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2019-12-09

保険テックのjustInCase、シリーズA総額10億円調達の裏側

#資金調達記事#シリーズA#InsurTech#FinTech#VC/CVC

Fintechのなかでも保険業界に特化したものを「InsurTech(インシュアテック)」と呼称する。

しかし、業界構造の違いがあるもののロボアドバイザーや決済事業と比較すると、過去5年間で10億円以上調達した未上場企業はまだなく寂しい状況が続いている。(INITIAL2019年12月8日時点)

そんな現状に風穴をあけるように、「あんしんの民主化」を掲げる株式会社justInCase(ジャストインケース)及び株式会社justInCaseTechnologiesが、シリーズAでの総額約10億円の資金調達を公表した。

先月発表したINITIALシリーズにおけるシリーズAの調達額中央値2.3億円と比較すると大型調達といえる。一方で、調達前企業評価額は約4億円。昨年6月のシード調達後企業評価額は約13.5億円であったことから、およそ70%ディスカウントでのダウンラウンドである。

この一見すると大幅ダウンラウンドでの資金調達の裏側を明らかにすべく、代表取締役の畑加寿也氏を直撃。 あわせて投資会社5社へのインタビューを通じて、justInCaseが狙うビジネスモデルを明らかにする。

(※ 記事内の評価額はINITIALによる推定額であり、justInCaseにより決定または追認されたものではない。過去の評価額に関する記載についても同じ。)

CONTENTS

保険の「あり方そのもの」を変える、日本初のP2P型がん保険

日本におけるInsurTechの走りは、2006年創業のライフネット生命保険だ。日本の保険業界は大手企業がメインプレイヤーであり、対面販売が主であった。その概念を覆し、保険外交員を抱えずにスマホで完結するネット保険を販売。業界最低水準の割安な保険料を実現した。

保険の「チャネル」を変えたのがライフネット生命だとするならば、保険の「あり方」を変えようとしているのがjustInCase(ジャストインケース)だ。

justInCaseは2016年12月に設立。2018年3月にシェアリングエコノミーの思想を保険に応用した「スマホ保険」を販売。同年6月にその実績を受け、少額短期保険業者として登録。同9月にjustInCaseTechnologiesが保険APIを開発。第一生命を代理店として、APIを通じたjustInCaseの保険を販売するなど、流通の仕組みに新風を呼んだ。

(出所:justInCase公式資料)

2019年7月には開発中のP2Pがん保険「わりかん保険」が、保険分野では初となるサンドボックス認定を金融庁より取得。

(※サンドボックス制度とは、生産性向上特別措置法に基づく実証実験制度。同制度は、新しい技術・ビジネスモデルを促進するために、内閣官房主導で2018年度から運営を開始している)

P2P保険は契約者同士がリスクをシェアすることから、サーバーを介さず端末間での通信を意味するIT用語の名を冠する。

提供予定の「わりかん保険」では、契約者全体の保険金の合計金額を毎月算出し、その時点での契約者数で割った金額に一定の管理費を上乗せした金額が、あと払い保険料となり事後的に請求される仕組みだという。

例えば、2019年11月の保険金の合計金額が100万円で、契約者数が1万人、管理費30%の場合、100万円÷1万人x1.3=130円が同年12月の保険料となる。(同社プレスリリースより)

(出所:justInCase公式資料よりINITIAL作成)

保険料の低価格を実現するだけでなく、これまでブラックボックスだった使い途における透明性の高さが、既存保険との違いだ。

ダウンラウンドを読み解く鍵は「姉妹企業」

justInCaseのファイナンスをみてみよう。

INITIALシリーズについてはこちら

やはり気になるのは、冒頭でも触れた企業評価額の推移だ。justInCaseの前回ラウンドの調達後企業評価額は約13.5億円。しかし本ラウンドの調達前企業評価額は約4億円と、数字上は約70%ディスカウントのダウンラウンドである。

しかし、本ラウンドの肝は姉妹企業の「justInCaseTechnologies」にある。

INITIALシリーズについてはこちら

※記事内の評価額はINITIALによる推定額であり、justInCaseにより決定または追認されたものではない。過去の評価額に関する記載についても同じ。

当該企業はjustInCaseと直接の資本関係はないものの、代表者と株主を同一とする姉妹企業。シリーズAはjustInCaseTechnologiesで8.7億円、調達後企業評価額38.6億円と今回のメインは当社であったとわかる。

資金使途は採用拡大を主とし、加えて大企業とのパートナーシップ強化のためのインフラ構築も目的に据える。

その姿勢は出資者の顔ぶれにも表れている。

今回の最大額出資者はSBIインベストメント。数々の金融保険業を抱える同グループからの出資は、これからのアライアンス戦略を見据えたものと推察できる。 また、伊藤忠商事は2019年10月にほけんの窓口の子会社化を発表しており、伊藤忠グループとのシナジーへの期待もかかる。

「IT企業 × 保険」が世界の潮流

代表取締役の畑氏へのインタビューを通して、今回のラウンドの裏側を探る。

畑加寿也(はた かずや)2004年 京都大学理学部卒。保険数理コンサルティング会社Millimanで保険数理に関するコンサルティングに従事後、国内外の投資銀行や再保険会社から、商品開発・リスク管理・ALM等のサービスを保険会社向けに提供。日本アクチュアリー会正会員。 米国アクチュアリー会準会員。フィンテック協会理事。写真:INITIAL

今回のシリーズAでjustInCaseを形式上ダウンラウンドにし、justInCaseTechnologies(以下、Technologies)を中心に資金調達を実施した背景は。

もともとTechnologiesは、2019年4月に既存の姉妹企業を名称変更して設立したものです。justInCaseが少額短期保険業者であるが故に、提供できないサービスを企画・開発するためにつくりました。

新たな保険体験を本当の意味で提供するためには、事業内容に合わせて会社を分けることが最善だと判断し、この形となりました。

既存株主の皆様には少し前から「次回、justInCase自体はダウンラウンドになるけれども、Technologiesの方で攻めていくので」と話し、合意をいただいていました。

加えて、Technologiesと合わせてみるとバリュエーションがちゃんと上がるロジックをつくっているので問題はありませんが、パッと見は驚きますよね。

P2P保険は引き続き justInCaseでやっていきますし、新たな保険商品の開発も行います。ただ、justInCaseでは規制上できないようなサービス開発をTechnologiesで行っていく。

仏アクサや独アリアンツよりも大きく、現在23兆円の時価総額を誇る世界最大の中国平安保険も保険会社でありながらテクノロジーカンパニーですし、テクノロジー企業が保険業をやるのがこれからの潮流になっていくんじゃないでしょうか。

それではjustInCaseとTechnologiesの連携はどうなるのでしょうか。

以下の図がわかりやすいのではないでしょうか。

(出所:justInCase説明のもと、INITIAL作成)

図の左側、「プラットフォーム」は携帯キャリアなど、ユーザーを抱える事業者を指します。 右側は既存の保険会社を表し、もちろんここに保険メーカーであるjustInCaseも含まれます。

図のようにTechnologiesは保険APIを通し、justInCaseの保険をプラットフォームのユーザーへ提供し、別の保険会社の商品も保険APIで販売できるようなB2B2Cの世界観を目指しています。

今回、justInCaseでP2P保険の新しいチャレンジを行っていますが、決して独占するためのシステムを開発しているわけではありません。新たに保険の認可を取得した事業者も、弊社のシステムを使ってもらうことによって、業界全体でP2Pマーケットを盛り上げていきたいと考えています。

その結果、誰でもよい保険商品を安く買える「あんしんの民主化」を実現できれば最高ですね。

新たに参画した株主に保険金融業をグループにもつ企業も含まれていますね。

事業展開における重要なパートナーとしてお迎えしました。

保険業のB2B2Cモデルを目指す私たちにとって、事業連携を進めることがこれからの肝になってくるからです。

2018年7月に販売を開始したスマホ保険では、販売チャネルの弱さ、オフラインの大切さを痛感しました。ユーザー満足度は非常に高かったのですが、スマートフォンの修理費用を保障するサービスがゆえに、通信キャリアや端末販売窓口の強さは想像以上でした。

投資家の皆様にも商品力の高さは評価いただいていたので、自社チャネルの弱さを補っていけるようなものにできれば、と考えています。

投資した理由:SBIインベストメント

シリーズAの最大額出資者であるSBIインベストメント、本ラウンドから参加した伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)、グローバル・ブレイン、シード期からの継続支援となったグロービス・キャピタル・パートナーズ、LINE Venturesの計5社の投資担当者に今回の投資理由を聞いた。

justInCaseとの出会いは。

2017年前後の創業間もないタイミングでお会いしました。

畑さんの圧倒的な巻き込み力とコミュニケーション力の高さを目の当たりにし、スタートアップの社長にふさわしい方だな、と感じたのが第一印象です。

投資部マネージャー 加藤大智氏 / 投資部部長 松本祐典氏(写真:INITIAL )

シリーズAで投資を決めた理由は。

「経営陣」と「成長性」の2つです。 畑さんは事業のゼロイチをつくれるパワーの持ち主ですし、保険は置いておいて売れるものでもないので、周りを巻き込んで売れる仕組みをつくっていけるタイプが最適な人材だと思います。

成長性の観点では、海外ではすでにAPI連携をはじめとした保険のデジタル化がやってきている一方で、日本は規制上もシステム上もやりにくい状況が続いています。とはいえ、もう少しカジュアルなシステムで、保険を再構築しようという動きは絶対来ると確信していました。そんな折、 justInCaseが少額短期保険業者のライセンスをとったタイミングで、「ぜひ一緒にやりましょう」とお声がけしました。SBIグループとして非常に関心の高い分野でもありますし、グループとのシナジーは高いと判断、踏み込んだご支援をさせていただきました。

投資した理由:伊藤忠商事

伊藤忠商事株式会社情報・金融カンパニー
金融・保険部門保険ビジネス部
課長 小林賢氏 / 石橋祐輔氏

justInCaseとの出会いは。

日本市場においてInsurTechと呼ばれる企業は多くはない中で、数多くの受賞歴があることや畑CEOの講演を何度か拝聴していたことから注目し続けていました。

同社が千代田区麹町のコワーキングスペースにオフィスを構えていた時期から、協業検討などの情報交換を行っていた流れで、本ラウンドについても協議を進めさせていただきました。

シリーズAでの投資を決めた理由は。

「経営陣をはじめとした人材」と「P2P保険」の2点です。 同社は少額短期保険会社のライセンスを持つ保険会社でありながら、アクチュアリー、エンジニア、データサイエンティスト等を中心とする保険業界では極めて稀有なテック企業です。2016年の創業以来、テクノロジーを活用した保険商品・サービスを優れたUI・UXでスピーディーに提供しており、案件の推進力があることがポイントでした。

もう1つのポイントは、同社が2019年7月にサンドボックス制度を活用し、日本初のP2P保険を開発したことです。P2P保険は「助け合いの精神」に根ざした仕組みを実現する保険で、保険業界をディスラプトする可能性を秘めています。伊藤忠商事としても未知なるP2P保険の可能性を感じて出資に至りました。

投資した理由:グローバル・ブレイン

justInCaseとの出会いは。

以前から面白い会社だと注目しており、2018年4月に同社へエンジェル出資を行っている青柳直樹さんからの紹介で畑さんとお会いしました。変わった人だなと思いながら、いい経営者になるだろうとも感じていました。

Principal 皆川朋子氏 / General Partner 立岡恵介氏(写真:INITIAL )

シリーズAでの投資を決めた理由は。

「畑さんの魅力」と「保険市場の大きさ」です。

justInCaseはシンプルに言うと、保険APIとP2P保険の2つの面白い事業を同時にやろうとしている欲張り屋さん。ただ畑さんならできるのではないか、と思わせるだけのオフェンス力があります。今後、保険APIは大きな潮流のひとつですし、P2P保険は爆発的に大きくなっていく可能性を秘めている。何より日本の保険マーケットはとてつもなく大きい。

正直プロダクトだけのタイミングでみれば、当社として出資をすることは早い判断です。しかし事業の素養はほぼ整っていて、商品も仕上がり始めている。ここより後のラウンドでは手遅れになってしまう可能性が高く、このタイミングしかないと判断しました。

投資した理由:グロービス・キャピタル・パートナーズ

継続投資を行った理由は。

保険料には2つのアンフェアが存在すると思っています。 多くの高齢者層を若年層が支えなければならない「縦の不平等」、同世代の中でも生活習慣によってリスクは違うはずなのに同じ保険料を払わなければならない「横の不公平」です。 justInCaseはそれらをテクノロジーの力で解決しようとしています。

一般的な自動車保険も「走る分だけ」の保険料システムが出てきている中で、健康保険も医療保険も努力している人が報われないのはおかしな話です。

これまでのInsurTechは保険を買うまでのインターフェースを改善することが中心でしたが、justInCaseは保険そのものを変えようとしています。少額短期保険業者のライセンス、サンドボックス認定を取得でき、業界の1丁目1番地を取れている実感もありました。

また、非常にオフェンシブな組織なため防御が苦手な面もありますが、きちんと金融庁と対話できる稀有なチームです。だからこそ忍耐の必要なライセンス交渉もやりとげましたし、事業会社との提携も進められている。追加投資の判断に迷いはありませんでした。

ディレクター 福島 智史氏(写真:INITIAL )

今後、期待するポイントは。

この1年ほど走ってきて、justInCaseに対し興味を持ってくださる事業会社が多くいたことはポジティブです。ただ保険APIも順調で、P2P保険の注目度も高く、大型調達を行ったタイミングはいろいろなものに手を出したくなってしまう。ここで、事業の軸がぶれないかは懸念しています。優秀で実行力のあるメンバーが揃っているからこそ、どこに注力をすべきかの優先順位をつけることが、最終的に良いサービスに繋がっていくのではないでしょうか。

投資した理由:LINE Ventures

継続投資を行った理由は。

シード時の投資は、経営陣の情熱とメンバーの優秀さを特に評価しました。日本のInsurTech領域において保険、ITそれぞれの専門家を抱えているチームはあまり存在していないと考え、またモックの段階でしたがプロダクトも興味深いと感じました。 当時は、保険業界のデジタルトランスフォーメーションの文脈といった市場背景もあり、投資を決断しました。

シリーズAでは、前回調達時にjustInCase側が示したマイルストーンをしっかり達成した点を高く評価しました。それに加えて、畑さんのあきらめない精神に惚れ込んだのもあります。オールドスタイルな業界で、逆風が吹いていたとしても、その実行力と心の強さならやり遂げられると判断し、追加投資の運びとなりました。

インベストメントディレクター 遠藤 正人氏(写真:INITIAL )

今後、期待するポイントは。

既存の保険商品が持つ課題に向き合い、ユーザーと保険との距離を縮めようとするjustInCaseのスタンスは、コーポレートミッションに「CLOSING THE DISTANCE」を掲げ、WOW(「ユーザーを感動させる初めての体験」であり「思わず友だちに教えたくなるような驚き」)の創出を目指す当グループも共感します。

今後、新たな保険体験の提供によってjustInCaseが保険業界に革新をもたらすことを期待し、「LINE Score」をはじめ、当グループにおいても様々な連携を検討してまいります。



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規制の強い保険業界の中で非連続な成長を遂げるために、保険のメーカーと流通の2つに会社を分ける選択をしたjustInCase。

今回の取材の合間、畑CEOは「起業家にとって、資金調達は単なるお金のやりとりではなく、投資家との“結婚”に近しいものです」と熱弁していた。その想いを表すかのように、12月6日に行われたjustInCase3周年パーティーでは、各投資家の紹介を結婚式入場に見立てていた。

今回の特殊な「結婚」が花開くのはいつになるのか、日本初のP2P保険実装へと歩みを進める彼らのこれからに期待する。

(聞き手・文:松岡遥歌、デザイン:廣田奈緒美)

#資金調達記事#シリーズA#InsurTech#FinTech#VC/CVC

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