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2020/07/10

世界的ゲーム企業を設立。事業は掛け算と否定から生み出す

  • #VC/CVC
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かつて米国で史上最速の収益成長を記録したスタートアップの共同創業者が、日本でエンジェル投資を行っている——。

Zynga(ジンガ)は米国・サンフランシスコ拠点のソーシャルゲーム開発会社。2007年の会社創業後、わずか4年で年商10億ドルを達成、2011年には100億ドルの評価額でNASDAQ市場に上場。代表作はファームビル(FarmVille)、ジンガポーカー(Zynga Poker)で、DAU(1日あたりのユーザー数)は2000万人以上。いわばソーシャル・モバイルゲーム業界を開拓した存在だ。

その共同創業者であるジャスティン・ウォルドロン(Justin Waldron)氏は現在、東京でエンジェル投資活動を行い、起業準備中だ。なぜ米国スタートアップの成功者である彼が日本を選んだのか。「日本はとても魅力的なマーケットである」と評する意図は。彼から見える景色に迫る。

CONTENTS

日本との接点はゲーム企業買収がきっかけ。買収企業の当時CEOは現メルカリ山田氏

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ジャスティン・ウォルドロン(Justin Waldron)/ Zynga共同創業者、東京を拠点とするエンジェル投資家。2013年に同社を退社し、投資に専念。現在は起業準備中。(写真:INITIAL編集部)

ジャスティンさんは米国で起業後、現在は東京を拠点とするエンジェル投資家となりました。日本との接点は何ですか。

2007年に、サンフランシスコでZyngaを共同創業しました。日本との接点は、10年前に遡ります。

Zyngaは、当時の日本のソーシャルゲーム先進企業の1つであるウノウ株式会社(以下ウノウ)を2010年に買収し、ソフトバンクグループと合弁会社「ジンガジャパン」を設立しました。ウノウの当時の代表取締役社長は現・メルカリ代表取締役CEOの山田 進太郎さんです。

この買収を決めるプロセスの一部を担当し、買収後に来日しました。そして、1年間ウノウ経営陣と一緒に仕事をし、Zynga流のプロダクト開発方法を教えていました。

当時私は、欧州や北米・南米、中国には興味がありましたが、日本については全く知りませんでした。アニメや漫画に興味もなかったですし(笑)

ただし来日後は、「なんて面白い場所なんだ」と考えが一変し、日本での事業展開にとても興味を持ちました。

その当時Zyngaはすでに世界各地に進出していました。しかし、当時のDeNAやGREEなどソーシャルゲームに特化した日本企業は、私たちに匹敵する規模だったのです。会社のスタイルも私たちと大きく違いました。

彼らから学ぶことが沢山あるのではないか、そう感じて、日本進出の担当者になった経緯があります。それが私と日本の出会いです。

起業家として一番大変だった経験は何ですか。

解雇に関わる経験です。今まで一緒に働いてくれた優秀な仲間たちとお別れをしなければならなかった。特に2012年の日本のオフィス閉鎖はつらかったですね。彼らは仲間でしたから。

当時はソーシャルゲームからモバイルゲームへと転換を余儀なくされた時期で、会社全体で改革する必要がありました。私は2013年にZyngaを退職して7年経ちますが、モバイルのような大きなプラットフォームの変化があっても生き残れて良かったと思っています。

苦しい経験でしたが、今となっては嬉しいことがあります。Zyngaを辞めた人たちが、新たに会社を立ち上げたのです。メルカリの山田さんだけではありません。彼らをとても誇りに思います。

気づいたらエンジェル投資家に。新たに市場を創出する企業に投資

Zyngaを退職後、なぜエンジェル投資家になったのですか。

当初はエンジェル投資家になる気はありませんでした。Zyngaを退職後、しばらく仕事から離れて息抜きをしたいと思い、世界を旅していました。

息抜きが退屈になり、気付いたら投資を始めていました(笑)なぜなら友人たちが面白いアイデアを持ってきてくれて、彼らの力になりたいと思ったからです。本当に面白いアイデアは、断るのが難しいですよね。

一度友人の会社に投資を始めると、紹介で次々と話が来るようになり、エンジェル投資家になりました。成り行きは偶然でしたが、今ではこの仕事が好きです。

エンジェル投資家の醍醐味は、自分の知識を共有して支援できるだけでなく、専門家からも得られないような知識や経験を得ることができることです。

私にとっては金銭的なリターンよりも、人間関係やネットワーク、得られる知識の方がはるかに大切です。

エンジェル投資を始めてから約7年間で、年間約10社に投資してきました。ファンドを通じた投資ではなく、リード投資家を競う必要もないので、自分の好きな会社に投資をしています。

日本のスタートアップには地域版クラウドソーシングのミツモア、語学学習サービスのLang-8、スタートアップ向け資金調達管理サービスのスマートラウンドの3社に投資しています。

投資方針を教えてください。面白いと感じる投資領域は何ですか。

私が最もワクワクするのは、特定の市場の仕組みを変えることができる企業です。Zyngaがわかりやすい例です。ソーシャルゲームの仕組みで、ゲームのビジネスモデルが一気に変わりました。

例えば、Zyngaを辞めた後に多くの友人がモバイルゲームの会社を起業しましたが、それらの会社には投資しませんでした。創業者は素晴らしく、中には成功している会社もありましたが、私には既存の市場が変わるようには思えなかったからです。

もし彼らが「音声のゲーム会社をつくりたい」と言っていたら、投資したでしょう。今はない市場なので高リスクですが、ゲームにおける全く新しいパラダイムシフトになりうるからです。

そのため、私は新たに市場を創造する企業に強い投資バイアスがあるんだと思います。

また、人々に機会を生み出す企業に投資するのが大好きです。

例えば、投資先のSubstack(サブスタック)は、ライターが自分のニュースレターを配信できるサービスで、現在米国で人気を集めています。

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(写真:Substack公式HPより)

多くのライターやジャーナリストが自らキャリアを切り拓き、自分でビジネスを始められる機会を生み出すアイデアにワクワクします。

Substackのチームとは8年来の知り合いで、2018年にシードラウンドで投資しました。2019年にはシリーズAで(米国著名VCの)アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、a16z)がリード投資家として出資しています。

私はインパクト投資家ではありません。それでもこのような企業に投資して時間を投じる理由は、ビジネスがうまくいけば寄付や非営利団体(NPO)に頼ることなく、大きなインパクトを社会に与えられるからです。

プロダクト開発で投資先を支援。優れた起業家の3つの特徴

エンジェル投資家として、投資先にどのような支援を行っていますか。

主に投資家の紹介と、プロダクト作りを手伝っています。どのような支援をするかは、創業者によって違います。

プレシリーズAで投資したスマートラウンドの例でお話しましょう。

具体的な支援は、サニー(スマートラウンドCEOの砂川氏)に米国のFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド、ピーター・ティールが率いる米国著名VC)の投資担当者を紹介したことです。

プロダクトが提供する価値と創業者の経験が評価され、無事、アジア太平洋地域向けスカウトファンド(FF APAC Scout Fund)からスマートラウンドへの出資が決まりました。

多くの海外企業は日本のクロスボーダーファイナンスをやろうとしていますが、実際に行動に移した人は少ないです。Founders Fundが日本に投資を決めたことにとてもワクワクしています。

日本の企業は米国と比べて、投資金額や構造、ラウンドのタイミングなどが米国と大きく異なります。

簡単なことではありませんが、今後より多くの海外投資家を日本に呼び込みたいと思っています。

投資家の紹介以外に、プロダクト開発の支援も行っているのですね。

プロダクトは最も私が貢献できる部分です。得意な人が少なく、かつ好きで得意な領域だからです。

かつて私がZyngaで面白いゲームを開発できた理由は、Webエンジニアの経験とゲームへの情熱を組み合わせたからです。当時ゲームは専用ハード機器が主流で、Webを組み合わせるのは新しい発想でした。

この原体験から、自分が詳しい2つの領域を組み合わせれば、面白いチャンスがあると感じています。

ゲームはプロダクト開発を学ぶのに最適な場所です。物理的に縛られずにどんな機能もつくることができますし、アイデアをすぐに試すことができます。

投資先には、ゲーム開発から学んだことを応用し、新たな視点を提供するようにしています。マーケットプレイスの企業は類似性が高いです。

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(写真:INITIAL編集部)

成功する起業家に共通する特徴はありますか。

一般的に、企業の成功・失敗を捉えるには7年程度かかります。私はエンジェル投資家を始めてまだ7年程度なので、成功する起業家を見極めるために十分な経験はもっていません。

しかし過去の経験から、優れた起業家の特徴はあります。

まず大切なのは、特定のアイデアではなく、結果にコミットすること。

最も多い過ちのひとつは、当初のアイデアに固執して捨てられないことです。「自分では正しいと信じているが、投資家に証明できない」ケースは、大概良くないアイデアです。

また、仮説検証のスピードをあげることも重要です。

優れた起業家は、「最速でアイデアを証明するために、自分は何ができるだろう?」と考えます。もし仮説が正しくなければ、その時間は無駄になってしまいますからね。

プロダクトを作るのに時間がかかっても、アイデアを証明するのに時間はかかりません。プロダクトが悪くても、ニーズを捉えられていればうまくいくのです。

例えば、Uberの初期のバージョンは他プロダクトと比べてあまり洗練されていないデザインでした。それでもユーザーはUberを使いました。タクシー会社に電話する体験よりも優れていたからです。

「ユーザーがどれだけ欲しがっているか」を試す仮説検証の段階では、プロダクトの見た目は重要ではありません。逆に見た目が悪いプロダクトでも使ってもらえるのならば、良い兆候です。本当のニーズを捉えられていますから。

スタートアップは時間もお金も限られています。機会費用を認識し、本質的なことに時間を費やすことが重要です。

本質的なこと、つまり何が正しいのかを見極め、物事を変える意志を持つことが大切なのではないでしょうか。

起業家の性格としては、どのような状況でも勝ちに行こうとする姿勢や、失敗から早く立ち直ってすぐに動こうとする姿勢も大切だと思います。

多様な視点を求めて日本に移住。自分が取り組むテーマを見つけ、再び起業家へ

なぜ再び日本に移住したのですか。

自分自身に挑戦し続け、テクノロジー以外の業界から学びたいと思ったからです。

日本に移住する前は、Zyngaを創業した2007年から10年間サンフランシスコに住んでいました。当時サンフランシスコにはほとんどスタートアップがいませんでしたが、最近周りはテクノロジー業界の人が多くなりました。

もっと色々なアイデアに触れられる場所に行きたいと思い、日本への移住を決めました。最初は短期間のつもりでしたが、知り合いもいるので気付いたら3年半東京に住んでいます。

日本には優秀な人材や大きな市場があるにも関わらず、VCの観点では他国に比べて投資が少ない。日本で何か面白いことができないか、ずっと模索していたのです。

今は日本で起業準備中です。東京に何名か社員はいますが、基本的にはリモートベースの会社です。

一度起業の世界から離れた後、なぜ再び起業を決めたのですか。

投資を通じて多くの企業を手伝っているうちに、1つのことに集中したいと感じたからです。

面白いアイデアを断るのは難しいので、多くの投資先を手伝っていました。一方で自分の時間が限られている中で、細部にまで踏み込んだプロダクトづくりが恋しくなったのです。

ただ、すぐに会社を始めたくなかった。

友人の中には「スタートアップがやりたいから」という理由だけで会社を立ち上げた人もいました。自分が何をしたいのかわからずに、投資家や社員のために本当にやりたいことではないことに時間をかけてしまい、数年後になってようやく気付いた人もいます。

自分が次に何に本気で取り組むのか、確信を持ちたかったのです。やるならば同じことの繰り返しではなく、新しく面白いアイデアに挑戦したかった。

最終的に、自分にとってやるべきことを見つけることができました。ただ、そのアイデアに出会うまでには時間がかかりました。たくさんの人と会ってアイデアを探し続けていたのですから。

自分が取り組まないと後悔すると思ったのです。詳細は、近いうちに報告できると思います。

シリコンバレーよりも、日本で起業する方がチャンスがある

最後に、日本のスタートアップ起業家へメッセージはありますか。

日本で多くの優秀で面白い起業家たちと関わるうちに、私は彼らの多くが「シリコンバレーで起業したい」と思っていることに気づきました。

シリコンバレーは刺激的な場所ですし、挑戦したい理由も理解できます。しかし私は、日本で起業する方が面白く、チャンスがあると思います。

なぜなら、日本には優秀な人材、潤沢な資本、巨大な市場があり、競争が少ないからです。米国や中国の市場は大きいですが、競争が激しすぎます。市場規模と競争環境を比較すると、日本は最も成功しやすい国ではないでしょうか。

日本は大きな市場があるからこそ、多くの人から必要とされる大きな会社を作れば、海外に展開するチャンスはあると思います。

メルカリのように、まずは日本で勝つことに集中する。そのあと、人・お金・時間などのリソースをもとに、他の分野や海外に挑戦していく。

海外経験がある日本人の創業者や、日本人以外のメンバーとチームを組んで起業する人が増えるといいですね。

シリコンバレーで何が起きてるかは気にしないでください。ほとんどの米国企業もすぐに海外展開するわけではありません。「勝てる」と確信した時に拡大するのがいいのです。

伝統的な日本の企業にも現在、DXなどテクノロジーの導入が進みつつあります。今こそ日本でスタートアップを立ち上げる良い時期ではないでしょうか。

(聞き手:藤野 理沙、文:森 敦子、藤野 理沙、デザイン:石丸 恵理)

前回:複数回EXITの経験。創業者の最も重要なスキル、教えます

次回:coming soon


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