2011年にInMobiがインド初のユニコーンとなってから9年。現時点でのユニコーン数は30社に到達したとみられ、中国、米国に次ぐ規模だ。そのうち4社はデカコーンだ。さらに、2025年にはユニコーンは100社に達すると予想される(NASSCOM)。このポテンシャルを掴むべく、Googleのサンダー・ピチャイCEO、サテラ・ナデラCEO、Amazonのジェフ・ベゾスCEOといったGAFAMトップたちが盛んに「インド詣」をしている。
3回シリーズのインドスタートアップ特集第2回ではユニコーン30社のデータ、著名投資家の動向、インド政府の政策などを通して、インドがスタートアップ大国となった理由を探る。
マクロ経済の安定化がスタートアップブームの前提
インドでは2011年に初のユニコーンが誕生した後、1年に1社のペースで増加し、2016年に計10社となった。2018年以降、一挙に増大し、コロナ禍に見舞われている2020年においてもすでに3社がユニコーン化し、インドのスタートアップの底力を見せつけている。
インドでスタートアップブームが起こっている中長期的な背景には、テクノロジーのコモディティ化など世界的な潮流に加えて、インドのマクロ経済が安定し、コンシューマーセクターの成長機会が巡ってきたことが大きい。中国や東南アジアなどでも同様のパターンがみられる。インドが14億人に迫る大市場だといっても、基本的な経済環境の安定化なしに成長は望めない。
インドの経済成長率は2003年からBRICsブームと呼ばれる高度成長を遂げたが、2008年のリーマンショックで大きく減速した。他国が回復するなか、インドは大型プロジェクト関連の政財界を巻き込む大規模な汚職が発覚し、相次いでプロジェクトの中止や見直しに陥る。同時期に好調な経済成長へと向かった中国や東南アジアとは異なり、インド経済は低迷が続き、インフレの加速や経常赤字の拡大など経済ファンダメンタルズは悪化した。
こうした状況を打破したのが、2014年に発足したナレンドラ・モディ政権である。モディ首相は経済構造改革に着手して、インフレの沈静化と成長の再加速を実現した。そして、「メイク・イン・インディア」や各種スタートアップ支援など、ビジネスフレンドリーな政策を手厚く実施してきている。
そして、第1回でBEENEXTファウンダー・マネージングパートナーの佐藤輝英氏が指摘した5つの要素(①モバイルインターネット人口の急増、②固有認識番号の普及を背景とした電子決済の浸透、③エンジェル投資家が多数存在、④米国帰国組と質の高い地場人材の成長、⑤コロナ禍によるデジタル化の加速)が機能して、今日のスタートアップシーンの盛り上がりへと至っていると言えるだろう。
ユニコーン解析:B2CからB2Bへ、本拠地は3都市に集中
これまでにインドで誕生したユニコーンは30社にのぼる(リストは第3回に掲載する)。
まずセクター内訳をみると、これまでのインドスタートアップシーンをけん引してきたECが8社と多く、FinTech、SaaS、データ解析がそれぞれ3社と続く。そして、フードデリバリーなどのFoodTech、EdTech、HealthTechなどコンシューマー向けサービスも多様化しつつある。最近の傾向としては、企業のデジタル化支援としてSaaSやB2B向けECでもユニコーンが登場しており、エンタープライズ向けのビジネスにおいても、スタートアップの存在感が高まりつつある。
次に都市単位でみると、インドを代表するIT都市がけん引している。インド版シリコンバレーとも呼ばれるバンガロールには12社と全体の4割のユニコーンが集中している。次いでデリー郊外にある新興IT都市として成長しているグルガオンに6社、そして、証券取引所がある金融都市ムンバイには4社がある。
上位3都市だけでユニコーンの7割が存在し、人材と資金が集中している都市からユニコーンが生まれやすい構図だ。また、これらの都市の近隣でもデリーに隣接するノイダや、ムンバイ近郊のプネにもユニコーンが存在している。大都市でのコスト上昇から、衛星都市に拠点を構えるスタートアップも増えてきた。
外資を巻き込んだ資金獲得と激化する成長競争
インドのスタートアップによる調達金額は、2017年以来100億ドルを越える水準が継続している。
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