DXに一層の関心が高まる昨今、国内SaaSスタートアップの資金調達が活発になっている。
今や、国内投資家のみならず、米ベンチャーキャピタルや海外プライベートエクイティファンドが日本のスタートアップへ投資する姿も目立つ。背景には海外でのDXが先行し、海外投資家に知見があることも理由の1つだろう。
INITIALでは、グローバルに投資実績を持つジェネシア・ベンチャーズの鈴木 隆宏氏、DNX Venturesの湊 雅之氏にインタビューを実施。それぞれ東南アジア、欧州を拠点に活動する2名から、海外の最新SaaS投資トレンドと国内SaaS投資動向をテーマに話を聞いた。
欧米・東南アジアのスタートアップ市場の状況を受けて、国内市場に変化は見られるか。また、国内SaaSスタートアップで成長を期待する領域と投資のポイントは。
※本インタビューはINITIAL主催のH2Hセミナー「新時代のSaaSスタートアップ投資」が元になっています。
beforeコロナを超える勢いの欧米市場、グローバル化が進む東南アジア市場
湊さんは欧州を拠点に置いて活動されていますね。欧米のスタートアップ市場の状況について教えて下さい。
DNX Ventures湊(以下、湊) コロナショックで経済全体は落ち込んでいますが、クラウドサービスの浸透は一気に進みました。
Battery Venturesの調査によれば、2年かかると思われていたグローバルでのクラウドサービスの浸透率が、たった2ヶ月で達成されています。特に伸びた企業の代表例は、Web会議システムのZoomやECプラットフォームのShopifyです。
米国のソフトウェアスタートアップ投資では、2020年3Q(7-9月期)で約480億ドル(約5兆円)のVCが投資が行われており、これは米国全体のVC投資の約1/3に該当します(出所:Pitchbook)。調達案件数は減りつつも、レイターステージに集中して大型化しているのです。
これだけソフトウェアスタートアップに注目が集まっている理由ですが、IPOが増えていることにも一因があります。2Qまでの不況が逆に追い風になり、3Qで急増しているのです。
ソフトウェアスタートアップとしては過去最高レベルの初値時価総額であるSnowflakeをはじめ、IPOの累計額は1300億ドル(約13兆円)と、米国のIPO市場は盛り上がっています。
欧州も米国と似た傾向にあり、VC投資の約1/3がソフトウェアスタートアップに集中しています。
欧州のIPO市場は、2020年3Q時点では56億ユーロ(約7000億円)と2019年の58億ユーロ(約7250億円)とほぼ同水準です(出所:PitchBook)。欧州はM&Aがメインで、IPOが難しい市場です。その中でIPOが増加しているのは、ソフトウェア企業が躍進しているからでしょう。
私が住んでいる英国では、中国や米国を中心に海外からの投資が全体の約4割にまで達しています(出所:Tech Nation Report)。特にFinTech系の企業が強いです。
続いて、東南アジアで投資活動を行う鈴木さんに伺います。東南アジアのスタートアップ市場の現状を教えてください。
ジェネシア・ベンチャーズ 鈴木(以下、鈴木) 東南アジアのスタートアップ資金調達額は、2020年上半期時点で約56億ドル(約5800億円)、ディール数は315件です(出所:Cento Ventures)。
2019年の資金調達額は約77億ドル(約8000億円)、ディール数は616件だったので、コロナの影響は比較的抑えられているでしょう。2Qまではディール数も伸びませんでしたが、3Qからは例年通りに戻っています。
東南アジアのスタートアップ市場は盛り上がりを見せています。企業評価額100億米ドルを超える配車サービスGrab(グラブ)とGojek(ゴジェック)を皮切りに、ユニコーンを10社以上輩出しています。
分野はEコマースをはじめ、ここ2年くらいはロジティクス、ヘルスケア、EdTech、不動産などに注目が集まり、資金調達が大型化しています。
投資家側もグローバル化が進んでいます。セコイア・キャピタル、アクセル・パートナーズ、ライトスピードなど、米国トップティアVCのインド部門が東南アジアへの投資を積極的に増やしています。
コロナ禍で注目を集める、企業を変革する4つのSaaSテーマ
欧米SaaSスタートアップで、どのようなテーマに注目していますか。
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