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2020/02/06

ジモティーIPOまでの資本政策。VCファンド主導型スタートアップの今後

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2020年2月7日、地域情報掲示板サービスの「ジモティー」が東証マザーズに上場した。

ジモティーは今年初の新規上場企業。IPO時企業評価額は約61億円(公募価格1,000円基準)で、INITIALシリーズDからの新規株式公開(IPO)事例だ。

日本国内には珍しく、VCファンドによる100%出資で設立した背景をもつジモティー。現在はオプトホールディング、NTTドコモなど事業会社が中心の株主構成となっている。

設立10年目での上場。主に株主の変遷からジモティーの特徴的な資本政策を振り返り、VCファンド主導の設立からEXITまでの流れをお伝えする。

CONTENTS

月間1,000万人が利用。地域情報掲示板サービス「ジモティー」

株式会社ジモティー(以下、ジモティー)は2011年設立。「地域の今を可視化して、人と人の未来をつなぐ」をミッションに掲げ、地域情報掲示板サービス「ジモティー」を運営する。創業者はInfinity Ventures(インフィニティ・ベンチャーズ)代表パートナーの小野 裕史氏。現在はリクルート出身の加藤 貴博氏が代表取締役社長を務め、2017年から片山 翔氏との代表取締役二名体制を取る。

ジモティーは地域・目的別に分類された募集広告を一覧形式で掲載する「クラシファイドサイト」の形態をとる。掲載料は無料で、ユーザーは中古品売買や求人、不動産、メンバー募集、イベント情報等のカテゴリ別に投稿・問合せができる仕組みだ。

ジモティーが選ばれる理由は、国内では完全な競合がおらず、9年の運営実績から他媒体には掲載されない地域特化の情報がある点だ。月あたりの平均アクティブユーザー数(MAU)は1,000万人以上を誇る。(出所:ジモティー社 新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部)中古品売買でジモティーと比較されやすいフリマアプリ・メルカリのMAUは1,538万人だ。(出所:メルカリ社 FY2020.6 2Q決算発表資料)

直近決算期(2018年12月期)の売上高は9.8億円。売上の約5割を特定の広告配信会社(約3割がSupership、約2割がGoogle)が占める。基幹事業は売上の約8割を占める広告配信、成長事業はマーケティング支援と位置付けている。前者はクリック数、広告表示数に応じた掲載料を受領する仕組みで、後者は投稿オプションの機能課金や、他媒体への送付による成果報酬が収益源だ。

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(出所:ジモティー 有価証券届出書)

上場前評価額は55億円。既存株主の売出が中心

ジモティーは2011年設立から上場までに7回のラウンドを経て、累計調達額は26億円。2019年4月に行ったINITIALシリーズDの調達後企業評価額は55億円だ(INITIAL、2020年2月3日基準。ラウンドは外部向けにエクイティファイナンスを行った回数で、同一株価によるラウンドは同一として集計)。

IPO時企業評価額は約61億円(公募価格1,000円を基準に算出)。2019年におけるマザーズ新規上場企業の初値時価総額中央値である133億円(出所:KPMG「2019年のIPO動向について」)と比べると、小型の新規上場ケースとなる。

新規株式発行による資金調達額(自己株式処分を含む)は2.25億円。調達資金は、本社オフィス移転費用、社内基幹システム構築、サーバー費用、カスタマーサポート人員を中心とした人件費に充てる予定だ。一方、既存株主2社(インフィニティ・ベンチャーズ、オプトホールディング)による売出は約12.2億円で、売出株式比率は約20%だ。

ジモティー・加藤社長は日経新聞のインタビュー(2020年1月31日)で、株式公開について「経営に外部の視点を入れることが目的で、上場による資金調達の優先順位は高くなかった」と述べている。新規上場は本来、金融市場からの資金調達を目的とし、その資金を元に事業成長を目指すケースが多い。ジモティーは調達資金獲得よりも既存投資家によるEXITを目的としているのではないか—。

VCファンド主導の資本政策。調達ラウンド支援後、2回のEXITと経営体制の変更

ジモティーの資本政策はVCファンド主導で行われているのが特徴だ。ジモティーは2011年2月に独立系VCインフィニティ・ベンチャーズ100%出資で設立された。

設立後のファイナンスの経緯を時系列でみてみよう。

創業者はインフィニティ・ベンチャーズ代表パートナーの小野 裕史氏。小野氏は自らスタートアップ設立を牽引し、経営に参画して投資先を支援するキャピタリストだ。

海外で成長する事業モデルを日本国内に持ち込む投資スタイルが特徴で、2010年に共同購入型クーポンサイトのクーポッド社を設立、わずか4ヶ月で米グルーポン社にEXIT(現在はグルーポン・ジャパン)したほか、2014年に英国発ファッションECサービスのFarfetch日本法人を設立、現在は同ファンド投資先の台湾発・ライブ配信アプリ17 Live(イチナナ)の日本法人設立と代表を務める。

インフィニティ・ベンチャーズは会社設立から約8ヵ月後、現在のジモティー代表取締役であるリクルート出身の加藤氏に株式を移動(移動時期はINITIALによる推測)。本移動により、加藤氏は代表取締役就任、小野氏は代表取締役を退任した(2014年までは取締役として経営に参画)。その後も2013年のシリーズBまで4回追加投資を実行し、創業初期を中心にジモティーの成長を支えた。

インフィニティ・ベンチャーズは筆頭株主として、シリーズA以降の調達ラウンドを支援した。シリーズA以降新たに株主に加わった三菱UFJキャピタル、KDDI、オプトホールディング(以下、オプト)の三社はインフィニティ・ベンチャーズが運用するファンドの出資者(リミテッドパートナー、LP)だ。

特にインターネット広告事業を展開するオプトとは関係性が深い。2014年にインフィニティ・ベンチャーズはオプトに一部株式を売却。オプトの持分比率は新株発行分の調達も含めて45.4%(当時)となり、インフィニティ・ベンチャーズに代わる筆頭株主に。本株式移動により、単一の株主がほぼ過半数を占める歪んだ株主構成となった。

2019年には上場前最後のシリーズD調達で、インフィニティ・ベンチャーズはNTTドコモに一部株式を売却し、創業以来2回目のEXITを果たした。

株主構成から、株主が変化するタイミングでの経営体制変化が読み取れる。創業者インフィニティ・ベンチャーズ小野氏はオプトに株式売却後の2014年に取締役退任、代わりにオプトが2014年から、NTTドコモが2019年から社外取締役を派遣した。ただし、オプトは株式売出によりIPO後は社外取締役から外れる予定だ。

なお、三菱UFJキャピタル、KDDI、フジ・スタートアップ・ベンチャーズは2017年に保有後約4〜5年で全株式をジモティーに売却したため、現在株主ではない。

事業会社の保有比率は6割以上。IPO後もオプト・NTTドコモが約1/3を占める

IPO時には事業会社が株主構成の中心を占める。事業会社の保有比率は約6割で、そのうちオプトが30.7%で筆頭株主、NTTドコモが16.2%と第二位株主だ。

大株主には中古車情報ウェブサイトを運営するプロトコーポレーション、住宅・不動産ポータルサイトを運営するLIFULL、総合生活トラブル解決サービスを運営するジャパンベストレスキューシステムなどの事業会社が名を連ねる。

事業会社によるジモティーへの出資は、事業提携によるシナジー創出を目的としているケースが多い。例えば、プロトコーポレーションとは中古車情報のデータ提供、LIFULLとは住宅・不動産情報のサイト提携、ジャパンベストレスキューシステムとは子会社のジャパン少額短期保険とジモティーが協同で保険商品を開発・提供した。

特にNTTドコモは、ジモティーの成長戦略で重要なパートナーだ。2019年に資本業務提携以降、同社のポータルサイト「dメニュー」とサイト連携して利用者増加を狙い、NTTドコモのメディアビジネス領域の部長を取締役に迎えている。先日メルカリとの事業提携を発表したNTTドコモはtoCサービスを展開するスタートアップへの出資・提携に注力しており、将来的にはNTTドコモによるジモティー完全子会社化・買収の可能性もあるだろう。

IPO後もオプトが19%、NTTドコモが16%の株式を保有し、2社の保有比率合計は全体の1/3を超える。議決権から見ると、2社の意向に左右されやすい環境だ。

ジモティーが示すファンド主導型スタートアップの今後

ジモティーのIPOは、日本国内では珍しくVCファンド主導でEXITまで至った事例だ。

インフィニティ・ベンチャーズのIPO時保有株主比率は14%。リードVCを維持しているが、約9割の株式を放出。IPO時に売出を行い、IPO後の保有比率は4%程度まで低下する見込みだ。

ジモティー創業者でインフィニティ・ベンチャーズの小野氏は、「米国のCraiglistや中国の58.comなど海外で成功したクラシファイドサービスを徹底分析してジモティーを立ち上げた」と過去イベント登壇時に述べている。(出所:ログミー)

米国・中国の成功事例を徹底研究し、立ち上げから戦略設計・経営陣のチーム設計を実行して再現性の高い事業を作る。ファンド償還期限内に事業立ち上げからEXITまで至った本件は、キャピタリストとしての手腕を発揮した例といえよう。

しかし、果たしてファンド主導型のスタートアップにおいて、代表取締役社長を務めるインセンティブはあるのか。一般的にスタートアップは、創業者が目指したいビジョンやミッションをもとに仲間集めをして事業展開をするケースがほとんどである。

下記はジモティー社の会社設立から上場までの持分比率の推移である。

ジモティー代表・加藤氏のIPO時持分比率は8.71%(うち6.24%が新株予約権による潜在株)。直近一年以内に上場したスタートアップ創業者のSansan寺田氏(35.9%)、freee佐々木氏(29.7%)、ツクルバ村上氏(23.4%)と比べても半分以下の水準だ。

EXIT時のリターンが全てではないが、パッションをもとにヒリヒリ感を味わいながら急速に成長をし、スタートアップ・ドリームを手にする。自分たちが実現したい世界をスタートアップで実現していくうえで魅力の1つだろう。

ファンド主導で創業した事例は他にもある。代表的な国内スタートアップは、インターネット生命保険のライフネット生命、靴・ファッションECサイトのロコンドだ。

ライフネット生命は、あすかアセットマネジメント会長の谷家 衛氏主導で2006年に設立。創業者は日本生命出身の出口 治明氏、投資ファンド出身の岩瀬 大輔氏で、谷家氏が二名を誘った形だ。同社は2012年3月に東証マザーズに上場し、現在の時価総額は約365億円。上場後からの株価騰落率は-6.5%と、同時期のマザーズ指数騰落率+123%に比べて市場の評価は厳しい。出口氏は2017年6月、岩瀬氏は2019年6月に同社を退任した。

ロコンドは、ドイツのVCロケット・インターネットの100%出資で2010年に設立。2011年2月から現在までマッキンゼー出身の田中 裕輔氏が代表を務める。同社は2017年3月に東証マザーズに上場し、現在の時価総額は約120億円。上場後からの株価騰落率は-11.8%と、同時期のマザーズ指数騰落率-21%を上回るものの、上場後初値を超えておらず成長曲線が描けているとは言い難い。(株価の基準日はいずれも2020年2月6日現在)

上場により社会的信頼度が高まり、株主が増えて責任も問われる—VCファンドにとってはEXITはゴールでも、企業にとってはスタートラインだ。

VCファンド主導で上場まで至ったスタートアップは、果たして持続的な会社運営のもと事業成長を続けられるのか。ジモティーのIPOが「上場ゴール」とならないかが注視される。

(執筆:藤野理沙、編集:森敦子、デザイン:廣田奈緒美)


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