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2019/09/27

未来のラクスルを発掘する、28歳独立系VCの野望

  • #起業ストーリー
  • #VC/CVC

スタートアップ最前線

2019年、新たな独立系ベンチャーキャピタルが誕生した。

Gazelle Capital(以下、ガゼルキャピタル)。「高い成長力と雇用創出力を持つ企業」を意味するガゼルの名を冠する。

同社が運営するファンドは、テクノロジーの力でレガシー産業を変革する、「未来のラクスル」に投資するという。

代表を務める石橋孝太郎氏は、2016年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を創業。クルーズベンチャーズ取締役として、ROXX、Payme、Hubbleなど30社以上の創業初期スタートアップに投資したキャリアの持ち主だ。

「若い優秀な人たちはスマートフォンで完結するサービスを作っている。レガシー産業には、起業家の絶対数が足りないんです」

自らの意思でCVCを立ち上げたにも関わらず、なぜ独立したのか。石橋氏に、設立したVCファンドの投資方針と狙いを聞いた。ファンド初の投資先実例も含めながらお送りする。

CONTENTS

gc profile

石橋 孝太郎(いしばし・こうたろう)/ Gazelle Capital 代表パートナー。Wantedlyで若年層ユーザーグロースチームの立ち上げを行い、クルーズ株式会社 採用部門に2016年4月より業務委託として参加。2016年11月クルーズベンチャーズ(CVC)を創業、取締役に就任。2019年5月にGazelle Capitalファンドを立ち上げ。

独立系ベンチャーキャピタルを起業

今回石橋さんが設立した「ガゼルキャピタル」は独立系のベンチャーキャピタルです。

創業前・創業直後の新しいチャレンジを志す起業家に投資するベンチャーキャピタルで、5月に第1号ファンドの運用を開始しました。

CVCが2018年9月に親会社のクルーズ社に吸収合併になったこと、30歳前に自分の感情が込められる事業を起こしたい思いがあり、2019年にVCファンド事業として起業しました。

名前の由来であるガゼル企業とは、高い成長力と雇用創出力を持つ企業を指します。

ITの力で、工場、建築、物流などレガシーな既存産業に変革を及ぼせる企業が投資対象です。

gazelle capital

既存産業に変革をもたらし、圧倒的な成長力と高い雇用創出力を持つスタートアップ=ガゼル企業の創業前・初期に投資する(画像:ガゼルキャピタル提供)

未来のラクスルに投資

テクノロジーの力でレガシー産業を変革する企業にこだわっていますね。

上場企業でいうと、印刷業界を変革したラクスルのイメージですね。

レガシーな産業は、農業・林業・漁業の一次産業から、建設業、製造業などの二次産業だけにとどまりません。

不動産や保険、金融、小売、医療・ヘルスケアといった三次産業も対象になります。IT化が進んでいないけれども、市場が大きい領域でビジネスチャンスもあります。

独立する時に、僕がスタートアップと特定領域で起業するという選択肢もありましたが、結局はファンドビジネスを選びました。

僕が一起業家としてラクスルのような会社をつくるよりも、優秀な起業家の数を増やす方が、日本の社会に与える影響が大きいと考えたからです。

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(画像:ガゼルキャピタル資料を元に筆者作成)

レガシー産業に着目したきっかけは。

5年前から行なっている、地方の企業・自治体とのプロジェクトがきっかけです。ビジネスを通じて地域課題を解決する、若い人材を県外から集めていたんですね。

50~60代の中小企業の経営者の方々と飲みに行くと、毎回言われることがあります。

「後継者がいない」。人手不足と後継者の問題に、みなさんすごく悩んでいます。

売上や利益は出ているけど、自分の歳も考えると今後ゆるやかに縮小しても仕方がない。日本の産業を支えてきた人たちが言っていることに、課題を感じていました。

一方で、若い優秀な人たちはスマートフォンの中で完結するサービスを選択する傾向にあり、明らかなギャップがあります。

次世代を支える彼らが、よりテクノロジーを使ってレガシー産業に参入することで、ものづくり産業が再び成長して、あのおじさんの世界観も変えられるのではないか。

その実現に必要なのは、起業家とレガシーな産業をつなぐハブ。だったら、僕が投資家としてハブの機能をつとめようと思いました。

地方のプロジェクトでの原体験と希望が、投資方針にも表れていますね。

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レガシー産業で起業する人を増やす

ほかにガゼルキャピタルで特徴的な投資方針はありますか。

シード・エンジェルラウンドのファンドとして、5つの投資方針を定めています。

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ガゼルキャピタルが掲げる5つの投資方針(画像:ガゼルキャピタル提供)

1つ目は、創業前・創業直後の起業家にのみ投資すること。

成長ステージにあるシリーズAやシリーズBのスタートアップへの投資は、僕である必然性がありません。

レガシー産業のマーケットで起業する人の絶対数をしっかり増やしていくことが大切です。そのため、創業前・創業直後のシード期の投資にこだわっています。

2つ目は、10%以上の持ち株比率にすること。

金融業の立場として、リターンを確保しながら創業初期の企業と伴走するには、一定の比率が必要です。

投資は「1億、1,000万、10%」をベンチマークにしていますね。

これは評価額1億円の会社に対して、その10%である1,000万円を投資する考え方です。このモデルを目安にしながら、マーケットや事業の進捗に応じて評価額を提示してます。

3つ目は、リード投資家として投資を実行すること。

最低でもシリーズAまではありとあらゆる責任を持って伴走することを前提にしています。そのため、4つ目につながりますが、出口戦略はM&AでもIPOでも柔軟に支援していきます。

基本的に、僕たちは起業家の方に選ばれないと仕事が始まりません。我々の方針と出来ることをきちんと説明した上で、選んでいただくのが良いと思っています。

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(画像:kan_chana/shutterstock)

## 製造業を変える企業に初投資

ガゼルキャピタルが初めて投資したのは、製造業領域のスタートアップSWIMMER社。事業内容と支援内容を教えてください。

SWIMMER 実川 SWIMMER株式会社で製造業の生産管理SaaSを開発している実川です。

工場では、ホワイトワーカー不足・属人化・利益構造が見えにくい課題があります。人手不足の中で、汎用的なシステムの必要を感じて事業を始めました。

顧客は愛知県の製造業工場です。愛知県は46兆円と全国一位の出荷額で、全体の14.7%を占めており、ビジネスチャンスが大きいと考えています。

今年度中にクラウドで生産管理できるプロダクトをリリース予定です。システム化・見える化を進めていき、製造業工場の非効率・属人化・利益構造が見えにくい問題を解決していきたいです。

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製造業の生産管理SaaSを運営するSWMMER社のビジョン(画像:SWIMMER社提供)

製造業はマーケットチャンスもある。石橋さんから背中を押してもらい、AIエンジニアの浅井(CTO)を誘って2社目の起業に踏み切りました。

石橋さんはいつもアドバイスが的確でとても頼りになる存在ですね。営業先や案件の紹介などの支援をしてもらうことが多いです。

第一号案件なのでプレッシャーはありますが(笑)、投資頂いたからにはSWIMMER一社でファンドのリターンを出せるように事業成長をしていきたいです。

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写真右:実川 大海(じつかわ・ひろみ)/ SWIMMER株式会社 代表取締役社長。慶應義塾大学理工学部卒。東京大学大学院在学中、F1層向けメイクCGMの株式会社MAKEYを創業後、デジタルガレージ社へ株式売却。2018年、工場向け生産管理SaaSを運営するSWIMMERを創業。

写真左:浅井 俊行(あさい・としゆき)// SWIMMER株式会社CTO。北海道大学でAI研究に従事。IT受託開発株式会社エクラ取締役。家業である自動車部品製造販売工場の後継者。

なぜSWIMMERに投資を決めたのですか。

石橋 シンプルに、市場とチームが良かったからです。

実川さん自身が起業や会社の売却経験・経営企画のキャリアがあり、ビジネスサイドをしっかり理解しています。CTOの浅井さんも、AIエンジニアで技術面の知見もある。

またマーケットも、工場の後継ぎである浅井さん自身が最も理解しやすく、かつ大きな余白がある産業を選んでいたので、投資のオファーを出しました。

「この人だったら最悪失敗しても投資を後悔しないで済む」と思えたのも大きかったですね。

VCも人間なので。

1号ファンドで必ず成果を出す

最後に、石橋さんが目指すゴールについてお聞かせください。

産業に大きなインパクトをもたらす企業に、創業期から寄り添う伴走者になっていきたいです。

まずはベンチャーキャピタル事業からスタートしたので、今回設立した第1号ファンドで成果を出すことが必要です。

ファンドの成功と、投資先の成功はほぼ同義ですし、僕たちのファンドを選んでいただいた起業家・投資家の方にしっかりお返ししていきたい。

そしてレガシー産業で起業する人の絶対数を上げていくことで、日本の誇れる産業を発展させていきたい。

ゆくゆくは、バイアウトファンドなどファンドビジネスにも様々な手法があるので、世界観を達成できるために一番ふさわしい方法でチャレンジしていきたいです。

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聞き手:松岡 遥歌、編集:藤野 理沙

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