価値観が混ざり合えば、世界はもっと豊かになるー。
他者との交流を通して、異なる価値観や異文化体験を手軽にできるサービスがホームステイプラットフォーム「Homii(ホーミー)」だ。
今までのホームステイサービスは、Webに最適化されていないことによる使い勝手の悪さや、提供されるサービスの質のばらつきといった課題があった。
「ホストとゲストの相互コミュニケーション」や「謝礼」などのシステムを組み合わせて解決することで、それらの課題を解決しゲストもホストも利用しやすくしている。
また、同社はサッカー選手の本田圭佑氏がリード投資家として初めて投資した、1号案件でもある。
本田も可能性を感じた、Homiiが目指す「混ぜる暮らし」で世界を豊かにする方法とは。その具体的な設計と仕組みに迫る。
ホームステイプラットフォーム「Homii」
Homiiはどのようなサービスですか?
Homii(ホーミー)は「ホームステイのプラットフォーム」です。
Airbnbが他人の家に泊まることを文化にしたように、私たちは「他人の家に住む」ことを文化にするサービスを目指しています。
具体的には、ホスト(家を貸す側)が余っている部屋をHomii上に掲載し、その中で気にいった場所にゲスト(部屋を借りる側)がホームステイする形となっています。
ビジネスモデルは、ゲストから手数料をもらう形です。ゲストがホームステイの謝礼金として支払った額の20%を手数料としてもらっています。
2019年3月にサービスをローンチしてから、現時点でホスト側は約500室あり、数十人のゲストが利用しています。
最初の1週間をトライアル期間として、お互いに継続するか判断してもらい、相性が合わない場合はキャンセルできます。
キャンセルする場合も、1ヶ月間はその家に住めるようになっており、ゲスト側はその間に別の家を探せるようにしています。
市場規模は、外国人シェアハウスや間借り市場を含めて試算すると、およそ1,000億円程度です。
住環境に見つけた「ゲストとホストの負」
OYO Hotels Japan(オヨホテルジャパン)やAirbnbといった不動産領域の住環境に関するサービスが増えていますが、なぜHomiiではホームステイ型にしたのでしょうか。
「手軽さ」という価値を提供することで、ゲストとホストの課題を解決でき、新しく市場を創出できると考えたからです。
まずゲスト側は、住居を見つけやすくなります。
日本人でも家探しは難しいですよね。外国人となるとさらに難しくなります。たとえば、言葉が通じず不動産会社と意思疎通できない、保証人が立てられない、外国人だと断られるなどが課題として挙げられます。
しかしホームステイの形にすれば、複雑な審査もなく、家具などを買う必要もありません。日本のローカルな生活を知りたいというニーズも満たせます。
ホスト側にはどのようなメリットがありますか。
一方で、ホスト側も余った部屋を簡単に活用できるメリットがあります。
たとえば民泊サービスを始めようとすると、2つのハードルがあります。
1つ目は法律の制約です。Airbnbでは旅行者をメインターゲットにしているので、物件の多くが短期間で貸し出されています。しかし1ヶ月未満の滞在を提供する場合、法律に基づいて事前審査や営業日数といった制限がかかります。
2つ目は、ゲストとのオペレーションコストです。実は短期で家を借す場合、コミュニケーションが大きな負担になってきます。
Airbnbなどは短期利用が多いので、ゲストが来るたびに注意事項や住居の説明を繰り返す必要があります。
そうすると場合によっては、「ここがシャワーです」「駅から家まではこういう道順です」という説明を、1カ月に10、20回する必要がでてきます。これは思った以上にホストの負担になっているんです。
また長期間滞在を目的とした既存のホームステイサービスでは、毎日食事を提供しなければいけなかったり、無報酬を求められたりするなど、ホスト側に大きな負担を強いる設計になっています。
こうした課題を、Homiiでは1ヶ月以上の長期滞在に特化し、謝礼や食事を選択可能にすることで、ホスト側の負担を軽減しました。
ホストは民泊をされていた方が多いのでしょうか。
民泊をされていた方は、そこまで多くありません。具体的には、大きく2つの属性に分けられます。
もっとも多いのは、3~5人家族で部屋が余っている方です。以前海外で暮らしていた経験や旅行経験があり、子どもにも同様の経験をさせたいと考えている方が多いです。
子どもには英語ができるようになってほしいけれど、英会話スクールが全然続かない。それならば、代わりに家でホームステイで体験をしてほしい、と考えて申し込まれる方も少なくありません。
2つめは対照的に、高齢者で1人暮らしや夫婦の方です。
65歳以上の世帯数は増加を続けている
子どもが進学や就職で出ていってしまい、仕事も引退して時間的余裕もできたので、第2、第3の家族をつくる意味でゲストを受け入れたいというニーズです。
私自身もHomiiを活用して他人と住んでいますが、いとこの家に住んでいる感覚に近いです。結婚式用のスーツがなかったとき、旦那さんのスーツを貸していただいた体験も、まるで家族のようでした。
お互いに無理のない範囲の負担で利用できるので、家族のような関係性を築けるのだと思います。
「混ざりあう暮らし」で世界は豊かになる
Homiiは「混ぜる暮らしで世界はもっと豊かになる」を掲げています。もともと私は在日外国人であることもあり、文化や人種について悩んでいました。
そんな時に2年間シリコンバレーへ留学し、さまざまな人種や価値観の人に出会ったことで、人種や国籍などの違いを些細なものとして捉えることができ、気にしにくくなりました。
しかしその出会いは、日本でもともと自分がいた居場所だけでは絶対に経験できないものでした。
そこから、住む場所を変え、複数の価値観と触れ続ける機会をつくできれば、人々に人生のターイングポイントを与えられるのではないかと考えたわけです。
長期間いるとなるとホストの質も重要になると思います。ホームステイでは質の差が問題になることも多いですが、どのように担保するのですか。
そもそも既存のホームステイ先に質の差が生じているのは、ゲスト側が滞在先を選べないことが原因です。
ホームステイサービスは比較的独占市場なので、今までそれがまかり通っていました。
多くのホームステイサービスでは、学校や組織側が適当にホスト先を手配します。ゲスト側に選択肢がないので、ギャンブル要素が強くなってしまいます。
最初からゲスト側もホスト側も、お互いの評価を知れるようにすれば、質の担保は可能です。事実、Airbnbをはじめ多くのサービスで同様の仕組みが取り入れられています。
質を担保するインセンティブとして、価格設定も自由にしたのですか。
プライシングの仕組みは、正直よくなかったと思っています(笑)。
価格を自由設定にした最大の理由は、ホスト側が自分で料金を決められないことに疑問を感じたからです。ホスト側が自由に決められない価格によって、ゲストを獲得できない状況が起きたら、それは合理的ではありません。
しかし今になって考えてみれば、思考停止の判断でした。
Homiiの提供価値は、手軽さです。既存のサービスよりも手軽に、混ざり合う暮らしを体験できることが価値でした。
しかし価格を自由に決定できるようにしたことで、全体的に高騰してしまい、マッチングしにくくなっています。
また、家によって4万円や7万円、9万円などと価格がばらけていると、標準価格が分かりにくく、ゲストが値段の妥当性を判断しにくいのも問題です。
一定の基準を設けて、「このクオリティなら6万円、これ以上なら8万円」とわかりやすい価格設定にする。ホストもゲストも、価格についてクリアな共通認識をもてるようにしたいです。
そう考え、現在はホスト1人1人に電話やメールをして、「最初のレビューが貯まるまでは、価格を低めに設定してみませんか?」と案内しています。
もちろん、ホストが赤字にならないよう必要はありますが、お金以外の付加価値を組み合わせて謝礼を安くしても合理性は担保できる。
実際に起きている例として、週1回ゲストがホスト側の子どもに英語を教えることを条件に、安く滞在しています。英会話スクールの代金と考えれば合理的ですよね。
日本人も受け入れているのはなぜですか。外国人の方がスキルもあり、独自性も提供しやすいのではないでしょうか。
日本人でも外国人でも大きな違いはないと考えています。同じ日本国内でも、地方や県が異なれば文化や雰囲気は異なりますよね。
「外国人とだけ住みたい」と言う人は、外国人なら文化交流できる、英語ができる、新しい価値観を提供してもらえるなどの認識を持っているからではないでしょうか。しかし、同じ価値を提供できる日本人は大勢います。
東大生ならば普通の人より圧倒的に高いクオリティで勉強を教えられますし、職人なら日常生活では触れられない専門知識や技術を知ることができます。
国籍や人種に限らず、誰しもが独自の価値をもっていることを証明するためにも、外国人に絞らず日本人を含めてサービスを提供していきたいです。
(聞き手:松岡遥歌、文:町田大地)