2019年にCVCを設立したダイキン工業。それに先駆け、2017年に大阪大学へ10年間で56億円、2018年には東京大学へ10年間で100億円の資金を拠出して包括提携するなど、産学連携を中心としたオープンイノベーションを積極的に進めてきた。CVCの設立で機動的に投資できるようになったことで、スタートアップとの協業を通じて海外で新サービスを開発するなど、成果の兆しも見える。
CVCを設立することでスタートアップとの協業の仕方はどのように変わったのか。事業部長一人の承認で出資を決定できるユニークな体制をとっている狙いはどこにあるのか。CVCの発案者である、ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長の三谷太郎氏に聞いた。
東大とダイキン、両トップが産学連携を主導
CVCの発足以前から、東大との産学連携に積極的に取り組んできましたね。
東大との連携は2018年に「10年で100億円の資金拠出」を掲げてスタートしました。それまでもスタートアップとは連携してきたのですが、現場レベルでの1対1の連携ではなく、ダイキンの会長と東大の総長が直接対話することで組織対組織の連携にステップアップしたのです。
それにより従来のような共同研究だけではなく、ビジョンづくりから未来技術の創出、社会実装までを一体となって推進することになりました。年間約120社のスタートアップと面談し、中長期のビジョンを見据えながら目の前の成果も意識して取り組んでいるため、スタートアップからの期待も高まっています。
産学連携を既に進めている中で、2019年にCVCを設立した背景について教えて下さい。
CVCを設立する前もスタートアップに投資していたものの、当時は少額出資であってもM&Aと同じように会長・社長の承認が必要でした。
一方で、会社としても、スタートアップとの協業をもっと積極的に進めていくべきだと思っていました。そこで、柔軟かつ機動的にスタートアップに出資し、協業を加速させるために私がCVCの設立を提案しました。
スタートアップの優秀な人材と繋がるために、お金以外にもサポートするという姿勢を打ち出す必要があり、そのためにもCVCがいるだろうと考えました。
組織横断型のCVCで投資判断は事業部長に一任
CVCを作ったことでどのような変化がありましたか。
1つ目は「5年で110億」という投資枠を設定したこと。これにより、ダイキン工業が本気でスタートアップ投資にコミットしていることを対外的にPRできるようになりました。私達はファンドを設立せずに直接投資を行っているため、投資枠を設定してコミットを示すことが非常に重要だったのです。
2つ目は権限の移譲。CVC設立後は事業部長の承認で出資ができるようになっています。
投資の目的が事業シナジーの創出である以上、人的リソースの提供は欠かせず、その権限を持つ事業部長が意思決定できる仕組みとなった意義は大きいです。投資委員会を設けず、各事業部の部長に権限を移譲するのはユニークかもしれません。その代わり、出資すると言ったからには協業を進める責任を負ってもらいます。
単に事業シナジーを生み出すだけでなく、社内にも変化をもたらすことを志向しています。そのため、CVCを出島のように外部で運営するのではなく、会社の中心で動き回るようにすることで、成長戦略としてスタートアップと協業することを1つの選択肢にして欲しかったのです。CVCだけで意思決定した方が投資のスピードは速いと思いますが、あえて事業部を巻き込んでいるのは、社内の理解を得て、協業を推進するためでもあります。
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