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2021/03/05

東証市場再編、成長を止めないIPOとは(後編)

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東証市場再編の前編記事、『乗り遅れるな、東証市場再編。スタートアップに与える4つの影響とは(前編)』では、アセットマネジメントOne 岩谷渉平氏、東京証券取引所上場推進部課長の宇壽山図南氏による補足とともに市場再編の概要とスタートアップへの影響を解説した。

市場再編後IPOのタイミングは二極化すると考察したことから、後編ではIPO前のスタートアップに投資するレイター投資家の視点を共有する。

レイター投資家の厚みが増しつつあることで、未上場でもスタートアップは大きく成長することが可能となった。市場再編により上場市場の選択や上場タイミングへの影響について考えたい。

今回話を聞いたのは元メルカリCFO長澤啓氏とモルガン・スタンレー出身でIPO支援実績が豊富な村島健介氏だ。二人は2020年10月に海外機関家と共同でグロース投資ファンドを設立している。

IPO実務を行う中で痛感した問題意識からファンド設立した二人に、レイターステージの課題、市場再編後のスタートアップIPOについての考え方を聞いた。

CONTENTS

未上場で大きく成長し、直接プライム市場を目指す企業が出てくるのではないか

今回の東証市場再編ですが、お二人はスタートアップにどのような影響があると考えていますか。

Minerva Growth Partners 創業パートナー 長澤啓 氏(以下、長澤)  これまでのスタートアップを見てみるとVCをはじめ、外部株主が入っているスタートアップにとっては、短期的なEXITの機会としてIPOを目指さざるを得ない状況があったことは事実だと思います。

市場再編後の新市場では、高い成長可能性を有する企業向けのグロース市場を含めて、いくつかのEXIT手段があることは経営者の意欲を高める観点からも重要です。

スケール拡大を目指す経営者にとって、早期にグロース市場への上場を目指すことが良いのかどうかは慎重に検討すべきだとは思っています。上場して、1回株価がついた段階から大胆な投資を実行して企業価値を更に成長させていくことは本当に難しいです。

例えば、上場時の時価総額数百億円から数千億円に上げていくのはものすごく大変です。ある程度流動性がないと機関投資家の投資対象にならないし、そこで赤字を掘って事業成長に投資をするとなると株価が支えられないことも多いです。

また、そもそも中小型株の事業を分析してレポートを出すセルサイドアナリストも限定的ですし、個人投資家、機関投資家に中長期視点で忍耐強く持ちづつづけていただく、あるいは買い増して頂くために安心材料を提示できるかということにも繋がってきます。

それらに対応してまで「上場するべきかどうか」が重要な判断となるのではないでしょうか。

また、レイター投資家が増えてきていることから、未上場で大きく成長して最初から多くの機関投資家の投資対象となるプライム市場に上場する企業が出てきてもおかしくないと思っています。

例えば、我々の投資先のアンドパッド稲田さんやCAMPFIRE家入さんのように長期視点で経営する忍耐強い起業家に、投資家が長期にわたって忍耐強い資金「ペイシェントキャピタル」を供給できるかが重要なポイントになってきます。

これまでは赤字上場が難しかった上、マザーズ上場後も赤字だと東証一部に市場変更することはできませんでした。

時価総額できちんと投資家に評価していただいているのに本則市場への上場に際しては、短期的な赤字や黒字化での基準が求められていたことにメルカリCFOとして問題意識を持っていました。このことは金融庁が市場再編に向けて設置した金融審議会「市場構造専門グループ」でも問題提起をさせていただきました。

レイター投資家が未上場での大型資金調達を支えることで、起業家は事業成長に注力し、事業も組織体制も成熟した段階でのIPOができるようになります。

IPO後の成長では、流動性の確保が課題

証券会社のご経験を持つ村島さんには、今回の市場再編はどのように映りましたか。

Minerva Growth Partners 創業パートナー 村島健介 氏(以下、村島)

証券会社にとって、グロース市場の上場基準緩和によりIPOの候補企業が広がる可能性があると思っています。一方で、事業規模や組織面で機関投資家の観点からは、まだ上場タイミングが早すぎると見られる企業が上場するケースも考えられます。

特にグロース市場は高い成長可能性を有する企業向けの市場なので、すでに問題意識としてある上場後の停滞は避けなければいけません。

各証券会社がIPO件数を競い合う状況になる可能性もありますが、案件の取り組み基準を含めて自ら厳しく精査するという自浄作用が働くことも期待しています。

IPO後も継続的に投資をして成長サイクルをつくるにあたってのセカンドファイナンスの実施では、機関投資家視点での適正株価水準の獲得が重要です。その機関投資家に売買してもらうために必須な要素が「流動性」です。

例えば、ラクスルは公開価格ベースの時価総額が400億円台と、従来外資系証券会社は取り扱いにくいサイズでした。ただCFO永見さんの「十分な流動性を作り、上場初日から機関投資家に売買される企業を目指す」という考え方に賛同したこともあり、未上場時の世界的資産運用会社フィデリティ・インターナショナルからの調達など、上場に向けたIRのお手伝いをしていました。

トップのCEO松本さんと永見さんが未上場時からIRに注力してきたこともあって、上場時の機関投資家へのロードショー(会社説明会)では非常に効果的な需要創出ができ、公開価格ベースで時価総額400億円台に対してオファリングサイズ190億円程度と、当時は異例の40%以上のオファリング比率となりました。

そこで作られた十分な流動性もあり、上場後の良好な株価形成につながり、2019年秋のセカンドファイナンスにもつながったと思います。

プライム市場への新規上場に際しては、流通株式時価総額の基準が東証一部の10億円から100億円へと大きく上がります。プライム市場へ新規上場を目指すハードルは引き続き高くなりますが、より機関投資家フレンドリーな環境となり、結果的に資本市場から支持される企業が増える点はポジティブですね。

次のメルカリを生み出すため、グロース投資家の必要性を痛感

長澤さんはメルカリのCFOから、村島さんはモルガン・スタンレーから投資家に転身しています。なぜ投資家になろうと思ったのですか。

長澤 メルカリでの資金調達や上場経験から、海外機関投資家の投資対象となる規模になってからIPOすることを目指す企業がもっと増えないのかなという課題意識がありました。

一旦上場すると、短期的な利益が求められて先行投資ができず、また株式の流動性が小さいことから大型調達もできずに時価総額100億円や200億円で停滞してしまうマザーズ上場企業が多数存在します。メルカリも当初は東証一部の上場を視野に入れていましたが、収益性の観点で基準を満たさず、マザーズに上場しています。

スタートアップに未上場のまま大型の資金調達を実行し、事業の成長に対してより大胆に経営資源を投下できる選択肢を提供したい。そう思い、このグロースファンドを立ち上げました。

創業パートナーの村島は、モルガン・スタンレーでメルカリ、freee、ラクスルなどのIPOを支援してきた経験がありますし、私はメルカリでCFOとして上場前後の資金調達を実行し、IPO準備を進める中で早くから海外機関投資家とエクイティーストーリーをもとにコミュニケーションをした経験があります。

村島 もともと私はモルガン・スタンレー時代に米シリコンバレーで仕事をしていました。そこで未上場でありながら数百億円後半の桁違いの規模で資金調達するインターネット、ソフトウェア企業を間近で見てきました。

またFacebookやLinkedinが上場するなど、IPO後も非常にアグレッシブな投資を継続することでスタートアップが大きく成長していました。

日本にはレイターステージでの投資家がまだ少ないため、小型でのマザーズ上場が迫られることが散見されます。一方米国では未上場企業に中長期視点で大規模な成長資金を供給する投資家が存在することでIPOまで十分に成長して、大型IPOが生まれるというポジティブなサイクルが回っています。

そのような状況を生み出すためにこれまでの経験をスタートアップに還元し、次のメルカリをどんどん生み出したいという思いから、長澤と議論を続けてファンド設立に至っています。

日本発グローバル企業の投資条件

Minervaは日本発のグローバル企業創出を掲げ、グロースステージの出資をターゲットにしています。具体的にどのような投資選定基準をもうけていますか。

村島 言うまでもなく、まずは長期的な成長可能性です。紐解くと、足元のトラクション(実績)に対して、経営陣はどのくらいのTAM(獲得できる最大の市場規模)があると捉えていて、その機会に対してどのような時間軸と投資ペースで成長戦略を執行していくのかを見ています。

グロース投資家としては、目指しているスケールの大きさに対して足元のトラクションとエグゼキューションが伴っているかが重要になってきます。

具体的には、売上1桁億から数十億円前半を数十億後半に、更には100億円超の売上に達する過程で大きな壁があると考えています。それを実現するための先行投資をはじめ、やり切るチームマネジメントなのかをあらゆる観点から見ていきます。

投資先のソーシングについては、独立系VCの投資先でプレIPOステージに入った企業を紹介していただくことが多いです。彼らの投資先がより大きなIPOを目指すにあたって明確に異なる補完的な役割を持つパートナーとして考えていただけているようです。

上場前の海外機関投資家とのコミュニケーションが当たり前に

海外投資家も日本のスタートアップに注目し、投資事例も増えています。海外投資家とコミュニケーションを取っていたお二人が感じる変化について教えてください。

長澤 2015年と比べて、大きな変化を感じています。私がメルカリに入社した2015年当時、海外で開かれる証券会社主催のカンファレンスに行くと、国内の未上場スタートアップでは稀な存在でした。

今では、多くのスタートアップが未上場の段階でカンファレンスに参加しています。スタートアップにとっても機関投資家側の視点を上場前から知っておくこと、早くから事業内容や戦略を投資家サイドに伝えておくことは大きなメリットです。

村島 米国では未上場スタートアップが機関投資家とカンファレンスでネットワークをつくることが一般的になっています。UberやSlackなどは上場の何年も前から証券会社が主催するカンファレンスに参加していました。

その流れを国内でも作ろうと思って、海外のカンファレンスを紹介したのがメルカリとラクスルです。当時の国内未上場スタートアップでは珍しかったですが、今では多くの証券会社が未上場の段階から国内外カンファレンスに参加することを促しています。

上場前から積極的に海外IR活動を行うことがIPOでの成功につながるということは、メルカリ、ラクスル、freeeなどが証明しています。

かなり早い段階から機関投資家に会う機会をつくり、機関投資家も日本のスタートアップにおける知見も深まってきています。スケールの大きなスタートアップIPOが増えてきたことで、日本のスタートアップに未上場時点から目が向けられる良い流れになっているのではないでしょうか。

IPO前から機関投資家とのコミュニケーションが増えたことで、スタートアップへの影響や変化はありますか。

村島 IPO前から機関投資家との会話が多くなったことだけに起因するわけではありませんが、スタートアップのCxO人材に変化が起き始めているのはないでしょうか。

スタートアップにおけるプロCxO人材の第1の波は、外資系コンサルや外資系投資銀行出身者が多くいました。現在、第2の波としてメルカリの小泉さんやアンドパッドCFOの荻野さんなど、元上場企業役員が再度スタートアップのCxOを務めるケースが出てきています。

上場後の成長までを見据えるスタートアップには、レイターステージから上場企業で経験を積んだ人材が適任です。今後、スタートアップが元上場企業役員をCxOとして採用することや上場前から機関投資家とコミュニケーションを取ることはよりスタンダードになってくるのではないでしょうか。

その流れの中で、我々は長期にわたって忍耐強い資金の提供を通じて、日本発グローバルスタートアップの創出をバックアップしていきたいです。

(取材・文:平川凌、藤野理沙、編集:中村香央里、デザイン:石丸 恵理)


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