シリーズAで4.6億円調達、調達後企業評価額は20億円
今回の調達は転換社債の転換分6,000万円を含め、総額で4.6億円。企業評価額(調達後)は20億円と推定される(※評価額はentrepediaによる推定額であり、HERPにより決定又は追認されたものではない)。
資金使途は今後、拡大のためのマーケティング費用と人材採用に充てる。
資金の出し手は、Doll Capital Management(以下、DCM)原氏、DNX Ventures(以下、DNX)倉林氏とエンジェル投資家。
スタートアップ全体と比べた際に、本企業評価額はどの程度の水準なのか。そんな疑問にこたえよう。
2016年から現在(2019年8月19日基準)までに資金調達を実施した357社を対象に、企業評価額の分布を見た。HERPの今回の調達後評価額は中央値よりも高い。
これをみると企業評価額の中央値が10億円。ここ数年、1社あたりの調達額平均は上昇傾向にあり、ティアフォーやiSpaceなど超大型のシリーズAを実施する企業が出てきている。
バブルと見る意見、そうではないとする意見。すべては今後のスタートアップの成長次第だ。
DCM、DNXらからの調達の理由
シリーズAの支援元はリードはDCMとDNX。
DCMは日米中に拠点をもち、シードからアーリーから投資し、フォローオンするVCである。代表的な投資先に今年6月にIPOしたSansan や現在、未上場SaaS企業評価額トップのfreee(645億円)があげられる。
最近だと、「次世代プライマリケア クリニック」のシステム提供・運営支援を行うLinc' well、金属加工製品の自動見積・リアルタイム発注システムの「CADDi」の開発・運営を行うキャディらに投資している。
DNXは日本と米国に拠点をもつ、アーリーのB2Bスタートアップを対象に投資を行うVCである。
先日、100億円の調達が話題となったフロムスクラッチや電子薬歴システムと「Musubi」を提供するカケハシ、建設・建築現場のプロジェクト管理ソフトウェア「ANDPAD」を提供するオクトなどに投資を行っており、投資先にSaaS企業が目立つ。
庄田氏は「この二人の投資家さんと以前からやりたかった」と話す。
原氏との関わりは起業後半年くらいから。まだ、資金調達に関して知識も何もない状態であった際に、資金調達のやり方や長期的なバリューアップの目線などアドバイスをもらっており、起業家を応援するスタンスが変わらなかったことが理由だという。
倉林氏とは、起業家向けのイベントで出会った。「SaaSといえば倉林さん」と有名なこともあり、氏のSaaS経営に関する知識が目からウロコだったいう。そんな氏に長期的に後押ししてもらえる期待があった。
投資した理由
一方でこれらの投資家は、なぜ、今回HERPに投資することを決めたのか。理由をきいた。
原 健一郎(はら・けんいちろう) photo by ami
「まず、マーケットに対する理由です。HERPとコンタクトした去年の時点から、企業規模に関わらず経営層が困ってることTOP3に採用がある。また、Sansanとfreeeへの投資を経て、次に面白いSaaS企業はどこかないか探していました。
ATS(採用管理システム)は、米国ではすでに大きなEXITが出ている領域で、サービス拡大には「連携」が重要となる分野です。つまり、ローカルで独自に大きくなりうるSaaSだと考えています。
つづいて、チームに対しての理由です。HERPの経営チームはATSユーザーだったこともあり、採用領域に関する細かいところまで把握している。そのドメイン領域の知識の深さがまずポイントでした。
そして、プロダクト開発力。もちろん現在の顧客獲得などのトラクションも参考にしますが、シリーズA段階ではあくまで参考です。将来的なトラクションに繋がるのはプロダクト開発力だと考えており、彼らは改善スピードが速い。
最後に、採用は競合も良く入ってくる難しい領域で「辞めないこと」が大切になります。これまでずっとみてきて、チームが採用に対して執念をもって取り組み続けていることが印象的でした。」
倉林 陽(くらばやし・あきら) photo by ami
「去年出会ってから、会うたびに、もちろん原さんのアドバイスもあるのでしょうが、ビジネスプランがしっかりしていったことが印象的でした。
投資した理由は3つあります。
まず、「チームがいい」。採用領域に関して深い知見があり、プロダクトアップデートに対しての反応がよいと感じました。
2点目は、HERPへの投資検討をする期間中、初期のトラクションがすごく伸びていたんですね。お客さんからの評判がよかった。
3点目は、採用領域において、HERPの類似企業もあるが、HERPの理念やポジショニングなど考えて、大きいプレイヤーになりそうという納得感があったからです。」
「お互いに良い役割分担ができそう。」と話す両氏。2人に今後の投資方針もきいた
原氏は国内スタートアップへの投資が増加傾向にあることは、米国のUberなどにみられる資金量を必要とするビジネスモデルが発展するうえでの良い流れと評する。
しかし、日本はマーケット比、スタートアップ資金投下量がまだ小さく、米中との最大の違いは、スタートアップの数が圧倒的に少ないと感じるという。
今後は、この流れに応じて資金量を必要とするビジネスモデルや大企業へのSaaS導入が進んでいることから、個別導入されているSaaSを一元管理できるSaaSが増えるとみている。
一方、倉林氏は、とくにSaaSはバリュエーションが過熱気味という側面も感じるが、今までがきてなさすぎともいえる。過熱を経て、恒常的な流れになる変遷をたどるとする。
投資家も新規参入が増え、リテラシーにばらつきがでている。優秀な起業家も増えているからこそ、投資側のリテラシーも重要になると話す。
また、EXITがIPO偏重になっている現在に課題を感じている。
スクラム採用の目指す先
HERPは、2017年3月にCEO庄田氏が設立。「採用2.0」をビジョンに掲げる。
2017年11月に2,000万円のエンジェルラウンド実施。庄田CEOの前職であるエウレカの創業者である赤坂優氏と西川順氏が引受先であった。
庄田 一郎(しょうだ・いちろう) / 京都大学卒業後、リクルートに入社。SUUMOの広告営業を経て、リクルートホールディングスでのエンジニア新卒採用に従事。退職後、個人事業主として採用コンサルを手がけ、エウレカに入社。採用広報担当として入社し責任者へ。2017年に株式会社HERP設立。(画像:ami)
2018年にサービスのβ版を公開し、2019年3月に採用管理プラットフォーム「HERP ATS」を本格リリース。同社が提唱する、現場社員主導の採用活動である「スクラム採用」を実現させるSaaSである。
現場社員が採用に積極参画しやすくするためにHERP ATSと採用コンサルティングによる支援を行う。
HERPは、採用のデータベースやエージェントはもたない。業界に対して中立な立場で、他HRTechとも連携を進め、この業界を発展させていきたいと庄田氏は話す。
今後、採用をアップデートしていくために、マーケティングも加速させて事業拡大を目指す。採用をやっていた側で「もっと採用よくすべきでしょ」と自然に、自分意識としてあることが庄田氏の強みだろう。
2017年9月にIPOしたソーシャル・リクルーティング・サービス「Wantedly」を運営するウォンテッドリーが、企業に直接に会える「カジュアル面談」を発明して以来、HRTechでは現在、採用系サービスを手掛けるスタートアップが数多く生まれている。
ビジョン、企業文化を重視する採用に注目が高まる中、これらのスタートアップがいかに新しい価値をつくり、採用のあり方がシフトしていくのか。われわれは近く、その姿を見られるのかもしれない。
photo by INITIAL
(編集:森敦子、デザイン:廣田奈緒美)