スタートアップ最前線
Google、Apple、Microsoft、Facebook、TwitterーこれらのIT企業に共通する事項は何だろうか。
答えは創業者が全員ソフトウェアエンジニア出身であることだ。米国をはじめ海外では、エンジニアがIT企業を興し、世界の市場を対象にビジネスを行うことはごく当たり前のことである。
国内ではどうだろうか。メルカリ、グリー、スマートニュースなどの創業者はエンジニア出身だが、その数は海外に比べて圧倒的に少ない。
そのような中、AIを用いたソフトウェアテスト自動化ツールを提供する「Autify(オーティファイ)」は稀有な存在だ。ソフトウェアエンジニアが創業し、最初から海外展開を視野に入れているスタートアップだからだ。
「自分でつくれるエンジニア出身起業家だからこそ、陥りやすい罠があるんです」
エンジニア起業家に衝撃を与え、デモ動画だけで売れる「転換点」となったアドバイスとは一体何か。
エンジニア世界共通「ソフトウェアテスト」の課題で起業
Autify(オーティファイ)は、エンジニア出身の近澤氏と山下氏が2016年に米国・サンフランシスコで創業。2019年にはAlchemist Accelerator(BtoBスタートアップに特化した、米国のアクセラレータープログラム、以下アルケミスト)に日本人起業家として初めて卒業した。創業当初からグローバル展開を最初から視野に入れていることが窺える。
事業内容は、AIを用いたソフトウェアテスト自動化ツールの開発・提供。サービス展開後、β版にも関わらずマーケティングなしでデモリクエスト150社を超えている。
近澤CEO、共同創業者・山下氏へのインタビューから、国内では珍しいエンジニアスタートアップ起業の失敗談と学び、エンジニア起業のメリットに迫る。
左:近澤 良(ちかざわ・りょう)/ Autify, Inc. 共同創業者兼CEO。エンジニアとして日本、シンガポール、サンフランシスコにて10年以上開発に従事後、2016年Autify, Inc.の前身となるLocki, Inc.を創業。
右:山下 颯太(やました・そうた) / Autify, Inc. 共同創業者兼エンジニア。サイバーエージェントでエンジニア業務に従事。Node.jsのコントリビューターの1人でもある。(写真:ami)
近澤 Autify(オーティファイ)は私とエンジニアの山下の2名で創業した会社です。
起業以前は10年以上日本、シンガポール、サンフランシスコでソフトウェア製品の開発をしていました。三カ国のエンジニア現場で働く中で、ソフトウェアのテストに苦労したことに気づいたんです。
ソフトウェアテストは全世界に共通する大きな課題で、エンジニアとして世界でインパクトを出せる。
toC向けサービスのような派手さはないですが、自分が一番理解している領域で攻めたほうが成功する確率が高いので、この領域を選択しました。(Autifyのプロダクト内容はこちらの記事参照)
エンジニア起業の失敗談。コードを書くな、顧客と話せ
近澤 創業初期はAutifyとは別のプロダクトをつくりましたが、上手くいきませんでした。
「この機能があったら使ってみたいので教えてください」とお客さんに言われ、そのまま応えていましたが、ずっと売れない状態が続きました。本質的な課題を解決できていなかったんですね。
今振り返ると、失敗した一番の原因は自分が最初からコードを書いたことです。
エンジニア起業家だと、思い立ったら作れちゃうので、すぐ作っちゃう。ただ、顧客の本質的な課題に気が付かなければ、いくら作ってもどうにもならないので、結局時間の無駄になることに気づきました。
スタートアップが最初にやらなきゃいけないことは、大きな市場の大きな課題を見つけて、新しい解決策をぶつけることです。 なぜなら、スタートアップは短期間で爆発的な成長を求められる企業群だからです。
売れない時期が続きましたが、アルケミストから「顧客のバーニングニーズを解決しろ」とアドバイスをもらったことが転換点となりました。
(画像:Shutterstock/Benevolente82)
頭から火が燃えるほど、お客さんが本当に困ってる課題は何か。そこからは社員総出で、エンジニアもコードを書かずに、お客さんとたくさん話して課題を見つけることに注力しました。
サンフランシスコで約50〜60社のエンジニアたちにインタビューをした結果、ソフトウェアテストの大きな課題が2点見えました。1点目はそもそも自動化ができないこと、2点目はメンテナンスが大変なこと。
2つの大きな課題を解決できたらみんな買ってくれるんじゃないか。 そう思い、一晩で簡単なデモ動画をつくってお客さんのところに持って行ったら、全然反応が違いました。すぐに「買います」とコードいらずで契約が取れたんです。
課題と解決策を見つけるのに製品はいらない。正しい課題に正しい解決策をぶつけると、製品がなくても買ってもらえることを身にしみて感じましたね。
これがAutifyの原点です。
スタートアップが死ぬ半分以上の理由って、必要のないところにものをつくっているんですよね。潜在ニーズを掘り起こしている時間はなくて、必要なものを見つけないといけない。
山下 最初は「何かつくる前に契約取れるの?」と半信半疑でした。今は「ニーズを見つけることに集中し、契約を取れたらつくり始める」ことが、最も近道だと思っています。
限られたリソースの中で、成功するものをつくるスタートアップとして大事な考え方だと思います。
逆に、契約取れるまではコードを書かないので、お客さんと話すこと以外にやることがなくなります。苦労はありましたが、数ヶ月お客さんと話していたので話すのが上手くなりましたね。
(作成:ami)
会社の成長スピードに対して圧倒的にエンジニアが足りていない
近澤 エンジニア起業家のメリットは、コードを理解しているので、開発の見積もりや順位付けを正しくできることですね。お客さんの課題の深さから判断してコミュニケーションができるし、エンジニアチームに適切に伝えられることが強みです。
スタートアップはフェーズによってやることも変わってきます。
今はCEOを担っており、コードはほぼ書いていないです。どういうプロダクトをつくるのか、どういうお客さんに売るのか、どういう人を採用するのか、5〜10年後どうなっていたいかを考えていまして、一番会社にとってバリューが出せることに集中しています。
正直コードを書きたい気持ちもありますが(笑)、自分よりいいコードを書いてくれるエンジニアがいれば良いと思っています。
物凄く優秀なエンジニアが集まって、課題を的確に捉えて集中して開発すると、驚くほどのパフォーマンスが発揮できる。そんな環境で挑戦したいエンジニア、募集中です!
山下 マーケティングをしていないにも関わらず、150社以上のデモリクエストをいただいています。会社の成長スピードに対して圧倒的にエンジニアが足りない状態ですので、一緒に働ける方のご応募をお待ちしています。
(聞き手:松岡遥歌、編集:藤野理沙)