「組織が小さいときに価値観の浸透を徹底するべきだった」
「Goodpatch(グッドパッチ)」は、デザインの力を証明することをミッションに、UI/UXデザインのリーディングカンパニーとしてデザイン領域に挑戦しているスタートアップだ。
社員数は150名を超え、日本のみならず海外にも複数の拠点を持つなど、急成長を遂げている。
しかし、成長の影にはCEO 土屋氏が「組織が崩壊した」とまで語る、大きな困難があった。価値観の違いによって組織が崩壊しかけたのだ。
それを乗り越えたことで見えた、組織の問題を事前に防ぎ、共通の価値観を共有した組織をつくるために必要な行動とは。
自分が失敗をオープンにするだけでは足りない
Goodpatch CEO 土屋さん(以下、土屋) Goodpatchは、UI/UX領域を中心に企業のデザインを支援しています。
2011年に創業し、東京とベルリン、ミュンヘンなどにオフィスがあります。
土屋 尚史(つちや・なおふみ)/ Webディレクターとして働き、サンフランシスコに渡る。btrax Inc.にてスタートアップの海外進出支援などを経験し、2011年9月にGoodpatchを設立。UI/UXデザインを強みにしたプロダクト開発でスタートアップから大手企業まで数々の企業を支援。(写真:ami)
いままでnoteやブログで失敗をオープンにされていますが躊躇いはないのですか。
もともと、失敗をオープンにすることに躊躇いのない性格でした。
人は失敗やマイナスの話を聞くことが好きじゃないですか。今まで、そういった話題を自分から話すことで笑いを取ってきました。失敗を隠してバレる方がダサいですし、失敗からどう立ち直ったのか自分でオープンにすることで勇気を与えられたり、笑いを取れるのであれば、その方が得だと思っています。
(画像:Twitter)
なので、今まで失敗を隠さず話すようにしてきました。
つい先日も、組織が直面した崩壊の危機について記事を書き、発信しています。
失敗をオープンにし、自分の弱みを開示する人の組織は壊れにくいと思っていましたが、そうではないと。
失敗や弱みをオープンにする人は良い組織が作れるというロジックは成り立たないと思います。
私も創業当初からオープンな姿勢で組織づくりをしてきましたが、組織の構築に失敗しました。
失敗した一番の理由は、「自分が失敗をオープンにしていれば、社員もオープンになる」と誤解していたことです。実際は、そうすることで恐怖心を逆にいだかせてしまうこともあります。
トップがどれだけ開示しても、途中で入ってきた人は多くの場合、失敗をすぐにオープンにはできません。
今までそういった環境に慣れていない人にとって、オープンにすることは自分たちの存在意義を否定されたように感じてしまうことも少なくないからです。
会社という観点で考えても、創業者はポジションを脅かされることは滅多にありません。
しかし、役員やマネージャーといった役職の場合、1回の失敗で自分のポジションがなくなる可能性があります。その点で、創業者とは大きな違いがあります。
うちの会社では、「失敗はウェルカム」と言い続けてきました。しかし、組織が崩壊した当初は、その考え方が組織全体に浸透しきっていませんでした。
当時のことを書いた記事を発信している。(画像:Twitter)
「組織をつくるうえで、なんでもオープンに発言はしないほうがいいのでは?」と社員から言われたりもしました。
自社フィットの事前の見極めは困難
カルチャー、バリュー中心とした組織をつくれていなかったということですか。
すべては私の責任ですが、そういうことになります。
会社のバリューをしっかりと言語化・明文化できていませんでしたし、当時の役員やマネージャーともすり合わせができていませんでした。
たった1年で組織が50人から100人になり、急速に成長していたため、僕が適切に組織をマネジメントできていなかったこともあります。
中途入社してきたマネージャーや役員と足並みを揃えながら、バリューを体現した組織をつくるのはハードルが高く、当時の僕では全くマネージしきれなかったのが失敗した最大の原因だと思います。
土屋さんの価値観を理解していない人も採用してしまったことも原因の1つですか。
それもあります。 今となっては、私のブログやボイスメディアVoicyなどを聞いて入ってくる人も多いので、入社時点で私のキャラクターをある程度は理解していると思います。
しかし当時は、求職者向けの情報量が今ほど多くありませんでした。最終面接には私も出ているので、基本的に会社が置かれている状況は包み隠さず全て伝えていました。なので、組織的に良い状態でないことは認識した上で入社してくれていました。
しかし、急成長のフェーズだったので会社に勢いがありましたし、初めのうちは組織の崩壊が起きていなかったので、面接では「会社としてガンガンこれから攻めます」といった期待を持たせることも言っていました。
そういったことが積み重なり、会社の実情と異なる期待値を持たせてしまったことで、入社前と後のイメージのギャップが生まれ、組織崩壊が起きてしまったと思います。
(写真:ami)
カルチャーやバリューに沿った人を採用するために気をつけていることはありますか。
会社を経営する上で、仲間集めは最大のテーマです。どんな会社もカルチャーやバリューが合っている人を採用しようとしています。
反面、採用時点で自社にフィットしているかを100%見極めることはできません。
自社の約束事やバリュー、カルチャーを言語化し、働く上で求める基準を相手に明確に伝えます。その上で、双方が合意した状態を入社前につくることが大切です。
そうすれば、入社後にお互いの行動を評価するときも、共有の認識をもった上で話し合いができますよね。
どうしても基準が合わないのであれば、試用期間に入社の再考することもできますし、無駄な対立も起きにくいです。
逆に共通認識を持たずに入社してしまうと、お互いのことが理解できず、良い結果には絶対になりません。
何度も言いますが、事前にフィットしているかを完全に見極めることはできません。見極めるのではなく、ありのままに現状を話し、「それでも入りたい」かどうかを相手に選んでもらう。この意識が採用において必要だと考えています。
相手に選択してもらうには、カルチャーやバリューの明文化が不可欠です。それができていないということは、考えの相違による問題の発生を、事前に防ぐことが難しい状態だということです。
カルチャーフィットの問題は、会社にとって致命傷になりえます。会社を安定的に成長させるためにも、初期から明文化することが重要ではないでしょうか。
バリューは最初に明文化しろ
バリューは後天的に浸透させられるものですか。
バリューは旗であり、後天的に浸透させるのは難しいと思います。Goodpatchでは、1度浸透させるのに失敗し、組織が100人規模の時につくり直しています。これは非常に難易度の高いことでした。
だからこそ、組織が小さいときに徹底して浸透させておくべきです。
今まで組織にいた人と性質の違う人を、後から連れてきて組織にフィットさせることは、基本的に難しいです。後々になって、バリューを無理やり押し付けても、絶対にうまくいきません。
なのでその必要がないように、組織のバリューを明確にし、最初からそれに合う人を選ぶ必要があります。
もし組織のバリューを変える必要があるのであれば、人を入れ替えるしかありません。Goodpatchがバリューをつくり直せたのも、「人の入れ替え」が最も大きな成功要因だったと思います。
入れ替えずにもう1度バリューを再定義するのは、よほどのことがないと成功しないのではないでしょうか。
業績が悪い会社を立て直すとき、多くのケースで経営者の入れ替えが行われます。企業のバリューの浸透には、経営陣やトップ層の影響が大きいため、そこを入れ替えてしまうのがもっとも早く結果がでるからです。
「人の入れ替えなくして、バリューの浸透なし」それが組織づくりのリアルだと思います。
だからこそ、そうならないように、早い段階で会社のバリューを明文化し、入る人が自分で選べる形をつくることが重要なのではないでしょうか。
聞き手:佐久間衡、文:町田大地