スタートアップ最前線
こちらの動画をご覧いただきたい。
実はこの動画、すべて同じツールを用いて自動で作成されたものだ。
動画制作をゼロから学ぶのは難しく、高コスト。
そのイメージを払拭するのが、SaaS型動画自動生成ツール「RICHKA(リチカ)」。
成長する動画広告市場の中で、制作に悩む企業のニーズを掴み、国内における動画自動生成ツールの導入数はNo.1だ。
RICHKAを運営するカクテルメイク株式会社CEOの松尾幸治氏は、動画制作の経験を活かし2014年に同社を立ち上げた。
松尾氏が目指すのは、5G時代における「コンテンツのリッチ化」。RICHKAがユーザーに必要とされ、成長を続けるその理由とは。
「SaaS」×「動画広告」 RICHKAとは
RICHKAは企業向けに特化した動画自動生成ツールだ。現在は広告代理店を中心に利用が広がっている。
(画像: ami作成)
RICHKAの魅力は、動画制作の経験がない人でも短時間で動画をつくれることにある。
導入の成功例として、営業マンでも数分で動画広告を作れた事例や、今までできていなかった動画広告の多変量テストを簡単にできた事例があるという。
そういった効率化を可能にするRICHKAの特徴は3つある。
(画像:カクテルメイク会社資料)
動画フォーマットはRICHKAと提携する100名のクリエイターが常に更新しており、ユーザーはゼロから動画の構成を考える必要がない。
業種や用途によって最適な構成が整っており、デザインのトレンドに沿ったフォーマットを利用することができる。
(画像:カクテルメイク会社資料)
RICHKAにはサポート機能がついており、職種や年齢に関係なく素材とテキストを選ぶだけで動画を作成できる。実際に、動画制作の経験がなかった70歳のユーザーも10分のレクチャーで作成できたという。
(画像:カクテルメイク会社資料)
動画制作においては編集素材を揃えるための「撮影」も重要な工程の1つだが、ゼロから機材を揃え、撮影技術を学ぶことはハードルが高い。
しかしRICHKA上で素材の検索・使用ができるため、写真や映像を撮影する手間を省くことも可能である。
動画広告に必要な「低コスト」の制作ツール
2019年7月にはRICHKAの累積導入社数は250社を超え、累計動画生成本数も100,000本を突破した。SNSやYouTubeの普及に伴い動画視聴が一般的となり、それと同時に動画広告市場も急激に成長していることが好調の背景にあると考えられる。
(画像:カクテルメイク会社資料)
動画広告の最適化には、PDCAを高速で回していくことが必要となる。その一方で、動画制作コストの重さに広告担当者は悩んできたとカクテルメイクCEO松尾氏は語る。
「私たちは元々動画制作会社としてスタートしているので、実態がリアルに分かるのですが、たとえば15秒程度の動画制作だったとしても、最低で20〜30万円を見積もることになります。
広告はABテストや多変量テストを何度も行い、PDCAを回すことが当たり前です。しかし「動画の制作コストは高過ぎてPDCAを回せない」という理由で、ほとんどの広告担当者の方々が動画広告に触れられていなかったんですね。
動画広告においてもスピーディーに検証することが重要ですから、クリエイティブの面にもしっかり向き合い、広告代理店の課題をRICHKAで解決することを目指しています。」
【対談】前田ヒロ×松尾幸治
後半は「SaaSway Conference」にて行われた、松尾幸治氏と、SaaSスタートアップに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」マネージングパートナー前田ヒロ氏の対談をお届けする。
偶然の選択だったSaaS
前田ヒロ(以下、前田)まずはビジネスモデルとしてなぜSaaSを選んだのか、教えていただけますか。
松尾幸治(以下、松尾)選んだ理由は本当に偶然です。「SaaS」も知らなかったところからスタートしています。 私たちは動画制作からスタートした企業ですが、動画の制作単価が下がっている課題感がありました。
そこで始めたのが、「クラウドに動画を貯める」構想。
広告クリエイティブの勝ちパターンを集合知化して、ユーザーに還元するサイクルが強みになり、広告代理店としても、クリエイターを採用せずにナレッジがたまった状態でスタートできるメリットがある、と考えました。
前田事業を展開する上で苦労したこと、逆にうまくいったことはなんですか?
松尾今年の5月に資金調達を行うまでずっと「僕らはSaaSじゃないです」と言い続けていました(笑)。 理由としては、動画制作ツールは使い続ける理由を見つけにくいものだったからです。
短いスパンで解約された企業にヒアリングすると、皆さん「動画つくれたよ、ありがとう」と満足してやめられていたケースが多く。
クリスマスの時期に大量にクリエイティブをつくって満足されるような、季節に依存するケースもありましたね。 使い続けてもらえるマーケットを見定めるのに非常に苦戦しました。
松尾 幸治 // 大学卒業後、大手通信企業に就職。飛び込み営業先で出会った社長.tvを運営するディーノシステムに2ヶ月半で転職。営業、マーケティング、動画制作等広く担当し、翌年同社最年少取締役に就任。運営本部長として経営者インタビュー動画を2年間で6,000社の新規開拓と制作体制の構築に関わる。2014年に退職後、カクテルメイク株式会社を設立し、国内導入企業数No.1の動画広告生成ツール「RICHKA(リチカ)」を提供。
前田短いスパンでしか使われなかったものを、どうやって1年中使ってもらうように設計したんですか?
松尾動画を大量生産する必要がある領域として、最初はニュースや料理動画のように分散型動画をつくるメディアをターゲットに考えていました。しかし、Facebookのアルゴリズムが変化したこともあり、そこまで彼らはペインが強くなかった。
実はRICHKAを愛用してくださっていたのは、ネットの広告代理店の方々だったんですよ。 ヒアリングを重ねたところ、広告の消費サイクルが高速化しており、動画広告をどう作り続けるか悩まれているとわかりました。
前田最初は色々なユーザーに使ってもらった上で、最も愛用してくれたユーザーにフォーカスを当てたんですね。
松尾試行錯誤の結果、ターゲットが決まりました。
「正直さ」が必要なSaaSならではの良さと難しさ
前田SaaSをやってよかったと思うことは何ですか?
松尾自分はどちらかというとエッジのきいたタイプではなく、BtoBの起業家として「正直さが売り」な人間です。 ユーザーに正直に向き合い、駄目なものは駄目という声を受け止める。
そうやって改善を続ける姿勢にユーザーも売上もついてくるんだと、2年サービスをやって痛感しています。
前田投資家として僕がSaaSが好きなのは、嘘をつけないからなんですよね。どれだけ頑張ったとしても退会率、継続率、LTVという形で結果が数字に現れる。
SaaSはそういった事業ですから、正直に経営する必要がありますし、経営者自身も正直になる必要があります。そうすると、会社にも正直者が集まってきますよね。
松尾そうですね。素直な人が多いと、いろんな方から評価いただきますね。
前田素直じゃないとSaaSの経営はできないと思いますね。逆に、SaaSだからやりにくい部分はありますか?
松尾今はターゲット層ではないユーザーからは解約が出る場合もあります。なので、他のSaaS企業と同様の指標で経営を評価されてしまうと少し辛いですね。
前田様々なSaaSのベンチマークが公開されている中で、トップ25%のベンチマークに入っていないと投資家から評価されない場合がありますから、そういうジレンマはありますよね。
松尾おっしゃるとおりです。
組織面から見たSaaSの特徴
前田今従業員は何人いて、どれくらいのペースで増やしているんですか?
松尾現在は30人ほど在籍していて、月に3〜4人増やしています。
前田ハイペースで増えていますね。急激に組織を拡大する中で課題も出ると思うんですけど、気が付いた点はありますか?
松尾RICHKAは特殊なSaaSだと思っていたんですが、やればやるほどTHE MODEL(営業を「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つのプロセスに分ける分業体制)の形に近づいていくんだなと感じています。
業務を細かく切り出して、チームを組成していかないと、パフォーマンスが如実に変わってしまう。
ほかには1on1の重要性や、メンバーや組織が増えてきたときに、自分の業務をマネジャークラスに分担していく重要性も感じています。
前田僕はみんなに1on1しなさい、と啓発しています。
なぜかというと、組織の課題はメンバー間で認識のずれが起きるときに生じるんですよね。
部下や上長とか、部下と社長といったメンバー間の認識のずれを埋めるために、形式化して、頻度高くディスカッションすることが重要です。
1週間や2週間に1回、たった30分だけでもそのずれが埋まるので、絶対にやった方がいいと思いますね。
前田ヒロ // 2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。世界中で100社を超えるスタートアップに投資を実行。
ほかに組織的に何か取り組んだことはありますか?
松尾逆に階層で分け始めると、今度はその階層同士のコミュニケーションが疎遠になり、覇権争いのような事も起きてしまいました。そこにどうロジックを入れて対応していくかを考えています。
前田確かに中途半端な人員規模になると、お互いの足を踏み合うようなことが起こります。 規模が大きくなれば分業もしやすいですが、それまでの間は業務がかぶったり、場合によっては仕事の取り合いになる場合もありますよね。
松尾1つ質問したいことがあります。 我々くらいの規模の企業だと、インサイドセールスと商談をクロージングする役割を兼任するメンバーもいると思います。兼任する場合はどう仕事を評価するべきですか?
前田その場合は、最後の成約だけを見ますね。アポ数は1日1アポでも10アポでもいいんですが、最終的に成約する金額が幾らかをベースに評価するしかないと思いますね。
リードの数やクオリティー、商談の数を軸に評価することはすごく難しいので、とにかく成果だと思います。 でもその場合であっても、意外とみんな「商談数ではなく成約額を高めよう」という思考が働くので、単価が上がるケースもたまにあるんですよ。
松尾面白いですね。
動画制作で日本一を狙う、RICHKAの未来
前田最後にサービスの未来をどう描いていこうとしているのか、どういう事業にしていきたいかをお聞かせください。
松尾「業界を深く掘る」「動画の価値を発揮できる別な市場を探す」の2軸があると思っています。
今は動画広告のクリエイティブに注力していますが、広告代理店の話を聞いていく中で彼らの経営課題も見えてきました。 その業務支援に入ってLTVを伸ばしていくことをやり切らないといけないと思っています。これはバーティカル(市場を限定して成長させること)な考え方ですね。
一方、RICHKA自体はホリゾンタル(市場を広げていくこと)なサービスだと思っていて、個人の人たちにも使ってもらえると思っています。
次の市場を見据えて、出版社やメディアの方々とアライアンスを組み、どういうふうに動画を出していくか研究しています。
前田よくあるSaaSの展開の仕方は、組織の中に深く入り込むこと。 たとえば人事部やマーケティング部の人に使ってもらうサービスなのであれば、その次は部長や社長といった人達が触れるものにしていく。そうすることで、単価をもっと高くする戦略もありますね。
松尾僕らの会社はこれまでプロダクトアウトの形でやってきたので、今後どうしていくべきか迷いがありましたが、最近は振り切れてきました。
インターネットの広告クリエイティブ制作は現在3,000億円程度の市場があるので、そこを一気に獲得し、日本一の動画制作企業になりたいと思っています。
(編集・写真:ami)