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2019/08/14

1万人超の理系人材が利用。日本の研究を変革する「LabTech」企業の戦略

  • #SaaS
  • #対談
  • #HRTech

スタートアップ最前線

イノベーションの源泉の1つに「研究」があり、我が国でも注力されている。しかし、日本の研究力を示す1つの指標である、論文数の国別ランキング(※)は年々低下している。

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(画像:POL会社資料) ※この場合の論文数はTop10%補正論文数を指す。Top10%補正論文数とは、被引用回数が上位10%の注目されている論文の数である。科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2018」より。

その研究活動の拠点となる大学や研究機関には、多くの課題が存在する。「どの研究室で何の研究がされているか」などの情報が民間企業に十分伝わっておらず、オープンイノベーションや産学連携のハードルになっていること。研究費が足りず、やりたい研究者が多いこと。雑務が多く、研究者が研究に割ける時間が20%ほどにとどまっていることなど、課題は山積している。

その解決策として今注目されているのが、研究領域をITで変える「LabTech」だ。

株式会社POLは、研究領域が抱える課題のうちまずは「ヒト」にフォーカスをあて、理系採用プラットフォーム「LabBase」と産学連携プラットフォーム「LabBase X」を展開している。

学生起業家としても注目が集まる加茂氏が率いるPOLは、テクノロジーによって研究関連市場の変革を目指す。彼らが考える研究の未来とは。

CONTENTS

「SaaS」×「理系人材採用」 LabBaseとは

POLは現在2つのサービスを提供している。1つは理系学生の採用プラットフォーム「LabBase」、もう1つは産学連携を加速するナレッジプラットフォーム「LabBase X」だ。

(画像:POL会社資料)

LabBaseは、研究室にいる優秀な理系学生の採用プラットフォームだ。どこの研究室に、どういう研究をしていてどんなスキルを持っている学生がいるかを一括検索し、スカウトできるという。

これまで理系の学生は、研究室推薦やOBの紹介で就職先を決めることが一般的だった。 そういった慣習のために、たとえばベンチャー企業は研究室と繋がりを持てず学生エンジニアを採用できないといった課題や、大企業でも繋がりの深い一部の研究室や分野からしか人材が集まらないといった問題が存在していた。

(画像:POL会社資料)

LabBaseはその豊富な情報量を活かし、たとえば「半導体」というワードで検索すると、半導体を研究している学生が出てきて、直接オファーメッセージを送ることができる。

利用している学生数は現在15,000名。旧帝大の理系院生の約3人に1人が利用しており、水面下で利用が広がっているという。

もう1つのサービス「LabBase X」(ラボベース クロス)は、産学連携を加速するナレッジプラットフォームだ。

(画像:POL会社資料)

1点目の特徴として、POLは独自の研究シーズデータベースを備えており、大学を横断して研究者とシーズを一括検索することができる。

全国に100名いる学生メンバーが全国の大学をオフラインで回っての対面での情報収集と、大学とのシーズ情報の連携という2つのネットワークを用いて研究者の独自データを収集していることが、LabBase Xのもつ強みとなっている。

先日も大学知財群活用プラットホームPUiPと業務提携をし、情報の精度・量共に強化している。

2点目の特徴は、400名の博士人材による技術探索とマッチング機能も提供していることだ。たとえば企業側から「こういう研究内容や技術について書かれたレポートを探しています」という要望をあがってきた場合、POL側が博士人材と繋ぎ、早い時には5時間でレポートが提供されることもあるという。

日本の研究領域の可能性

冒頭で示した論文数ランキングの低下からは、急成長を遂げた中国や韓国と比べ、日本の研究領域がかつてほどは勢いがないことが窺える。

しかしそれでも加茂氏が「研究」に注目した背景として、研究室を回る中で多くの可能性を感じたという。

「インターネットやLED、C言語などを含むイノベーションの多くは、研究室から始まっています。研究室を回ってみると、社会を大きく変えうるような未来の技術革新をつくっている人に会うんですよ。大学の研究領域にはすごい可能性があると思います。」

(画像:POL会社資料) POLが見据える研究領域市場は、国内だけでも3.5兆円規模に上る。

【対談】前田ヒロ×加茂倫明

後半は「SaaSway Conference」にて行われた、株式会社POLCEO加茂倫明氏と、SaaSスタートアップに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」マネージングパートナー前田ヒロ氏の対談をお届けする。

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採用サービスとSaaSの相性

前田ヒロ(以下、前田)研究領域に着目した理由と背景を教えてください。

加茂倫明(以下、加茂)両親のどちらも大学で働いていたので、小さいときからいろんな研究室に行くことがあり、研究の面白さを体感する機会がありました。

ただ、実際に事業としてやろうと思った最初のきっかけは、大学の先輩が「研究が忙し過ぎて就活をする暇がない」と困っていたことです。

その課題を解決したいと思い、今のLabBaseの原型になるようなサービスを考え始めたのが最初です。ただ、理系学生に特化した就活サービスをつくるだけではチャレンジとしても市場規模としても小さいので、もっと大きいストーリーにできないかなという思いは常にあったんです。

そして市場理解を深める中で、海外でLabTech領域が盛り上がっていたことや、キャリア以外にも研究者は色々なことで困っていることがわかり、徐々に事業領域を就活以外にも広げていきました。

前田人をつなげるプラットフォームのビジネスモデルには様々な選択肢があるなかで、あえてSaaSを選んだ理由はなんでしょうか。

加茂ビジネスモデルのメリット、デメリットを比較した結果SaaSを選びました。それに加え、僕の思いも背景にあります。 まず採用サービスのビジネスモデルを考えると、成果報酬型かSaaS型という分かりやすい選択肢がありますよね。

新卒の採用サービスは使い始めてから採用が決まるまで、すごく時間がかかるんですよね。もし成果報酬型で運営すると、キャッシュが入ってくるまで1年位かかり、企業として生き残れないリスクが高くなると考えたのが、SaaS型を選んだ理由の1つです。

そしてもう1点、このサービスにおいて一番大事なのは、企業側ではなく学生側のUX(ユーザーエクスペリエンス)だと思ったんです。いかに良質なスカウトが流通するかが大事です。

初期費用がかからないからとりあえず使ってみたという企業が適当にスカウトを送ると、学生側のUXも下がってしまうと考えました。「本気でサービス活用にコミットしてください。僕らもコミットします」という形にしたかったんです。

採用できたら成果報酬を頂いて終わりという関係ではなく、一緒に肩を組んで採用をやっていきたいという思いがあります。 僕らが一緒にコミットすればするほど、お客様の採用単価も下がっていくので、二重にHappyだと考えています。

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加茂 倫明 // 東京大学工学部3年生。高校時代から起業したいと考え始め、その後ベンチャー数社で長期インターンを経験。2015年9月からは半年間休学してシンガポールに渡り、REAPRAグループのHealthBankにてプロダクトマネージャーとしてオンラインダイエットサービスの立ち上げを行った。2016年に元ガリバー・インターナショナル(現IDOM)専務取締役の吉田行宏氏とPOLを共同創業。

前田学生の体験を最優先に考えると、SaaSが一番よかったということですね。

加茂スカウトを送れる通数も制限したり、スカウトが上手くできていない企業には僕らが入って文面化するなどして、学生側のUXを上げるために色々な施策をやっています。

前田SaaSをやってよかったと思う点はありますか?

加茂やっぱりスタートアップの最初期は資金繰りが大変なので、キャッシュフローの面で助かりましたね。 「お金を払ってくれている企業はこれだけいます。売り上げはこれくらい立っています」と言えた方が資金調達も良い条件でやりやすいですし、採用にも最初から踏み込みやすい。

鶏が先か卵が先かという話ですが、いい人材が一定集まらないと事業の立ち上げは難しいですよね。でも最初はそこに割くお金もないという中で、最初にキャッシュが確保できたことによって、資金調達も採用も回り始めたという印象はありますね。

前田SaaSはキャッシュフローが読みやすく、予実管理もしやすい。来月の売り上げがゼロということはあり得ないので、そういう意味では安心していられますね。

加茂経営者の精神的にはだいぶ助かるビジネスモデルだと思います。もちろん大変なことには変わりないですけどね(笑)。

成長の分れ目は、愛されるサービスかどうか

前田SaaSの特徴の1つは、クラウドを通して価値提供することだと思いますが、LabBaseがクラウドとして提供している付加価値はなんでしょうか?

加茂ユーザーのニーズや反応をもとに、サービスをリアルタイムで修正していけるのが一番大きいと思っています。 リアルタイムに登録する学生さんが増え、また彼らやお客様の要望をもとに随時機能開発していくので、サービスをユーザーと一緒につくっている感触はありますね。

前田SaaSのメリットの1つが、継続的に改善されていくこと。スピーディーにユーザーの意見を取り入れて、それを反映させるサイクルが早く回せます。パッケージ型だとPCに物理的にインストールしないといけないので、そこに違いはありますね。 逆にSaaSをやっていて大変だと感じる点はありますか?

加茂今感じているわけではないのですが、今後、単価をどう上げていくかが大変になってくるだろうと思っています。 定額の部分と成果報酬を組み合わせたり、顧客価値に応じてアップセルできるようにする、などの対策をしていきたいです。

前田最近気付いたことは、SaaS企業の中にも単価を上げやすい企業と単価を上げづらい企業があるということです。 単価を上げやすいSaaS企業はユーザーとの関係性がすごい近い。愛されていて、何だかパートナーシップみたいな形でサービスを利用している関係なんですよね。

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前田ヒロ // 2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。世界中で100社を超えるスタートアップに投資を実行。

逆に、ただ導入して使っているような、感情移入がない状況だとアップセルもしづらいんです。 最近は、「継続率だけではなく、愛されるプロダクトなのかどうか」もみた方がいいと言っています。

加茂それはどうやって測定するイメージですか?

前田今のところ一番定量的に分かりやすい方法はNPS(Net Promoter Score)だと思っています。 「1から10のレートの中で、どれぐらいほかの人に推薦しますか」といった質問を通してスコアを測定していく方法です。

推薦するということはサービスが好きだということだし、愛しているプロダクトじゃないと自分の信用を活用してまで他人に勧めることはできないと思います。

加茂そういった愛され度のほかにも、オペレーションとしてどれだけ組み込めているかも大事だと思っています。 たとえば今のLabBaseだと、採用についての施策がいろいろある中のワン・オブ・ゼムにまだ留まっている。

一方でたとえばSmartHRさんは、一度導入したらもう労務関係の業務は全てSmartHRありきの仕組みになって、解約もできないじゃないですか。そのように会社のプロセスにどこまで組み込めているかも大きな要素だと思います。

前田組織の中のあらゆる採用プロセスを押さえにいくしかないですね。ゼロから成約するまで、どういうプロセスがあって、LabBaseはどこを押さえていて、どこにリーチできるかをマッピングする必要があると思います。

データが改善するSaaSの営業

加茂今抱えている課題の1つが、セールス・イネーブルメント(営業活動を改善し、最適化するための概念や取り組み)についてです。具体的には、一定水準以上売れるセールスの人数が、このままでは想定より増えないと思っています。

たとえばセールスメンバーが入社から成果を出せるようになるまで思ったより期間がかかっていて、育成の取り組みもまだ成功イメージが湧いておらず。

そういった背景もあり採用基準を高めに設定しなおしましたが、その水準で採用できるイメージもあまりないんですね。 どこにセールス・イネーブルメントの最初の糸口があるのかをお聞きしたいです。

前田やるべきことの1つ目は、一番成功しているセールスの頭の中を体系化して、ほかの人に伝授できる形にすること。2つ目がデータの整理だと思います。

まず1つ目についてですが、一番成果を出している営業は誰なのかを認識し、その人がなぜそれほど売れているのかできるだけ体系化することです。

どうやって商談を設定し、商談のときに必ず確認していることは何で、どういう形で商談を終え、どうフォローアップをしているのか。 そういった行動を全て体系化するのがファーストステップです。

2つ目のポイントは、営業のデータ周りを整理すること。 リードをどうスコアリングして、そのリードとの商談は誰が担当しているのか。どの業界で売っていて、どういう会話をしていて、何%が次のステップに進んでいるか。

こういったデータを整理しないと、例えば営業マンBさんのセールスレベルを上げたいとき、どこから手を付けるべきか分からなくなるんですよ。

もしデータが整理されていれば、「1回目の商談から2回目の商談のコンバーション率がほかの人より低いね」といった具体的なアドバイスができるようになります。

加茂トップセールスマンを育成するためにもデータが必要だし、一人一人のセールスメンバーに伸びしろをロジカルに伝えるためにもデータ整理が必要ということですね。

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もう1つ、CS(カスタマーサクセス)の連携についても相談したいです。

マーケもセールスもプロダクトも全て連動して、一心同体となってユーザーにとっての価値を磨いていく必要がありますよね。ただ我々はその連携がまだかみ合っていないと感じているんですが、そこはどう突破するべきでしょうか。

前田とにかく「CSは全社でやる」認識を持たせることが重要だと思います。 CSが成功することで、継続率も上がるしアップセルにも繋がる。ブランドも上がるし、口コミ効果も生まれる。

それをみんなが理解した上で各部署がCSの当事者意識を持ち、情報交換をする場をつくってフィードバックを回す形をつくるが重要です。

そしてこれは目標設定の仕方にも関わってきます。「私の仕事はリードをつくること」「僕の仕事はとにかくリリースを一定数出すこと」みたいな目標設定にしてしまうと、CSの当事者意識はなかなか持ちにくい。

「無理やりでもCSのチームと話さないと自分の目標が達成できない」というような設計にできるといいですね。

加茂少し前まではCSはCS部がやるといった意識がありましたが、企業や事業の成功とCSはイコールなんですよね。 今では全社OKRの最上位にCSを置いて、各部署のOKRに全てCSの考えが入るようにしています。

前田素晴らしい。それは絶対に効果が出ると思います。 最後に、サービスの未来をどう描いていこうとしているのか、どういう事業にしていきたいかをお聞かせください。

加茂これまでを振り返ると、もっと初期からユーザーの声を聞くべきだったと反省しています。 ユーザーの意見の中にこそ、プロダクトをグロースさせるヒントや事業の改善点が見えてくるので、まずは今あるプロダクトをぶっちぎりでユーザーに愛されるものにしたいと思っています。

「理系人材の採用ならLabBase、産学連携ならLabBase X」と言ってもらえるように価値を磨いていかないといけません。 研究者抱えている課題はたくさんあるので、志高く、小さくまとまらないように意識しながらサービスを生み出し続け、科学や社会の発展に一番貢献する会社にしたいですね。

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(編集・写真:ami)


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