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ホームオリジナル記事【完全解説】Airbnbの資本政策からみえた、10兆円企業の本質
2021-02-12

【完全解説】Airbnbの資本政策からみえた、10兆円企業の本質

#海外#IPO記事#シェアリングエコノミー

2020年12月、世界的テクノロジースタートアップが新規上場した。

シェアリングエコノミーの先駆的存在、Airbnbだ。時価総額は10兆円を超え(2021年2月9日現在)、2020年を代表するIPOとなった。

設立から3年で調達後企業評価額(以下、評価額)は10億ドルを突破しユニコーンとなり、6年で評価額100億ドルのデカコーン。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げたAirbnb。誰もが同社の順調な未来を予想していた。しかし、2020年に入りCOVID-19が世界的に流行し、同社は危機に直面した。

逆風を大きく受けながらも急回復し、上場。なぜ同社はそれができたのか。そのヒントを資本政策から探した。そこから見えてきたキーワードは「徹底したステークホルダー主義」と「高い危機対応力」。

21世紀型の真のホスピタリティ企業を目指し、未来をデザインするAirbnbの資本政策を解説する。

CONTENTS

ステークホルダー主義の「Airbnb」。時価総額は10兆円超え

Airbnb(エアービーアンドビー)は、デザイナー出身のブライアン・チェスキー(Brian Chesky)氏、ジョー・ゲビア(Joe Gebbia)氏、エンジニア出身のネイサン・ブレハルチク(Nathan Blecharczyk)氏の3名で共同創業した企業だ。

シェアリングエコノミーの先駆的存在で、宿泊先を提供するホストと宿泊先に滞在するゲストをつなぐ「Airbnb」を提供する。2016年からは体験型サービスも提供する。ビジネスモデルはマーケットプレイス型で、サービスの売り手(ホスト)と買い手(ゲスト)双方から発生する手数料が収益となる。

Airbnbのゲストは世界中220カ国以上の10万都市、560万以上の滞在先に泊まることができる。ホストは400万人以上、ゲストは累計8億人以上だ(2020年9月30日現在)。滞在や体験を通じて、人々が「世界中を居場所にする」ことを目指している。

2019年度の売上高は約48億ドル(約5000億円)で、2017〜19年の3年間は約30%以上の売上成長を遂げてきた。2020年1-9月の売上高は約25億ドル(約2650億円)とCOVID-19の影響で前年に比べて大きく落ち込んだものの、5〜6月以降回復基調にあり前年比20%減程度で推移する。(1ドル=105円換算。以下同様)

売上の先行指標となるのはプラットフォーム上での予約宿泊・体験数(Nights and Experiences Booked)と予約金額(Gross Booking Value)だ。

Airbnbの強みは、長期的な視野に立つステークホルダー主義の企業文化だ。Airbnbでは、ホスト、ゲスト、コミュニティ、従業員、株主の5つの主体をステークホルダーと定義している。特にホスト、ゲスト、コミュニティの長期的な利益を、従業員と株主とともに支援していくことで永続的に成功する企業を築くことができるという価値観を持っている。

AirbnbのIPOは2020年最大規模となり、時価総額は約1200億ドル(約13兆円)と、旅行関連企業のBooking Holdings、Expedia、ホテル関連企業のHilton、Marriottなどの競合を大きく上回っている。(2021年2月8日現在)

設立から6年で評価額1兆円超え。驚異的な成長

Airbnbは上場までに、どのような成長を遂げてきたのか。以下のグラフは上場までの評価額の推移である。

Airbnbは2008年8月の設立後、約3年でユニコーン(評価額10億ドル、約1000億円)、約6年でデカコーン(評価額100億ドル、約1兆円)に到達し、急成長を遂げた。

実は、ユニコーン到達までのスピードは日本のメルカリと同じだ。メルカリはAirbnb同様シェアリングエコノミーに属し、2018年に東証マザーズへ近年稀にみる大型上場を果たしたことは記憶に新しい。設立後約5年までの評価額はほぼ同水準であった。

設立から約8年後のメルカリの時価総額は約8100億円(2021年2月9日時点)だ。ここからAirbnbの成長の著しさがわかるだろう。

しかし、その成長に冷や水がかかる。2020年3-4月にCOVID-19の影響で同社の予約宿泊数は大きく落ち込んだ。Airbnbはこの時期にダウンランドでの資金調達を実施している。手元資金を確保する必要があったためだろう。

Airbnbは以前から「2020年の上場を目指す」と公言しており、当初は上場時に新株発行を伴わないダイレクト・リスティングでの上場が見込まれていた。しかし、COVID-19によって事業環境が急速に変化したことから資金獲得の需要が高まり、上場時に資金調達を伴う従来のIPOを余儀なくされたと推測する。

また、従業員向けの株式報酬制度であるRSU(譲渡制限付株式)の期限も迫っていた。2020年中に上場しない場合は会社側が買い取る必要もあったため、2020年の上場を達成したかったのだろう。

成長の背後に名立たるVC。シリーズD以降は長期投資家中心

驚異的な成長を支えたのはどのような投資家か。以下の図表では、上場までのAirbnbの主な投資家をラウンドごとに紹介している。

投資主体はシリーズCまではVC中心、評価額100億ドルを超えたシリーズD以降はPEや機関投資家中心のラウンドとなっている。

Airbnbは米国名門アクセラレーターYコンビネーター(Y Combinator)のプログラムに参加し、創業当初の資金を獲得した。その後、シリーズCまでに登場するのは名だたるVCだ。

セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)はGoogle、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)はInstagramの初期投資家である。

また、Paypal創業者が率いるファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)やLinkedin創業者が率いるグレイロック・パートナーズ(Greylock Partners)など、創業者出身のファンドも初期投資家に名を連ねており、Airbnbはこれまでに世界的に飛躍したスタートアップの投資家・起業家の目利きにかなったといえよう。

投資主体が変化したシリーズDでは、長期投資家のティー・ロウ・プライス(T. Rowe Price)が出資している。ティー・ロウ・プライスは日本のSansanとfreeeへの未上場時の投資実績がある。シリーズEではPEだけでなく、機関投資家のフィデリティ(Fidelity)やベイリー・ギフォード(Baillie Gifford)も参入した。

2015年以降、チェスキーCEOは投資家とのミーティングで「IPOは急がず、Airbnbのビジョンをもとに長期的な企業をつくる」と宣言していたという。同社が2016年以降、約3年半も資金調達もIPOもせずにいたことから、長期目線の投資家を集めていたのだろう。

長期の経営を見据え、議決権種類株式を設計。安定株主を確保

彼らの長期志向は、議決権種類株式の内容をみると一目瞭然だ。

この議決権種類株式は、2004年にGoogleがテクノロジー企業として初めて採用して以来、Facebook、Linkedinなど多くのテクノロジー企業で採用されている。複数の株式を発行することから、デュアルクラス・ストラクチャー(Dual Class Structure)と呼ばれることが多い。

この資本政策により、「モノ言う株主」と呼ばれるアクティビストやヘッジファンドなど短期的利益を求める投資家の影響を受けることなく、共同創業者と初期投資家などの安定株主を中心に長期的な会社の意思決定が可能となる。一方、A種普通株を株式市場に流通させることにより、財務的な利益は株式の種類を問わず提供することができる。

財務的インセンティブと経営に必要な議決権を、種類株の設計でうまくバランスさせるための仕組みといえよう。

一方で株主間の公平性やガバナンス上のリスクも指摘されており、日本の上場企業でこの議決権種類株式を利用しているのはサイバーダイン社のみだ。

ポイントは、長期の経営を見据えて議決権に差をつけている点だ。B種株式はA種に比べて20倍の議決権を有する。Form S-1資料によると、この複数シリーズ構造を設定した目的は、「上場前にAirbnbに投資していた株主に議決権の支配権を集中させるため」である。

つまり、安定株主を確保することで経営リスクを減らし、長期的に会社を運営するための意思決定を行うために設計した制度である。

この設計のおかげで、IPO売り出し後の議決権比率は株式の保有比率とは異なり、共同創業者と初期投資家が議決権の約2/3を占める構成となっている。

通常、種類株は上場前の優先株の段階で設計され、上場後は普通株で統一されることが多い。しかし、Airbnbはステークホルダー主義に則り、上場後も「議決権の差をつけ、より長期的に支援してもらえる株主を手厚くする」ための施策であると考えられる。

特筆すべきは、Airbnb最大の外部投資家であるセコイア・キャピタルなど初期投資家VCが上場時に株式の売り出しを行なっていない点だ。セコイア・キャピタルはシード以降シリーズDまで毎ラウンドAirbnbに追加投資を行った。パートナーのアルフレッド・リン(Alfred Lin)氏は2012年以降現在もAirbnbの社外取締役を務め、今後もAirbnbの企業価値向上に貢献すると見られる。上場時にVCのEXITがない点は、日本の現在の状況とは異なる点だ。

ホスト・地域社会のために株式を交付、CEOの報酬も株式に一本化

株式交付制度からは、ホスト・コミュニティ(地域社会)に向けた共同創業者たちの強いコミットメントも見られる。2020年のIPO直前期には、共同創業者の個人株式もしくは寄付によるホスト基金やNPOを立ち上げている。

上記に合わせて、CEOの報酬制度もIPO直前に変更になっている。2020年11月の取締役会では、チェスキーCEOの基本給や短期ボーナスをなくし、報酬を100%株式で付与することを決定した。チェスキー氏の長期にわたるリーダーシップとコミットメントが求められている設計だ。

起業前に自身がAirbnbの初ホストであったチェスキーCEOにとって、ホスト基金の設立は念願の試みだったという。自身の経験を通じてホストの成功こそがAirbnbのビジネスの根幹であり、競争優位性である点を理解しての行動ではないだろうか。

またチェスキーCEOは株式報酬の純利益のすべてを社会貢献や慈善活動などに寄付する意向を示しており、資産の大半を社会貢献や慈善団体に寄付する旨を誓約済みである。公私ともに「社会へのコミットメント」を示しているといえよう。

ファイナンスに留まらないステークホルダー主義:2020年COVID-19への危機対応

Airbnbのステークホルダー主義は、ファイナンスのみならず会社の意思決定の隅々にまで見られる。以下は、2020年3〜5月のCOVID-19危機に対するAirbnbの主な動きだ。

WHOのパンデミック宣言からわずか2ヶ月間で、Airbnbでは危機に向けた迅速な意思決定と施策の実行が見られた。特にステークホルダーの上位にあたるホスト・ゲスト・コミュニティを中心とした意思決定がうかがえる。

航空会社やホテル業界が返金対応を発表していない中で、パンデミック宣言からわずか3日でキャンセルポリシーの制定やサービスの一時停止を発表し、カスタマーサービス部門の社員だけでなく社員一丸となり顧客に対応した。

危機に備えたダウンラウンドでの資金確保は、短期的なビジネス利益(宿泊料金の返還や評価額の下落など)を失ってでも、長期を見据えてステークホルダーの安全や健康などを重視している表れだろう。

結果的にAirbnbの主要ビジネス指標である予約宿泊数・予約金額の数字も、5〜6月には回復を見せている。旅行業界全体がネガティブな状況にある中で、国内旅行や近距離旅行、長期滞在など変化したニーズを捉えた結果だ。

チェスキーCEOはリストラの際にもオープンに苦悩と決断の背景と詳細を発表し、対象社員に向けて退職金の提供、株式の付与、医療保険の支援、次の就職先を見つけるためのサポートなど支援を手厚く行なってきた。またホストに向けても今後の方向性を説明した。

資本政策・ファイナンス面だけでなく、危機対応についてもステークホルダー主義に基づいてデザインしているといえよう。

高い危機対応力とステークホルダー主義で目指す21世紀型企業

AirbnbにとってCOVID-19は初めての危機ではない。創業以来、数多くの危機や変化に対応してきた。リーマン・ショックの真っ只中に創業した彼らは、ある時はAirbnbのホストが宿泊者から被害を受ける問題に、ホスト補償金額の増額や警察との連携強化で対応した。またある時は、ニューヨークなど大都市の住宅価格が高騰した問題に、行政機関と協力しながら規制について話し合っている。

チェスキーCEOは、2018年に「Airbnbを21世紀型の企業にする」ために公開書簡を発表した。そこにはすべてのステークホルダーに長期的に利益をもたらすことが、21世紀型の企業に欠かせない要素として描かれている。

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これまで、チェスキーCEOは、Yコンビネーターの創始者ポール・グレアム(Paul Graham)氏による「ユーザーが欲しがるものをつくる」、ピーター・ティール(Peter Thiel)氏による「企業文化を守る」など、創業初期の投資家からのアドバイスを真摯に実行し、数多くの変化と危機から学び続けてきた。

投資家も、チェスキーCEOと創業チームの高い危機能力と長期的に成長を牽引してきたステークホルダー主義を実行し続ける熱意と行動量を評価してきたのだろう。この結果、Airbnbは10兆円企業へと成長を遂げてきた。

しかし、Airbnbは10兆円企業に満足することはない。Airbnbの創業ストーリーを描いた書籍「Airbnb Story」のインタビューで、チェスキーCEOは「将来的に(Apple・Google・Microsoftなどと同水準の)1兆ドル(約105兆円)企業を超えるトップティアのテクノロジー企業にしたい」と語っている。

「すべてのステークホルダーに長期的に利益をもたらす」 Airbnbが目指す21世紀型企業のあり方には、国内スタートアップにとっても学べるのではないか。

(文:藤野理沙、編集:森敦子、リサーチ:平川凌、デザイン:石丸恵理)

参考書籍:「Airbnb Story」(著:リー・ギャラガー、訳:関 美和)

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