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2020-03-27

【新】スタートアップが明かす、「VR研修」普及のポイント

# VR# B2B# HRTech# HealthTech
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前編では、国内のVRスタートアップは営業マーケティングと研修領域へ積極的に参入していることが明らかとなった。

本記事では、研修領域でVRサービスを展開するスタートアップ、スペースリーとジョリーグッドの2社とその関係者に取材を敢行。

スペースリーは「コンテンツ作成の手軽さ」を、ジョリーグッドは「画質やアングルなどVRコンテンツの質」を重視しており、異なる戦略をとっている。

2社の事例を通して、研修領域でVRが普及するために求められるポイントを明らかにする。

CONTENTS

スペースリーが狙う「手軽さ」

スペースリーは製造分野での研修領域サービスを加速していくそうですね。

スペースリー 森田氏(以下、森田) 様々な業種の研修分野でサービスを展開している中、大同メタル工業と共同で製造現場向け研修用VRソフトを販売する予定です。

働き方の変化に伴い、研修のトレンドも「定型的なコンテンツを使い続ける」から「人やスキルによってコンテンツを修正しながら運用する」に変化しています。

大同メタル工業社と共同で実施した研修用VRの現場実証では、導入により習熟度が40%、研修の効率性が30%向上したことが明らかになりました。定量的に研修用VRの効果が示せたことが、新規事業として進める後押しとなりました。

スペースリーはこれまで不動産向けを中心にVRサービスを展開していました。製造業向けの研修に何を活かせるでしょうか。

森田 これまでのVR作成ノウハウだけでなく、「サービスの特徴」が活きると思います。

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森田 博和(もりた ひろかず) / 株式会社スペースリー 代表取締役。東京大学大学院航空宇宙工学専攻修了後、経済産業省で6年間勤務。その後、シカゴ大学大学院にてMBA取得しアメリカで起業。2014年からアート事業を始めて現在も運営。2016年11月から、「どこでもかんたんVR」にフォーカスし事業展開を開始。(写真:INITIAL)

今回製造業向けの研修領域に参入したのは、スペースリーのユーザーである不動産管理事業者が、私たちが想定していなかった「研修用途」でVRを活用していることが分かったからです。

彼らは物件を直接見に行けない営業部門の従業員に対し、「VRコンテンツ」を用いて物件の営業ポイントを発信していました。スマホで簡単にコンテンツを作成できるため、紙よりもVRで説明する方が効果的だと判断したそうです。

こうした作成の手軽さは「人やスキルに合わせてコンテンツを作成・運用する」、現在の研修トレンドにも合っています。

また製造業は世界で同じオペレーションを採用していることが多く、グローバルに研修用コンテンツが展開しやすい。

国や地域で市場環境もプレイヤーも異なる不動産業と違い、国内のVR活用事例を海外でも活かせるのは、研修用VR×製造業のセグメントから事業を始めるメリットだと感じています。

製造業の大同メタル工業が、本業とは直接関係のない「研修用VRソフト」を展開するのはなぜでしょうか。

大同メタル工業 戸田氏(以下、戸田) スペースリーさんとは日本政策投資銀行(以下、DBJ)が提供するマッチングシステムで出会いました。弊社の主力製品のエンジン部品市場が、電気自動車化によって縮小する可能性を見据え、新規事業を立ち上げるタイミングでした。

そこで事業領域として目をつけたのが、VR×研修領域です。

他の製造業も同じ悩みを抱えている可能性が高いため、自社の研修用VRで効果が出れば事業として横展開しやすい。

VRコンテンツ製作のノウハウは保有していなかったため、弊社は現場検証用の環境を用意し、スペースリーさんにはソフトウェアを活用させてもらう形を取りました。

スペースリーとの連携の決め手はなんでしたか。

戸田 「撮影、コンテンツ化、改善」のサイクルをすぐに回せる手軽さです。

製造業では暗黙の了解のもとおこなわれる作業が多く、マニュアル通りに研修用コンテンツを作成しても気付けない点が数多く存在しています。

1回の撮影・作成で完全なコンテンツをつくるのは不可能です。継続的に現場の人のレビューを反映させながら、コンテンツの質を上げることが前提となります。

つまり、手軽に質を上げるためのPDCAを現場レベルで回せなければ、導入は難しい。

VRの導入にハードルを感じる企業は少なくありませんが、製造現場はなおさらIT機器と馴染みが薄いだけに、見るだけで導入に難色を示す人もいます。

しかしカメラとパソコンがあれば、自分たちでコンテンツのアップデートや編集ができると教えると、現場の従業員の反応は変わりました。

現場を巻き込む必要がある限り、「VR=難しいIT技術」と彼らに思わせないことが重要なのです。

研修用VRはどのような作業に向いているのでしょうか。

森田 VRを研修で利用する際に最も重要なのは、対象とする作業に「視線の動き」があることです。視線が動かない作業には、適していません。

「絵や画像」と「VR」の効果の違いをよく聞かれますが、最も大きな違いは視点の自由度です。前者は視聴者の意思で視点を動かせませんが、後者は能動的に自分で見る視点を決められます。

つまり、視聴者は絵や画像を用いた研修コンテンツに比べ、VRを通すことでより意識して対象を見るようになるのです。これは、習熟度にもプラスの影響を与えます。

そのため、製造現場でランプの色や点灯によって工程を変えるような、視線の動きが多い作業に絞ってVRコンテンツを提供しました。

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(写真:sarawut muensang / Shutterstock.com)

一方、VRは視聴者が受け取る情報量が多いため、文章を暗記するなどの事務作業には向いていません。暗記をする時は、編集してシンプルに整理された情報を見た方が効率的だからです。

大同メタル工業 中野氏(以下、中野) 作業を新たに学ぶ人の方が効果的なのも、注目すべき点です。

あくまで研修用VRは、「新しく学ぶ」ことに適したコンテンツです。VRは制作側が想定した内容しか学習できないため、環境に合わせた臨機応変な学習には向いていません。

すでに作業内容を知っており、業務効率化のニュアンスが強い場合は、現実世界をベースに情報を加えるARの方が効果的だと思います。

私たちも今回の取り組みでは、「4月の新入社員」をターゲットに研修コンテンツをつくりました。

どのような工程への活用が考えられますか。

中野 最初は、ベテラン従業員の細かい技術伝承などへの活用を考えていましたが、全員で同じ時間に同じ作業をおこない、明確に動きが決められている作業の方がVRは有効だと考えています。

例えば人によってオリジナリティが出てはいけない作業として「品質確認」があります。これは教える人が変わると、教え方や言い方の違いにより差が生じるリスクがあります。

しかしVRを活用すれば、外国の方や正社員、グループ会社社員、派遣のようなバックグラウンドの違いに関係なく、同じ内容を視覚的に教えられます。言葉をつかった指導よりも、均一な教育を確実におこなえるわけです。

製造業では「自主制作できるか」が肝

VRコンテンツは、外注できる方が需要があるのではないでしょうか。

戸田 自社でコンテンツを作成する形の方が受け入れられる理由が2つあります。

1つはセキュリティーの問題です。

外注するには、製造プロセスや設備について制作側に教える必要があります。しかし製造業の工程は機密情報の塊なので、できる限り自社内で完結する形ですすめたい。

実際に他社にヒアリングをすると、工場に外部の人を入れたくない企業がほとんどでした。製造業の研修用VRでは、外部が介入せずにコンテンツをつくれるかは肝になると思います。

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大同メタル工業株式会社 3D's VR ソリューションズ・グループ。左から中野 健太郎(なかの けんたろう) 化学メーカー、スポーツメーカーを経た後、大同メタル工業にて営業職に従事 / 奥村 佳則(おくむら よしのり)アパレルメーカーに就職後、大同メタル工業の製造拠点である大同プレーンベアリングに入社。製造現場で経験を積み、生産技術課に所属 / 戸田 和昭(とだ かずあき)大同メタル工業へ入社後から現在まで材料開発職に従事する傍ら、社内の複数の新事業創出プロジェクトに参画(写真:INITIAL)

大同メタル工業 奥村氏 もう1点は、費用対効果の観点です。

長年培ってきた仕事の勘やコツを、基礎知識がない社外の人に伝えるのは非常に難しい。紙で表現されていた業務マニュアルの内容を、3D情報を含むVRで正確に再現するのはなおさら困難です。

また製造業の業務フローは頻繁に変わるため、エンジニアや撮影部隊がいないと対応できないプロセスだと、手間がかかる上にメンテナンスコストも高くなり、継続できません。

製造業向けの研修用VRはまだコンテンツの「質を上げる」フェーズではなく、「新しくつくる」フェーズなのです。

VRコンテンツを紙のマニュアルと差別化するには、現場の人だけでスムーズに作成でき、状況に応じてすぐに編集できる環境が求められています。


スペースリーと大同メタル工業は、紙のマニュアルを代替することをターゲットにし、コンテンツ作成の手軽さでVRの浸透を目指す。

一方で、手術用研修コンテンツを中心に医療領域に取り組むジョリーグッドは、「コンテンツの質」の切り口からアプローチしている。

同社の戦略について、同社CEOの上路氏と投資家のアクシル・キャピタル・パートナーズの五内川氏に話を聞いた。

ジョリーグッドが示す「実写VRのポテンシャル」

ジョリーグッドの事業内容を教えてください。

ジョリーグッド 上路氏(以下、上路) 私たちは、もともとメディア向けのVR作成支援ツールを提供していました。

その後Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)社から、カテーテル手術用のVRコンテンツ作成を依頼されました。それをきっかけに、医療や介護、飲食業界などを中心にクオリティに重点を置いた研修用VRコンテンツを作成しています。

質の高いVRコンテンツは、どのような業界に求められているのでしょうか。

上路 もっともニーズが顕在化しているのが医療業界です。医療業界では精密な動きや繊細さが重要であり、映像内の人物に憑依しているかのような没入感が求められるからです。

医療業界向けにVRコンテンツを作成するうえで、重要な要素が2つあります。

1つ目は、画質です。VRはタブレットやスマホ、テレビに比べ近距離で画面を見ているため、少しのブレが視聴者に大きな影響を与えます。手術など長時間のコンテンツでは、このブレが視聴者を酔わせてしまう。

ハードウェアは急速に進歩していますが、いま販売されている簡易カメラは遠くの部分がボケてしまったり、ぶれやすかったりと画質の面で伸びしろが多くあります。画質が求められるコンテンツをユーザーが自力で作成するのは、まだしばらくは難しいと考えています。

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上路 健介(じょうじ けんすけ) / 株式会社ジョリーグッド 代表取締役CEO。テレビ局で技術者として番組制作に従事後、2000年から放送とインターネットを連携させた先端サービスを多数開発。2008年より博報堂DYメディアパートナーズにて事業開発チームのリーダーを務め、2011年から3年間ロサンゼルスに滞在、米国メディア企業らと事業開発。 2014年、株式会社ジョリーグッドを設立。(写真:INITIAL)

2つ目は、アングルです。VRの一番の長所は、自分で視線の距離を変えられないことです。

作成側が意図した距離で必ず見てもらえるため、体験してほしい視点を忠実に再現できます。本人になりきっているかのように目線を再現できれば、高い没入感が得られるわけです。

私たちのコンテンツは、パノラマ画像のような部屋を俯瞰するアングルではなく、すべて一人称のアングルで作成しています。

視線を再現するには目線の高さなどにも注意が必要ですが、とくに重要なのは本来自分の手がある位置と映像中の手の位置が一致していること。いくら視点が本人に近くとも、この距離感が合っていなければ没入感が損なわれます。

この2点の質の担保が、医療の研修用VRでは特に求められる。これらのポイントを見つけたことで、ユーザーが一気に増えました。

医療従事者はスムーズにVRを導入できるのでしょうか。

上路 医療系の人はもともと診断に画像を使いますし、教育のために手術や治療の様子を動画で撮影することもあるので、動画や画像を使ったコンテンツに慣れています。また技術やノウハウを「見せあって共有したい」と考えている人も多い。

今まではそれらの3Dの情報を2D上で提供するしかありませんでしたが、没入感の高いVRコンテンツを提供したので、今は利用者からの紹介などで自ずと新規利用者が増えている状態です。


投資家はどのようにジョリーグッドを評価しているのか。

同社に投資しているアクシル・キャピタル・パートナーズの五内川氏に、研修用VRの可能性について聞いた。

投資家として、医療領域の研修用VRの市場をどう捉えていますか。

アクシル・キャピタル・パートナーズ 五内川氏(以下、五内川) VRサービスは、ターゲットユーザーとコンテンツ形式によって、下記のような4象限に分けられます。

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「toC×グラフィック」はゲームが、「toC×実写」はYouTubeのような個々人が撮影するコンテンツが当てはまります。

「toB×グラフィック」は、身体の中や「存在しないもの」を映したコンテンツが当てはまり、研修や営業マーケティング用途で使われます。プロダクトのデザインをVR上でおこなう、VRシミュレーションもこの領域に当てはまるでしょう。

そして予想に反してニーズが強かったのが、ジョリーグッドが提供している「toB×実写」の領域です。とくに医療領域では、人間が見た通りの映像を見せるVRコンテンツのニーズが明らかにありました。

研修用VR×ヘルスケア領域は、海外を含めて参入するプレイヤーが増えてきていますが、グラフィックを用いない実写領域のプレイヤーはほとんどいません。

ジョリーグッドが医療分野の研修で先行している理由は何でしょうか。

五内川 同社が先行して業界に飛び込み、培った経験は大きいです。

医療における失敗の代償は命ですから、研修と言えど、安さや手軽さだけでVRコンテンツの作成依頼はできません。

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五内川 拡史(ごないかわ ひろし) /アクシル・キャピタル・パートナーズ パートナー。 野村総合研究所に入社し、証券アナリスト。野村證券転籍後、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーにてベンチャーファンドを立ち上げ、投資・運用。2005年に独立し、経営コンサルタントとして活動。東京大学産学連携本部共同研究員(2003~14)、早稲田大学理工学術院招聘研究員(2009~13)、NEDO研究評価委員(現在)等、公的活動多数。2017年より現職。

例えば、撮影機材による病院内の汚染防止や患者のプライバシー保護のための編集など、守るべき業界独自のポイントも多い。だからこそ、国内初のユースケースをつくった同社に依頼が集まるのだと思います。

VR業界の人材は、先行して広まったVRゲーム関連のスキルをもった人が多いイメージですが、サービスを提供するセグメントによっては映像製作のスキルも求められるのは注視すべき点でしょう。

技術が進歩するほど「没入型トレーニング」の価値は上がる

AI診断等の技術が進歩した場合、没入感の高いトレーニングのニーズは減っていくのではないでしょうか。

五内川 技術単体でオールマイティーに治療をおこなう未来は、当分こないと考えています。

むしろ技術と人間の共同作業が増え、新しい技術に対する人間側の対応力が求められるようになるでしょう。

新たに対応が求められる例として、「スマート手術室」があげられます。同サービスは手術室内にある機器を一元的につなげ、情報把握を効率化することで手術の効率化や安全性向上を目指しています。

このサービスを導入すれば、確かに手術に関わる人数や作業は減るでしょう。しかし、新たな術式が求められたり、効率的な動線を確保するといった人間の動きは必ずおきます。

これまで医療従事者が手術中におこなってきた動きとは、まったく異なる動きをミス無く行なわなければなりません。

つまり、技術が進歩するほど新しい動きの習得を今より求められるため、トレーニングをして本番でミスを防ぐ重要性は増してくる。人間のスキル向上と技術進歩は、必ず両輪で求められるはずです。

これからの時代にこそ、業界を問わず「本番さながらの没入感」が、より求められていくと考えています。


日本でも研修用VRの活用事例が増えてきたことで、研修時間やコストの削減などのメリットや、向いている業務が明らかにされつつある。

2020年以降、研修用VRで注目しているトレンドについて森田氏と上路氏はこう話す。

VR研修の可能性を拡張しうる2つの技術

VR研修領域で、今後期待するトレンドはありますか。

上路 VRの特徴は製作者が意図した距離感で、ユーザーが必ずコンテンツを見れる点です。それを活かす方法として「他人へのなりきり」が挙げられます。

例えば、医師の視点だけでなく介護される側の視点を体験できるコンテンツを提供できれば、その経験を日常業務に活かせる。

VRを用いれば、文字通り「相手の立場に立って」考えられるようになるのです。

また、没入感を高めるために「五感との連携」も進むでしょう。たとえば、振動によってVRでも触覚を感じられる技術として「ハプティクス」があります。

視覚だけでなく繊細な力も再現できるため、指先の力の掛け方や身体の動かし方を含めて”憑依して”学ぶトレーニングが実現できるのです。試合中にスポーツ選手がおこなっている力の掛け方を、自分自身で感じながら練習するのが当たり前になるかもしれません。

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2019年に、村田製作所がハプティクス技術を使ったソリューションを提供するスタートアップ「ミライセンス」を買収するなど、この流れを読んで動き出している企業もでてきた。(写真:IgorGolovniov / Shutterstock.com)

視覚だけでなく、触覚や嗅覚のような他の五感も感じれるようになれば、これまでの研修より圧倒的に効果的な学習が実現できると考えています。

森田 VRの強みである、3Dデータの取得方法に注目しています。

例えば、ディープラーニングを用いて2Dの360度写真を3Dデータに変換する技術があります。360度写真を撮るだけで、3Dデータを取得できるようになれば手間が大きく省ける。

また、VR利用者の視線データを分析することで新たな価値も生まれるでしょう。

手間が省かれるほど活用できるシーン、データも増えVRの価値は高まります。

3Dデータを取得しやすくしたり、視線データを活かしてユーザー体験の向上させることは、これから重要になっていくでしょう。                

(インタビュー・執筆:町田大地、編集:三浦英之、デザイン:廣田奈緒美)

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