## アーリーステージSaaS企業の資金調達が目立つ。INITIALピックアップニュース3選

INITIAL編集部が選ぶ、先週の注目資金調達ニュースは以下の通りだ。

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__カミナシ、業態転換に成功。シリーズAで11億円の調達__

ALL STAR SAAS FUND、Coral Capitalなどが出資した。
工場や店舗など現場管理業務をプログラミング不要で業務アプリにできる「カミナシ」を提供する。

__注目する理由：残り資金10ヶ月のピンチを乗り越えシリーズAで異例の11億円調達__



カミナシの調達額11億円はINITIALシリーズAの調達額中央値2.3億円を大幅に上回り、シリーズC企業に該当する調達額のサイズだ。現場改善プラットフォームSaaS「カミナシ」をリリース後、想定を上回る導入実績から投資家は高い成長可能性があると評価しているのであろう。（参考：[INITIALシリーズ](https://initial.inc/articles/6eDb1OkqwX1T0IO3sLKdlV)）

カミナシは当初、食品工場の現場データを集計・管理する業界特化型SaaSを提供していたが、顧客獲得に苦戦し、事業継続に必要な資金は残り10ヶ月分という窮地に立たされていた。注目すべきは、そのタイミングで__異例の事業転換を行った点__だ。食品工場特化のSaaSから工場や店舗で現場管理業務を行う全てのノンデスクワーカー向けのSaaSへと転身した。

事業転換する際、幅広い業界を対象とする事業から特定の業界に変更する場合は一般的であるが、__逆のパターンである特定業界から幅広い業界へと顧客対象を拡大することは珍しい__だろう。__事業転換後は8ヶ月で導入社数は約70社、14の業界に導入されており、食品工場への導入数も3倍以上増加__していると公表している。

この事業転換の成功が評価され、今回の資金調達につながった。投資家はALL STAR SAAS FUND、Coral Capitalなど2017年に出資した既存投資家が中心だ。特にCoral Capitalのグロースファンドでは、カミナシを含めわずか4社にしか出資をしておらず、残りのファンド資金についても4社への追加出資枠として確保される見通しだ。Coral Capitalがいかにカミナシに対して高く評価しているかが伺われる。

__Nota、プロダクト好調。シリーズBで5億円の調達__

One Capitalをリード投資家にSalesforce Ventures、博報堂DYベンチャーズ、パーソルプロセス＆テクノロジーから資金調達を行った。

__注目した理由：3つ目のプロダクトが売上6倍成長で__

NotaはエンジニアのCEOにより2007年に米国で設立され、2020年に日本法人が設立された。同社の提供するスクリーンショット共有ツールは米・欧にユーザーの大半を抱えるグローバル志向の強い企業だ。

2011年に同社初のプロダクトであるスクリーンショット共有ツール「Gyazo」、2016年に2つ目のプロダクト、知識共有サービス「Scrapbox」、2019年に3つ目の検索型FAQサービス「Helpfeel」をリリースしている。

資金使途は検索型FAQサービス「Helpfeel」の開発推進、採用強化だ。プレスリリースによるとHelpfeelは、MRR（月次経常収益）が前年比で670%拡大、平均月次チャーンレートは0.25%以下であることを明らかにしている。

今回グローバルでSaaSに知見のあるOne CapitalとSalesforce Venturesが出資していることから、米国・欧州で幅広いユーザーを抱える同社の初プロダクト「Gyazo」のように海外での展開も視野に入れているのではないか。

__3Sunny、3.2億円の調達。LTVを最大化__

医療機関・介護施設向け入退院調整業務SaaSを提供する3Sunnyはメディカルノート、メディアスホールディングス、既存投資家などから総額約3.2億円の資金調達を実施した。
なお、新規投資家であるメディカルノートはINITIALシリーズCのスタートアップで専門医に医療相談ができるサービスなど医師・病院と患者をつなぐプラットフォームを提供する。（[メディカルノートINITIAL企業ページ](https://initial.inc/companies/A-16673)）

__注目した理由：メディカルノートとの資本業務提携__

スタートアップ間の業務提携は一般的であるが、出資に至ることことは珍しい。背景には両社ユーザーの生涯獲得利益（LTV）を最大化できることにあろう。

3Sunnyがサービス展開する国内医療ICTの市場規模は154億円、メディカルノートがサービス展開するオンライン診療の市場規模は260億円と両市場は小さい（出所：矢野経済研究所、富士キメラ総研公開資料より2020年の市場規模を記載）。

両社とも事業を大きく成長させるには市場規模のサイズがボトルネックとなっていた。すでに3Sunnyとメディカルノートはサービスを連携し、1次受診から入退院までをオンラインで完結する構想を明らかにしている。

今後、オンライン診療サービスを提供する企業はM&Aや業務提携などでLTVを最大化していく動きが見られるだろう。

参考：[FemTech領域の大型調達。市場規模500億円から逆算したファイナンス戦略（ネクイノ）](https://initial.inc/articles/briefing17)

## カミナシが行った異例の事業転換。バーティカルSaaSからホリゾンタルSaaSへ

トップニュースで取り上げたカミナシの事業転換による成功だが、タイミングだけではなく、同社の事業転換パターンそのものが珍しい例だ。カミナシのビジネスモデルであるSaaSは、大きく2つに分けることができる。ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSだ。

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バーティカル（業界特化）SaaSは医療や建設など特定の業界でサービスを提供する。業界特有の課題への理解が必要であるため、優位性を築きやすいものの成長可能性は業界の市場規模に依存する。

ただし、業界特化の強みの裏返しで別の業界に新規参入することは難しい。このため業界特有の課題を業務ごとに解決するサービスを複数提供し、ワンストップのソリューションとして提供することが一般的だ。また、入退院調整管理を提供する3Sunnyとオンライン診療を提供するメディカルノートのように事業提携によりワンストップのサービスを完結させる事例も見られる。

一方でホリゾンタル（水平展開）SaaSは人事や会計など業務単位の課題解決のためにサービス提供をする。業務単体でのサービス提供のため幅広い業界での展開が可能だ。この特徴から、ホリゾンタルSaaSは新規参入で競争が激化する可能性が高い。

事業拡大に際しては、導入企業の規模とSaaS導入に馴染みがあるかが重要となる。例えば中小企業への展開を狙う場合を考えよう。中小企業ではSaaS導入よりも買い切りのパッケージソフトウェアの購入が一般的だ。大企業に比べると導入のハードルが高いだけでなく、単価が低く必要十分な機能を実装したミニマムパッケージを設定するなどの工夫が必要だ。

参考：[日本のSaaSは白地だらけ。投資家が語る「SaaS成長領域」](https://initial.inc/articles/saas-startup-invesetment)

カミナシがホリゾンタルSaaSでは上手くいった背景にはプロダクトが解決する__課題と単価がうまくマッチしたことがある。業態転換前に提供していたプロダクトは高単価の生産管理システムであった。しかし、開発力と資本力が制約となり、食品工場が高単価でも導入する価値を提供するプロダクトを開発することができなかった。

事業転換後は工場や店舗で紙やエクセルで管理する点検記録やデータ集計など現場管理業務のデジタル化課題にフォーカス。単価の低いプロダクトを提供することで導入企業が大幅に増加した。さらに現場業務のデジタル化に際して課題だった外国人従業員への対応についても、課金プランとして9言語の翻訳を提供。外国人従業員が多く従事する現場でも導入が加速した点も成功の理由だろう。

## 2020年からバーティカルSaaSでも大型調達の動き

2020年の国内SaaSスタートアップの資金調達額は556億円と2019年に続き、2番目に投資資金が集中するセクターだ（出所：[Japan Startup Finance2020](https://initial.inc/enterprise/resources/startupfinance2020)）。

SaaSスタートアップのIPOにおいてはfreee、Sansan、マネーフォワードのようにホリゾンタルSaaSで時価総額1,000億円を超えるIPO企業が見られる。一方で、バーティカルSaaSで時価総額1,000億円を超えるSaaSスタートアップはない。

しかし、2020年はバーティカルSaaSで大きな動きが見られた。
建設テックのアンドパッドが50億円調達、問診票デジタル化のUbieが28億円調達、電子薬歴システムのカケハシが18億円調達などバーティカルSaaSでも大型調達が行われた。

投資家はデジタル化されていない業界特有の課題をSaaSとして開発することに高い価値を見出し、評価しているのではないだろうか。

（文：平川凌、編集：濵田尚子、中村香央里、デザイン：石丸 恵理）

株式会社カミナシ

Nota株式会社

株式会社3Sunny

株式会社メディカルノート

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カミナシ、業態転換成功でシリーズA 11億円調達

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