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2020/01/22

フレンチテック発、有望スタートアップ110社総覧

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「フレンチテック最新動向」第二部では、フランス発の要注目スタートアップ110社を一気に紹介する。

内訳は、(1)フランス政府が選定したユニコーン候補企業「Next40」、(2)世界最大のスタートアップキャンパスStation F(スタシオン・エフ)が選定したベストパフォーマンス企業「Top30」、(3)同じくStation Fが選定した急成長スタートアップ「Future40」――である。(第一部はこちら

CONTENTS

仏政府選定最有望企業リスト「Next40」

フランス政府と公的投資銀行のBPIフランスは、世界的に高い成長が見込めるフランスのスタートアップ40社リスト「Next40」を2019年9月に発表した。2025年までにユニコーン25社の創出を掲げる仏政府は、この40社に対して欧州各都市で証券取引所を運営するユーロネクストによる上場支援、認知度向上支援などを集中的に行い、目標達成を目指す。

選定基準は以下の通りである。

Next40の過去3年間売上成長率の中央値は158%と高い。40社のうち80%に当たる32社は海外投資家から出資を受けており、仏国内にとどまらずグローバルな活躍が見込まれる。

企業リストを以下に示す。ユニコーン企業は40社中7社(Deezer、BlaBlaCar、Meero、Doctolib、Veepee、OVH、Ivalua)で、残り33社はユニコーン候補だ。

40社の内訳は、B2B企業が21社、B2C企業が19社だ。セクター最多はECの7社、次点がFinTechの6社だ。

最注目企業は3年でユニコーンになったMeero、日本でも展開

Next40の最注目企業は2016年の設立後わずか3年でユニコーン企業になったMeeroだ。プロ写真家と企業のマッチング、編集ツールサービスを提供し、フレンチテック最大の成功事例とされている。

Meeroの仕組みは以下の通り。プロ写真家は、Meero上で企業依頼の仕事を受注して撮影を行う。Meeroは、写真家の代わりに写真編集と企業への納品を行う。写真家は従来アナログ作業が必要な工程をすべてMeeroに任せることで、撮影に集中できるのがメリットである。Meeroは写真家に仕事を供給して、企業が写真家へ払う報酬の一部を手数料として徴収する。

Meeroの強みは、1) プロ写真サービスの潜在的巨大市場(Meero発表によると100億ドル規模)はブルーオーシャン状態にあること、2) AI(人工知能)を用いて編集工程を効率化する技術的優位性、3) サービス提供側のプロ写真家と利用側の企業の双方にメリットを供与するビジネスモデルであること――の3点だ。顧客は不動産、旅行、レストランなど画像イメージが売上に影響を与える業種が中心で、Airbnb、Homeaway(米Expedia傘下の民泊サイト)、UberEats、など米国大手企業も活用している。

日本国内でも2019年から事業を開始。Meero 日本代表 福田 強史氏によると、「UberEatsJapanなど外資系企業のほか、国内企業では三井不動産リアルティなど不動産企業、(宅配ポータルサイトの)出前館などがMeeroの顧客だ」という。

日本のスタートアップでは、フォトグラファーマッチングのaMi、撮影サービスを展開するラブグラフ、写真学びサイトCurbonなど競合となり得るプレイヤーもあるが、マッチング・編集ツール・顧客との連絡支援・ナレッジ共有をワンストップで提供するところにMeeroの特徴がある。

ユニコーン企業では、会員限定オンラインショッピングサービスのVeepee、自動車相乗りサービスのBlaBlaCarは、企業買収による事業拡大に積極的な姿勢を見せている。これまで10社以上の買収を行った。医師・歯科医師のオンライン予約サービスDoctolibは、ユニコーン企業唯一のHealthTech(ヘルステック)企業だ。

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2019年9月に発表された「Next40」の一覧(出所:FrenchTech HP)

フランス発B2B SaaS注目企業はユニコーン候補のAlgolia

Next40リストの中には、フランスに本社を置かないスタートアップは含まれない。フランスで会社設立後、本社を米国に移す「脱フランス」企業も存在する。

サイト内検索エンジンSaaSのAlgolia(アルゴリア)がその例だ。同社は2019年10月にシリーズCで1.1億ドル(約120億円)の大型調達を発表し、既に日本を含む世界6拠点に展開している。検索スピードに定評があり、顧客数は全世界で8,000社以上、日本でもクックパッドなど100社以上を誇る。いま注目のB2B SaaS企業であり、ユニコーン入りも近い。

他にも2019年12月にユニコーンになったデータサイエンティスト用データ分析ツールDataikuや、2019年9月にNASDAQ(ナスダック)に上場したクラウド監視プラットフォームDatadogもフランス発の企業だ。Algolia、Dataiku、Datadogの3社はいずれもAIを活用したエンジニアリングに強みがあるB2B SaaS企業で、AIエンジニアの人材が豊富なフランスならではと言える。

Station F選定、ベストパフォーマー30社

次に、フランス・パリに拠点を置く世界最大のスタートアップキャンパス「Station F(スタシオン・エフ)」が選定した「Top30」を紹介する。Station F開催プログラムに参加したスタートアップの中から、パートナー企業の推薦によって選出された。

30社の内訳は、B2B企業が13社、B2C企業が17社だ。また、5社は仏もしくは米国企業に買収されている。なかでも小売業者向けデータ分析ツールを提供するDacoは、パートナー企業Veepee主催のアクセラレータープログラムに参加後、同社に買収されている。Station F内でExitが実現した事例だ。

資金調達額が1000万ユーロ(約12億円、1ユーロ=120円換算)を超えるのは、eスポーツプラットフォームのTeam Vitality、サイバーセキュリティソフトのAlsid、都市生活型コミュニティ住宅のColoniesの3社だ。

AI活用のデジタル音楽オーケストラアプリAntescofoには、元ソニー会長でクオンタムリープ代表の出井伸之氏が個人出資している。出井氏は、日本とフランスのスタートアップを積極的に支援している。

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2019年6月に発表された「TOP30」の一覧(出所:Station F プレスキット)

Station F選定、急成長スタートアップ40社

最後に、Station F選定の急成長スタートアップ40社「Future40」を紹介する。

TOP30に加え、初の試みとして2019年11月に40社が発表されたもの。Future40リストは毎年更新される予定だ。

選考対象は、Station Fのプログラムに参加したスタートアップのうち、資金調達額が100万ユーロ(約1.2億円)以下の創業初期企業である。MRR(月次収益、Monthly Recurring Revenue)などの成長率、当該領域での専門性、テクノロジー、チーム、市場規模、規模拡大の可能性(スケーラビリティ)などの基準から総合的に評価される。

40社の内訳は、B2B企業が31社、B2C企業が9社とB2B企業が圧倒的だ。中でもB2B SaaSが12社と躍進が目立ち、営業効率化ソリューションを提供する企業が多い傾向だ。次点はHealthTechの6社だ。

起業家のプロフィールは、女性創業者が35%、フランス国外出身者が20%と、ダイバーシティに富んだ構成になっている。チーム平均人数は6名だ。

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2019年11月に発表された「Future40」の一覧(出所:Station F プレスキット)

 *   *   *

以上、フレンチテック発有望企業110社は、FinTech、HRTech、サイバーセキュリティからHealthTechまで幅広い領域をカバーしている。

フランス政府やStation Fがこうしたリストを公表する狙いは、もちろん、エマニュエル・マクロン大統領が2019年9月に発表した「2025年までにフランス発ユニコーンを25社創出する」という大目標の達成に向けて、候補企業の存在感を世界で高めることにある。

フランス側は、国外からの投資と協業を求めるメッセージを明確に発している。

これらフランスの呼び水に対して、日本の投資家やスタートアップが今後どのようなアクションを仕掛けていくかが注目される。

本稿第一部で紹介したように、既に富士通などの日本企業大手がフレンチテックとの関係を深化させているほか、日本酒スタートアップのWAKAZEがパリに進出するなど一部企業で動きは見られるが、大きな潮流になっているとはまだ言い難い。

フレンチテックは、単にフランス発スタートアップの振興プロジェクトではなく、日本スタートアップ・コミュニティの飛躍に向けた試金石でもある。

(執筆・リサーチ:藤野理沙、リサーチ:町田大地、編集:INITIAL編集部、デザイン:廣田奈緒美)


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