スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL(イニシャル)」では、ファイナンスを中心として、データとストーリーからスタートアップの情報を多角的にお届けしている。
本記事では資金調達、ファンド設立、投資などの情報から2020年1月のファイナンス動向をコンパクトにお伝えする。
1月はあのスタートアップがユニコーンになっていたことがわかった。
2020年1月ピックアップニュース3選
①Origami、メルペイの子会社化(2020年1月23日)
FinTech領域がスタートアップも巻き込み戦いが激化している。 スマホ決済サービス「Origami Pay」を提供するOrigamiが、メルペイの子会社化を通じて、メルカリグループに参入した。今回の買収額は非公開であるが、2019年9月17日時点での評価額は435.6億円であった。2019年11月、Yahoo!とLINEの統合のビッグニュースから素早い動きだ。
Origamiは2012年の設立。2015年からQR決済を提供している先発企業であった。楽天Pay、PayPay、LINE Payなどの巨大な資本を持つ後発組が参入し競争が激化していくなかで先発優位性を保てなかった。これは決済領域に限った話ではなく、資本力のある後発組が参入した際のスタートアップの立ち回り方を考えさせる例となるだろう。
また、この様相はスタートアップの出口戦略にも影響を与える。FinTech領域からM&AでのEXITが増えるか。決済レイターで伊藤忠商事と資本業務提携をしたPaidyの動向にも注視したい。
②中国向けECのInagola、53億円を調達(2020年1月10日)
中国向け越境ECプラットフォーム「豌豆(ワンドウ)」を運営するInagoraホールディングスが53億円の資金調達を発表した。
引受先はSBIホールディングス、スギホールディングス、中国国営PEであるCITICグループ傘下の信金投資である。また、スギ薬局、CITICグループ各社と業務提携を行った。スギ薬局とはインバウンド事業の強化を目的とし、CITICグループ各社とは新たな中国人顧客の獲得および販売チャネルの拡大が目的とする。
同社はこれまでも子会社のInagoraを通じて、IDG CapitalやVentech China等の中国の大手VCや伊藤忠商事、KDDIなどからも資金調達を行っている。
最近では、中国最大級のコーヒーチェーンであるラッキンコーヒーと協業も発表している。日本の企業と中国消費者間にある情報・決済、物流の壁をワンストップで解決するB to B to C越境ECプラットフォームとしての成長が加速する注目レイター企業のひとつだ。
③FiNC、50億円の調達と同時に代表取締役の交代を発表(2020年1月6日)
ヘルスケアアプリ「FiNC」を提供するFiNC Technologiesは約50億円の調達と共に3代表制から代表取締役1名へ変更することを発表。創業者の溝口氏は非常勤取締役に就任する。
同社の累計調達額は153.1億円、調達前企業評価額は502.9億円と、積極的に資金調達を行ってきており、株主の多さが特徴にあげられる。その背景にシリーズA以降、事業法人からの資金調達をメインとして進めてきていることがある。今回の調達も新しく事業法人から調達していた。
事業法人からの資金調達は互いのシナジーを期待する場合が多いが、多くの株主との利害関係を調整しつつ、成長を加速できるか。未上場でも多額の調達ができるようになった今般。レイターのフェーズにおいて経営陣に求められる内容も変わってこよう。新経営体制における同社の動向に注目が集まる。
今月の資金調達額上位10社:Spiberがユニコーンに
1月の注目の調達は、素材系スタートアップのSpiberの資金調達である。今回、荏原製作所からのプレスリリースにて発表された10億円の調達以外に2019年12月に累計約54億円と大型の資金調達を登記簿で確認できた。
その結果、調達後企業評価額が約1,000億を超え、ユニコーン企業となった。また、同社からのプレスリリースは現在、確認出来ていないため、本ラウンドはまだクローズしておらず、さらに大型の資金調達となる可能性がある。(INITIAL 2020年2月5日基準)
現在、確認されているユニコーンは合計7社となった。
ファンド設立動向
今月は基準日時点で5本のスタートアップファンドの設立が観測された。 1月注目のファンドは、Spiral Capiral(旧:Spiral Ventures Japan)が設立した2つのファンドだ。
今回のSpiral Capiralへのリブランディングを通じて、ジェネラルファンド運営を行うSpiral Capital LLPと、特定のセクターの変革を目的にパートナー企業との共同設計を行うSpiral Innovation Partners, LLPの2体制に変更された。
後者は、類を見ない特徴を持ち、今回設立されたLogistics Innovation Fundでは、セイノーホールディングスがパートナー企業の中心としてLP出資を行っている。近年、事業会社の投資、CVCの設立が増加と事業会社のスタートアップ投資が増えていく中、今後、どのセクターでどのようなパートナーとファンドを立ち上げていくのかが注目される。
月別投資件数の推移
投資件数は観測データであるため、資金調達が直近であるほど公表されておらず、集計に影響が出やすい特性を持つ。 このことを考慮すると1月の件数に大きな特徴は見られないといえる。
投資家タイプ別にみた投資件数の動向では、これまでの傾向と同様に、事業法人の直接投資がVCによる投資の次に大きい割合を占めている。
2020年1月のVCの属性別にみた投資件数割合では、独立系VCに続き、金融系VCが大きかった。
個別に見たVCの動向では、金融系VCであるニッセイ・キャピタルEX1号投資事業有限責任組合による1月21日に公表されたみんなのマーケットへの25億円の投資が印象的であった。同ファンドはユニコーンの創出を目的とし、フォローオンかつ500億円以上のIPOが期待できることを条件とするファンドであり、今回は出資総額100億円の中からの25億円の投資を公表した。
今回を含めて、ニッセイ・キャピタルは累計32億円を投資しており、みんなのマーケットへの成長期待の大きさが見られる印象的な投資であった。
スタートアップの成長フェーズ別社数
現在のスタートアップの成長フェーズ別の社数をINITIALシリーズの定義に沿って示した。
2019年11月以降にINITIALにて評価額を推測し、シリーズを進めた企業を一部ピックアップして紹介する。
ピックアップした企業のうち、シリーズを進めた企業の対象ラウンドにおける調達前企業評価額と調達後企業評価額の変化率をみると、Spartyは521.20%、みんなのマーケットは207.38%、リノベるは219.46%、ウェルスナビは33.97%の上昇と、いずれの企業もINITIALが閾値とする20%を大きく超えた成長を示した。
この中でも注目はSHOWROOMである。DeNAからスピンアウトし、設立された当社はDeNAからの株式の一部譲渡と合わせて初の外部調達を行い、非常に高い調達後企業評価額でINITIALシリーズA企業となった。現在、SHOWROOMは「第二創業期」と打ち出している。スタートアップとして加速するうえで親会社から独立し、自走するためにシステムだけでなくカルチャーなどの再整備とまさにリスタートだろう。
同じエンターテインメント系のライブ動画アプリで有名なのは17 Live(イチナナ)。2018年のニューヨーク証券取引所への上場延期は記憶に新しい。日本発サービスの海外への挑戦に期待がかかる。
(文:福井健史、編集:森敦子、デザイン:廣田奈緒美)