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2019/08/04

家計がスタートアップ生存の鍵に。投資額10兆円を目指すクラウドファンディングの正体

  • #クラウドファンディング

スタートアップ最前線 by ami

2018年の日本におけるスタートアップへの投資額は5年連続で増加し、3,880億円に到達した(entrepredia “Japan Startup Finance 2018” レポート)。しかし一方で、アメリカでは14兆円を超えている。

この差を埋めようとしているのが、日本初の株式投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「FUNDINNO」を運営する、日本クラウドキャピタルだ。

今回は、株式投資型クラウドファンディングを取り巻く環境と、これからの戦略について、COOの大浦氏に聞いた。

※起業までのストーリーはこちら:(起業して感じた機会損失。「日本初」株式投資型クラウドファンディングをやる理由

CONTENTS

家計とスタートアップの架け橋をつくる

ファンディーノが解決したい最大の課題はなんですか。

一般の人がスタートアップにエンジェル投資できるハードルを下げることです。

これまで非上場株や、スタートアップの株を買う機会は一般人にはほとんどありませんでした。(仕組みの詳細は前編をお読みください)

そもそも、投資したくてもスタートアップに出会う機会がありませんでしたし、投資するまでの審査や企業価値算出にも課題がありました。

FUNDINNOを通すことで、審査された会社の企業情報を確認することができ、最低投資額を数十万円程度に引き下げることで、一般の人たちがエンジェル投資できるようにするサービスです。

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(画像:公式ページ)

日本にもエンジェル税制といった仕組みができ、国の支援も徐々に進んでいることから投資家も盛り上がっています。FUNDINNO上では、早い案件では3分で5,000万円が集まったりもします。

そうした変化を踏まえると日本の資金調達環境は確実に改善しています。しかし、海外と比べるとまだまだです。

日本企業がGAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc. の4頭文字を取った総称)に勝てない理由として、アメリカと資金調達環境が大きく違うことが挙げられます。具体的な数値でいうと、年間の投資額は日本とアメリカで約30倍の開きがあります。

世界でみても、どんなビジネスモデルだとしても、同時多発的に同じようなものが出てくることは多々あります。

そうしたときに、初期投資額が500万円ぐらいから始まる日本と、数億円で始まる米国や中国とでは、成長速度が明らかに違ってしまうんですよ。

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調達額自体は上昇を続けている

FUNDINNOを活用してもらい、リスクマネーの流入の総量を増やすことで、日本からグローバル企業が生まれる環境をつくりたいです。

プロジェクトが掲載されるまで

投資家と企業は登録する際にどのような基準を設けられていますか。

投資家からいただく情報は、ある程度自己申告ベースですが、基本的にネット上で全て登録できるようになっており、反社チェックに加え、他にも金融資産、投資経験などの適合性を見ています。

企業側の審査については、金商法で定められている11項目と、投資家が投資したいと思えるような事業内容かどうかを見ています。具体的には、スケール性とユニーク性が判断基準になっています。

スケール性は、市場の拡大可能性や事業計画上で3~5年後に、どの程度利益が出るかを見ています。

ユニーク性は、競合他社や同じ領域の代替品があった場合、それに比べて技術や営業、マーケティングなど、独自に持っている優位性は何かが焦点になります。

審査は誰がするのですか。

審査業務は監査に近い業務が多いので、会計士がメインで入り、財務諸表や契約書や通帳などを含めて審査をします。

あとは、スタートアップには法律的にグレーな場合も少なくないので、コンプライアンス面は特に確認しています。

日本クラウドキャピタルの従業員数は現在50名程度ですが、審査業務にもっとも人数をかけていることもあり、スタートアップとしては珍しく、半分以上がバックオフィス系の人員構成です。

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大浦学(おおうら・まなぶ)/ 2011年明治大学卒業。2012年システム開発会社設立。2013年明治大学大学院グローバルビジネス研究科卒業。2015年株式会社日本クラウドキャピタルを同代表柴原祐喜氏と共に設立。

審査通過率はどの程度ですか。

約5%程度です。投資家に自信をもって公開できるように、審査基準はハードルを高めに設定しています。

現在までに74社ほどを掲載していますが、フィルタリングの部分を効率化し、もっと募集を出しやすい環境にしていきたいですね。

最近では事例数が増えてきたことで、Web上からの登録数や、起業家・投資家からの紹介も増えてきています。

特に、VCや機関投資家、銀行のIPO周りを担当している人とのつながりが増えてきたので、そこからご紹介いただくことは非常に多くなっています。

FUNDINNOを利用する企業のメリットはなんですか。

調達までのスピード感がメリットです。

スタートアップは調達する時期が1カ月ずれるだけで、生死に関わってくるので、調達にかかる時間を可能なかぎり、短くすることをミッションに掲げています。

スピードを出すために、基本的にバリュエーションや株価については口を挟まないようにしています。審査上確認が必要な部分の確認さえできれば、とにかくすぐに出す。これがスタンスです。

過去のデータから、短期間でお金が集まらなかった場合、その後更にお金が集まることは少ないことが分かっているので、案件ごとの申込みの締め切りは2、3日に設定しています。その代わり、そこで集まれば3週間後には着金されるスピード感があります。

これは僕の個人的な考えですが、本来的には経営者がやるべき仕事は経営なので、調達に時間を使うより、少しでも売上をつくる仕事をした方がいいと思っています。

そういった意味で、スピードを重視して資本政策を組めるのは企業にとって大きなメリットではないでしょうか。

またクラウドファンディングの性質上、投資家がその会社のファンとなりサービスを使ってくれることが往々にしてあります。

そういった株主とのリレーションを築くことで、企業の売上も上がっていくという形をつくり、資金調達をするときの、最初のハブとしての役割を担っていきたいです。

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(画像:公式ページ)

普通株の調達で株主が増えると思いますが、株主管理は大変ではないのですか。

株主管理については、基本的に株主総会がメインの業務だと思います。

上場会社の場合、株主総会のときに招集通知を送る必要がありますが、これはFUNDINNO上で処理できるので、手間はそこまでかかりません。

外部資金を調達した時点で、FUNDINNOを使うかどうかに限らず、株主総会といった会社法で定められている手続きを行う必要があります。よって、招集通知を含めて追加でかかる手間はそれほど多くはないと思います。

また、FUNDINNOを使っている場合は会社側のアカウントがあるので、情報の開示もそれを経由して発信してもらうことで、効率的に株主とコミュニケーションを取れるようになっています。

FUNDINNOに向いていない業態はありますか。

基本的には、労働集約系で堅実なビジネスは向いていないと思っていました。

ただIT、Tech、AIといった案件に加え、毛並みが異なる「マグロをインドネシアで捕っています」といった1次産業系も出してみたところ、人気があったんですよね。

そういう意味で、純粋なIT系以外の事業も投資家に求められているんじゃないかと思います。

強いて言えば、BtoCのビジネスはイメージがつきやすいこともあって人気がありますが、そういった人気のある業種やビジネス領域を基準にして審査をするのではなく、自由さを大事にしていきたいです。

そもそも、サービスが市場に受け入れられるかどうかの評価は誰も正確にはできないと思っています。

金融のプロであっても市場にプロダクトを出してみないと分かりません。

今は事業の可否を私たちが判断していますが、最終的には投資家が自分たちで事業性を判断できる世界にしていきたいです。

先日投資時より低い評価額で事業譲渡した例がFUNDINNOから出ましたが、そこからも事業性を判断するのは難しいことが分かります。

基本的には、FUNDINNOを利用されている企業さんの情報は機密情報になります。情報公開をするかどうかはその会社が決めることですし、私たちも出せません。そのため、この件についても、コメントは難しいです。

ただ、私たちとしては定期的にお会いして、「投資家に対しての情報開示してもらう」ことをお願いするといった、規制がある中でのベストな形を模索しながらやっています。

今回のようなうまくいかないケースは、シードやアーリーの企業に投資するのであれば、これからも一定数出てくると思います。

英国でもっとも投資型クラウドファンディング領域で先行しているクラウドキューブが、同サービスを通して調達した会社の生存率を出しているんですね。

その結果、集めてから1年以内に1%、2年以内に4%、3年以内に10%、6年以内に40%がつぶれるとの結果が出ています。この結果は英国全体の平均と比べると非常に高い生存率となっていることを示しています。

CF生存率

私たちは、そういったリスクを含めて説明をし、投資家への教育も行うことで、リスクマネーを供給する市場をつくっていかなければならない立場だと思っています。

もちろん失敗事例が出ないように頑張っていきますが、それでも失敗しまったときに規制強化の方向にいくのでは、マーケットは成長しません。

ゆえに、投資家にリスクを説明し、十分に理解してもらった上で投資をしてもらうために、オープンに説明する素地をつくる必要があると考えています。

そのために、他のクラウドファンディングと異なり、FUNDINNOでは全ての質問項目を回答必須項目とし、会社の現預金や財務状況、リスクといった情報を全て開示する態勢をとっています。

投資商品として価値とリスクのバランスを意識しながら全体設計をしていきたいです。

FUNDINNOが描く新戦略

先日大きな発表を2つされましたね。

1つは、FUNDINNOから初のイグジット案件が出ました。

そもそも、今まで個人がベンチャー株を買える仕組みがなかったので、家計からスタートアップへのお金の流れは、証券会社か銀行を通す2種類しかありませんでした。

家計から証券会社か銀行を通じて、上場企業にお金が流れ、そこがスタートアップへ直接投資、もしくはVC、PEを経由して投資するパターンです。そうすると、どうしてもスタートアップへの資金調達チャネルが少なくなってしまっていました。

とくに一番調達のニーズが高く、投資環境が整っていないのが、シード企業への投資です。

私たちは、そこにリスクマネーを流し、生き残れるスタートアップ数を増やしたいと思い、家計からベンチャー企業に直接お金を流す仕組みをつくってきました。

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(画像:公式資料)

そんな中、2017年12月に3,000万円調達をした会社において、先月、ある事業会社への一部バイアウトがあり、エグジットが実施されました。

スタートアップ投資のマーケットをつくっていく上で、投資リターンを得るためには、基本的に上場やM&Aでのイグジットを待つ必要があります。しかし、そうなると何年も待つ必要があり、資金の流動性が乏しくなってしまいます。

そういったときに、今回のように事業会社やVCが2回目の調達で入ったタイミングで、一般投資家が株の譲渡による換金ができると、短期間でキャピタルゲインを得られます。その結果、得られた資金で別のスタートアップを応援するといったサイクルが出てくるのではないかと考えています。

2つ目は新戦略の発表です。

8月を目標に、これまで取り扱っていた普通株式に加え、新株予約権が取引できるようになります。

新株予約権を得ることは、株主になることではないので意見を言えず、ダウンバリュエーションによって損をするリスクが挙げられます。例えば、企業価値を10億円として調達した会社に、翌月に5億円で身売りされてしまうと、投資家は半分損をしてしまいますが、それについてなにも言えません。

そこで私たちは、ダウンバリュエーションが起きたとき、投資資金を回収できるように優先的に買収額の分配を受けられすることで、投資家が一定の保護を受けられる設計にしています。

なので、金銭的なリターンが強くなっている商品になりますね。

また、もう1つの戦略は、株主コミュニティへの参入です。

現在日本では、アメリカに比べ取引所の構造がステップアップ型になっていません。本来であれば、市場をステップアップしていくにつれ企業の質が高まっていきます。事実、アメリカでは、ナスダックが一番上のランクとなっており、銘柄数も最も少なく、市場もピラミッド構造になっています。

しかし日本は、下に行けば行くほど銘柄が少なくなり、一番上である東証一部の企業数が最も多い状態なんですよね。この逆ピラミッド構造で、本当に品質の担保ができているのか議論がおきています。

この構造を生んでいる1つの理由が、管理コストの問題です。本来的に、ステップアップするにつれて、管理コストが上がるように設計されているべきですが、現在はどの市場も同程度のコストがかかってしまいます。

そうすると自ずと、企業もなるべく上の市場での上場を目指すため、結果的に逆ピラミッド構造ができていました。

そこで私たちは、入り口である株主コミュニティ分野に参入し、その問題を解決していきたいのです。

投資型クラウドファンディングは、管理コストの要因になっていた有価証券報告書の提出や監査法人の導入をせずに実施できるため、これまでに比べ大きく手間が減ります。そうすることで、市場への最初の入り口である株主コミュニティに参加する企業数が増え、逆ピラミッド構造の是正が進むのではないでしょうか。

株主コミュニティはクローズドな流通市場なので、相対取引(取引所を通さず、売り方と買い方が当事者間で直接取引を行うこと)ができるようになっています。これにより、スタートアップのエグジット手段が、IPO、M&A、相対取引の3つになり、多様性を持たせられるのではないかと考えています。

新しい仕組みを含め、スタートアップのイグジット環境を整えることで、リスクマネーがより多く流れ込む状態にしていきたいです。

そうすれば、アメリカや中国との出資額の差が埋まり、ユニコーンやグローバルに挑戦できる企業が増えていくんじゃないかと思ってます。

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文・写真:ami


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