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2020/02/19

Resily、シリーズAで約5億円調達。資金調達の本音と今後

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転換期を迎えつつある日本型雇用システム。その象徴の1つである新卒一括採用を前提とした「メンバーシップ型社員」から、欧米で主流である「ジョブ型社員」も活躍できる組織制度を充足させていく流れになりつつある。

その変化を受け、日本でも目標管理制度「OKR(Objectives and Key Results)」に近年注目が集まりつつある。GoogleやFacebookなど成長著しいシリコンバレーの企業が導入しているものだ。

日本でも、中途採用中心に組織形成されるスタートアップやメガベンチャーを中心に認知は広がりをみせはじめているが、運用の難しさから黎明期にある。

OKRの効率的な運用を支援するツールが「Resily(リシリー)」だ。サービスリリースから約1年で累計導入企業数は100社を超えている。

その運営元であるResily株式会社(以下、Resily)がINITIALシリーズAで約5億円の資金調達を発表。本記事では、資金調達の目的と市場開拓のための具体的な施策から今後の展望までをResily 堀江CEOにインタビューした。

CONTENTS

バリュエーションは今後の景気を見据えて決めた

「今回のシリーズAの着金が完了した2019年12月末の半年前、7月から資金調達に向けて動きだしました。」堀江氏はそう切り出した。

Resilyは今回、INITIALシリーズAで約5億円の資金調達をおこなった。累計調達額は約5.5億円、調達後企業評価額は推定21億円とみられる(※評価額はINITIALによる推定額、Resilyにより決定又は追認されたものではない)。

資金使途は、技術開発および販売体制やカスタマーサクセス強化だ。

参考)「スタートアップの成長フェーズを知る

堀江 「事業計画上は2020年4月の着金を予定していましたが、計画通りに進めると資金残高が際どくなるのが分かっていました。

その計画に若干の怖さを覚えた部分も多少ありますが(笑)、経済の先行きに対する不透明さがこれから高まる可能性を考慮して、3カ月前倒しで動き始めました。

想定より前倒しで進める中で、最後まで考えたのが「どの程度希薄化させるか、バリュエーション(企業評価額)が高過ぎないか」の2点です。

特にバリュエーションに関しては、事業成長の角度を考えて低くした方がいいのではないか悩みました。

資金調達に際して株主だけでなく、Sansan創業者の寺田さんにも相談し「高くしても良いことはないから下げるべき」とアドバイスいただいたりもして。」

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堀江 真弘(ほりえ・まさひろ)/ 大学院在学中より1年間のインターンを経てSansan株式会社に入社。うち4ヶ月間、徳島県神山町にあるサテライトオフィスでオンラインでの営業手法を仕組み化する。 その後「Sansan」のスマートフォンアプリ担当プロダクトマネジャーとして、 アプリリニューアルのUX設計をリードする。 2017年6月にSansanを退職し、共同創業者のエンジニアとResily株式会社を創業。(写真:INITIAL編集部)

堀江 「三者三様の意見を言われ迷いが生じることもありましたが、2020年~22年に景気に対する不透明感が増すと考え、それに対する備えをしておくべきだと思っていました。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資していたWeWork(ウィーワーク)の問題が表面化してきており、それがスタートアップ全体へ波及して資金調達環境が崩れてもおかしくないと思ったのです。

バリュエーションに正解はありませんから、最後は自分の感覚を信じて、高めに設定してでも多めに資金調達すると決めました。」

INITIALの調べによると、INITIALシリーズAにおける資金調達額の中央値は2.3億円である。堀江氏の言葉どおり、今回、Resilyが資金調達した約5億円は中央値の2倍以上と一般的な水準より高い。

参考)「スタートアップの平均的な成長モデルを知る

プレシリーズAをしなかったのは「投資家とのタイミング」

シリーズAが本水準であれば、その前にブリッジファイナンスでのプレシリーズAをする選択肢もあったのではないか。その問いに対し、堀江氏は投資家とのタイミングをあげた。

堀江 「ブリッジの役割でプレシリーズAを挟むかは考えましたが、今後の景気動向に対する自身の感覚を踏まえて実施しませんでした。

もう1つ理由を挙げると、投資家との交渉のタイミングを逃さないためです。

スタートアップの初期はスピードが重要です。資金調達に時間をかけすぎたくないと思っていました。最適な投資家が見つかったのならば、ブリッジファイナンスを挟んでこの機会を逃す方がリスクだと判断し、プレシリーズAは行いませんでした。」

今回の資金の出し手は、DNX Ventures(ディー・エヌ・エックス ベンチャーズ )とSalesforce Ventures(セールスフォース ベンチャーズ)の2社。

シード期から同社を支援するDNX Venturesは東京とシリコンバレーに拠点をもち、シード、アーリーステージのスタートアップへ投資をおこなっている。

昨年の大型資金調達したフロムスクラッチや、建設・建築現場のプロジェクト管理ソフトウェア「ANDPAD」を提供するオクトなどSaaS企業への投資が目立つ。

今回の新規投資家はSalesforce Ventures。先日IPOしたクラウド会計ソフトを提供するfreeeや、医療系SaaSを提供するKAKEHASHIなど多くのSaaS企業への投資実績をもつ。

両社の共通点は「SaaSを中心に投資していること」と「日米に拠点をもっている」点だ。

OKRソフトウェア市場は、米国を中心に世界で2019年の1億300万ドルから、2026年に5億4,600万ドルに、年平均成長率は27%と継続的な成長が予想されている(調査会社QYResearchにより)。

日本ではまだOKRサービスを提供している企業が少ないため、同領域でSaaSを提供しているResilyに投資したのではなかろうか。

両社を株主として迎えた理由を堀江氏は次のように話した。

堀江 「シード期からの株主であるDNX Ventures 倉林さんは、「起業家が事業をもっとも考えている」と、リスペクトをもって助言を頂けるので信頼していました。また、実際にやりとりをして誠実な人柄であるとわかったことも大きかったです。

シリーズAの調達にあたり、倉林さんから複数の投資家をご紹介いただきましが、なかなか事業に対する感覚が合う方と出会えませんでした。

そのような中で、条件面含めて投資してほしいと思ったのがSalesforce Venturesさんです。

理由として大きかったのが、投資検討の段階でSalesforce Ventures Japan Headを務める浅田さんと元プリンシパルの湊さんにピッチしたとき、フィードバックが鋭かったことでした。

当時私たちは、「スタートアップと大手企業の新規事業部門をターゲットにしています」と言っていました。しかしそれに対し、「なぜ一番刺さるスタートアップだけにしないのか?まず、スタートアップにやってみて、駄目だったら大手企業向けにフィットするようにプロダクトを少し変えればいい。だから今は、ターゲットをスタートアップに絞ってプロダクトを磨くべき。」と、厳しくご指摘いただきました。

実際この指摘は正しかったと思っていて、今の戦略の基礎になっています。

一方、既存投資家のDNX Ventures 倉林さんは自由に事業をやらせてくれるので、この2社から投資を受けられれば「飴と鞭の関係」となり、企業成長につながると思ったわけです。」

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(写真:INITIAL編集部)

採用とオンボーディングには力をいれておくべき

ここで、シードからシリーズAまでを振り返ってもらい、「今だったらやらないと思うことをあえてあげるなら?」と質問したところ、経営者としての2つの反省点を堀江氏は挙げた。

堀江 「1つ目は、採用とオンボーディングに力を入れていなかったことに反省があります。

初期のスタートアップに応募してくる人は、ゼネラリストではなく得意な部分が目立つ尖がった人材が多いです。そのため、双方の認識や役割を十分にすり合わせてから採用しないと、入社後にお互いに「聞いていたことと違う」状態になってしまいます。

しかし、それを怠ったために採用後にコミュニケーションコストがかかりすぎてしまい、最終的に本人だけでなく周りにも迷惑を掛けてしまいました。

2つ目は、プロダクトづくりの軸となるメンバーを早く入れなかったことです。

途中まで私を含めて、UXなどの専門性の高くないメンバーが中途半端にプロダクトを見て、意思決定をしていました。そうすると、「本当にそれはユーザーにとって重要な点なのか?」の問いに対し、明確な根拠をなかなか見つけられず意思決定が遅くなったり、冴えない打ち手になってしまいます。

スピードが武器であるスタートアップにとって、それは不毛でしかありません。「誰がいたらゲームに勝てるのか」を最初から意識したうえで組織を設計し、その人材を狙い定めて獲得していくことがのちの成長への大きな差になると考えます。

プロダクトづくりの軸となる人材とは、「言語化能力が高い」の一言に尽きます。

たとえばResilyには弁護士、検察官と同じレベルで課題やテーマについて言語化でき、建設的な意思決定のための証拠集めも欠かさない人材がいます。

その人が入ったことで、私もCTOも自分の領域にフォーカスできるようになり余裕ができることで、自然に活躍するのを期待するのではなく「今いる人が活躍できる環境をつくる」ためのポジティブな視点を持てるようになりました。

1年以上前から転職サービスで勧誘していましたが、採用後の効果を考えるともっと早い段階で採用にコミットすべきでした。」

Resilyのサービス画面(出所:Resilyの企業HPより)

「5社の成功」が市場開拓の鍵

OKRサービスを提供する海外企業が大型資金調達を実施している一方、日本では関連書籍が出るなど、徐々にOKRの認知は広まりつつあるものの、現時点では黎明期といえよう。

そのような状況下、どのような施策でユーザーを獲得していったのか。今後、注力することについて、最後に答えてもらった。

堀江 「世の中のトレンドと掛け合わせた情報発信は効果的でした。例えば、働き方改革と紐付けて発信したところ、大企業から多くの問い合わせがありました。

日本企業は現在、雇用形態に関わらず「同一労働同一賃金」の実現に向けて動いています。また同時に、70歳までの定年努力義務化も企業努力として求められているので、給与原資が今後膨らんでいくことは想像に難くありません。

それに対して、「今までと異なる評価手法を導入すれば、コスト構造を再構築できる」と訴求をすれば、大企業は自ずと興味を持ちます。

またセミナーを開催したり、雑誌で連載を書くなどの施策も、ユーザーのOKRへの理解を深めるとともに自社ブランドの構築になるので効果的でした。

新しい概念や市場を開拓する場合、自分たちが思っている以上に認知度はないと思った方がいいです。

また、大企業から引き合いが増えたことで分かったことが、弊社はスタートアップをまずターゲットとして据えたほうが適していること。

もちろん大企業も前向きに導入検討いただいていますが、場合によっては人事制度の変更が発生し、役員会を通す必要性が生じ、導入までに越えるべきハードルが多い。

大型の案件成約が見込まれることから、エンタープライズ向けに注力するSaaSスタートアップは多いのではないでしょうか。しかし、私たちのように知名度が低い領域にサービスを提供している場合、大企業よりスタートアップをターゲットにした方がサービスへの理解度が高く戦いやすいことも少なくありません。

もちろんセオリー通りに攻めることも重要ですが、ユーザーを獲得して会社の勢いを保つために、柔軟に攻めやすいところから取り組む方がメリットが大きいと考え、割り切っています。

この考えから、メガベンチャー含めたスタートアップに注力し、実績づくりをしています。私たちだと、SmartHRさん、ユーザベースさん、Sansanさん、ラクスルさん、DeNAさんの5社にフォーカスしています。

よく人事ツールであれば、評価機能をつけた方が企業も入れやすいのではと言われることがあります。

「OKR=評価」と認識されている方は少なくないですし、「評価」と結びつけて世の中に打ち出した方が大企業も含めてユーザーの食いつきも強いでしょう。

しかし私たちはOKRは「戦略フォーカス」と「つながり」を生むものだと考えています。いずれは評価も取り入れるかもしれませんが、今は愚直に「OKRを通してチームの出力をアップ」させることにフォーカスしたい。

だって、そっちのほうが面白いし、今の日本に対して絶対意義があるから。

この価値を研ぎ澄ませ、先程挙げた5社が120%満足するプロダクトをつくることができれば、評価といったワードを使わなくとも、大企業を含めた多くのユーザーに必ず求められると信じています。」

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(写真:INITIAL編集部)

(聞き手:町田大地、藤野理沙 文:森敦子、町田大地 デザイン:廣田奈緒美)


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