昨今、新たな収益の柱を生むための新規事業開発や、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の立ち上げを通じた投資・協業先を模索する企業が増えている。市況が大きく動く中で、投資先のソーシングや協業のあり方にお悩みの方も多いのではないか。
INITIALでは、投資先の経営や事業拡大を積極的に支援する朝日メディアラボベンチャーズの白石 健太郎氏、グロービス・キャピタル・パートナーズ 野本 遼平氏にインタビューを実施。CVC・独立系VCと立場が異なる2名から、スタートアップ投資と協業をテーマに話を聞いた。
投資成果のKPIとして、財務リターンと戦略リターンをどう考えるのか。また、それぞれから見えるスタートアップ投資のリアルとは。
※本インタビューはINITIAL主催のH2Hセミナー「伝統企業が描く非連続な成長〜スタートアップ投資で切り拓く事業の未来」が元になっています。
財務リターンに完全特化、朝日メディアラボベンチャーズ立ち上げから現在まで
朝日メディアラボベンチャーズの成り立ちと投資領域について教えてください。
白石 健太郎 氏(以下、白石)朝日メディアラボベンチャーズは、2017年に設立した朝日新聞社グループのCVCです。もともと2013年に朝日新聞社本体にある新規事業部門で投資を行っていましたが、2017年に私と他のメンバーが会社側に提案して、別会社としてスタートアップ投資会社を立ち上げました。
朝日新聞社の新規事業部門であるメディアラボが、スタートアップ投資に特化したチームと、M&Aをベースとした事業シナジーを追求するチームに分かれていったというのが、私たちの会社の流れです。
主な特徴は朝日新聞社のほかに、グループ企業の放送局や同業他社も含めて9社の事業会社がLP投資家にいる点、CVCですが戦略的リターンではなく財務(ファイナンシャル)リターンに特化して運用している点です。
投資領域はインターネット領域を中心に幅広いです。日本と米国、一部イスラエルにも投資をしており、日本のCVCですが社長は米国にいます。
投資しない領域は研究開発関連です。なぜなら、バイオや宇宙など研究開発系の企業が成長するには時間も掛かりますし、そもそも私らの知見では理解が追いつかない領域はその道の専門家に任せる姿勢です。
当初からスタートアップ投資はスムーズにいったのでしょうか。
白石いいえ、スムーズにはいきませんでした。投資を始めた2013年頃にはまだ私自身スタートアップ投資への知識もそれほど前例も無かった状態でした。
なので、元々自分が所属していた販売部門の知見を活かして、新聞販売店の従業員さんの空いている時間を活用できそうなサービスに投資をしました。具体的には従業員さんが業務の合間にマンションなどの空室や共用部分を点検し、不動産管理会社に報告するほか、簡単な清掃などを行う業務でした。
ただ個人的に失敗と思ったのが、投資先の企業がほぼシードだったことです。シードフェーズだと目の前の事業成長に追われつつ、次の資金調達に忙しいですし、かつ持株比率が低い事業会社のためだけに、自社資源を集中して投下することができません。
さらにシードゆえに、提供するサービスの仕様が毎週のように変更されたり、決まったことが翌月には変わってしまったりすることが頻繁に起きました。
そうしている内にスタートアップ側と新聞販売店側でコミュニケーションがうまくいかず、連携を取れなくなってしまい、当初の計画も下方修正となりました。最終的には本社の連携からも外されてしまいました。
このように一回スタートアップ投資で失敗があると、同じ部門をもう一度巻き込むのが相当難しかったですね。2013年にスタートアップ投資を始め、2017年に分社化してCVCを立ち上げる前後もさまざまな困難がありましたが、今はなんとか乗り切って投資活動を行っています。
現在の投資実績を教えてください。
白石2017年7月に設立した約20億円規模の1号ファンドでは、国内と海外の会社を合わせて約40社に投資しています(2020年12月末現在)。
多様なバックグラウンド出身のメンバーがいて、多面的な視点で投資先を支援できることがわれわれの強みです。
私は営業部門出身ですし、エンジニアのメンバーもいます。彼とは入社年次が同じなので、お互いに腹を割って建設的な議論もできます。財務出身のメンバーは、投資先の予実管理なども行っています。
またシリコンバレーにいる代表は、日本での事業展開を検討している現地の投資先に対して、日本の事業会社を積極的に紹介したり、国内の投資先に対しては海外展開への支援を実施したりしています。
チーム力の強みを持ちつつ、私個人も不退転の覚悟でやっています。LP投資家のみなさんや会社には、「ファンド満期が来る10年間はしっかりやらせてください」とお願いして、コミットしています。
事業会社でよく話を聞くのは、投資担当者の交代です。VC事業は属人的な業務ですし、3年間で交代すると、LP投資家も投資先も不安になってしまいます。社内外からの信頼を勝ち取り、ポジションを取ることは大切だと思います。
投資の決め手は、失敗を活かす起業家のグリッド力
VC・CVCとして、スタートアップへの投資支援は具体的にどのようなことを行なっていますか。
野本 遼平 氏(以下、野本)持続的な成長を見据えた仕組み、再現性ある組織づくりにフォーカスしています。
独立系VCは、投資支援先の企業に持続的に成長してもらい、最終的にIPOなどでEXITの機会をもらう必要があるため、幹部含めた組織づくりをサポートしています。
白石私たちはもともと本体がメディアなので、広報・PRの支援を頼まれることが多いですね。
特にシード期の頃は事業の方向性や具体的にサービスをどう成長させていくかについての議論が多いのですが、ステージが上がるにつれて、「実はプライベートでこんな辛いことを抱えています」といった相談を受けるなど、精神面のサポートをするケースも意外と増えてきています。
投資リターンを出すためには投資先の獲得、あるいは投資における目利き力がポイントになってきます。投資の決め手や投資したいスタートアップ起業家の特徴について教えてください。
無料トライアルに申し込むと、すべてのコンテンツをご覧になれます。