<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/3mNyWfdh9drcKQg0bD8WeC/6409fc6bfcce7e6abb79d30601c4fd37/210408_asahikasei_report_rev2_01.jpg" />

## 旭化成CVCの位置づけ

### まずは旭化成におけるCVCの役割について教えて下さい。

私達のミッションは、ベンチャーを活用して新しい事業を作っていくことです。事業づくりのプロセスを見ながら、私達CVCの立ち位置を説明していきましょう。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/3aDNUvGNlui76OiPpEWdMz/a735c40f1ebd367bac9eb3f96bfa875f/20210408_asahikasei_2.png" />

米国では事業を作る上で「探索」「開発」「事業」の３つのステージで異なるプレイヤーが分業しています。「探索」ステージは政府の資金を使い、大学や研究所が技術を開発。「開発」ステージでは、主にスタートアップが製品を開発したりビジネスモデルを検証したりします。スタートアップの多くは潰れていきますが、残ったところを大企業が買収して「事業」ステージで事業化、グローバル展開していくのです。

３つの工程を全て自前で行うのが自社開発、最後の事業ステージからスタートするために用いる手段がM&Aということですね。私達CVCが担っているのは２つめの開発ステージからのスタート。事業開発のツールとして、開発フェーズからスタートする選択肢を増やすためにCVCの立ち上げを経営陣に提案しました。

### どれくらいの規模感で投資しているのですか。

今は3年間で7500万ドル（約82億円）、つまり年間2500万ドル（約27億円）ほどの規模感です。全社の開発費用が年間約800億円なので、その3％程度をスタートアップ投資に充てていることになります。

### CVCの設立を提案した際の、経営層の反応はいかがでしたか。

当時は3年間で10億円ほどの投資だったので、抵抗なく始めさせてもらいました。旭化成はもともと様々な事業体の集まりなので、外部と連携して事業を作ることに抵抗がなかったのかもしれません。

例えば旭化成エレクトロニクスはもともと米国のベンチャー企業との協業でスタートした会社です。私がCVCの立ち上げを提案した当時の社長も上司もエレクトロニクスの出身だったので、割とスムーズに話が進みました。

## 社内の反対意見との向き合い方

### オープンイノベーションをする際に、社内に抵抗勢力がいることも珍しくありません。こちらはどのように乗り越えていけばいいのでしょうか。

抵抗勢力という言い方は語弊があるかもしれませんが、スタートアップ投資に対して投機（ギャンブル）のようなイメージを持っている人は少なくないでしょう。それは抵抗しているというよりも、よく理解できていないことが原因だと思います。そういう意味では、__社内にスタートアップ投資を正しく理解できる人を増やすのが重要です。__

私達が幸運だったのはある商社と一緒にファンドを運営する機会があったこと。私達の研究者がそのファンドで技術のデューデリジェンスをサポートしていたのです。1～2年という短いサイクルでシリコンバレーに行き、スタートアップ投資の一端を担っていました。

日本に帰ってきた研究者が周りに影響を及ぼしていたので、社内にスタートアップ投資を理解している人が多くいたのです。現在も、私達のCVCで働いたスタッフが日本の本社に帰って、私達の活動の受け皿となってくれています。

抵抗勢力を抑えようと考えるよりも、よく理解してもらって仲間づくりをしていく意識が重要なのではないでしょうか。



## 権限譲渡が大きなターニングポイント

### 今でこそ多くの実績を残していますが、CVCを始めた当初から現在のように活動できたのでしょうか。

最初は素人だったので、投資スキルもなければ目利きもできませんでした。当然ネットワークもなくて、スタートアップ業界に適した投資プロセスも確立できていませんでしたね。今思えば、多くの投資機会を逃していました。

__大きなターニングポイントになったのは、投資を始めて5年後の2016年に投資委員会を設置したこと。__それまでは日本の担当役員に決裁してもらっていたのを、1社あたり500万ドルまでは委員会で決裁できるようにしたのです。つまり、権限を移譲してもらったのですね。

併せて現地で投資手続きできるようにしました。それ以前は担当役員にサインをもらうために書類を日本に送っていたのですが、それではスタートアップの商習慣にあいません。2～3日のうちにサインしてくれ、という話も少なくないですから。

投資委員会の設置によって投資の意思決定や手続きをスピーディに行えるようになり、スタートアップの商習慣に合わせることができました。

### どのようにして権限を移譲してもらったのですか。

CVCのあるべき姿とはどういうものか、経営陣に理解してもらいました。それまでの5年間で投資がなかなか進まなかったこともあり、何が問題なのか、CVCが目指すべき姿とはどういうものか、経営陣に根気強く説明したのです。

CVCの役割は事業を作ること。投資したからといって必ず買収できるとは限らないため、将来の買収先候補をプールしておかなければなりません。ポートフォリオを増やしていく上で、今の意思決定のメカニズムには問題があり、理想の姿とのギャップを埋めるために何が必要なのか。経営陣がそれを理解してくれたお陰で、権限の移譲を含めてCVCのあるべき姿に近づけることができました。

## 日本とのコミュニケーション

### 日本にCVCのスタッフはおいていないということですが、その背景を教えてください。

日本にスタッフを置かないことにこだわっているわけではなく、欧米での投資を優先した結果です。一番のスタートアップ大国である米国で投資をスタートしたいという思いから、（シリコンバレーの）メンローパークとボストンに拠点を置いています。

2016年に欧州、2020年には中国にも拠点を作りました。日本でも1件投資していますが、スタートアップと一緒に事業を作っていく点では欧米に比べて優先順位が低くなってしまいますね。

### 日本とのコミュニケーションはどのようにとっているのでしょうか。

日本に拠点を置いていない分、コミュニケーションは特に重視しています。CVCは経営陣の理解がないと継続が難しいので。

スタートアップ投資はすぐに結果が出るものではないので、長い目で見て経営のサポートをしてもらう必要があります。私達は3年に1度の経営会議で予算の承認をもらっているのですが、それに加えて年一度は必ず経営会議で活動状況を説明しています。

併せて経営会議のメンバー全員に1人ずつ、CVCの活動を説明する時間ももらっています。何年かに一度説明しても忘れてしまいますが、毎年説明することで私達の活動を認識してもらえるようになるのです。自分たちの活動を理解してもらうには、継続的に経営メンバーとコミュケーションをとることが欠かせないと思います。

### どのような内容を報告しているのでしょうか。

私達のKPIでもある投資数と提携数に加え、これまで投資した会社とどのような事業開発を進めているのか報告しています。

投資した企業の価値がどう変動しているかについても説明します。私達は事業シナジーや投資先の成長を重視するストラテジック投資家のため、投資リターンの最大化を目的にしていませんが、気にしなくていいということではありません。投資した企業の価値が下がって大きな損失を出せば、活動を続けられなくなるからです。

CVCは決して企業のコアな活動ではないため、経営が厳しい状況になった際に、真っ先にストップがかかる候補となります。__活動を続けるためにも、損失を出さずに事業開発のネタを継続的に仕込むのが何より重要です。__

### オープンイノベーションを成功させるには経営陣だけでなく、事業部との連携も必要です。事業部とはどのようなコミュニケーションをとっているのですか。

事業部との連携は難しく、我々も苦労しています。私達は事業の責任者クラスの200名くらい向けに毎月、月報やレポートという形で情報をシェアしています。レポートは例えば新型コロナウイルスがスタートアップにどのような影響を及ばしたのか、といった内容ですね。

加えて社内イントラに、これまで面談した企業やVCから紹介された企業のデータを全て載せおり、社員なら誰でも見られるようにしています。興味を持った社員がデータベースにアクセスし、スタートアップを紹介してくださいと連絡をくれることもありますね。

私たちから情報を送るのも大事ですが、それでは私たちが知っている範囲でしかスタートアップにアプローチできません。また、事業部側のニーズが小さい状態で情報を送っても「面白いね」と言われて終わってしまいます。

__CVCから情報を提供するのと同時に、事業部からも情報をとれる仕組みが重要です。__将来に強い危機感を持っている事業部の人は、積極的に活用してくれているようです。もしもCVCのインフラを使いたいという事業部があった場合は、シリコンバレーまで事業部が費用を持つ形で来てもらっています。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/3UhtOlOo2JKxJHFweqb1IM/a129a0c24409710ef40ba9def62a5704/20210408_asahikasei_3.png" />

## CVCとしての価値は事業インフラにあり

### 米国のVCとは運用資産の規模で10倍以上の差がありますが、そのような中でどのような価値をスタートアップに提供していますか。

確かに米国では1件あたりの投資金額が1億ドル、プラットフォーマーともなると10億ドルとなることもあり、私達とはまったくサイズ感が違います。しかし、スタートアップ投資で重要なのは金額だけではありません。事業会社だから提供できる価値があります。

例えば事業インフラ。ものづくりのスタートアップであれば私達が開発をサポートできますし、場合によっては顧客も紹介できます。他にもPoC（概念実証）をする場を提供したり、私達の社内でプロダクトをテストすることもあります。

他にも日本に進出するとなったら、現地の事業会社のサポートが必要です。スタートアップからすれば、投資してもらっている事業会社に日本進出のサポートまでしてもらえるなら価値があると思いますね。

### 資金以外の価値を提供するために、工夫していることはありますか。

ローカルの人を積極的に採用するようにしています。日本人だと言葉の問題があって難しい場面もあるので。

特にヘルスケア領域の責任者には、現地でスタートアップの投資経験がある人を採用しました。旭化成は米国にも従業員が8,000人ほどいるので、そのリソースも使ってサポートしてもらっています。特に投資先の取締役会には旭化成の社員が必ず参加するようにしています。

取締役会に参加してサポートするのはハードルが高いのですが、それにより一緒に投資している投資家からの評価も高くなるのです。その結果、次の投資にも声をかけてもらいやすくなります。ローカルで人を採用をしてでも、投資先の取締役会に出る必要があります。

__我々は投資をする際に必ずボードオブザーバー（議決権はないが、取締役会に参加できる権利）を取得しています。__取締役会に参加することで、投資先は自分たちのいるマーケットが今後どのように変化すると考え、その中でどのような成長戦略を描いているのかがわかるからです。

これは実際に新しいマーケットに挑戦しているフロントラインにいる人たちの情報なので、調査会社に頼んでも得られません。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4dOemOQb2PpfTWzDvRVyOa/6c3782057bc3721112efb6fe478f8d74/20210408_asahikasei_4.png" />
## ホワイトスペースに投資し、マーケットインサイトを得る

### どのような領域に投資しているのか教えて下さい。

私達は既存事業に「近い領域」と「離れた領域（ホワイトスペース）」、大きく分けて2つのテーマで投資しています。既存事業に近い領域は、足りないパーツを探しにいくので比較的難しくありません。

一方で「ホワイトスペース」に投資しているのは、変化が激しいこの時代に既存事業だけを続けているのは危険だから。将来、自分たちの業界をディスラプト（破壊）する可能性のある業界や事業を、この目で見ておかなければなりません。

スタートアップ投資をすることでマーケットの知見を得るのはとても重要ですし、自分たちにそのテーマを取り込むことで新しい事業の創出にも繋がります。

### ホワイトスペースへの投資は全体の何割くらいでしょうか。

今はホワイトスペースへの投資のほうが多いですね。まずは事業に近い領域から投資を始めて、徐々に離れた領域にも投資するというのはCVCの自然な流れだと思います。

## CVCは継続することが何より大事

### 最後に、CVCに興味のある方々にメッセージをお願いします。

CVCは継続することが大事です。私達も長い時間をかけて、勉強しながら続けてきました。一度投資をやめてしまうと再開するのも難しいので、これからCVCを始める方は時間がかかることを前提に始めてください。

加えて、実績を作ることにコミットしてください。日本の会社は情報だけ集めて意思決定しない傾向が強く、海外ではウィンドーショッパー（冷やかし客）と揶揄されています。私達がスタートアップに見られるのはファンドのサイズと投資実績、そして買収実績です。

この3つが揃って始めてスタートアップも話を聞いてくれます。小さくてもいいので実績を重ね、かつ継続していくことを意識してほしいですね。

（聞き手：千葉信明、文：鈴木光平、編集：濵田尚子、デザイン：村上由朗、石丸恵理）

210408 asahikasei report rev2 cover

旭化成株式会社

海外

VC/CVC

旭化成ベンチャーズに見る、社内サポーターの作り方

## 旭化成CVCの実績：海外特化、25社中2社が自社M&A

まず、旭化成ベンチャーズの取り組みを概観する。

旭化成グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3領域で事業を展開。CVCである旭化成ベンチャーズは、最先端技術や事業の獲得、新事業の創出を目的にスタートアップ投資を行う。

特徴は、①海外スタートアップ投資に特化し、日本に拠点を置いていない点、②買収による事業構築を重視する点だ。

海外スタートアップ25社に投資を行い、6社がExitを果たしている。そのうちLED技術を開発するCrystal IS（クリスタルアイエス、米国）とガスセンサー技術を開発するSenseair（センスエア、スウェーデン）の2社は、M&Aにより旭化成グループの一員となった。

2008年にCVC設立後、2011年に拠点を東京からシリコンバレーに移動。現在はシリコンバレーとボストン、デュッセルドルフに拠点を構え、2019年からの3年間では7500万ドル（約82億円、1ドル=110円換算）の予算を元に、約10名で活動を行う。買収先Crystal ISの元CEOなど、現地のメンバーも採用している。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/5Pu7fKAfwffqjRHkd3KeUU/6f1d74403f6d017ed56599ac55581c83/toranomaki_asahikasei_04.png" />

今回INITIALでは、シリコンバレーを拠点にスタートアップ投資を担当する旭化成ベンチャーズの森下 隆氏に取材を敢行。旭化成CVCの経緯や、スタートアップ投資のプロセスや考え方、米国でのCVC活動で重視する点について話を聞いた。

## CVCは、スタートアップの「事業開発力」を再現する手段

###　森下さんが旭化成ベンチャーズを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

CVC立ち上げのきっかけは、駐在員としてシリコンバレーに赴任した2001年に遡ります。

研究開発のバックグラウンドを持つ私は、米国の半導体技術メーカーで当時スタートアップだったPeregrine Semiconductor社（ペレグリン）との協業プロジェクトに参加しました。（編集部注：ペレグリン社は2003年に世界最大の半導体メーカーのCVC・Intel Capitalからも出資を受けており、2014年に村田製作所が買収しグループ会社へ。現在の社名はpSemi社）

彼らと共に仕事をする中で、VC等によるリスクマネーを元にプロトタイプの製品を出したり、ビジネスモデルの検証を重ね、成功すれば大企業に買収されるという、スタートアップのダイナミックな動きを体感しました。

一言で言うと、__スタートアップの「事業開発力」に魅力を感じたのです。__反面、日本企業は技術をビジネスに転換する力が弱いことにも気付きました。

旭化成の社内にもこの事業開発力を取り込みたい。そのためには、スタートアップ投資を行うCVCというツールが最適なのではないかと考えました。

「スタートアップの事業開発力は、われわれにも必要だ」とCVCのコンセプトを社長に伝え、無事承認。研究開発費の一部を活用し、2008年から10億円の予算で活動を開始しました。

![toranomaki asahikasei 01](//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4w984lxVjRbn1YyY7pvQr2/de3834d16b6f87aedc56d1c23542ff09/toranomaki_asahikasei_01.jpg)

> 森下 隆（もりした・たかし）/ 　Asahi Kasei America　General Manager, Corporate Venture Capital
> 1986年旭化成入社、光デバイスの研究開発に従事。その後米国のベンチャー企業との協業プロジェクトに参画し、2008年、旭化成コーポレートベンチャーキャピタルを設立。これまで欧米の25社のベンチャー企業に投資をして2社を買収。投資先企業の取締役としてベンチャー企業の経営参画や上場、資産売却などベンチャー投資関連実務およびベンチャー企業との戦略的提携を用いた新規事業開発に従事。


###　直接投資ではなく、CVCの形態でスタートアップ投資を開始した理由は何ですか。



知見が蓄積され、旭化成グループ全体にフィードバックができるからです。

投資契約の結び方、投資条件の適正範囲、バリュエーション、共同研究開発、会社精算、資産売却などの経験を繰り返すことによって、投資プロセスに関わるあらゆる知見がCVCに蓄積されます。

ただし、必ずしもCVCを通さないといけないルールはありません。われわれが投資のサポートを行い、最終的な資金はグループの事業会社が出すケースもあります。

例えば、グループの事業会社がどうしても協業したい企業から「共同開発に投資が必要です」と言われた場合です。CVCとしては元本回収を目標に財務リターンも精査するため、協業希望先の全てに投資することはできません。

知見が一箇所に集約されていると、このような連携も可能になるのです。逆にグループの事業会社がそれぞれ独自に投資を行うと、全体の知見が集約されないです。

### 2008年にCVC設立後、2011年に東京からシリコンバレーに拠点を移しています。なぜ米国に拠点を移したのですか。

現地にいないと、投資のチャンスが得られないと感じたからです。

実際に興味のあったスタートアップと話すことが出来たとしても、「今回のラウンドはもう締め切ったよ。次のラウンドでよろしくね」と言われてしまう。そして「その次」は来ないんですね。

現地の投資家として信頼してもらう第1ステップとして、「東京からのリモート管理ではなく、シリコンバレー現地に拠点を構えることが必要だ」と社内で説明し、拠点を移しました。

現地のネットワークは、VCファンドへのLP出資をもとに作りました。シリコンバレー現地の情報が限られる設立直後の日本のCVCにとって、まずLP出資から始めるのは有用な手段だと思います。

### 日本の本社とのコミュニケーションについて教えてください。

投資予算は旭化成グループ本体から、経営会議の承認を経て3年ごとに資金を確保する形式です。また、経営会議でCVCの活動報告を年次で行っています。

買収先のプールがどれだけ増えているのかを中心に、KPIである新規投資年間件数やデューデリジェンス件数の進捗率や、既存投資先の状況を説明しています。

投資の意思決定も以前は日本の決裁が必要でしたが、2016年から権限委譲してもらいました。マテリアル、ヘルスケアそれぞれの3名で構成される投資委員会があり、満場一致で投資が決まる形です。

決裁ルートを変更することで以前よりもスピードが上がり、投資件数も増加しました。

旭化成ベンチャーズは、日本側に1人も人員を置いていません。日本の本社と継続的に丁寧なコミュニケーションを行っていないと、今回のように景気が悪化したタイミングで、CVCの予算が見直されることも考えられるでしょう。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/48TOtkDAcG5LlNzdBneu3Y/cd9ae5f3c7f8c4c5245f27406bb297ce/toranomaki_asahikasei_03_rev2_.png" />
 
## 投資では買収の可能性と、自社技術との掛け合わせを重視

### スタートアップの投資プロセスについて教えてください。

ソーシングは出資先のVCから毎月情報を提供してもらっています。彼らからの紹介だけで年間数百件になります。他のソースは知人の紹介や、カンファレンスや展示会などです。

案件を選別するポイントは、まず将来の協業や買収の可能性があるかどうか。次にテクノロジーとビジネスモデルが面白いのかを見ます。最初に数百件の中から10％ぐらいまで絞ります。

スクリーニング後、初期検討（プレデューデリジェンス）を行い、良ければ本格的な投資検討（デューデリジェンス）に進みます。投資検討に進むのは年20社程度で、最終的に投資するのは年5社程度です。

アピールする部分はメーカーとしての特徴を活かします。製品、自社の技術、工場や販売ルートなどの事業インフラです。われわれが持っている全てのツールを提供しエンジニアリングサポートを行うことです。

例えば、電池を開発するスタートアップに対しては、自社のセパレーター（電池に使用されれる部材）の無償提供や、実証実験のサポートを行います。

ただし、買収の意思決定をするのはCVCではなく、グループの事業会社です。われわれはスタートアップに投資し、モニタリングを行い、彼らの事業進捗や彼らが目指す市場に関する理解を深め、それを日本サイドと共有していきます。

### 投資領域で意識しているポイントは何ですか。

__スタートアップと旭化成の技術を組み合わせて、市場開拓できるか、彼らが目指す事業がどれくらいの価値を持つのかを意識しています。__

既存事業の領域と、現状シナジーはないが今後可能性がある領域の両方に注力しています。後者をホワイトスペースと呼んでおり、投資先の半数以上を占めます。

買収に至ったSenseair（センスエアー）とCrystal IS（クリスタルアイエス）の2社は、既存事業の領域です。

センスエアーが持つ光路設計の技術と、旭化成の赤外線センサー技術を組み合わせると、従来よりも小型の二酸化炭素センサーを製造することができます。

これによりこれまでターゲットとしていた空調用の市場だけでなく、車載用途の市場を一緒に広げられるシナリオが描けたので、買収に向けて議論を深めた経緯があります。

もう1社のクリスタルアイエスは、ユニークな紫外線LEDを開発しています。

旭化成は化合物半導体を用いた磁気センサー事業を手掛けておりましたが、彼らの技術を取り込むことで、旭化成が入れていなかった光デバイス市場に参入することができると考えておりました。

投資と同時に共同研究を開始し、旭化成の研究者を送り、彼らの開発をサポートしていました。

化合物半導体を作る製造技術は転用出来る部分も多いため、今まで持っていた技術をベースにしながら、新市場の開拓を目指しています。

ホワイトスペースでの投資事例は、匂いセンサー技術を開発するAryballe Technologies（アリベール・テクノロジーズ）です。

彼らが開発するセンサーは人間の鼻と同じ構造で、以前の技術ではできなかったワインの香りや化粧品など匂いの情報をデータベース化する事業を行っています。

既存事業ではシナジーはありませんが、将来、提携、買収などを通した新事業のパイプラインとして関係作りを行っております。

<Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/6HHdjfCKAoTIFaLemhoZ6J/2b399b40b3511edaabe95d4c85d6214f/toranomaki_asahikasei_02.png" />

## CVCはグループ全体のインフラ。不景気でも投資を「やめない」

### CVCに従事して12年。森下さんがCVC活動を行う上で、重視していることは何ですか。

何より大事なのは、「やめない」ことです。

CVCは投資案件が集まり、投資の予算が集まるグループ全体の「投資インフラ」です。また情報インフラとして、4000社以上のスタートアップ企業情報を掲載する社内データベースを作成し、情報を蓄積しています。

CVCとして継続的に活動することで、仮にタイミングが合わない時期があっても、いざグループの事業会社の関心が高くなったときに「この案件をつないで、実証実験を進めよう」と柔軟に対応できるわけです。

また、CVCを継続するには人員計画や人材育成も重要です。

特にコロナの影響で当分移動制限が続き、展示会の機会も少なくなるため、新たにスタートアップに出会うことが難しくなることが予想されます。長年VC業界に携わり、現地で個人的にネットワークを持つローカル採用の社員を今後さらに増やしていきたいです。

また、日本人の駐在員は数年単位での異動が前提です。知見として投資マニュアルを整備し、後任者が理解できる環境を整えれば、メンバーが替わってもそれを受け継ぐことはできます。

駐在後に彼らがCVCの経験を生かして事業で活躍するためにも、長期的なバランスを考慮する必要があると思っています。

景気が悪くなっても、投資をやめない。

スタートアップには、今資金繰りが厳しくなっているので、追加投資にも参加する形で会社をサポートしていく。CVCは元々、景気が悪くなるといなくなる人たちとみられがちです。スタートアップにとって「Good Corporate Partner」であることは、CVCを継続するうえでも重要です。

日本の本社には、小さくてもいいから継続的に成果を見せて、実績を重ねていき、CVCというアプローチが新事業を作るうえで上手くいくことを示すのが大事です。

そうした双方に対する地道な信頼を積み重ねることで、更に良い案件が集まるようになる。その循環を実現することが、長く活動を続けられる秘訣だと思います。

（聞き手・文：三浦英之、編集：中村香央里、藤野理沙、デザイン：廣田奈緒美、石丸恵理）

toranomaki asahikasei rev2 cover

toranomaki asahikasei cover pickup rev2

技術の掛け合わせで事業創出。旭化成が語る、米国での「やめない」挑戦

## シリコンバレーにおけるCVC投資額は日本が世界1位

### 日系企業によるシリコンバレーへの投資はどの程度行われているのでしょうか。

`樽谷 範哉氏（以下、樽谷）`
ベイエリアにおけるCVCの投資額・投資数のデータを国ごとに見てみると、日本は2015年から2019年の5年間の累計で、281億ドル、288件の投資を行っており、件数、金額ともに第一位です。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/2H3FRdQ4kpltGQDH7prSR4/b3ec4347ba41a965f469c6ef780c596e/gap5_03.png" />

世界各国のCVCと比較しても、日系CVCはシリコンバレーで多くの投資を行っています。2位の中国も同程度出資していますが、それ以下の国は大きく引き離しています。

### 投資以外の目的でも、シリコンバレーに進出する日本企業は増えているそうですね。

`樽谷`
日系企業がシリコンバレー現地で行っている活動は、「Corporate Innovation Antenna」「Corporate Innovation Lab」「R&D Center」「CVC」の4つに分けられます。

Corporate Innovation Antennaは主にシリコンバレーの情報収集、Corporate Innovation Labは新たなアイデアの実証実験を行い、協業可能性を検討する拠点です。R&D Centerは、特定分野の研究開発を行い、CVCは、現地スタートアップへの投資活動を行います。



 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/49vVBlP8YiuRyXeO55Se9X/6fffda1b1a62cac0942377ed64477a2c/gap5_06.png" />

シリコンバレーに進出している日系企業数は、2000年にドットコムバブル崩壊、2008年にリーマンショックの影響でそれぞれ減少しました。進出数が大きく増加したのは、2015年頃からです。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/UmpyBlnHW0C6jIYrWBxB2/8728fccaaae94a4ac61b2bc261dcb7f1/gap5_01.png" />

以前は日本の大企業がシリコンバレーのスタートアップの考え方を捉えきれず、現地に進出してもスタートアップと接点を持てない時期が続きました。しかし徐々に現地のカルチャーや考え方をキャッチアップしてきたことが、日系企業の進出数増加の理由と考えています。

この4つの活動を比較すると、特にCVCの伸びが顕著です。現在、ベイエリアに拠点を置くCVC17社のうち1999年以前に同様の活動をしていたのは1社だけで、殆どの企業が2015年に設立されたことが分かります。

近年設立されたCVCは、設立直後から投資を行うのではなく、まずは日米でスタートアップ投資を行うWiLやDNX Venturesなどの独立系VCにLP出資を行い、情報収集から始めるところも多い。そこで得た知識やノウハウを自社のCVCに還元し、投資を行っています。


## シリコンバレーで存在感のある日系CVC、3つのパターン

### 成功している日系CVCにはどのような特徴があるでしょうか。

`樽谷`
率直に言えば、日本のCVC活動が活発になってきたのは最近であり、シリコンバレーで成功しているかどうかを判断できるタイミングではありません。

活動目的にもよりますし、投資や協業等の取り組みが実際に成果を生んでいるかどうかは数年かかり、そこで判断材料が揃ってくるからです。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/34L3XqVBTyLKlZJqTy2ijo/413cef82f1435b05df8ffbe2c62b9838/gap5_05.png" />

> 樽谷 範哉（たるたに・のりや）/ ジェトロ・サンフランシスコ事務所 次長
> 2001年ジェトロ入構後、シリコンバレーなどでのインキュベーション事業立ち上げを担当。その後、名古屋事務所、トロント（カナダ）事務所、東京本部にて、スタートアップ、ハイテク、製造業の世界展開プログラムに従事。2013年にはBootCampやメンタリングを含むアクセラレーション事業を立ち上げ、2017年からサンフランシスコ・シリコンバレーに赴任し、日系スタートアップの海外展開や海外スタートアップの日本展開をサポート。

しかし、シリコンバレーで存在感を発揮できているCVCもあり、その特徴は大きく、「拠点の歴史が長い」「米国企業の買収実績がある」「トップの関わりが明確」の3つに分けられます。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/2cAD3zXWqWli5CpPSGL9ws/45e0873d0447d4de513296a8d15aa9b6/gap5_04.png" />

__◆拠点の歴史が長い__

伊藤忠商事は駐在員を日本とシリコンバレーで交代させるスタイルですが、1980年代からシリコンバレーに拠点を置いているだけあり、経験やコネクションも豊富です。

また旭化成は2008年からシリコンバレーでCVC拠点を開設し、これまでに20社以上の投資を行い、3社EXITの実績があります。

__◆米国企業の買収実績がある__

Indeedを買収したリクルート、Ebatesを買収した楽天、スプリントを買収したソフトバンク等、米国企業の買収実績がある日系企業のCVCは、シリコンバレーにおけるVCやスタートアップの中でも話にあがります。

EXIT先の候補として、買い手となりうる日本企業とは接点を持っておきたいと考えるからです。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/1LFyX7UwV1UqFyLg6qz4mf/3a4307eb6f4db16c47b15bce9da0bc3d/architonic-audentes-photo-blitz-11.jpg" />

> 2019年12月にはアステラス製薬が、サンフランシンスコに拠点を置くバイオ系スタートアップ「Audentes Therapeutics」を3,200億円で買収する事例もあった。


__◆トップの関わり方が明確__

キーパーソンが素早く判断できる仕組みを作ることが大切です。大林組は、現地の責任者である佐藤寛人氏が本社のトップマネジメントを年に一度シリコンバレーに招き、「大林チャレンジ」というイベントを通じて来年度の技術開発や事業投資の方針案を共有します。

実施段階では、本社のプロジェクトキーマンとスタートアップ企業との会議をルーティン化することで、日頃から細かな意思決定を積み重ね、各プロジェクトのスピード感を担保しています。

トヨタAIベンチャーズは、投資委員会もシリコンバレー現地の人員で構成されており、決裁が早い。同社の代表であるJim Adler氏がCES2020というカンファレンスでプレゼンテーションを行うなど、現地メンバーによる発信が特徴的です。

### 日系CVCには今後さらに発展するために、何が求められますか。

`樽谷`
まず大切なのは、スタートアップの立場にたって考えること。

たとえばスタートアップと共同開発したプロダクトを、自社にとって競合となる他社に紹介してもよいとした上で出資契約を結んでいる企業もいます。スタートアップの事情をよく理解した好例といえるでしょう。

今後は、自社のPLに大きな影響を与える「次世代の事業の柱」を見つけられるかどうかが課題になります。

先日、米国のユニコーン企業パランティアにSOMPOホールディングスが5億ドルもの出資を決めたことは、その一例です。

同社CEOの櫻田氏は「デジタルディスラプションによって、われわれは将来的に「保険会社」と名乗る必要はなくなるのかもしれない」と話しているように、既存のコアビジネスが代替されることも厭わない姿勢が重要になると考えています。

### 米国のCVCと比較すると、どこに違いがありますか。

`樽谷`
主に「キャピタリストの異動」「決裁のスピード感」「リターンに対する考え方」の3点で違いがあると思います。

1つ目のキャピタリストの異動については、米国のCVCキャピタリストの人材も転職が多く流動的ではありますが、VC業界やスタートアップエコシステムの中で引き続き活動するケースが多い。

しかし、シリコンバレーに拠点を置く日系CVCのキャピタリストは、3～4年駐在した後に帰国することも多いです。スタートアップ投資の芽が出始めるタイミングを考慮すると、数年で帰国してしまうのはもったいないことです。

継続的に投資先の評価を行わなければ、CVC活動の成果を図ることも難しいですし、現地のスタートアップからしても、「このキャピタリストと話をしても、結局日本に帰ってしまうのでは」と考えられ、交渉を足踏みさせる可能性もあります。

2つ目の「決裁のスピード感」については、日本のCVCだけでなく欧州のCVCも同様に課題を抱えています。

数千万円程度の案件でも、本社のCxOクラスに承認を取るケースもあるそうで、大企業ならではの組織構造ゆえに、決裁に時間がかかって投資先を逃すこともあります。

GV(元グーグル・ベンチャーズ)等の米国の老舗CVCは、そうした大企業とスタートアップのスピード感の違いを上手く乗り越えています。彼らはスタートアップの考え方に沿った投資活動を行っており、本社からは独立して案件を進めています。

3つ目のリターンに対する考え方についても、日本とはかなり差があります。

日本ベンチャーキャピタル協会によれば、日本のCVCは、52%が「戦略的リターンを重視する」としています。グローバルのCVCは66％が「金銭的リターンと戦略的リターンの両方を重視する」と回答しており、目的意識にはかなりの差が見られます。

米国のCVCは、金銭的リターンを重視する傾向にありましたが、昨今では金銭的リターンに加えて戦略的リターンの獲得についても、模索している段階にあると思います。大事なのは、戦略的リターンを求めつつも、スタートアップと同じくスケールアップ（金銭的リターン）をも求めなければいけないというところにあると思います。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/1356x0qPv2GPeNeiRwzRPW/a51fe690d38e36666d1b7cd340151d22/shutterstock_350398166-min.jpg" />

## 「キャピタリスト」単位で投資家を選ぶ米国スタートアップ

### ここからスタートアップ側の質問にうつります。スタートアップは、米国と日本でどのような違いがありますか。

`樽谷`
シリコンバレーのスタートアップには、大企業を「ディスラプトする相手」と捉えている企業も多く、連携せずに成長することも多いです。日本のスタートアップの多くが大企業と連携を行っているのとは対照的です。

特定の企業から出資を受け、「色がつく」ことを避けるためにAndreessen HorowitzやSequoia Capital等の独立系の著名VCが投資家として選ばれるわけです。

しかし、業種によっては米国のスタートアップも大企業と組む場合があります。特に技術系のスタートアップは、日本と同様に出資や提携の事例が見られます。

たとえば電気自動車向けに全固体電池を開発するQuantumScapeは、2018年に自動車メーカーのフォルクスワーゲンから1億ドルの出資、2020年6月にも2億ドルの追加出資を受け、全固体電池技術の共同開発を行っています。


### トップティアのVCから出資を受けるために、米国の起業家はどのような工夫をしているのでしょうか。

`樽谷`
リファレンス（第三者による推薦の取り付け）が全てです。ただし、リファレンスを得られたとしても、直ぐにVCに会いに行くことはありません。リファレンスしてくれた人の顔をつぶさないためにも、彼らは準備に準備を重ね、最高のタイミングになってからVCに会いに行きます。

また、米国の起業家は特定のキャピタリストを名指しで指定してリファレンスを得ています。

彼らはキャピタリストの発信をSNS等で確認し、情報をタイムリーに捉えています。「VC単位」で考えずに「キャピタリスト単位」で考えることも特徴の1つでしょう。

### リファレンスが重要との事ですが、具体的にどのように関係を構築しているのでしょうか。

`樽谷`
アクセラレーターに入り、そこで得たコネクションを利用するか、あるいは自分たちでメンターを探し出し、そのメンターからリファレンスをしてもらう事が多いですね。

Y Combinator、500 Startups、Alchemist Accelerator、Berkeley SkyDeck、IndieBioなど、実績のあるアクセラレーターにアクセスすることが重要です。

また、米国の起業家は日本よりもより多くのピッチを行うことは、ポイントの1つです。

Coral Capitalのリサーチによれば、日本の起業家が直近の資金調達で30回以上ピッチを行ったスタートアップは全体の4％程度です。

しかし米国のVC、First Round Capitalのリサーチによれば、直近の資金調達で30回以上ピッチを行ったスタートアップは13.8%。およそ3倍近く開きがあります。

## 日本のスタートアップに求められる、多様性のあるチーム

### 日本人起業家、スタートアップが米国に進出する事例が少ない理由はどこにありますか。

`樽谷`
日本のスタートアップが米国進出を計画する場合、日本のVCがIPOの観点から反対する場合があると聞いたことがあります。

米国事業は直ぐに売り上げにはつながりませんし、市場を取るための投資費用も日本よりも多額です。日本でのIPOを優先させするために、米国法人を展開していたとしても、利益確保の観点から一旦は撤退するケースも少なくありません。

ある程度長い目で見てくれる、あるいは売却先を持っているVCが日本で多く出てくると面白いですね。

また、昨今ではアーリーステージにおける日本の投資環境が恵まれていて、シリコンバレーや世界で挑戦する日本人起業家の数がまだまだ少ないことも理由の１つです。

起業における課題は日本とシリコンバレーでは大きく異なっており、具体的には「顧客の課題を追求できていない」「Product Market Fitが試されていない」「ターゲット市場が絞り込めていない」「シリコンバレーの考え方を理解していない」「最適なチームが結成できていない」ことが挙げられます。

 <Image type="full-column" src="//images.ctfassets.net/bdepgd648nl9/4XvV9M4FJ4MDVL4GbVNoUF/a0b6997d6b9a560fc20bb6722da5b89e/gap5_02.png" />

特に「顧客の課題を追求できていない」「シリコンバレーの考え方を理解していない」「最適なチームが結成できていない」の3つは大きな課題です。

「顧客課題の追求」はあらゆる起業家にとって重要ですが、特に日本と米国では顧客の課題が大きく異なっていることは、認識すべきポイントです。

米国の顧客に選ばれるためには、日本の顧客に合わせて作ってきたPMF（プロダクト・マーケット・フィット）をゼロベースで考え、時にはビジネスモデルを根幹から変えることもあり得ます。

「シリコンバレーの考え方」とは、スケールとスピードの両方を重視する「グロースマインドセット」の事です。

シリコンバレーで必要とされるこの考え方兼ね備えている日本の起業家は多くないと感じています。

そして最大の課題だと感じるのは、最適なチームが結成できていないことです。

私が米国のスタートアップの日本進出支援をする中で感じたことですが、彼らの多くは、多国籍なメンバーで構成されています。

国籍だけでなくメンバーの性格も多様で、たとえばイケイケな起業家と、それとは正反対な落ち着いたエンジニアがコンビを組んでいたりする。

国籍も性格も異なる、多様なバックグラウンドをもったメンバーが意見を交わしているので、自然と世界中で通用するビジネスモデルを考え、プロダクトを開発しているわけです。

日本のスタートアップ、起業家のバックグラウンドがより多様になれば、自ずと世界に向いたプロダクトも増えるのではないでしょうか。

---

本特集「Across the gap」の次回は、シリコンバレー進出のヒントを具体から探るべく、現地の日系CVCへのインタビューをお届けする。

（聞き手：藤野 理沙、森 敦子、文：三浦 英之、デザイン：石丸 恵理）

gap5 cover (1)

伊藤忠商事株式会社

gap5 pickup (1)

今シリコンバレー進出に求められる、日本的思考からの脱却

決算・財務・ファイナンスをアップデートしたいあなたに紹介するEBITDAやROICを理解する新発想。ソニーやNTT、楽天、パナソニック、旭化成などが採用する重要指標を数式不要で解説する

製造業 Financial Planning Div. Manager

ジャーナリスト

Next SaaS Media 「Primary」運営 アナリスト

NCB Lab. 代表

講談社 IPビジネス部部長

株式会社SHIFT EVACコンサルティング部マネージング ディレクター / 株式会社SHIFT グロース・キャピタル 取締役

【新機軸】ファイナンス理解が10倍加速する「発想法」

働き方改革の影響で、社員の生産性向上が求められるなか、企業主導で「学び」を推進する動きが増えている。一方で、うまくいっている事例は極めて少ない。「学び動画見放題」を全社導入したものの、活用されず...

NewsPicks 記者

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役執行役員　Forbes Japan Woman in Tech30

慶應ビジネススクール 教授

IKIGAI lab.オーナー/富士フイルムビジネスイノベーション株式会社

シリョサク株式会社 代表取締役

【実録】若手が伸びる、旭化成の「新卒学部」がスゴい

Daddy Support協会 代表理事 産業医・産婦人科医・医療ジャーナリスト

NewsPicks Content Curator

Daiko consulting 代表

大阪府庁

エンジニア

女性にAEDで救命措置で「強制わいせつ」を警察は否定 　女性へのAED装着における大問題とは

ドライバーレスの自動運転が実現すれば、従来の運転手を含め乗員はすべて「お客様」状態となる。走行中、運転操作や周囲の監視など一切の義務を負うことなく移動することが可能になるためだ。 そこで注目が集まるのが、車内における移動 […] The post 自動運転車の「車内」に商機！コンシェルジュAIや専用シートの開発進む first appeared on 自動運転ラボ.

三菱総合研究所 執行役員兼研究理事 生成AIラボセンター長

A.T. Marketing Solution 代表、VISOLAB（株）CMO

採用支援(RA) 一般社員

路傍の石

ニュース解説者

某上場企業 内部統制部門 部長

自動運転車の「車内」に商機！コンシェルジュAIや専用シートの開発進む

2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰旭化成フェロー。リチウムイオン電池の父としても知られる。そんな吉野氏が、オープンイノベーションの取り組みなど、開発当時を振り返る。さらには日本がシリコンバ...

NewsPicks編集部 デスク

株式会社ダイニー ファイナンス事業本

株式会社ユーフォリア 取締役CFO

(株)こうゆう 花まる学習会 代表

【吉野彰】2020年代、「新・イノベーターの条件」

10月9日、リチウムイオン電池の生みの親である吉野彰旭化成名誉フェローがノーベル化学賞を受賞した。NewsPicksでは過去2度にわたり、吉野氏をインタビュー。受賞を記念して再掲する。

ノンフィクションライター

NASA Jet Propulsion Laboratory 技術者・作家

忠北大学 天文宇宙科学科 教授

Interstellar Technologies K.K. Founder

京都大学大学院 特任准教授

NewsPicks Brand Design Creative Editor

【再掲】リチウムイオン電池の父が語る「奇跡の発明」の裏側

コロナ禍で見直される多角化経営。自動車や半導体、ヘルスケアなど幅広く手がける企業は安定している..が、強みがなく専業企業に負けるケース多々。ソニーやパナソニック、日立、オムロン、旭化成などから間...

ユーザベース スピーダアナリスト

株式会社 東芝 代表執行役社長　CEO

NewsPicks編集長

【解説】多角化経営に未来はあるか？

延岡市の旭化成東海地区工場では、敷地内の700本の桜を見てもらおうと、1日限定で市民に開放されました...

配信メディア

自動Pickロボット

1日限りの一般開放　延岡市の旭化成東海地区工場で観桜会

吉野彰氏にノーベル化学賞 【ストックホルム共同】スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、2019年のノーベル化学賞を旭化成名誉...

ケイアンドカンパニー株式会社 代表取締役

サイエンスライター

ハピキラFACTORY 代表取締役

i-u.ac.jp / code.ac.jp / castalia.co.jp / forks.tokyo Journalist

吉野彰氏にノーベル化学賞　リチウムイオン電池開発、旭化成

「100年企業」の秘訣の一つとして、「変化をいとわないこと」「大事なものは守ること」が挙げられることは、第1話でも述べた通りだ。ところが、この会社は「変化し過ぎしている」ようにも見える。国内屈指...

静岡県立大学国際関係学部 准教授

東京藝術大学大学院修士2年/Senjin Holdings 代表取締役

【驚異】創業以来営業赤字ゼロ、旭化成流強さの秘密を社長に聞く

旭化成株式会社

企業概要