日本のCVCの中でも特にグローバル展開で先行し、実績を積み重ねている旭化成ベンチャーズ。2008年から投資を開始し2011年には拠点をシリコンバレーに移して現在、米国・欧州・中国の3拠点で活動している。投資先はほぼ海外のスタートアップで、うち2社を買収している。以前の「CVC虎の巻」では旭化成ベンチャーズの森下隆氏に、どのように海外スタートアップと旭化成の技術を組み合わせているのかを聞いた。
参考記事:技術の掛け合わせで事業創出。旭化成が語る、米国での「やめない」挑戦
続編となる今回はCVCを設立する上での苦労やターニングポイント、事業部とのコミュニケーションについて詳しく聞いた。
※本記事は、2021年3月24日に開催したHOME TO HOME セミナー「旭化成CVCが米国で10年間成長し続ける秘訣 ~起点は研究開発費の使い道~」の内容が元になっています。

旭化成CVCの位置づけ
まずは旭化成におけるCVCの役割について教えて下さい。
私達のミッションは、ベンチャーを活用して新しい事業を作っていくことです。事業づくりのプロセスを見ながら、私達CVCの立ち位置を説明していきましょう。

米国では事業を作る上で「探索」「開発」「事業」の3つのステージで異なるプレイヤーが分業しています。「探索」ステージは政府の資金を使い、大学や研究所が技術を開発。「開発」ステージでは、主にスタートアップが製品を開発したりビジネスモデルを検証したりします。スタートアップの多くは潰れていきますが、残ったところを大企業が買収して「事業」ステージで事業化、グローバル展開していくのです。
3つの工程を全て自前で行うのが自社開発、最後の事業ステージからスタートするために用いる手段がM&Aということですね。私達CVCが担っているのは2つめの開発ステージからのスタート。事業開発のツールとして、開発フェーズからスタートする選択肢を増やすためにCVCの立ち上げを経営陣に提案しました。
どれくらいの規模感で投資しているのですか。
今は3年間で7500万ドル(約82億円)、つまり年間2500万ドル(約27億円)ほどの規模感です。全社の開発費用が年間約800億円なので、その3%程度をスタートアップ投資に充てていることになります。
CVCの設立を提案した際の、経営層の反応はいかがでしたか。
当時は3年間で10億円ほどの投資だったので、抵抗なく始めさせてもらいました。旭化成はもともと様々な事業体の集まりなので、外部と連携して事業を作ることに抵抗がなかったのかもしれません。
例えば旭化成エレクトロニクスはもともと米国のベンチャー企業との協業でスタートした会社です。私がCVCの立ち上げを提案した当時の社長も上司もエレクトロニクスの出身だったので、割とスムーズに話が進みました。
社内の反対意見との向き合い方
オープンイノベーションをする際に、社内に抵抗勢力がいることも珍しくありません。こちらはどのように乗り越えていけばいいのでしょうか。
抵抗勢力という言い方は語弊があるかもしれませんが、スタートアップ投資に対して投機(ギャンブル)のようなイメージを持っている人は少なくないでしょう。それは抵抗しているというよりも、よく理解できていないことが原因だと思います。そういう意味では、社内にスタートアップ投資を正しく理解できる人を増やすのが重要です。
私達が幸運だったのはある商社と一緒にファンドを運営する機会があったこと。私達の研究者がそのファンドで技術のデューデリジェンスをサポートしていたのです。1~2年という短いサイクルでシリコンバレーに行き、スタートアップ投資の一端を担っていました。
日本に帰ってきた研究者が周りに影響を及ぼしていたので、社内にスタートアップ投資を理解している人が多くいたのです。現在も、私達のCVCで働いたスタッフが日本の本社に帰って、私達の活動の受け皿となってくれています。
抵抗勢力を抑えようと考えるよりも、よく理解してもらって仲間づくりをしていく意識が重要なのではないでしょうか。
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