スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL(イニシャル)」がお届けする、GLOBAL EYEシリーズ。
本記事のテーマは「世界のスタートアップ」。VC投資額の対GDP比率、国別ユニコーンランキングを紹介した上で、北米・欧州・アジア・オセアニア地域11ヵ国の代表的スタートアップと国別の傾向を解説する。
国際比較:VC投資額の対GDP比率。米国、イスラエルが上位
2018年、日本国内スタートアップの資金調達額は過去10年において最高額の4,330億円を記録した。(出所:INITIAL、2020年1月23日基準)
国際的に見てこの水準は大きいのか。スタートアップに対する投資の定義は様々に存在するが、一般的に国際比較として用いられることが多い各国のベンチャーキャピタル(VC)投資額をGDPで割り戻した数値で比較してみよう。
数か国を抜粋したVC投資額の対GDP比率グラフを以下に示す。
上位3ヵ国は中国、米国、イスラエル。VC投資額の対GDP比率は0.35%以上だ。他国に比べ例外的に数値が高く、スタートアップ投資の成熟さを示している。次点はカナダの0.18%。ほとんどの先進国は0.10%以下の水準だ。
なお、インドについてはVenture Intelligenceが公表するPE/VC投資の2018年数値をIMF公表のGDPで割り戻すと1.22%と高い割合であった。しかし、今回はデータの算出基準の違いから図中に含めていない。ただ、PaytmやOYOなどデカコーンがありその存在感は無視できない。
日本の数値は0.030%で、米国の1/10以下だ。VC主導でスタートアップ投資を行う他国と異なり、日本では事業法人系による投資額が4割以上を占めることも本数値が低い要因だ。
特筆すべきはニュージーランドだ。人口約500万人、GDPランキングは世界53位(2018年)ながらもスタートアップ投資額対GDP比率では上位10位以内に入っている。
近年各国政府がスタートアップ・ハブを形成する動きが見られるが、ニュージーランドもその一例といえよう。
以後は、先進国を中心とした世界11ヵ国(米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、スウェーデン、イスラエル、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)を取り上げる。インドの個別事例については別の機会に譲る。
国別ユニコーン数ランキング。米国、中国が100社以上
2020年1月国内スタートアップファイナンス動向で発表の通り、2020年2月5日現在の国内ユニコーン数は7社だ。
世界11ヵ国のユニコーン数をみてみよう。以下は国別ユニコーン数のグラフだ。
米国が216社、次点は中国の206社と突出する。経済二大大国の米国・中国がユニコーンの大幅にを有する構造だ。
英国が世界3位の24社。欧州(イスラエル含む)では英国に次いで、ドイツ(12社)、イスラエル(9社)、フランス(7社)、スウェーデン(2社)の順でユニコーン数が多い。
アジア/オセアニアでは、中国に次いで韓国(10社)、日本(7社)、オーストラリア(3社)、ニュージーランド(0社)の順だ。また、別の機会にすると先に述べたインドもユニコーン数は参考情報として20社の記載をしている。
ユニコーン数とVC投資額対GDP比率は必ずしも比例しないが、相関関係は見られる。
ここからは、各国の代表的なスタートアップを紹介する。(時価総額/評価額、資金調達額は2020年2月10日時点。上場企業の調達額は、上場時までの調達額に上場後の調達額を加えた額。為替は1ドル=110円、1ユーロ=120円、1ウォン=0.1円、1豪ドル=75円で換算。)
北米:米国、カナダの代表的スタートアップと国別傾向
米国の代表的スタートアップは、ライドシェアサービスのUber、オンライン決済サービスのStripe、宿泊施設プラットフォームのAirbnb、フードデリバリーサービスのDoordashだ。Doordashはソフトバンクビジョンファンドが出資している。
Uberはニューヨーク証券取引所に上場済みで、時価総額は約710億ドル(日本円で約7.8兆円)。Airbnbも2020年中の新規上場(IPO)を公表している。
特筆すべきは米国スタートアップの企業評価額の大きさだ。100億ドル(日本円で約1.1兆円)以上の評価額をつけるスタートアップが10社と、他国と比べて多い(次点は中国の6社)。米国のユニコーン数は216社と、シリコンバレーに代表される文化醸成などを背景に成長企業の母数が大きいことも要因としてあげられよう。
カナダの代表的スタートアップは、ECプラットフォームのShopify、決算ソリューション提供のNuvei、AI活用の企業内検索SaaSのCoveo、メッセンジャーアプリのKikだ。
Shopifyはニューヨーク証券取引所に上場済みで、時価総額は約570億ドル(日本円で約6.3兆円)。Kikは2億人以上のユーザーを有し、2019年米国企業のMedialabに買収された。カナダのユニコーン数はNuvei、Coveoの2社。AI研究に強みを持つカナダだが、AIユニコーンはCoveoのみだ。
欧州:英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、イスラエルの代表的スタートアップと国別傾向
英国の代表的スタートアップは、ファッションECサービスのFarfetch、海外送金サービスのTransferwise、デジタルバンキングのMonzo、中小企業向けクレジットプラットフォームOakNorthだ。
Farfetchはニューヨーク証券取引所に上場済みで、時価総額は約38億ドル(日本円で約4,180億円)。2020年1月にポストIPOラウンドで中国IT企業のテンセントなどから2.5億ドルの資金調達を発表した。同社は2017年に中国EC大手のJD.comからも出資を受けており、高級ファッション顧客層が存在する中国市場での事業拡大の動きがみられる。
英国のスタートアップはFinTech企業の多さが特徴で、ユニコーン24社中10社がFinTechサービスを展開。中でもオンラインバンキングなど銀行の領域に挑戦するスタートアップが多くみられ、世界的金融市場ロンドンの影響力の強さが窺える。
ドイツの代表的スタートアップは、インターネット・テクノロジー企業のインキュベーター Rocket Internet、中古車販売プラットフォームのAUTO1、オンラインバンキングのN26、音声ファイル共有サービスのSoundCloudだ。SoundCloudはスウェーデンで設立されたが、現在はドイツに拠点を置いている。
Rocket Internet(ロケットインターネット)はフランクフルト証券取引所に上場済みで、時価総額は約29億ユーロ(日本円で約3,480億円)。同社は米国で成功したビジネスモデルを模倣して欧州やアジア市場で展開する企業経営・投資スタイルを有する。
ロケットインターネット発で上場まで至った企業も多い。近年はフードデリバリー領域に力を入れており、Delivery Hero、Hello Freshは2017年にフランクフルト取引所に上場。Delivery Heroは同業の買収による拡大戦略を取る。ドイツのFoodpanda、韓国のFoodfly、クウェートのCarriageなど米国・中国以外の地域で買収を進めている。また、2018年にNASDAQ市場に上場したアフリカ同業のJumiaもロケットインターネットグループの企業だ。
フランスの代表的スタートアップは、自動車相乗りサービスのBlaBlaCar、音楽ストリーミングサービスのDeezer、医師・歯科医師のオンライン予約サービスのDoctolib、プロ写真家と企業のマッチング・編集サービスMeeroだ。
フランスのユニコーン数は7社。セクターはモビリティ、音楽、ヘルスケア、コンテンツなどtoC向けサービスの多さが特徴だ。フランス政府は「2025年までに25社のユニコーン創出」を目標に掲げている。
スウェーデンの代表的スタートアップは、音楽ストリーミングサービスのSpotify、マインクラフトなどゲーム開発のMojang、小売業向けペイメントサービスのKlarna、再生可能エネルギーのNorthvoltだ。
Spotifyはニューヨーク証券取引所に上場済みで、時価総額は約270億ドル(日本円で約3兆円)。Mojangは2014年にマイクロソフトに買収された。同様にマイクロソフトに買収されたスウェーデン発祥企業としてインターネット電話サービスSkypeがあげられる。スウェーデンのユニコーンは前述Klarna、Northvoltの2社だ。
イスラエルの代表的スタートアップは、HP作成ツールのWix、プロジェクト管理ツールのMonday.com、マルチクラウドストレージソリューションのInfinidat、ライドシェアサービスのGettだ。
Wixは世界1億人以上が利用するツールで、NASDAQ市場に上場済み。時価総額は約74億ドル(日本円で約8,140億円)。イスラエルのユニコーン数は9社で、Monday、Infinidat、Gettも含まれる。Gettはイスラエル版Uberと言われる配車サービスで、ドイツ自動車メーカーのフォルクスワーゲングループが出資している。
アジア/オセアニア:中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの代表的スタートアップと国別傾向
中国の代表的スタートアップは、アリババグループの金融会社で決済サービス「アリペイ」を展開するAntFinancial、短編動画アプリ「TikTok」などコンテンツプラットフォームを展開するByteDance、中国発ライドシェアサービスDidi、短編動画プラットフォームのKuaishoだ。いずれも評価額は$50B(日本円で約5.5兆円)を超える水準だ。
豊富な人口を背景にtoCサービスが多いのが中国スタートアップの特徴だ。特に短編動画プラットフォームでは、「TikTok」を運営するByteDanceと中国国内で人気の高い「Kuaisho(快手)」の2社が凌ぎを削っている。いずれも月あたりの平均アクティブユーザー数(MAU)は3億人を超える(2019年12月現在)。Bytedanceにはソフトバンクビジョンファンド、Kuaishoは中国巨大IT企業のテンセントが出資している。
中国巨大IT企業アリババグループからの影響を受けるケースもみられる。AntFinancialはアリババグループからのスピンオフであり、Didiのようにアリババ出身者が起業する例があげられる。
韓国の代表的スタートアップは、メッセンジャーアプリ「カカオトーク」を運営するKakao、韓国最大のECプラットフォームを展開するCoupang、バトルロイヤルゲームが世界的に大ヒット中のゲーム会社Krafton Game Union、シートマスクを中心に化粧品事業を展開するL&P Cosmeticsだ。
Kakaoは韓国取引所に上場済み。時価総額は14.7兆ウォン(日本円で約1.37兆円)を誇り、日本国内でも事業を展開。韓国のユニコーン数は10社。Coupang、Krafton Game Union、L&P Cosmeticsの3社もユニコーンだ。
韓国スタートアップはtoCサービスが多いのが特徴だ。上記紹介企業のセクター(コミュニケーション、EC、ゲーム、化粧品)のほか、D2Cや旅行領域でのユニコーンが見られる。
オーストラリアの代表的スタートアップは、ソフトウェア開発コラボレーションツールを運営するAtlassian、デザインツールを提供するCanva、中小企業向け融資サービスのJudobank、法人向け海外送金サービスのAirwallexだ。
AtlassianはNASDAQ市場に上場済み。時価総額は173億ドル(日本円で約1.9兆円)で、日本でも事業を展開する。オーストラリアのユニコーン数はCanva、Airwallex、Judobankの3社で、toB中心のサービスが多いのが特徴だ。
ユニコーンのCanvaが提供するデザインツールは、世界190ヵ国に2,000万人を超えるユーザー数を誇る。オーストラリアの人口(約2,500万人)とほぼ同水準であり、英語圏の有利さを踏まえたうえで、海外市場を見据えた事業展開が窺える。
ニュージーランドの代表的スタートアップは、クラウド会計SaaSのXERO、AIアバターを活用したカスタマーサービスツールのSoul Machines、P2PレンディングのHarmoneyだ。
XEROはオーストラリア証券取引所に上場済みで、時価総額は120億豪ドル(日本円で約9,000億円)。日本でクラウド会計SaaSを展開するfreee(フリー)と同様のビジネスモデルだ。
ニュージーランドのユニコーン数は0社だが、前述のSoul Machinesは2020年1月にシンガポール政府系投資会社のTemasekを中心に4000万ドルのシリーズB調達を発表した。今後のユニコーン創出に期待がかかる。
参考までに、日本の国内ユニコーン一覧を以下に示す。
VC投資額の対GDP比率が高い国をみると、GDP額上位を占める先進諸国(米国、中国、英仏独など)と、人口が少ない中でスタートアップ支援に積極的な国(イスラエル、スウェーデン、ニュージーランドなど)の2つの傾向がみられる。
両者に共通するのは、経済発展とイノベーション創出のためスタートアップを重視する姿勢だろう。
国別に代表的スタートアップをみると、米国・中国のユニコーン数の多さと企業評価額の大きさが目立つが、発祥国に関係なく各国で多様化が進んでいることがわかる。
今後、INITIALでは各セクターにおける世界のスタートアップ企業を紹介する予定だ。
(執筆:藤野理沙、リサーチ:平川凌、デザイン:廣田奈緒美)