昨今、STEM(ステム)教育への対応やMOOC(大規模公開オンライン講座)の登場により話題になっているEdTech。
そのEdTechの領域に挑むのが、noFRAME schools 渋川CEOだ。
高校を卒業後、起業した渋川さん。20歳で資金調達を行った起業家というと、「輝かしい過程」をイメージしがちだ。しかし本当にそうだったのか。
ビジネス経験のなかった渋川さんはどのようにEdTechに挑戦したのか。渋川さんの起業1日目までの道のりをお届けする。
※本記事は、以前noteで公開した記事を再編集した内容です。
レバレッジの大きさが幸福の増減につながる
2018年4月に株式会社noFRAME schoolsを起業して、「LADDER(ラダー)」という学習のログをみんなで共有できるプラットフォームと、そこから得たデータをもとに学習をLINE@でアシストするチャット型のコンシェルジュサービス「学習コンシェルジュ」を提供しています。
2つを組み合わせることで、目標に対してどのようなステップで学ぶのが最適かを知ることができます。いまはプログラミング領域に絞って提供しています。
渋川駿伍(しぶかわ・しゅんご)/ 高校卒業後、1年のギャップイヤーを過ごしたのち、一般的な大学に通うのではなく、MIT×MicroMastersに一期生として入学。人の時間を売買できるアプリ「タイムバンク」に最年少で上場。現在は先日資金調達を発表した、学習ログサービス、学習コンシェルジュサービスを提供する株式会社noFRAME schoolsを創業。(写真:INITIAL)
高校を卒業してからギャップイヤーをとり、その後起業されていますが、なぜそのような選択をしたのですか。
自分の人生で何を選択するにしても、決断にどうレバレッジを効かせるかが幸福と不幸の増減につながっていると考えています。
つまり、大きなリスクを取るほど、自分が感じたことのない刺激を得ることができ、それが幸せにつながる。
そこでレバレッジをかける方法を調べていたとき出会ったのが、ギャップイヤーでした。
ギャップイヤーとは、高校を卒業をして大学に進学するまでの1~2年の間、ボランティアや世界一周旅行など、自分がやりたいことをして内省する期間を指します。
高校生のときに、たまたまTwitterでオバマ大統領の娘さんがギャップイヤーを取ったというニュースを見て、初めて知りました。
当時は塾に通いながら大学受験の勉強もしていましたが、「他の人とは違う世界を見るためには、みんなと違う選択をするべき」と考え、受験しないことを決めます。そして、ギャップイヤーをとりました。
しかし、ギャップイヤーをとっても自然とチャンスが巡ってくるわけではないので、まずは自分でプロジェクトを始めました。
プロジェクトといっても、当時18歳の私はやりたいことが明確ではなく、興味が湧いたことはなんでもやってみるスタンスでした。
そのプロジェクトの1つが、EdTechだったと。
実は、最初からEdTechに取り組んだわけではありません。
初めは自分自身が純粋に好きなアウトドア領域で考えましたが、自分のこだわりが強すぎて自分以外にアイディアを共有したくなかったんです。その結果、他の人からのサポートをすべて断り、全く前に進めない。
チームをつくっても、課題を言語化せずに感覚で進めたため、周りを巻き込めず声を掛けても誰もついてこない。
周りに興味をもってもらおうと、みんながワクワクするテーマを選んだ結果、今度は自分自身がコミットできず止まってしまったり。そんな失敗が続きました。
その時の経験から、「自分も周りもワクワクしているか」を行動指針の1つにしています。
条件を満たすテーマはなにか、と考えた末に行き着いたのが「教育」でした。教育は誰しもが興味を持っており、課題を感じている部分があるにもかかわらず、その解決手段が少ない。
例えば、プロジェクトをいくつかやっていく中で、僕自身の生き方や価値観を同世代に向けて話す機会がありました。しかしそういった機会以外に、自分自身の学びに対する意見を話したり、共有できる選択肢は多くありません。
また、学び方の種類も少ない。
私は小学生のとき太っててもモテる方法を知りたいと思い、心理学を学ぶために放送大学を聴いたのがきっかけで学びに興味をもちました(笑)。
それ以降、MOOCs( ムークス:海外のオンライン授業)やTED、Schoo(スクー:授業の動画配信サービス)などのサービスを使って学んでいます。
しかし、それらのサービスの多くはやりたいことが明確になっている人に向けたものが多いです。また、どのような順序でそれらのコンテンツを学んでいけばいいのかも分かりにくい。
失敗からの学び「コンテンツは自分でつくらない」
私自身、ギャップイヤー中にオンラインで勉強していましたが、1冊の本や1本の動画で勉強が完結しないので、次に何をすればいいのかが分からず進められないことが多々ありました。
その課題を解決したいと思い、noFRAME schoolsの前身にあたる学生団体をつくり、高校生や大学生向けに宿泊型の教育プログラムやイベントを提供し始めたんです。
しかし今度は自分たちでコンテンツをつくりながら質と量を担保しようとした結果、労働集約型のビジネスモデルから抜け出せず、事業をスケールさせられませんでした。
そこで紙にアイディアや思想を何十ページも書き、出した結論が「コンテンツを自分たちではつくらない」でした。
リソースもノウハウもないにも関わらず、自分の中に「常識」と呼ばれる偏見が増えたことで、創造性の視野が狭まりすべて自分たちでやるべきだと思っていたんです。
そんな失敗の連続から生まれたのが、「学習コンシェルジュ」と「LADDER」です。
最初から起業を考えていたというより、自分達の思想をグロースさせようとした結果、たまたま起業するに至りました。
これまでも教育の領域を変革するために多くの企業がサービスを出していますが、成功した企業は少ないですね。それでも同領域で起業したのはなぜですか。
理由は2つあります。
1つは、教育領域に成長の可能性を感じたからです。時代的なトレンドもあり、学習に対する注目度は上がっています。
科学技術の進歩により人間の平均寿命が伸びたことで、人生100年時代と言われれるようになりました。それに伴い、社会人になってからの学び直しの重要性も上がり、子供も大人も教育市場が伸びています。
また近年、さまざまな個人情報を取れるようになったことで、それらに紐付いた与信の領域が注目されています。
その流れは、学習においても成り立つのではないでしょうか。
LADDERも学習コンシェルジュも一貫して、「その人がどんな本を読んで、勉強をして、仕事以外の時間でなにを勉強しているのか」という学習ログを貯められます。
それならば、その情報を与信にすればいいのではないか。
つまり、これまではテストの点数や学歴、資格などが評価されていましたが、これからはそれに至るまでの「プロセス」も評価されるようになるんじゃないかと思っています。
もう1つの理由は、私自身学ぶことが好きだからです。学ぶことの面白さは、物事の共通項を発見できることだと考えています。
例えば、一見関係なさそうな2つのトピックがあっても、それらについて学んでいくうちに、実はつながっていたり、重なっている部分があったりする。
それが面白い。「一見関係ないと思っていたものが、実はつながっていた」と気づく瞬間が生きる楽しみにもなっています。
学びを深めていけば、最終的に世の中の複雑なことでも共通するシンプルな方程式やルールで表現できる。それをこれから証明したいです。
(聞き手・文:町田、写真:INITIAL)