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2020/12/03

IPO前後のスタートアップファイナンス新潮流(後編)

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2020年9月24日に行われたHOME TO HOME セミナー「上場企業CFO&村松竜氏が語る、 IPO前後のスタートアップファイナンス新潮流」では、GMOペイメントゲートウェイ株式会社 取締役副社長の村松氏、マネーフォワードCFO 金坂氏をお招きし、ユーザベースCFO千葉が最近のスタートアップのIPO前後のファイナンスにフォーカスしたトークセッションを実施した。追加取材した内容を加えて、前後編で公開(前編記事はこちら)。 後編では、新規事業の成功の鍵とベストファイナンスについてお届けする。

CONTENTS

GMOペイメントゲートウェイ、25%利益成長にコミット

ユーザベースCFO 千葉大輔(以下、千葉) テーマを変えてそれぞれの事例に踏み込んだ話に移ります。「自社の資本政策、資本市場との対話における方針について」をテーマに、GMOペイメントゲートウェイの事例を村松さんにご説明いただければと思っています。

GMOペイメントゲートウェイ取締役副社長 村松竜氏(以下、村松) 当社の上場は2005年です。先ほど示されたマザーズ全体の時価総額がピークであった7兆円超の頃です。そして、株価低迷につながる2006年にライブドア・ショック、その3年後にリーマン・ショックが起きて、上場後の出だしは厳しいものでした。

当社の時価総額は公募価格ベースでは150億円に対し、初値ベースでは約850億円になりました。しかし、先ほど申し上げた外部環境の悪さで、2009年の最初に63億円まで時価総額が沈んでいきました。

村松 上場時の売上高が12億円で、利益がおよそ3億円でした。上場以降、当社の経営方針は一貫して「25%営業利益成長の継続」です。

それをIRでもしっかりお伝えして、年平均25%成長の継続を実現しています。但し、25%以上の成長はしません。もちろん、25%以上の成長ができそうな年もありますが、その場合は再投資に回します。10年先を見据えるともっと投資をしないといけないフェーズが訪れる可能性が高いからです。ただ、上場後5年くらいは30~40%成長をご期待いただいた期間でその時は正直辛かったです。なお、2015年以前は20%成長を目標にしていた時期もあります。

この方針を貫き、時価総額が好転したのがようやく2010年頃です。奇しくも上場して10年経った2015年にちょうど時価総額1000億円、初値ベースの時価総額の水準に戻りました。

その頃から少し積極的にファイナンスもしようと、2015年に上場後最初のファイナンスを実施しました。三井住友銀行と親会社のGMOインターネットに対して合計80億円の第三者割当を実施しています。ちなみに上場時のファイナンスが12億円程です。

「5年・10年後にこういう成長を描くために、投資をこのタイミングでします」というエクイティストーリーからみると、ファイナンスの実行は最初の約束だと考えます。

だから、その約束に対してきっちりと結果を届け続けることによって、そのファイナンスが本当に成功だったのかどうかが語れる。言い換えると、資金使途や利益創造を含めてがファイナンスになる。したがって、実行の一時点のみにおいてその成否を語ることは難しいと考えています。

2015年のファイナンスから5年経過した現在ですが、当初お約束していたジョイント・ベンチャーが黒字になっています。また、当初資金使途に掲げていたマネーサービスビジネスの拡大のため、金融系のビジネスを何本か立ち上げており、利益を生み始めている状況です。

少し話は戻りますが、2015年のファイナンス以降、当社の株価が順調に推移し、2018年に再度資金調達をしています。ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債で170億円です。

これも株価の上昇局面で実施しています。当時の時価総額は約5000億円でしたが、転換価格はその30%高い水準と非常にアグレッシブな設定をしました。

ちなみに、転換社債(以下、CB)を選択した理由の1つは、金利負担をせずに済む有利な環境だったことが挙げられます。CBを発行すると金利は本来発行体が負担しますよね。しかしその当時はすでにマイナス金利だったため、投資家が金利を負担する構造になっていたのです。

また、本調達はマネーサービスビジネスをさらに拡大するために、敢えて成果と連動性のあるエクイティ性の高い設計の転換社債を選択しました。

本調達で得た資金を投資に回し、現在事業を伸ばしている最中ですが、あと2年ぐらいすると、成果に結びついてるかを世に示せると考えています。

千葉 ありがとうございます。驚異的ですね、「25%成長し続ける」。 ここで質問です。「25%」の水準はどのように決定されているのでしょうか。

村松 まず、25%成長を10年続けると10倍になるんですね。20年続けると100倍、30年で1000倍。このように10年できっちり10倍ずつ拡大するのは、25%なんです。そのきりのよさが大きな要因の1つです。

GMOペイメントゲートウェイは、弊社の現社長である相浦が当時代表取締役社長をつとめるカードコマースサービスと、私が設立したペイメント・ワンが経営統合した会社なのですが、相浦が、「30年で1000倍にする」と決めたんです。そこから、毎年25%を刻んでいくことが決まりました。

その後から、「25%成長を10年続けて10倍」と言い続けるものですから、社内メンバーも自然と覚えるんです。しかし、これが17%や31%など切りが悪い数値だと覚えられないはずです。社内メンバー全員が理解して信じることが大切です。

25%を目掛けて、基幹事業で20%成長させ続けて、戦略的分野である新規事業で5%成長を上乗せする。このような分解をしています。

毎年新規事業を仕込む

マネーフォワードCFO 金坂 直哉氏(以下、金坂) 事業が実際にこれだけ成長していることが何よりもすごいです。とくにこの足元3~4年の成長が驚異的だと感じています。 現在の成果はいつぐらいの仕込みが元になっているのでしょうか。質問の背景として、事業をつくるうえで、今の仕込みが来年の大きな成果に繋がることはほとんどないため、経営陣の物事に対する考えの時間軸を伺いたいです。

村松 5年です。毎年、5ヵ年計画を再策定していきます。対外的に5ヵ年の中期経営計画の発表はしていませんが、社内では常に5ヵ年でつくっています。

中期経営計画を発表しなくても「25%成長」が社内浸透しており、投資家も当社の姿勢をご存知なので、それがコミットメントに他ならない現状ではあります。

5ヵ年計画を策定する際、当社が意識しているのは「101%の美学」です。毎年必ず達成をさせていくことが重要だよと。104%とか110%成長達成は、逆に欲していない。少しだけ達成することが良いと。

経営はマラソンです。10年、20年先を見据えてずっと走り続ける。そのため、「長く達成し続ける」ことに力点を置いています。

投資の期間もおよそ5年です。足元で利益に貢献しているGMO後払いや、利益を生み始めるフェーズにある銀行Payの基盤システムをはじめとして、当社には新規事業が複数ありますが、これらはだいたい5年前に着想して仕込んだものです。

これはビジネスモデルの違いもあると思います。たとえば、B2Cサービスであれば爆発力のある事業ポートフォリオをつくれる余地がある。しかし、わたしたちの場合、B2Cサービスではないため、当期に仕込んだものが即時に反映される、あるいは翌期に大きな利益に繋がるものではありません。

ですから、5年後の地平線を見ながら、毎年それに向けて、年間1社ないしは1事業、大型の新規事業を仕込んでいるイメージです。

金坂 今のお話しから、基本的にB2Bでサブスクリプションモデルのように継続的にストックで売上が積み上がっていくようなマネタイズのモデルとセットで設計されている理解でよろしいですか。

村松 おっしゃる通りです。当社は決済ビジネスですので、基本的には月額利用料数千円、あるいは数万円など薄いストックのマネタイズモデルです。あとは決済する度に発生するトランザクションフィーとスプレッドです。

SaaSと比較すると、申し上げたようにストックの部分は低いものの、いわゆる決済金額に連動する部分が厚めになる構造です。わたしたちのサービスをご利用いただく加盟店の成長と比例してわたしたちの売上も上がっていく設計になっています。

そのため、各事業の最初の3年ぐらいは大きく成長しないため、非常に低空飛行なんです。この期間をいかに耐えるかがポイントになります。1つ目の事業の柱、2つ目の事業の柱がグロースしている間に、新規事業の耐える期間をぶつけて会社全体ではバランスをとれるよう注意して展開していますね。

金坂 なるほど。現在、美しい25%の利益成長グラフが描ける状態だと思いますが、過去5年に投資していなかったら、どういう成長曲線になるのかは興味がありますね。

村松 そうですね。おそらく投資を行わずに成長できるだけした場合、事業全体の売上と利益を全部分解して時系列で繋ぐと、がくがくのグラフになると思います。

投資を実施していない年に事業全体で40%利益成長したこともあったと思うんです。ただ、そこで投資に回さなかったら、その翌期に成長率が大幅に下落することが発生したと思います。

実際に3年半前にわたしたちにとっては、思い切ったM&Aをし、昨年その減損損失が約10億円でています。この減損がもし出ていなければ、25%以上の利益成長が実現されていたはずです。

そうやって、うまくいくときもあれば、失敗することも当然ある。それを吸収できるように、実態としては、30~40%の利益成長を実現できるようにしておいて、バッファを持って経営していくことを注視しています。

千葉 成長率での目標だと、事業規模が大きくなるほど難易度が上がりますよね。これまでに未達になる危険性はなかったのでしょうか。

村松 ギリギリ未達になりかかることは時々あります。そういうときに、真価が問われますね。それを達成するために知恵を絞り、いろいろなアクティビティを取るんです。そして、それが新しく企業文化の醸成に繋がる。

たとえば、費用を抑えるために節約をすることもありますし、役員報酬を返上するようなことも、当然選択肢にあります。「達成するためにあらゆることをやる」ことが企業文化なんです。

仰るとおり、事業規模が拡大して分母が大きくなると、それに伴って大きな市場を狙う必要があることが難しい点です。大きな市場を狙うためには大きなビジネスパートナー、三井住友銀行様、横浜銀行様、ゆうちょ銀行様、東京電力様、海外の大手様たちと組む必要が出てきて、時間がかかります。

しかし、その花が開いたときの大きさは非常に大きい。そして、このような連携はマザーズに上場して1~2年の頃には、決して起こり得なかったことなんですよね。事業が成長していけば、大きく成長するための機会も増えてくると言うんでしょうか。

そのため、「15年前よりも現在のほうが大変か?」と問われると、必ずしもそうではない。マザーズ上場直後の組織が50~100名規模だった時を振り返っても当時も大変だったと感じるんです。なかなか一概には比べられないです。

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