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2019/08/07

【真相】京大発「リアル版ポケモンGO」に込めた男の夢

  • #データベース

スタートアップ最前線

昆虫種の40%以上が絶滅の危機に瀕していることをご存じだろうか。本トピックは、最新の研究(F.Sánchez-Bayo&K.A.G.Wyckhuysbcd, 2019)で公表されたものだが、生物史6度目の大量絶滅につながる、あるいはすでに最中ではないかとの議論もある。

地球の生態系の安定につながる生物多様性の経済損失は420兆円にのぼるとの試算もある。地球温暖化の影響とされる自然災害での被害額が世界で25兆円程度であったの報告からみると、規模の大きさがわかる。

「リアルポケモンGo」とも言われる「いきものコレクションアプリ バイオーム」をリリースした京大発スタートアップ「バイオーム」の藤木CEOに、生物多様性が失われることによっておこる影響、起きてしまっている原因、解決への挑戦を語ってもらった。

CONTENTS

情報収集と面白さを両立させる意味

どのような事業を展開されていますか。

弊社は、現在、toC向けに「いきものコレクションアプリ」とtoB向けにデータベース事業を展開しています。

いきものコレンクションアプリバイオームは、「ポケモンGOのリアル版」とも言わており、リアルな「いきもの」をコレクションします。

名前判定と周辺情報、SNS機能の3つが大きくあります。「いきもの」は、虫や魚などの動物に限らず植物など身の回りの幅広い生物を対象としています。

何かいきものを見つけたら、スマートフォンで写真を撮ってもらうと、そのいきものの名前が判定されます。この判定には弊社の独自開発したAIが用いられています。

そして、その写真をアプリに投稿することで、周辺のいきもの情報を把握でき、ユーザー同士でコミュニケーションをとることができます。

(出所:同社HP)

アプリを展開した理由は2つあります。1点目は、アプリによっていきものの分布情報を収集することです。もう1つは、いきものの面白さをユーザーに感じてもらいたいことです。

いきものって本当に面白いんです。でも、見過ごされている部分も多いと感じていて。「いきものは面白い!」という価値観をユーザーに提案できるアプリになればいいと思っています。

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(画像:(株)バイオーム提供)

コレクションを楽しんでもらえるように「レア度」なども設定しています。これは絶滅危惧であるとか、今まで見つかっているデータ量などによって、独自に定義しています。

国内だけで6万5,000種類以上、いきものはいるので、アプリによって新種が見つかる可能性もおおいにあると思っています。

バイオームでは新種は写真判定ができないのですが、SNSの機能もあるので、そこで質問いただき議論きっかけとなり、ちゃんと調べて発見といった流れになるかと。

そうやってアプリに投稿されたものがデータベースへと繋がるのですね。

そうです。集まったデータは最初に間違いがないかを精査します。それをさらに分布データにするために行う細かい作業を弊社でやっています。

そして、そのデータを活用したサービス提供も行っていく予定です。

活用の一例としては、漁獲量の予測があげられます。あるエリアで、このペースで魚を捕っていくと、長期的に漁獲量が維持できなくなるというラインを特定し、アラートを出す。

あるいは、日本だったら、シカやイノシシによって農作物が食べられる獣害をシミュレーションして防ぐなどがあります。行政のモニタリングとしても使えると思います。

データベースサービスとアプリを合わせて、イベント開催や教育系コンテンツ作成など活用用途はいろいろ考えられます。

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(画像:(株)バイオーム提供)

温暖化による生物分布の変化などもわかるようになります。じつはこのあたりのことは、何が起こっているか分かっていなかったんです。

そこをデータ化していくというのは、研究としても非常に価値があります。ちなみにこういうデータは、研究用にも無償で提供しようと思っています。

私自身も研究者で、データ不足で悩んだ経験もあることに加えて、新しい発見は研究機関から出てくると思っているからです。

そういうところに提供して、どういう生物が温暖化でどう変わっているかというのを解明していく資料になると思っています。

ポイントは、アプリユーザーさんにはいきものを楽しんでもらって、知らない間に環境保全に繋がる仕組みが裏でできていることです。

ボルネオで目の当たりにした地球の未来

なぜサービスを始めようと思ったのですか。

もとは、衛星画像などを利用し、いきものたちの豊かな個性とつながりである「生物多様性」を広範囲から数字で評価する研究を京都大学でしていました。

しかし、数字で評価するにはデータがないと何もできないんです。だから、インドネシア・マレーシア・ブルネイの領土であるボルネオ島へ実際に足を運び、6年ほど調査しました。

現地滞在は累計で2年半ほどですが、その間は道なき道を歩き、キャンプ生活をしながら、転々とすごしていました。

ボルネオ写真

(画像:(株)バイオーム提供)

ボルネオ島は、いきものがとても豊かな場所で、「生物多様性ホットスポット」呼ばれ、アマゾンに匹敵するとも言われます。

同時に、森林破壊が大規模に起きている場所です。

一例ですが、下のような広い草原の写真があります。一見すると、自然が溢れている場所と捉えられるかもしれませんが、本当は樹高70メートルもあるような巨大な熱帯雨林があるべき場所でした。熱帯雨林が全て伐採された結果、草原になってしまったんです。

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(画像:(株)バイオーム提供)

実際には、360度地平線まで全て草原になっている。そういう風景を見るにつけて、本当に肌寒い、恐ろしい気持ちになる。たとえるなら戦後みたいな状態だと感じます。

ここは、様々な加工品へと利用されるオイルパームが植えられるんですね。したがって、お金のために木が切られているのだと思います。

こういった現場で、お金の力はとても大きなエネルギーを持っていると、肌で強く感じました。

環境破壊は、基本的に経済原理に基づくものだとすれば、何ができるか。そのように考える中で、環境保全がお金になる社会の仕組みが必要だと思い至りました。

もちろん、ボランティアや企業のCSRなど、既に取り組まれている動きもあるでしょう。それはとても重要な動きで、なくてはならないものです。

しかし、一歩踏み込み、大きな枠組みを考える上では、ボランティアの延長として考えるべきではなく、経済原理を組み込んだ新しいパラダイムをつくっていったほうがいいと思います。

現在、ESG(Environment、Social、Governance)やSDGs(持続可能な開発目標)といった言葉が世界的にうたわれており、環境問題がより重要な社会テーマになっています。

そのような環境下、行政やとくに大企業は、生物多様性に対し、手探り状態ではないでしょうか。それは、生物多様性保全に関する「評価方法」が全くといっていいほど確立していないからです。

その根本原因は、数字にできないこと。元である生物の分布データが不足していることだと私自身も研究を通じて実感しました。

図鑑のような「どんな生物がいる」ということは研究されていますが、「今、どこにどんないきものがいる」といった分布データはありません。

生態系の見える化から環境配慮型社会のインフラを目指す

生物多様性の保全がなされないと、何が起こるのでしょうか。

これには諸説あります。私自身の考えを話すと、生物多様性は、生態系を維持しています。そして、生態系は地球のインフラで、それが壊れると広範囲に大きな悪い影響が出ます。

たとえば、水や空気が汚くなることもそうですし、農業ができなくなることもよく言われます。

もうひとつの例として、蜂が花粉の受粉とかを担っていますよね。あれができなくなると、世界の農業の4分の3程度はダメージを受けるような話もあります。

このように分かりやすい話だけでなく、私は現在のペースで生物がいなくなって生態系が崩れていくと、おそらく近い将来、本当にバイオハザードのような世界がきてしまうのではないかと思っています。

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(写真: Andrey Armyagov / Shutterstock.com)

たとえば、害虫が大量発生する、病気がすごい流行るなど、そういう生態系の崩れによって起こり得る現象、生物が引き起こす悪い現象が頻発するようになる。

結局、人類にとって大きな悪影響が出るので、最後のチャンスだと思って今のうちにやらないと、取り返しがつかなくなると思います。

世界中のありとあらゆるいきものが、「いつ」「どこに」「どれぐらいいたのか」、分布情報を集めたデータベースをもとに、いきものの変化と状態を把握し続けることができればいいのではないかと考え、バイオーム設立へと至りました。

最後に、藤木さんが目指したい世界をお聞かせください。

現在、多くの大学や研究機関と開発から一緒にやっているのですが、生物のビッグデータができることで、今までできなかった生態系を管理する仕組みができると思っています。

「生態系を管理する」って言うは易しで、「管理」という言葉自体も適切か議論の余地がありますが、とてもハードルが高い。高すぎて、今まで人類ができてこなかったことだとも思います。

たとえば、ウナギが絶滅しかけているとかというのも管理に失敗しているわけじゃないですか。

あるいは、先述のボルネオ島で熱帯雨林があった場所がボロボロになって、もう復活不可能になっているというのもそうだと思います。

データベースをつくり、生態系を見える化して、維持し、社会が回っていくような、システムをつくって活用することで天気予報の生物版「生物予報」ができる。

天気予報が社会インフラになってきたのと同様に、新しい環境配慮型社会のインフラにもなり得る。

そういうサービスをわれわれが提供することで、持続的に生態系を維持しながら、経済と社会の安定へつなげていきたいです。

文末写真

写真・文:ami


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