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2021/03/12

【解説】2020年国内スタートアップ資金調達トレンド

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2020年はコロナ禍がスタートアップの資金調達にどのような影響をもたらすかが懸念されたものの、結果的に調達金額は前年に比べて約10%の減少にとどまった。

調達金額の落ち込みは一時的なものなのか、多様化している資金調達は今後、スタート アップの成長にどのような効果をもたらすのか。スタートアップの新潮流をシニフィアンの共同代表である朝倉祐介氏に聞いた。

※本記事は、2021年2月9日、2021年3月4日に行われたHOME TO HOME セミナー「2020年スタートアップ資金調達動向 -JapanStartup Finance 2020 -」の内容が元になっています。

CONTENTS

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2020年の動向:調達額の大型化トレンド継続

INITIAL 執行役員 森敦子(以下、森) 2020年の国内スタートアップの資金調達額は現在集計中のものも含めると4800億円前後になってくると考えられます。

一方で資金調達社数は観測時点で1537社で、最終的には約2000社に積み上がると予想されます。こちらは減少傾向にあり、一社あたりの調達額が右肩あがりであることが読み取れます。(2020年のスタートアップの資金調達状況についてはINITIALがまとめたレポート『Japan Startup Finance 2020』を参照)

2020年前半にはCOVID-19の影響で、スタートアップ投資は半分くらいに落ち込むのではないかと言われましたが、結果的に2018年よりも多く2019年と比べても劇的には減りませんでした

調達金額をフェーズごとに見てみると設立から1年~3年未満、シリーズA前後の中央値が上がっています。他にも5年以上7年未満、7年以上10年未満、つまりレイターステージでの資金調達額が増加しています。

シニフィアン共同代表 朝倉祐介氏(以下、朝倉)資金調達の大型化、特にレイターステージで大型調達する会社が増えているのは2016年ごろから続く傾向です。

その背景には、私たちシニフィアンも含めてレイターステージ(安定成長期、IPOを視野に入れる段階)の投資家が増えていることが挙げられます。海外のVCやPEファンドも2019年あたりから見えていますし、レイター専業のファンドも登場してきました。

水面下でも有名な外資系企業が日本で投資の準備を進めているという話も聞くので、今後もレイターステージを中心に大型の資金調達がしやすくなると予想されます。

2014〜15年頃からは調達資金が充実してきたこともあり、相対的に起業家の数の方が足りない状態です。自分で起業して調達したいと思うくらい(笑)起業・資金調達しやすい環境になってますね。

資金調達状況を月別に見ていきますと、緊急事態宣言を受けて、新規の投資が一旦ストップした影響が5月に出ていることが読み取れます。

この影響がしばらく続くと思われたのですが、6月には急回復しており、その後も著しく落ち込むことはありませんでした。

朝倉 3〜4月の緊急事態宣言が出た時には2008年にリーマン・ショックが起きた後のSequoia Capitalが投資先に送った資料を思い出しました。「RIP: Good Times」もういい時代はすぎてしまったから、とにかくキャッシュを確保しなさいと説いたものです。

コロナ禍当初は日本でも「とにかく今はcash is kingだ」「資金繰りとして18ヶ月分の現金をとにかく確保しろ」といった言説が多く聞かれました。

そうした機運の高まりもあり、多くのスタートアップが駆け込みで資金調達に動いたこと、投資家にも余力があったことが5月の急回復に繋がったのだと思います。

2020年に資金調達したスタートアップの顔ぶれ

次に、2020年の資金調達額上位20社を見てみましょう。

最も資金調達額が多かったのがMobility Technologiesで、166億円でした。過去10年を遡っても100億円を越える調達をしたのはPreferred Networks、スコヒアファーマ、JapanTaxi、スマートニュースの4社だけです。

また、上位10社のうち半数以上が下半期に調達をしています。つまり緊急事態宣言の後に調達をしているのも一つのポイントです。

20位までの顔ぶれを見てみるとティアフォー(自動運転用ソフトウェア開発)やispace(月面無人探査ローバー開発)、ベルフェイス(オンライン営業システム)など、バラエティに富んだ企業が調達をしています。2018年はFinTech企業がランキングの大半を占める状況だったので、この2年で多種多様な企業が調達するようになりました。

朝倉IT、ソフトウェアで完結しない企業が増えてきていますよね。研究開発型の企業はIT企業に比べて先行投資が多くかかるので、この結果は必然かと思います。

一方でSaaS企業も根強く存在しています。その理由は「どれくらいお金を投資したら、どれくらいリターンが見込めるか」という算段を立てやすいからでしょう。加えてグローバルに水平比較して判断できることで、海外のプレーヤーも投資しやすいのだと見ています。

資金調達するスタートアップが多様化している背景には投資家のバックグラウンドが多様化していることもあります。独立系VCや金融系VCといった伝統的な投資家とは違う、非伝統的な投資家が2018年ごろから増えています。

非伝統的な投資家が投資する流れはアメリカで先行していました。2010年代半ばぐらいから上場株式を中心に運用する機関投資家など、これまでベンチャー投資をしてなかった投資家が投資し始めました。そういった流れが遅れて日本でも起きているのだと思います。

一見順調に見えるスタートアップファンド総額、実は後退

2020年に設立されたスタートアップファンドの総額は3822億円と、2018年並みに見えます。しかし、このうち1200億円は官民ファンドのJIC(産業革新投資機構)の投資分です。

朝倉JICの1200億円を引くと、2020年は2019年から半減した状態で、2015年、2017年の水準まで後退したと言えます。

2019年には5000億円を超えましたが、これは独立系を中心に、機関投資家のお金をお預かりするVCが出現し、スタートアップ投資がちゃんとしたアセットクラスとして確立してきたことを象徴する数字でした。

2020年はCOVID-19が大きく影響したとは言え、大きく後退した印象です。2021年以降もこの水準が継続するのかも含め、数年後にどのような影響を及ぼすのか注視しなければいけません。

投資額における事業法人の割合は2019年と比べて増加しています。国内スタートアップの資金調達環境は、大きく事業法人とVCによる投資に支えられており、2020年は約7割をVC、事業法人が占めています。

事業法人が投資するようになったことで、海外のVCやCVCといった非伝統的な投資家からの投資が引いてしまうのではないかという論点がありましたが、2020年は引かなかったという結論になりました。

朝倉事業会社が投資に乗り気になっているかはこの数字だけでは判断できません。

事業会社からの調達の内訳を見てみると、Mobility Technologies(166億円)、One Tap BUY(85億円)、APB(81億円)の3社で300億円を超えています(カッコ内は調達額)。全体で1406億円だったので、この3社で300億円と2割以上を占めていることになります。

極端に減ることがなかったとは言え、今後も事業会社からの出資がこのまま続くかは注視が必要ですね。

IPO前後の新潮流。上場後の資金調達が新たな選択肢へ

次にIPO前後の新潮流のトピックについてです。直近マザーズ上場後の資金調達の事例が増えています。なぜ今になってこのような潮流が出ているとお考えでしょうか。

朝倉スタートアップはマザーズに上場するケースが多いので、ここではマザーズを前提にお話します。

本来、発行体であるスタートアップから見ると、株式上場は成長資金を調達する機会です。しかし、上場時は幅広くお金を集めることができても、その後市場からの調達はハードルが高いです。これまではマザーズに上場後、公募で資金調達できる機会はほぼ東証一部への市場変更時に限られていました。

しかし、2019年から風向きが変わります。ヘリオスやPKSHA Technology、TKPなど、マザーズの会社が資本市場から公募調達するケースが出てきました。

2020年には上場後の公募調達の動きがさらに顕著になります。ライフネット生命が象徴的で、合計で89億円を公募で海外から集めています。

ほかにも、メドレーやユーザベース、そーせい、マネーフォワード、BASE、JMDCなどの企業が、海外市場での新株発行(Accelerated Book Building、ABB、※編集部注:即日または数日程度の短期間でブックビルディングを実施し、募集・売出条件を決定する公募増資の手法)によって資金調達しています。

背景には、海外の投資家がマザーズ企業にも投資するようになってきたという変化があげられます。また、証券会社側にも知見が貯まりつつあるのでしょう。

これまでは「マザーズに上場するよりも、未上場の方が成長資金を調達しやすい」といった声もありましたが、このように上場後の資金調達も選択肢に入ってきました。ポストIPOスタートアップが成長資金を得やすくなったという点でポジティブな傾向でしょう。ただし、海外からの資金調達を実現するには、相応に大きな規模感の会社である必要があります。上に挙げた企業を見ていても、おおむね時価総額で1000億円程度は必要だと見受けます。

写真:Viktoriia Hnatiuk / Shutterstock.com

直接上場、SPAC上場の可能性とは

未上場・上場後の資金調達の選択肢が増えている中で、米国を中心に海外では近年、証券会社を通さずに市場に直接上場するダイレクトリスティングも増えています。日本国内のスタートアップと投資家にはどのような影響があるでしょうか。

朝倉証券会社を通しながらも、公募額や売り出し額を絞ることで、実質的にダイレクトリスティングに近い状況になっているケースは国内でも見受けます。

通常、上場時は証券会社が間に入って機関投資家からのフィードバックを元に公募価格を決定します。仕組み上、どうしても株価に対する判断が必要になります。

公募価格が市場の評価よりも極端に低い場合、スタートアップ側にはデメリットが生じます。低いバリュエーションで成長資金を調達しようとすれば、ダイリューション(希薄化)が想定以上に進んでしまい、既存投資家が割を食うことになりますし、希薄化を限定しようとすると、調達できる資金が小さくなってしまいます。

私が直近のIPO企業をみて気になるのは、公募価格と初値価格の差です。初値を公募価格が大幅に上回れば、公募価格でIPO株を取得した投資家にとっては利益が大きくなりますが、スタートアップにとっては、先述したような状況を招くことになります。発行体であるスタートアップ目線で考えると、いわば資本政策の失敗ともいえるわけです。

実際、スタートアップにとって納得のいく公募価格が算定されるのは難しいのでしょうか。

朝倉企業の本質的な価値が、ほんの数日や数週間で大きく変動するはずがないですよね。未上場スタートアップの資金調達であれば、2週間前と後でバリュエーションが2倍になるなんてありえないじゃないですか。でもIPOだとその変化が起こりうるわけです。

もちろん、その時々のマーケットの市場心理を反映して株価は上下動するので、公募価格の値付けを行うのは非常に専門性が高く、難しいプロセスだと思います。そうであれば、公募価格を決めずに市場参加者から直接評価を受けようということで、直接上場の動きが増えているのが海外の状況です。

現状、日本ではダイレクトリスティングは行われていませんが、このような流れが進むと成長する自信がある会社ほど上場時の調達金額を抑え、上場してから海外で調達する動きが進む可能性もあるでしょう。「適正価格は株式市場に聞きましょう」という姿勢をとる会社が増えるのかもしれない。

海外ではSPAC上場も増えていますが、EXITの多様化についてはどのようにお考えですか。

朝倉個別の方法論の良し悪しはなかなか断じることができませんが、スタートアップ側の目線から考えれば、選択肢が増えることは好ましいことではないでしょうか。

スタートアップを新しい産業をつくる原動力と捉えると、彼らが最適な資本政策を行うための選択肢はあった方がいい。

ちなみに米国のSPAC運営会社の方々は日本のスタートアップ市場もみていますね。シリーズA近辺のスタートアップでも対象に入っているようで、私も問い合わせを受けることもありますよ

写真:Things / Shutterstock.com

日本の新産業を作る鍵は、ディープテックにあり

最後に、朝倉さんが注目している領域やスタートアップはありますか。

朝倉注目やトレンドを論じてもあまり意味がないと考えています。年始には「スタートアップ今年の注目領域」といった企画もありますが、ファッションの流行でもありませんし、骨太な産業をつくろうとするのであれば、1年単位でトレンドを追っても仕方ないと思います。

私はスタートアップの創出を通じて、未来世代に引き継ぐ産業をつくることを目指していますが、スタートアップはあくまで産業をつくるための方法論だと捉えています。方法論として一番レバレッジが効くのが大企業だったらそれでもいいですが、大組織だとどうしてもスピード感は遅くなってしまいます。

だったら、スタートアップを介して意味のある産業をつくりたい。個人的に最も課題に感じるのは、SDGsに掲げられているようなトピックの中でも気候変動です。個人の嗜好として、解決策としてのクリーンテックには興味があります。

クリーンテックに限らず、日本の産業で可能性があるのは研究開発型の技術領域です。日本の技術力を生かした製品、海外の資金を呼び込むことはできると思います。

とはいえ、技術力だけでは事業はつくれません。研究者だけでなく、優秀な経営チームやビジネスサイドの人材も必要ですし、事業を確立するための資金も必要です。

研究開発系のスタートアップはITの領域と違って、資金も時間も相当かかります。そうしたリソースを確保するためには、経営ができるチームをつくり、事業開発・戦略ができるチームをつくる必要がある。本気でやろうと思うと、初期段階で大きな額を投じて、経営チームをDay1から作る必要があるのではないでしょうか。

ITだけでなく、ディープテックのような先行投資が必要な研究開発系分野のスタートアップの挑戦が増えれば、そこに投資する投資家も増えていくと思います。

特にディープテックの企業にはアカデミックなバックグラウンドを持っている方が中心になると思うので、いかにビジネスの成長性を投資家に納得してもらえるかがポイントですね。

お金はあくまで、未来の大きな産業をつくるためのツールです。クリーンテックを始め、ディープテックのような技術領域の事業にコミットできるチームがつくれるかどうかが今後重要になってきます。

そのためにアカデミックな人たちとビジネスサイドの人たちがよりチームアップしていくと、日本のスタートアップが面白くなっていくのではないでしょうか。

(聞き手:森敦子、半澤瑞生、文:鈴木光平、編集:濱田尚子、藤野理沙、デザイン:村上由朗、石丸恵理)

資金調達レポート『Japan Startup Finance 2020』はこちら


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