スタートアップ最前線
Google、Amazon、Facebook、Twitter。あなたの身の回りにあるサービスは、日々多くのアップデートが行われている。
その裏で、ソフトウェアに不具合がないか検証テスト(Quality Assurance:品質保証、QAとも呼ばれる)が行われていることはご存知だろうか。
ソフトウェア産業を語るとき、検証テストに光が当たることは少ないが、グローバルで120兆円も市場規模がある業界だ。しかし開発プロセスの1/3を占めるにも関わらず、グローバルベースでは73%の会社が人手に大きく依存している。(出所:Practitest)
そこで今回、ソフトウェアテスト市場にAI自動化ツールで挑むスタートアップ「Autify」近澤CEOにインタビュー。β版リリース後マーケなしでデモリクエスト150社を超えたサービスの価値に迫る。
ソフトウェアテストの業界構造と市場規模
ソフトウェア開発手法には「ウォーターフォール型」と「アジャイル型」の二種類がある。
ウォーターフォール型は開発プロセスを順番に進め、緻密な計画を元に作成した要求仕様を忠実に実装し、最終的な仕様を途中で変更することなく開発する手法だ。
一方アジャイル型は、環境の変化を前提として、優先順位を決めて短期的に実装とテストを繰り返していく手法。当初の計画通り忠実に完成することは難しいが、小さく素早く出すことで顧客に価値を届けることが可能だ。
(作成:ami)
近年スタートアップで取られる手法は、ビジネス環境や技術変化のスピードが早まっていることからアジャイル型開発が多く、開発サイクルの高速化が競争力の源泉になっている。
どちらの開発手法の場合でも、検証テストは標準化が難しいことを背景に、ほとんどの企業が自社エンジニアを中心に人力で行うケースが多く、アウトソーシングが進んでいないのが現状だ。
特にアジャイル開発の場合は、細かい単位で何度もリリースするため、過去にリリースした機能も含めて不具合がないか何度もテストをする必要がある。しかし、検証テストには人員が必要なため、開発のボトルネックになっているケースも見られる。
市場規模を見てみよう。
ソフトウェアテストの国内市場規模は約5兆円、グローバルに目を向けると約120兆円と超巨大市場だ。国内IT市場が14.9兆円、グローバルIT市場が約395兆円で、約1/3が検証作業に投じられていることから推定した。
(作成:ami)
国内ソフトウェアテスト専門会社は、SHIFT(2014年上場)、バルテス(2019年上場)があげられる。それぞれ数十億円規模の売上で、マニュアルテストを企業から請負うアウトソーシング業を中心に、テスト支援ツールやコンサルティングサービスを提供しているが、テスト自動化の製品は提供していない。
海外ではテスト自動化ツールとしてオープンソースのSeleniumがあるが、運用には一定のプログラミングスキルが必要だ。
アジャイル開発の波で、人力に頼るのではなく自動で検証する時代が来る— 競合とは違った切り口で、ソフトウェアテスト領域にSaaSで挑む「Autify」を解剖する。
独自開発よりもAI自動化ツールを利用したほうがメリットが大きい
オーティファイ 近澤さん 私たちは、エンジニアでなくても誰でも簡単に検証作業を自動化できる、AIを用いたソフトウェアテスト自動化サービス「Autify(オーティファイ)」をソフトウェア開発企業向けに提供しています。
近澤 良(ちかざわ・りょう)/ オーティファイ株式会社代表取締役CEO。エンジニアとして日本、シンガポール、サンフランシスコにて10年以上開発に従事。2016年サンフランシスコで創業。2019年1月サンフランシスコのアクセラレータープログラムAlchemistに日本人初卒業。 (画像:ami)
ソフトウェアの検証作業は、未だに「ユーザーログインできているか」、「商品を購入できているか」などのエクセルの検証項目書を見ながら、人が実際に操作して検証するマニュアルテストが大部分を占めます。開発工数全体の約1/3を検証作業が占めており、非常に高いコストがかかっています。
Autifyでは、AIがソースコードの変更を検知するため、メンテナンスも自動化され、検証作業を効率化することができます。導入企業はソフトウェアの開発サイクルを格段に早くできますし、コストも削減できます。
(画像:Autify会社資料)
各社が独自でテストを自動化するには、エンジニアのリソースが必要です。ただ実際に自動化のコードを書いたり、複数ブラウザでのテスト環境を整備するのは、細かい作業も多く時間がかかります。
しかし、エンジニア人材不足で採用に苦労してる現在、テスト自動化ができる人材は限られています。また、仮に自動化ができたとしても、UIや仕様がすぐに変わっていくため、メンテナンスコストも非常に高くなってしまいます。
手動でテストを行う場合、検証項目をスクリーンショットしてExcelに貼り付ける「Excelスクショ」と呼ばれる作業を繰り返すことが多い(画像:ami作成)
クラウドソーシングもありますが、結局は人でカバーしているので高速化にも限界があります。
だからこそ、裏側にAIが必要でした。
ソフトウェアテスト自動化SaaS「Autify」解剖:3つのポイント
Autifyの特徴は3つあります。①ノンエンジニアでも簡単にテストシナリオ作成ができる、②AIが自動的にテストシナリオをアップデートする、③多様な環境でのテストを同時にできることです。
順番に説明していきます。
まず、対象のウェブページでテストしたい動作をレコーディングします。
特別な指示をしたい場合でもボタンクリックで対応できるため、エンジニアでなくても簡単にテストシナリオが作成できます。
「記録開始」を押すと、行動のシナリオが自動的に記録される。 (画像:Autify画面のスクリーンショット、Autify提供)
2つ目の特徴にAIがあげられます。作成されたテストシナリオに対し、AIがWebブラウザに表示された内容の変化を見ます。
そして、AIはその変化を追って、自動的にテストシナリオをアップデートします。そのため、小規模な改善に伴って生じた変化などに対する、テストのメンテナンスコストが圧倒的に下がります。
テスト実施時の時間・環境が記録される(画像:Autify画面のスクリーンショット、Autify提供)
自動化テストの操作記録が画像で残る(画像:Autify画面のスクリーンショット、ami作成)
今後操作記録を動画で残すこともできるようになるため、不具合の原因などがより分かりやすくなります。
3つめの特徴は、記録したシナリオを様々な環境(Chrome・Safari・Edge・iPhone・Andorid等)で同時にテストができる点です。
テスト実行環境の一覧例(画像:Autify画面のスクリーンショット、ami作成)
Autifyを実際にご利用いただいた企業からは、「自動化したいけど、自社でやるのはコストがかかるのでAutifyを使いたい」と声を頂いています。小さく区切って素早く出す「アジャイル開発」の流れを受け、開発サイクルの速さを重視する企業のニーズの高まりを感じます。
マーケティングをしていないにも関わらず、お陰様で150社以上デモリクエストが頂いています。しかしエンジニア、セールス、カスタマーサクセスと全方位で人手が足りずにご案内が間に合わず、嬉しい悲鳴をあげています。我こそはという方のご応募をお待ちしています、どなたか助けてください!
Autifyはまもなく正式にローンチ予定だ。後編記事では、近澤氏が「ソフトウェア自動化テスト」の事業を始めた理由、エンジニア起業家の陥りやすい罠についてお届けする。
(聞き手:松岡遥歌、編集:藤野理沙)