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2020/08/22

技術の掛け合わせで事業創出。旭化成が語る、米国での「やめない」挑戦

見えにくかったCVCの実務を明らかにする「CVC虎の巻」。本記事では旭化成ベンチャーズ・森下氏のインタビューからスタートアップと協業の実践方法を紐解く。

旭化成CVCの歴史は長い。リーマンショック前後の2008年から開始、2011年に拠点をシリコンバレーに移し、現在米国・欧州の3拠点で投資活動を行う。投資先は全て海外スタートアップで、うち2社を買収した。

「スタートアップの事業開発力」に魅力を感じCVC設立し、12年の経験を持つ森下氏。なぜ日本ではなく米国を拠点にCVCを行うのか。「海外スタートアップと旭化成の技術を組み合わせた市場開拓」の実践方法とは。旭化成ベンチャーズのCVC運用法に迫る。

スタートアップ投資のための体制作りについて聞いた続編はこちら

旭化成CVCの実績:海外特化、25社中2社が自社M&A

まず、旭化成ベンチャーズの取り組みを概観する。

旭化成グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3領域で事業を展開。CVCである旭化成ベンチャーズは、最先端技術や事業の獲得、新事業の創出を目的にスタートアップ投資を行う。

特徴は、①海外スタートアップ投資に特化し、日本に拠点を置いていない点、②買収による事業構築を重視する点だ。

海外スタートアップ25社に投資を行い、6社がExitを果たしている。そのうちLED技術を開発するCrystal IS(クリスタルアイエス、米国)とガスセンサー技術を開発するSenseair(センスエア、スウェーデン)の2社は、M&Aにより旭化成グループの一員となった。

2008年にCVC設立後、2011年に拠点を東京からシリコンバレーに移動。現在はシリコンバレーとボストン、デュッセルドルフに拠点を構え、2019年からの3年間では7500万ドル(約82億円、1ドル=110円換算)の予算を元に、約10名で活動を行う。買収先Crystal ISの元CEOなど、現地のメンバーも採用している。

今回INITIALでは、シリコンバレーを拠点にスタートアップ投資を担当する旭化成ベンチャーズの森下 隆氏に取材を敢行。旭化成CVCの経緯や、スタートアップ投資のプロセスや考え方、米国でのCVC活動で重視する点について話を聞いた。

CVCは、スタートアップの「事業開発力」を再現する手段

 森下さんが旭化成ベンチャーズを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

CVC立ち上げのきっかけは、駐在員としてシリコンバレーに赴任した2001年に遡ります。

研究開発のバックグラウンドを持つ私は、米国の半導体技術メーカーで当時スタートアップだったPeregrine Semiconductor社(ペレグリン)との協業プロジェクトに参加しました。(編集部注:ペレグリン社は2003年に世界最大の半導体メーカーのCVC・Intel Capitalからも出資を受けており、2014年に村田製作所が買収しグループ会社へ。現在の社名はpSemi社)

彼らと共に仕事をする中で、VC等によるリスクマネーを元にプロトタイプの製品を出したり、ビジネスモデルの検証を重ね、成功すれば大企業に買収されるという、スタートアップのダイナミックな動きを体感しました。

一言で言うと、スタートアップの「事業開発力」に魅力を感じたのです。反面、日本企業は技術をビジネスに転換する力が弱いことにも気付きました。

旭化成の社内にもこの事業開発力を取り込みたい。そのためには、スタートアップ投資を行うCVCというツールが最適なのではないかと考えました。

「スタートアップの事業開発力は、われわれにも必要だ」とCVCのコンセプトを社長に伝え、無事承認。研究開発費の一部を活用し、2008年から10億円の予算で活動を開始しました。

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森下 隆(もりした・たかし)/  Asahi Kasei America General Manager, Corporate Venture Capital 1986年旭化成入社、光デバイスの研究開発に従事。その後米国のベンチャー企業との協業プロジェクトに参画し、2008年、旭化成コーポレートベンチャーキャピタルを設立。これまで欧米の25社のベンチャー企業に投資をして2社を買収。投資先企業の取締役としてベンチャー企業の経営参画や上場、資産売却などベンチャー投資関連実務およびベンチャー企業との戦略的提携を用いた新規事業開発に従事。

 直接投資ではなく、CVCの形態でスタートアップ投資を開始した理由は何ですか。

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