場を破壊する)的な戦い方だけでは難しいと思っています。

そこで、われわれは既存のエンタメ業界とタッグを組んだ戦い方を選択しています。

もし「ライブ配信」だけに集中するのであれば、ニッチな分野で稼げばいいかもしれません。しかしわれわれは「ライブ配信プラットフォーム」企業ではなく、「エンタメ×テック」企業です。

かつて映像コンテンツの舞台が映画からテレビに移ったように、今後プロが活躍する場所はテレビからスマホに移っていくと考えています。

ライブ配信だけでなく、他のエンタメもアップデートするために、既存のテレビ局やラジオ局と「日本のエンタメ業界連合」として挑戦する。そしてお互いに世界へ進出する機会を広げていきたいと考えています。

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※取材内容・役職などは2020年2月時点のものです

(インタビュー:森敦子、執筆:三浦英之、藤野理沙、デザイン:廣田奈緒美、石丸恵理)


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